RePlus_第三幕_後編

Last-modified: 2011-08-02 (火) 11:54:08

魔法少女リリカルなのはStrikerS RePlus
第三幕"鼓動-FirstAlert"

 シンは、大空へ飛び出した瞬間天地が真逆になったような錯覚を覚えた。頭の上に緑色に蔽
い茂った木々浮かび、足元には照りつける太陽が見える。
「行くぞ!デスティニー、セットアップ!」
 頬に風を感じながら、シンは、デバイスを起動させる。
『OK!』
女性とも男性とも取れない明瞭な声が響く。シンの体を光が包み、バリアジャケットが装着
された。青い手甲が両手首にかけ装着され、まるで、守護騎士達の騎士甲冑を髣髴させる、西
洋風の赤い防護アーマーが胸、腰、脚部を守るように展開される。その上を特徴的な白い外套
が覆い、赤、青、白のトリコロールカラーに包まれ、身の丈程もありそうな一振りの大剣を携
えたシン・アスカが出現する。
 シンは視界の隅に新型のガジェットを捉えた。平たく揚力を生み出すに適した形状のガジェ
ットⅡ型は、地上型のⅠ型に比べ機動性が段違いである。空中戦闘が始めてのシンには、厄介
な相手と言えた。
「ヴォワチュールリュミエール起動」
『Allright』
肩口から、MSデスティニーを彷彿させる背部ウイングユニットが展開され、燃え盛る炎を彷
彿させるに赤い双翼が出現する。双翼が羽ばたき、シンは、一瞬にして重力の楔から解き放た
れる。
「こちらスターズ01。スターズ05、アスカさん聞こえる?」
「聞こえます、スターズ01」
「飛行型ガジェット、そっちに五機抜けたの。スターズ05任せていい?」
「…了解!」
 青空の向こうにガジェットⅡ型の機影が見える。陸戦主体のⅠ型と違い、Ⅱ型は小型戦闘機
のような形状をしている。巡航ミサイルやガトリンクガン等、ミッドチルダでは禁止されてい
る大量の質量兵器が搭載されて、シンは飛来するガジェットⅡ型に狙いを定め進路を取った。
 赤い双翼、ヴォワチュールリュミエールが大きく羽ばたき、シンは大空を翔け抜ける。シン
を射程に捉えた、ガジェットⅡ型のガトリンクガンが火を噴く。継ぎ目の無い赤い火線が容赦
無く襲い掛かり、死の雨がシンに降りかかる。
「クソっ!」
 片翼が煌き、シンの全身を瞬時に覆い尽くし火線からシンを守る鉄壁の盾となる。
「フラッシュエッジ!」
『yes』 
 シンは、背中から大剣"アロンダイト"を引き抜き柄の部分を切り離す。切り離された柄に魔
力が通り、凝縮された炎の刃が形成される。
「行け!」
 炎の短剣が弧を描き大空を舞う。フラッシュエッジは、シンの思念誘導に従い、二機のガジ
ェットⅡ型を背後から両断する。爆発炎上するガジェットⅡ型。フラッシュエッジは、Ⅱ型の
装甲をバターのように容易く切り裂き、シンの手元に戻る。

「残り三機」
シンは、無数の破片を掻い潜りながら、爆炎の中を突き進む。黒煙と爆風による熱で、ガジェ
ットⅡ型の高感度センサーは狂い、炎の中を突き進むシンに気がつかない。シンは、黒煙の中
から姿を現し、ガジェットⅡ型の直上に踊り出る。そのまま、ガジェットⅡ型目掛けて急速落
下。アロンダイトを構え、全身に炎を纏いながら、スバルの十八番を奪うような突撃攻撃を敢
行する。ガジェットⅡ型のセンサーは、落下して来るシンを捉え、装甲上部に設置された、20
mmCIWSを発射しようとするが、それより早くシンの刺突がガジェットⅡ型を捉える。シンの突
撃に貫かれ、機体中央部に大穴を空けながら爆発炎上するガジェットⅡ型。
「残り二機」
 ガジェットⅡ型のカメラアイが明滅FCSが起動する。巡航ミサイルの照準がシンを捉え、シ
ンの身の丈程もありそうなミサイルが音速で飛来する。
「パルマ!」
『OK!』
 デスティニーが甲高く吼え、シンの手甲に炎が宿る。圧縮された赤い炎は、その熱量を伴い
白い炎へと姿を変えた。シンの手甲が発光し更に強く白く光り輝く。シンは、手甲で巡航ミサ
イルを無造作に殴りつけた。巡航ミサイルの表層がドロリと融解しミサイルの勢い僅かに鈍る

