SCA-SEED_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第47話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:42:43

 照明が落ちたファクトリー内部のコントロールセンターを、無数のマズルフラッシュが
照らす。篭城する陸戦隊は、3方向に開いたドアから入ろうとする蜘蛛のようなガードロボットを相手に
全く状況を改善できていなかった。彼らの持つアサルトライフルは、いとも容易くガードロボットの
装甲を貫通する。彼らの着る強襲用パワードスーツの正面装甲は、ガードロボットの機銃
を弾くに足りる耐久性を有している。
『隊長。どうにもこれは大盤振る舞いですね。敵が途切れませんよ』
 隊員の1人が、コンソールに身を隠し銃だけ出して発砲する。ヘルメットのHUDにリンクした照準が
敵を捉え、蜘蛛の脚を吹き飛ばして宙に舞わせた。
『なに、こっちはマルチボールだ。このままハイスコアを狙うぞ』
『古いですよ、ピンボールなんて』
『いやいや。無重力でやるとまた面白いんだ』
 集中力が切れ、前に出すぎた1人が数発食らった。フォローしていた兵士がその肩を
掴み、遮蔽物に引きずり込む。
『アーマーを過信するな、リード。シミュレーター気分は卒業したんだろう?』
『悪かった……しかし、キリが無いぜ。もう何十機壊したんだ?』
 ドア口には侵入を阻まれたガードロボットの残骸が積みあがっており、殆ど一歩も部屋に踏み込まれて
いない。百戦錬磨の特殊部隊は誰1人としてパニックに陥らず、誰1人として負傷せず、
殆ど百発百中の射撃でガードロボットを沈黙させていく。しかし、通路奥の闇には、未だ
夥しい青い単眼が蠢いているのだ。
 そして、人間とロボットの決定的な違いが1つある。ロボットは疲労しない。
『どうだ? 作業の程は』
『防壁を順調に突破しています』
 陸戦隊に守られた工兵とエコー7が床面の一部を引き剥がし、ケーブル用プラグから
セキュリティシステムへのアクセスを試みている。空気がある故に銃声が轟き、戦闘が
始まって直ぐ、会話を骨伝導フォンに切り替えていた。
『ただ、見た事も無い経路です……全てにアクセスする必要があるでしょう』
『マシンパワーはそっちのが上だ。頼むぞ』
 工兵に頷きつつ、エコー7はせわしなく手元のキーを叩き続ける。ふと、指が止まった。
『これは……何? 誰かが、直接操作している……』

『そこだっ!』
 デスティニーⅡが、ビーム刃を起動させたクリーバーを敵機に叩き付ける。

 ヘルベルトのドムを追ってビーム突撃銃の狙いをつけていたザクは回避しきれず、その
横腹に高出力高収束のビームシールドの直撃を受ける。装甲が一瞬で赤熱して肉厚の刃が
食い込み、内側からエネルギーが吹き上がって機体を真っ二つに引き裂いた。切断面から
小爆発を起こしつつ停止するザクを両脚で踏み付け、真下にいたゲイツRへと蹴飛ばす。
 迫ってくる残骸を腰部のレールガンで撃ち抜き、四散させる。ビームライフルを向けるが、そこに
あったのはデスティニーⅡでなく、光の尾を引いて迫る2発の小型ミサイルだった。寸前で機体を
捻ってかわす。その背中に、ヒルダのドムが放ったランチャーの砲弾が直撃した。
『俺が追い込むぞ! 仕留めろ、マーズ!』
『おう』
 ファクトリーのリングと中央を結ぶ支柱にデスティニーⅡが着地し、ギラつくシュレッダーの銃口を
最後に残ったザクに向け、発砲し閃光が走る。胴体への被弾こそ免れたが左腕を巻き込まれ、肩の
シールドごと腕部が爆ぜる。バランスを崩した其処へ、右手を背部へやったマーズのドムが猛然と迫る。
『貰ったな……!』
 光刃一閃。すれ違い様に強化型ビームサーベルが光の弧を描き、ザクが両断された。
爆発がドムの左半身を照らし、影の部分でモノアイが動き回る。
『打ち止め、か? 片付いたみたいだな』
 腕を緩く開いて支柱に立つデスティニーⅡ。その周囲を3機のドムトルーパーが固める。
『相手はコンビネーションがなってなかったからねぇ。1に1を足しても、2のままさ』
 残骸に囲まれる中、ヒルダ機が周囲を警戒する。
『毎回こう派手に壊せりゃ、文句無いんだけどね』
『……指示には従ってもらうぞ、ヒルダ』
『解ってるよシン。別に殺しが好きなわけじゃあ無いんだ。嫌いでも無いけど』
 モノアイが右、上へと動き、ヒルダ機が中央ブロックの方へと向いた。
『っと反応アリだ。1機、残ってたみたいだねえ……んん?』
『フリーダム……フリーダムか!』
 星明りに浮かび上がる天使に、シンの声が上ずる。恐怖と、憎しみが蘇った。
『ストライク、が付かない方のフリーダムだな。スペアパーツで組んだのか?』
『フン。知らねぇが、4年前の旧式1機で俺達をどうこう出来るかよ』
 4機を見下ろすように悠然と翼を広げるフリーダム。ライトイエローのツインアイが
輝き、腰のレール砲と背部のプラズマビーム砲が展開し前部に突き出した。
 ハイマット・フルバーストモード。元々備わっている2つのモードの複合版だ。しかし。

