RePlus_序幕_前編

Last-modified: 2011-08-02 (火) 10:57:53

人の思いはとても綺麗で、それでいてとても残酷だ。
 よかれと思ってやった事が自然と人を傷つけていた事何かざらにある。
 人類が宇宙に進出して数十年。
 幾多の犠牲と長き争いの果てに得た仮初の平和も、
何時まで続くか何て誰も保障してくれない。
 メサイヤ攻防戦より半年余り、世界は緩やかに復興し始めている。
 だが、戦火は依然燻り続け、平和の歌姫と純白の騎士が"平和"を謳おうとも、
世界はそんな事は関係無いとばかりに進んでいく。
 誰もが好き勝手に自分の思う通りに"自由"に進んでいく。
『カタパルトオープン。デスティニー発進どうぞ』
「了解。シン・アスカ、デスティニー出撃します」
 何とも形容しがたい鬱屈したの思いを抱き、
 オペレーターの指示通りにシンは、デスティニーを虚空の宇宙へと発進させた。
 世界は美しい。そして、人生はかくも・・・
 魔法少女リリカルなのはStrikerS RePlus
 序幕"それから・・・"

「エリオ君待ってよ」
「ご、ごめんキャロ」
 赤毛の髪と勝気な瞳を持つ少年エリオ・モンディアルは、
 同僚のキャロ・ル・ルシエの手を取り体勢を立て直した。
 キャロの柔らかい桃色の髪が、エリオの鼻腔を擽り気恥ずかしい気分になる。
 元々孤児であったエリオは、とある出来事から自分を救いだしてくれた、
 機動六課ライトニング分隊隊長フェイト・T・ハラウオンに救われて以来、
 時空管理局の魔道師見習いとなった。
 それ以来、立派な魔道師目指して精進する毎日である。

「大丈夫?」
「うん」
 キャロは屈託無く笑いながら、エリオの首に自然と腕を回してくる。
 傍目から見れば甘い恋人同士の一幕に見えるが、
残念ながら二人の年齢を考えると微笑ましいと言った所が精々である。
 だが、その明け透けな好意から来る、少々羞恥心に欠けたキャロの過激なスキンシップに、
 幼いエリオは困惑するばかりの日々だ。
(だからと言ってどうにも出来ないんだけど)
 心の中で苦笑いしながら、エリオは腕に付けた端末で自分の位置を確認した。
 機動六課の長である八神はやてから、
 訓練を兼ねた深夜の哨戒任務を命じられたエリオは、相棒であるキャロと共に任務についていた。
 十歳と言う幼すぎる年齢の性か、当然ながらエリオとキャロは夜が短い。
 夜八時にお眠と言う訳では無いが、
 夜間訓練における二人の集中力は低下していると言った旨のデータが得られている。
 魔法や薬物で眠気を抑える事は出来るが、体に掛かる負担の問題から、
 幼い二人には投薬は勿論の事、暗示系の魔法も適切では無く、
 そうなると日頃から慣れるしか無いと言う結論となる。
 六課課長の八神はやてから二人だけの夜空の散歩を言い渡された。
「行こうか」
「うん」
 哨戒コースはミッドチルダ周辺都市を午前零時から一定速度で飛翔するのみ。
 そのまま夜明けを向かえ、朝日を迎える頃宿舎に帰り眠りにつく。
 哨戒と言って、プロペラ型の魔力補助推進機関に掴まっているだけだがそれなりに疲れる。
「エリオ君、朝だよ」
「本当だ」

だが、海岸線より昇る山吹色の朝日を見れば、疲れなど吹き飛ぶものだ。
潮風と早朝の冷たい空気を吸い込むと、自然と眠気が薄れ頭がはっきりしてくる。
(また一日が始まるんだ)
 長い夜が明け、太陽が顔出す瞬間がエリオはとても好きだった。
 何だか分からないが、元気が出て来て今日も一日頑張ろうと言う気分になる。
水平線より昇る朝日を笑顔で見つめながらエリオはキャロを見つめる。
「キャロ」
「な、何?」
「おはよう。もう少しだから頑張ろう」
「えっ。う、うん」
 朝日を背後に微笑むエリオにキャロは頬を染めながら微笑みえ返した。
 その時不意にエリオの槍型のアームドデバイス"ストラーダ"が接近警報を響かせる。
キャロの傍らに控える使役竜フリードも、喉を鳴らし、唸り声を上げていた。
 デバイスから流れてくる情報から、何か大きな物が空からこちらに向かって来るのが分かった。
 魔力反応は無いが何が起こるかは分からない。
エリオは、ストラーダにカードリッジを装填し戦闘に備えた。
大気が振動し気圧が下がり始める。強い耳鳴りを覚えたエリオの視界が狭まり、
昇ったばかりの太陽が、闇に遮られ暗雲が立ち込める。
起き抜けの鳥達が騒ぎたて、もう夏が近いと言うのに吹き荒れる風は肌を刺すように冷たい。
 本部へ連絡を取ろうとするが、帰って来るのはノイズばかりである。
「ジャミング?魔力反応は無いのに・・・キャロ無線は?」
「駄目、応答無いよ」
 エリオはごくりと唾を飲み込んだ。
念話は愚か機械式の無線も使用出来ない。
エリオは、何か良くない事が起ころうとしているのだけは理解出来た。
「エリオ君!あれ!」