「フィオキーナ!」
 追加単語で手甲がさらに白熱化し、光の槍となりミサイル毎ガジェットⅡ型を貫く。
「残り一機」
 爆発炎上するガジェットⅡを背後に、シンの双翼が更に燃え上がる。不利を悟ったガジェッ
トⅡ型が、シンに向けて全兵装の安全装置を解除する。背中の装甲が開き、二十発にも及ぶミ
サイルの発射態勢に入る。人間一人位ならば、粉々に破壊し尽す火力は魔道師であっても脅威
だ。
「させるか!カードッリッジロード」
『シン!パルマモード』
 轟音と共に、手甲にカードリッジが二発装填される。足元に"近代ベルカ式"の魔法陣が展開
され、シンは手首を合わせながら再びパルマを"両手"で発動する。シンが体を捻ると、後方に
回した両手に白熱化した魔力弾が生成される。魔法陣が回転し魔力が増幅強化され手甲が光り
輝く。
 白熱化した両手を中腰に構え、背部の双翼が炎の唸りを上げ、シンは気合と共に両手を突き
出した。全てを焼き尽くす白銀の魔力弾が、大気を焼きながらガジェットⅡ型に襲い掛かる。
 シンの放った極大の魔力弾は、ガジェットⅡ型をミサイル毎一欠けらの破片の残さず焼き尽
くした。

『ティアナどうです?』
「ケーブルの破壊効果無し」
『了解しました。車両の停止は私が引き受けるです。ティアナは、ナカジマ、アスカ両名と一
度合流して下さい』
「了解」
 リインフォースⅡからの通信を切り、ティアナは新型デバイス”クロスミラージュ”を収め
、次の車両の移動を開始する。
「しかし、流石が最新型。色々便利だし弾郭成型も補助してくれるのね」
『yes』
「あんたみたいな優秀な子に頼り過ぎると、私的には良くないんだけど」
 角を曲がった瞬間にガジェットⅠ型と遭遇する。ティアナは、ガジェットⅠ型に瞬時に照準
を合わせ引鉄を引く。魔力弾が一瞬で生成され、ガジェットⅠ型を貫いた。
「本番じゃ助かるわ」
『Thankyou』
「スバル、そっちはどう?」
『七両目クリア。もうちょっとで八両目。中…案外敵多いよティア』
「ちびっ子達を屋根伝い経路で行かせたのは正解か。オッケイ。私もすぐにそっち行くから。
もうちょい頑張りなさい」
『了解!っと』
「さてと…アスカ、聞こえてる?」
『ああ』

「現状はどうなってる?」
『そっちに向かってる。十分以内に合流可能だ』
「敵が多くて、スバルが苦戦してるわ。五分以内に来て頂戴」
『分かった』
「頼りにしていいわね、スターズ05」
『ああ、スターズ04』
「待ってるわよ」
 ティアナは通信を切り、スバルの救援へと足を急がせた。

「スターズ03、04合流しました。スターズ05合流急がせて下さい。ライトニングF十両目で戦
闘中」
「スターズ01、ライトニング01、制空圏獲得」
「ガジェットⅡ型散開開始しました」
「ごめんなぁ、お待たせ」
 現場の状況がリアルタイムで更新され、通信士達が矢継ぎ早に指示を出している。六課司令
室にはやてが、息を切らしながら滑り込んで来た。
「はやてちゃん」
「八神部隊長」
「リイン、グリフィス君。現状はどないなってる?」
 随分急いだのか、額には薄ら汗が浮かんでいる。
「ここまでは、比較的順調です」
「そうかぁ」
 はやては、司令席に座りすぐさま端末を起動する。現在までの詳細なデータが表示され、必
要な分だけを取捨選択して行く。
「スターズ03、04、八両目に到達。熱源確認…新型です!」
 中央モニターに山岳列車内の様子が、3DCGで投影され、モニターに高温の熱源を告げる報告
が入る。情報をリインフォースⅡが即座に解析し、CGで新型の全容を作成する。
 形状はⅠ型にこそ近いが、大きさはⅠ型の五倍以上もあった。
「現時刻を持って、新型をガジェットⅢ型と仮称します。データ収集開始。各員に通達して下
さい」
 ガジェットⅢ型のカメラアイが二人を捉え怪しく輝いた。