『撃たせるなッ!!』
『馬鹿のひとつ覚えかよ!』
 フリーダムがマルチロックするより早く、デスティニーⅡとドム3機による集中砲火が
自由の天使へ殺到した。
 3方向から迫るビームマシンガンを辛くもかわすが、シュレッダーの射撃を受けたシールドが砕け散る。
射角が浅かったか腕に損傷は無い。スラスターのみを使った、姿勢制御を伴わない回避を
行った為に機体がバランスを失った。逆噴射するも間に合わず、そのまま自分の推力で中央ブロックに
衝突。PS装甲がアクティブになっていなければ、小破していただろう。
 バランサーの再調整が終わらず、酔っ払いのように壁面にもたれたまま右腰部のレール砲を撃つが、
光翼を広げたデスティニーⅡは悠々と回避する。
『……ど素人かぃ』
『馬鹿にして……潰してやる!』
 ヒルダの苦笑に対しシンは笑顔の欠片も無い。真紅の瞳を細め、犬歯を剥き出し叫んだ。

『回避起動データ修正……完了』
 機体に残されていたマルチロックオンの後同時砲撃という『必勝パターン』を瞬殺されてもなお、
エミュレイターは全く動揺しなかった。自分の射撃を回避したデスティニーⅡの動きがモニターに
表示され、それを自己のプログラムに取り込む。
『ドローン、データ確認。インストール……完了』
 戦闘シミュレーターから自分が拾ったデータをそのままダウンロードさせ、戦わせたゲイツRやザク。
その膨大なデータを1秒足らずでインストールし、フリーダムのツインアイが明滅した。
『ZGMF-X10A-2フリーダム、メインシステム再起動……戦闘を再開』
 自分のコピーを創り、遠隔操作するというのは初めての試みである。通信状況悪化など
アクシデントはあったが、ようやくアジャストし始めた。
 デスティニーⅡと3機のドムが、自機を包囲するよう散開する。フリーダムは核動力で
動いているので、迂闊な接近は危険である。そして、先程までの拙い動きが彼らを油断
させていた。万全の布陣で、充分に余力を残しつつ叩こうというのだろう。
 彼らは待つべきでなかった。多少なりとも、この後有利に戦えたかも知れなかった。
 デスティニーⅡの脚部ハッチが開き、6発のミサイルが時間差を置いて発射される。
それを1発1発ごとに補足するエミュレイターは腰を捻り、左脚で宙を蹴った。