 キャロの悲鳴と共に、雲で覆われた黒い空に血のように赤い魔方陣が浮かび上がる。
 ミッドチルダでもベルカでも無い、今迄見た事も無い術式だ。
フリードが唸り声を上げ、赤い魔法陣に威嚇するように吠え立てる。
 エリオは、今迄感じる事の出来無かった魔力の流れを確かに感じた。
 魔力は渦を巻くように、魔法陣から放出され、魔方陣から感じる魔力量は底が知れ無い。
 恐怖からキャロがエリオの手を強く握る。そのお陰でエリオの頭が冷えた。
 何が起こるかは分からないが、自分の後ろに居る少女は護らなければならないと強く思う
 自分はいつまでも"守られる"存在ではいけないのだ。
 自然とストラーダを握る手が震えた。
 戦闘体勢を取るエリオを他所に、赤い魔方陣に変化が現れる。
 徐々に輝きを強めながら回転を早め、それと同時に桁違いの魔力を無造作に放出する。
 魔方陣から漏れた魔力は、紅い光弾となり周辺の山々に当り爆発した。
 魔方陣中心に紅い光の球が出現し、暗雲を根こそぎ吸い込み始める。
 最早浮かんでいる事すら困難な空で、エリオ達は爆発的に膨れ上がった魔力に翻弄されていた。
(一体何が起こってるんだ)
 乱れ飛ぶ光弾から身を交わしながら、エリオは、魔方陣を睨みつけていた。
「何か来る」
「えっ?」
 キャロが小さく呟いた瞬間、世界が紅く爆ぜた。
 星の新生を思わせる程の紅い光の本流。
 網膜を焼きかねない暴力的な光の渦は世界に容赦なく降り注いだ。
 エリオはキャロを反射的に自らの胸に抱き込み、光からキャロを守った。
 光も音も全てが紅く染まり、一秒か一分か一時間か。
 無限に続くと思われた光の奔流が収まり、初めてエリオはゆっくりと目を開けた。
 雲一つ無い晴天の空から、何か巨大なモノがゆっくりと降下して来るのが見えた。

 逆光の為か、最初黒い点にしか見えなかったモノが次第に実像を帯び全体像が見え始める。
「あれは、人なの?」
「…大きい」
 空より降下するモノは、確かに人の形をしていたが、その大きさが人とはかけ離れ過ぎていた。
「ロボットだ」
 目測でおよそ約二十メートル。まるで漫画の世界か抜け出たような典型的な人型ロボットだ。
 糸の切れた人形のように、四肢をだらんと広げ、
騎士甲冑のような青い装甲と背中から生え出た二枚の紅い翼が印象的だった。
背部にあるマウントラックには、折れた大剣と銃らしきモノがマウントされている。
(武器が搭載されている)
 エリオの警戒心が跳ね上がり、心臓の鼓動が早くなる。
 ミットチルダでは、質量兵器の製造、運用は固く禁じられている。
関連性は薄いが、先ほどの紅い光弾がロボットの攻撃によるものならば、見逃すわけには行かない。
このロボットが、街中で暴れれば甚大な被害が出るかも知れない。
 エリオは、意を決して降下して来るロボットへと近づいて行った。
キャロもロボットの危険性を感じ取ったのか、エリオの横へと並ぶ。
 二人が互いに頷きあい、ロボットへと近づいて行く。
 ロボットは、尚もゆっくと自然落下を決め込み動く気配すら無かった。
良く見ると装甲が至る所で焼け爛れ剥げ落ち、
装甲そのものが熱を帯びているのか、薄らと湯気をあげている。
「何か悪者っぽいね」
 キャロの指摘にエリオはなる程と思う。
 頭部の紅いツインアイにV字アンテナ。
全体的に鋭角で突っ張ったデザインは、確かに悪役の印象を感じる。
ストラーダーでロボットの装甲を叩いて見るが、カンと金属特有の音が鳴っただけだった。

 その間もロボットは、自由落下を続け静かに着地する。
「ねぇエリオ君。これ何だろうね」
「えーと、ロボットかな」
「・・・そう言う事じゃ無くて」
 キャロの抗議も最もな事だが、エリオだってこっちが聞きたい位である。
 SF映画の中から飛び出して来たロボットが自分の目の前に居る。
 エリオが知っている管理、管理外世界にもこんな物がある等聞いた事も無い。
 自分の保護者であるフェイトならば、
 何かしら答えを返してくれたかも知れないが、残念な事にエリオは、
 キャロの問いに対する答えを持っていなかった。
「・・・」
 エリオはキャロの静止を振り切り無言でロボットの方へと歩き出した。
湧き上がる警戒心とは別に、エリオも男の子。
 男の子センサーを敏感に反応させたエリオに、好奇心に抵抗する術は無く、
キャロの制止も無視して、おっかなびっくり近づいて行く。
「えっと」
 漫画や映画何かでは大抵コクピット胸にあるものだ。
 エリオは、あやふやな知識を総動員し、ロボット胸部を調べ始めた。
 その矢先に短い電子音が鳴り、腹の部分のハッチがゆっくりと開き始めた。
 エリオは、唾を再度飲み込み、恐る恐るハッチの中を覗き込んだ。
「・・・人だ」
 赤いパイロットスーツを着た青年がコンソールに倒れ込んでいた。
 シートには、何処かを怪我しているのか赤い染みが広がっている。
「キャロ本部に連絡。要救助者一命。至急救援要請を」
「う、うん!」
 エリオは、キャロに激を飛ばし青年の容態を確認する。
「うぅ」
 声の調子から思ったより若いと感じた。
(もしかしたら、フェイトさんと同じ位の年齢かも知れない) 
 エリオは青年のヘルメットを強引に剥ぎ取る。
「・・・!?」
 ヘルメットの中からは現れたのは黒髪の青年だった。
汗と怪我で汚れているはいるが、とても整った顔立ちをしている。
 特にエリオが目を惹いたのは、彼の瞳だった。
 ルビーのような紅い瞳。
 綺麗だけど、とても疲れていそうな瞳の色をしている。
 エリオは、何となくフェイトと出会う前の自分を思い出した。