「こいつ、大きい」
 スバルとティアナは、八両目に到達するなり、新型のガジェットⅢ型と遭遇していた。ガジ
ェットⅠ型と比べ、Ⅲ型は完全な球形な形状をしている。まるで、巨大なバレーボールのよう
に、中空にフアフワ浮遊しているガジェットⅢ型は、ある種の愛嬌を感じさせた。だが、列車
格納庫ギリギリの巨体は、Ⅰ型を見慣れていた二人には異様に怪物に映る。
「先手必勝!」
 スバルが飛翔し、ガジェットⅢ型に攻撃を仕掛けようと接近する。スバルの攻撃に合わせる
ように、ガジェットⅢ型の頭部からアンカーが射出される。
「ハアアア!」
 スバルは中腰に構え、射出されたアンカーを渾身の力を込めた蹴打で迎撃する。アンカーの
角度が僅かにずれ、その間隙を利用しアンカー下にしゃがみ込む。スバルは、そのまま下から
アンカー目掛けて拳打をお見舞いする。ガジェットⅢ型のアンカーは、スバルの拳打に負け、
貨物室天井を破り列車の上部へと大穴を空ける。
「スバル!」
「うん」
 スバルとティアナは、ガジェットⅢ型のアンカーを足場に列車天井上へと移動する。 
 狭い車内では、ティアナの射撃は生かせても、スバルの近接攻撃を生かす事が難しい。相手
もやり易くなるだろうがスバルの持ち味を殺す事は無い。
 ティアナは、距離を取りクロスミラージュを展開する。スバルのマッハキャリバーが光輝き
、ガジェットⅢ型に向けて疾駆する。
 魔力の収束率、展開速度、AIによる補助機能。スバルが自作したローラーを遥かに上回る疾
走感。体とデバイスが溶け合うような全能感がスバルの体を駆け巡る。
(凄いよこれ!)
 最新型と聞いていたが、マッハキャリバーは、その名に恥じる事の無くスバルを高速の領域
へと加速させる。
『WingRoad』

 青く輝く道が中空に出現し、列車を飛び越え空を翔けながら、スバルはウイングロードを滑
走する。
「リボルバー!」
デバイスが唸りを上げ魔力が収束する。
「シュート!」
 スバルの拳打がⅢ型へと襲い掛かる。Ⅰ型を遥かに凌ぐⅢ型の装甲は、スバルの渾身の一撃
を持ってしても傷一つ付ける事が出来ない。
「硬い!」
「行くわよ、クロスミラージュ!」
『OK』
 スバルの不利を悟ったティアナが、瞬時に魔力弾を生成し、ガジェットⅢ型へと狙いを付け
る。ガジェットⅢ型のカメラアイが赤く明滅し、空間が歪み橙色の領域が展開される。スバル
の魔力が四散し、ティアナの魔力弾が掻き消える。
「AMF!」
「こんな遠くまで」
 接近戦を仕掛けているスバルならばまだしも、十分な距離を取っている自分の魔力までAM
Fによって消去される事実に、ティアナの背中に冷たい汗が流れる。事前に渡されたAMFの
予想有効効果範囲を遥かに上回っている。
 魔法を消された動揺からか、スバルの思考が乱れ意識に一瞬の空白が生まれる。意思を持た
ぬ冷徹な機械であるがジェットⅢ型は、その隙を見逃す事は無く、背部から大型マニュピレー
ターを射出する。マニュピレーター先端に装着された鉄球が大気を圧し破りスバルを捉える。
「あがっ!」
 全身がバラバラになりそうな程の衝撃を受け、スバルは大空へと弾け飛ばされる。
「スバル!」
 ティアナの叫びも虚しく、空中で身動きが取れないスバルに向けて、ガジェットⅢ型は更に
執拗に攻め立てる。鉄球がスバルを捉える瞬間、後方からガジェットⅢ型に向けて弾け飛ぶよ
うに赤い双翼を輝かせシンが突撃してくる。
「ナカジマ、蹴れ!」
「シン君!」
 ガジェットⅢ型のマニュピレーターの軌道が反れ、スバルは鉄球を足蹴に後方へと距離を取
る。シンは、アロンダイトに魔力を集中させるが、ガジェットⅢ型のAMFによって、宿った
魔力が瞬時に霧散する。シンは、構う事無く突き進みマニュピレーターに斬りつける。金属と
金属がせめぎ合い甲高い音が響く。だが、シンの鋭い斬撃も効果は無く、ガジェットⅢ型の装
甲には傷一つ付いていない。
(やっぱり魔力が通って無いと無理か)
 シンは、舌打ちしながらガジェットⅢ型から一度距離を取る。
「AMFの範囲も広ければ、装甲も硬い…厄介だな」
「そうね、AMFも前面だけに展開しているんじゃ無くて、ガジェットの周囲をカバーするよ
うに展開されてる。魔力無しの通常攻撃じゃ焼け石に水ね…まさに難攻不落の移動要塞ね」
 シン達は列車屋根上に一度固まり、油断無くガジェットⅢ型を睨みつける。
「でも、倒せない相手じゃ無い」

 スバルの瞳が好戦的な輝きを灯す。確かに今のスバル"だけ"では、ガジェットⅢ型に勝利す
る事は難しい。だが、機動六課スターズ分隊のフォワードの三人が揃えば話は別だ。
「当たり前よ。私達はこんな程度で躓いてるわけにはいかないの。コンビネーションプランは
B、モーションパターンは5-Aで行くわよ。アスカ、スバル気合入れなさい。ちょっと無茶す
るわよ。」
「「了解!!」」
 ティアナが高らかに宣言し、シンとスバルがガジェットⅡ型へ向けて弾け飛んだ。ガジェッ
トⅢ型の頭部ハッチが開き、無数のドリルがシンとスバルに襲い掛かる。シンはアロンダイト
でドリルを捌きながら、スバルのマッハキャリバーでドリルの隙間を疾走する。
「カードリッジ!」
「ロード!」
 爆音と轟音が鳴り響き、シンとスバルはカードリッジを連続で装填する。アロンダイトが
赤く発熱し炎を宿す。スバルのガントレットが、唸りを上げながら風を巻き起こした。AM
Fは万能では無い。一度に消去出来る魔力量には絶対上限が存在する。シンとスバルは、カ
ードリッジを連続装填し、体内に留めている魔力を一時的に過充状態に引き上げ、AMFの
絶対上限を強引な突破を試し見る。当然、二人の魔力が足りないとAMFを突破する事は出
来ない。突破する前に魔力が尽きてしまう事も問題外だ。
 綱渡り状態の分の悪い賭けだ。だが、シンとスバルは成功を信じて疑わない。シンとスバ
ルの直属の上司は高町なのはである。それは疑いようの無い事実だ。
 しかし、二人のボスは、間違い無く"ティアナ・ランスター"だった。
 そのボスが自分達の力を信じて気合を入れろと言うのだ。
「入れないと仕方ないだろうに!」
 シンは、今までの戦いの中で、連携行動を前提とした作戦は数える程しか無かった。高い
身体能力に恵まれたコーディネータ達の作戦行動は、基本的に単独行動が多い。編隊こそ組
んでいるもの、個々の判断が優先される為に仲間と連携する意識が希薄なのだ。敗戦後、ザ
フト・連合の合同治安部隊に配属されたシンは、連合の兵士達の緻密な連携作戦に舌を巻い
たものだ。
 戦場では一人で戦う事の方が多かった自分が、今仲間と手を取り合って戦っている。
 シンの顔に獰猛な笑みが浮かぶ。シンは頬を吊り上げながら、体中が今迄感じた事の無い
高揚感に支配されていた。
 アロンダイトの刀身が赤く染まり、シンは地面を蹴り、前傾姿勢のまま超低空を滑空する
。その後ろをスバルがマッハキャリバーで追走する。ドリルの切っ先がシンの頬を掠め、赤
い血が風に靡き後方へ流れる。だが、シンの速度は微塵も落ちる事無く、最大戦速でガジェ
ットⅢ型へと肉薄する。
「突きいいい!」
 裂帛の気合と共に、シンは渾身の力を込めて、ガジェットⅢ型へ刺突をお見舞いする。ア
ロンダイトによる炎の刺突は、ガジェットⅢ型のAMFと干渉し合い、空間を歪ませ火花を
散しながらシンをその場に押し留める。だが、シンの刺突は、ガジェットⅢ型のAMFを僅
かに破り、干渉領域内部に切っ先を除かせていた。ガジェットⅢ型は、シンの打ち込みに脅
威を覚え、AMFの範囲を狭め眼前の脅威に集中する。
「はあああ!リボルバー!」

 その僅かに開いた穴を追走して来たスバルが、魔力波を打ち込み押し広げる。二人の魔力
とAMFが干渉し合い空間が激しく波立つ。AMFの有効範囲から外れたティアナは、すぐ
さま魔力を収束し始める。
「クロスミラージュ、サポートお願い」
『Allright』
 ティアナは、全神経をデバイスへと傾ける。左右二丁のクロスミラージュの先端から魔力
弾が生成され、ティアナは、魔力弾の外殻にAMF突破用に更なる魔力で加工する。
(まだ駄目。これじゃまだ足り無い)
 ガジェットⅢ型のAMFを通り抜けても、ティアナの魔力弾では、堅牢な装甲を突き抜ける
だけの貫通力は無い。だから、ティアナ・ランスターは常に考え続ける。最善手では無く最適
手を常に思考し模索し続ける。ティアナの魔力弾は、その姿を徐々に変え、球形から楕円へと
そして、更に引き伸ばされ銃弾へと姿を変容させた。フィールド系防御を突き抜ける多重弾殻
射撃に、二発の弾丸によって貫通力を加えた多重弾殻貫通射撃。ティアナの中で理論は構築さ
れていたが、未だ実現には至っていなかった技術だ。だが、今ティアナの手には、クロスミラ
ージュが握られている。彼のサポートがあれば、課題であった魔力充填速度や弾殻形成の時間
はさほど掛からない。
「そして、アンタ達が居る」
 ティアナは、AMFの干渉波と必死に戦っているシン達を瞳に移す。シン達がAMFに開け
た穴は直径十センチ程。だが、今のティアナなら外す事は在り得ない。
「ヴァーティカル!」
 弾丸型の魔力弾が唸りを上げながらその場で回転する。ティアナの魔力を獰猛に吸引し、そ
の硬度と密度を増幅させて行く。
「シューーート!」
 臨界を超えた魔力の弾丸が、自己の魔力を推進力に変え爆発的な加速を伴いガジェットⅢ型
へと爆走する。
 魔力の弾丸は、シンとスバルが開けた穴に、二発とも一ミリの狂いも無く吸い込まれ、AM
Fの干渉を乗り切り、ガジェットⅢ型の装甲に一発目が着弾する。魔力の弾丸は、激しく回転
し続けガジェットⅢ型の装甲を削り取る。一発目の弾丸に間髪いれず二発目の弾丸が命中し、
濃縮された魔力が弾け、ガジェットⅢ型の装甲を食い破り紫電を散す。ガジェットⅢ型の機関
部が動作不良を起こし、ガジェットⅢ型のAMFが消失する。
「アスカ、スバル、トドメよ!」
「「了解!!」」
 シンの手甲が光り輝き、スバルのガントレットが風を巻き起こす。
「パルマ!」
「ディバイン!バスター!」
 シンの右手に充満した高熱の魔力弾と、スバル大気を抉り取る螺旋の魔力波がガジェットⅢ
型に襲い掛かる。ガジェットⅢ型の装甲の右半分が融解し、左半分が爆圧で弾け飛ぶ。その身
を大きく抉られたガジェットⅢ型は、破片を撒き散らしながら爆発する。
「ふぅ…まいった」
「疲れた~」
 カラカラと音を立てながら、ガジェットⅢ型の破片が空から落ちてくる。疲労困憊とばかり
に、力なくその場にしゃがみ込む二人を見ながら、ティアナは微笑み二人の元へ走っていった。

『ヲオオオオ!』
「なんだ!」
 シン達が八両目から九両目に到達した瞬間、列車全体が激しい振動で大きく揺れ動く。大気
を振動させる咆哮と共に、列車屋上部をぶり破り巨大な竜が姿を現した。白い竜鱗が太陽の光
に反射し、白銀の輝きを見せつけ、雄々しい巨躯は見るもの全てを威圧する。
「な、なに、アレ」
「もしかしてフリードか」
「あれが…チビ竜の本当の姿」
 子犬のような大きさの愛らしかったフリードは、その姿を成体の竜へと変化させていた。無
数のガジェットⅠ型達が、フリードを包囲しているが、その戦闘能力の差は像と蟻に等しい。
フリードは、その口に咥えたガジェット達を噛み砕き、その強靭な膂力でガジェットⅠ型を粉
砕して行く。
 竜召喚。
 召喚師であるキャロの本当の能力。今までは本人の未熟さ故に、フリードを本来の力で制御
する事が出来ず召喚の度に暴走させていた。だが、今回の竜召喚は、フリードの意識レベルは
完全に安定し、キャロは使役竜フリードを完全に制御下においていた。今回の戦闘で、キャロ
の意識に何か大きく働きかけるモノがあった証拠だった。
『車両内及び上空のガジェット反応全て消滅』
『ライトニングF、レリック回収終了。全車両六課制御下に置かれました』
 通信が流れ暴走する列車の速度が落ち始める。
『なら、ちょうどええわ。ライトニングFは、そのまま中央のラボにレリックを護送してな。
スターズFは、そのまま現場に待機。現地の職員に事後処理の引継ぎをお願いします』
「スターズ04了解」
「八神部隊長何だって?」
「私達はここで居残り。引継ぎやってから隊舎へ帰るわよ」
「オッケイ!」
「元気ねぇあんた」
「まだまだいけるよ」
「はいはい。その元気は次に取っときなさい」
 ティアナは嘆息しながら二人へと目を向ける。二人とも疲労こそしているが、精神的にはま
だまだ充実している。スバルの言う通りもう一戦交えても問題無いだろう。
(こいつらは…)
 呆れながらも、ティアナは二人に柔らかい視線を送る。二人との先刻の戦闘の連帯感、高揚
感は言葉で表す事は出来ない程素晴らしかった。
 陸士部隊との居た時よりも、任務に対する充実感が違う。この三人でチームを組めるなら、
それだけで六課に入隊して正解だとティアナは思った。
「なるほど、それが二人のバリアジャケットか。俺のと随分違うんだな」
 ティアナの考えを知ってか知らずか、シンは顎を擦りながら、ティアナとスバルを見つめる。
シンの鎧のような複雑な構造とは違い、共通しているのは白い外套だけで、二人が纏うバリア
ジャケットは、まるで普段着のような実にシンプルな作りになっていた。実際シンのバリアジ
ャケットは、脚部が歩く度にガシャンガシャンと音が鳴り隠密行動には不向きそうだった。
「あんたのが凄いのよ。殆ど鎧じゃ無いのそれ…」
「俺が作ったわけじゃ無いんだ。文句はフィニーノさんに言ってくれ」
「いやよ…私のクロスミラージュまで改造されたらどうすのよ」
「でも、ティア。シン君のバリアジャケット恰好良いよ…私あっちの方がよかったかも」
「あんたの売りはスピードでしょうが…ガチガチに固めてどうするのよ」
「俺は二人のバリアジャケットの方が、動き易そうでいいと思うんだけどな」
「な、なによ」
 ティアナはシンの視線に気が付き頬を朱に染める。ティアナのバリアジャケットは、丈の短い
スカート姿で動き易さを追求する為かスリットも深い。スバルのにしても、関節等の要所毎に防
護アーマーこそあるもの、半袖半ズボンと肌の露出箇所がやけに高い。無遠慮に見つめられると
照れもする。
「そっかな。これ、動き易いんだけどおヘソ丸出しだし、ティアナのスカートも凄い短いから結
構寒いんだよシン君」

 そんな事を言われてしまうと、シンの視線は必然的に、短いスカートから伸びるティアナの白
い足とスバルのお腹に集中してしまう。
「シン君…何か視線がやらしい」
「いや、すまん…俺はそんなつもりは」
「アスカの馬ぁ鹿」
「シン君のラッキースケベ!」
「お、お前らな」
 囃し立てるスバルとそっぽを向いてしまうティアナ。シンが顔を真っ赤にして慌てる様子を二
人は面白そうに見つめ、三人の明瞭な声が空に吸い込まれていった。

 闇が支配する誰も居ない広大な空間。光を通さない漆黒の闇の中で、翡翠色の瞳を輝かせ白衣
の男、ジェイル・スカリエッティは嬉しそうに笑っていた。
「刻印ナンバー九、護送体制に入りました」
「うん」
「追撃戦力を送りますか」
「止めておこう。レリックは惜しいが、彼女達の戦力を見れただけでも十分さ」
 念話を打ち切り、男は手元の端末を操作する。中空に大型モニターが現れ、六課の初出撃の映
像が投射される。シン達とガジェットの詳細な戦闘データが、男の網膜を目まぐるしい早さで駆
け抜けていく。
「それにしても、やはりこの案件は素晴らしい。私の研究にとって、興味深い素材が揃っている
上に」
 モニターが、フェイトとエリオに切り替わる。
「特にこの子達。生きて動いているプロジェクト"F"の残滓を手に入れるチャンスがあるかも知
れないのだから」
 スカリエッティは、嬉しさを隠す事もせずモニターを食い入るように見つめている。
「けっ、悪趣味だなテメェ」
 闇の中に、もう一つ輝きが生まれる。見るもの全てを焼き尽くかのような赤黒い光が、スカリ
エッティを照らした。
「悪趣味?君は本当に失礼だな」
 スカリエッティは不満な声を出しながらも、男の罵倒よりも案件に対する興味が勝ったのだろ
う。特に気を悪くした様子も無くモニターを見つめている。そんなスカリエッティに男は嘆息し
、意趣返しとばかりにモニターをシン・アスカに切り替えた。
「…全く何をするんだ君は」
「失礼ついでにもう一言だけ言っといてやるよ。コーディネーターを侮るな。奴等は宇宙の化物
だ。俺の計画を必ず邪魔して来るぞ」
 モニターの中のシンがガジェットⅡ型を切り伏せる。男は、スカリエッティの何処か芝居掛か
った態度は真逆、本能の赴くままに憎悪を剥き出しにしてモニターを睨みつけている。
「僕"達"…だろ。まぁいいさ。君は僕の協力者で、僕は君の協力者だ。計画は順調。シン・アス
カも事も考えるよ。今はそれでいいだろ」
「知らねえよ。俺はアレが手に入れば過程はどうでもいいんだ。結果だけを俺に見せろ、スカリ
エッティ」
「善処するさ…スカリエッティ。でも、随分不機嫌じゃ無いか」
「お前が襲撃以来昼行灯をかましてやがるから、苛々してんだろうか。女とガキの尻追っかけて
る暇があったら、計画をとっとと第二次段階へ進めろ」 
「…それ程迄に憎いかい。シン・アスカが」
「…憎いさ。だが、シン・アスカが憎いだけじゃねぇ。俺はコーディネーター全てが憎いんだ。
俺は俺の目的の為にシン・アスカとアレが必要なんだ…絶対にな」
 モニターの中で、アロンダイトを構えたシンに対して、赤い瞳の男"スカリエッティ"は、決し
て消す事の出来ない憎しみの業火を静かに燃やして続けていた。

第三幕"鼓動-FirstAlert"