 プラズマビーム砲とレール砲を引っ込め、ハイマットモードに移行。慣性を効かせて、
中央ブロックの壁面スレスレを最大加速で飛ぶ。3発のミサイルが曲がり切れず、壁に
当たって爆発した。速度を維持したまま、フリーダムが反転する。なだらかな曲面を持つ
壁に背中を向けたまま、左手で胸部を庇わせつつ頭部機銃を発砲。
 目前まで迫った3発のミサイルが弾幕に巻き込まれ、爆風が機体を煽る寸前、両脚を振り上げ
バック宙を決める。フィギュアスケーターのように壁面の直ぐ上を滑りながら、右手のビームライフルを
デスティニーⅡに斉射。クリーバーを軽く振って防御する黒と赤の重MS。
『射撃戦闘データ修正……完了』
『動きが……良くなった?』
『何だコイツ……いきなり!?』
『ちぃっ! 速過ぎる! マーズ、フォーメーションをBに!』
 挟み込む筈だったヘルベルトとヒルダのドムを一瞬で抜き去ったフリーダムは、脚部の
スラスターを吹かして一気に離脱。壁面タイルが何枚か剥がれ散った直後、ギガランチャーの砲撃が
着弾する。ペースを崩され、一旦中央ブロックの壁面に『降り立って』集合する4機。
 彼らが高速離脱したフリーダムを捉えたと同時に、自由の天使は漂うデブリの1つを蹴飛ばし速度を
殺し、逆噴射して180度ターンする。そしてターンしつつフルバーストモードへ移行。
『ターゲットマルチロック。発射』
『か、かわせぇっ!!』
 マルチロックオン完了に、今度は0.5秒も掛からない。シンが叫んだ直後、フルバーストモードに
おいて可能な限りの速度を維持したまま、縦横無尽に動き回りながら一斉砲撃を行う。
 無数の光の柱とレールガンの弾道が滑らかな壁面に突き刺さり、シールドを構えたドム
3機と、ヴォワチュール・リュミエールをフルパワーで稼動させたデスティニーⅡが逃げ回る。推進機関に
エネルギーを割いている為にビーム砲の威力は低く、あくまで補助武装であるレール砲も
『必殺』とはならない。だがMSという複雑な構造をした兵器は、何処に何が被弾しても
大きく性能が落ちるのだ。
 ビームの熱と電磁波と破壊された壁面によって、前方の索敵はほぼ不可能となる。が、
エミュレイターは気にかけない。砲口に残光を宿すビーム砲とレール砲を格納し、翼を
拡げハイマットモードに移行しながら最大加速。
『射撃戦闘データ、修正……完了』

「ッ! 来るぞ!!」
 レーダーに一瞬映った光点に、シンが叫ぶ。青白いスラスター光がファクトリーの壁に
落ちたと思うと、激突する寸前、ほぼ直角に軌道修正。右脚で踏み込み、ライトグレーの
壁がクレーター状に陥没してタイル材が飛散。強度を飛躍的に向上させるというPS装甲の長点を
フルに活かした戦闘機動だ。腰に左手をやった後、脚を突いた事で浮き上がった機体を
スラスター噴射で無理矢理元に戻す。
 その予測位置を、ヘルベルト機の砲撃が虚しく通り過ぎていった。ヒルダ機へと天使が
迫る。ランチャーを構えようとするも、自機から見て左側から、大回りに接近されるので
姿勢変更が間に合わない。右肩に担いで狙いをつけるという特性を見抜かれたのだ。
『たく、飲み込みの早いことで!』
 左腕のシールドを起動させ、時間を稼ごうとする。しかし振り向き終えた瞬間、フリーダムは両脚で
壁面を蹴り更に加速した。一気に距離が詰まった時、遠くで解らなかった左手のビームサーベルを
ヒルダの隻眼が捉えた。接敵の瞬間、赤紫のビーム光が閃く。マーズがやってみせたのと
殆ど変わらない斬撃を、僅かにビームシールドの面をずらす事でヒルダのドムが弾く。
『近接戦闘データ、修正……完了』
『こンの野郎ッ!』
『ヘルベルト! その位置じゃもう駄目だよ!』
 ヒルダ機はもう一顧だにせず、左脇を抜けて飛ぶ。ヘルベルト機を援護しようとデスティニーⅡと
マーズ機が動くが、間に合わない。得意の連携攻撃を掛けようにも、フリーダムは此方を
撃墜しようとしているのではなく、連携の基点を潰すように立ち回っているからだ。
 倍以上の数で掛かって敗北したドローンの情報から、エミュレイターは学んだのである。
『フン、直撃なんざ狙ってねえよ! そらっ!』
 ヘルベルト機のモノアイが光り、ギガランチャーが放たれた。接近するフリーダムに
ではなく、足元の壁面へ。爆発し、ランチャーが反動で上を向いた瞬間に射撃モードを
切り替え、爆発の光の中へビームマシンガンを乱射。
 直接的なダメージは狙わない。フリーダムを足踏みさせる事で、援護に来る2機の為に
時間を稼ごうというのだ。しかしその一瞬後、爆発の中からビームが2連射される。
『な……』
 ドムの大柄な機体が横にスライドして回避する。その直後、爆発を突き破ってフリーダムが飛び出した。
ハイマットモードの加速力でもって肉薄し、ヘルベルト機の右肩に膝蹴りを叩き込んだ。
『ぐおおぉっ!?』

 掬い上げるような蹴撃が、右に構えていたギガランチャーを弾き飛ばし、機体を大きく
よろめかせる。そして、無防備な左脇腹に間髪入れず、フリーダムの腰部レール砲が押し当てられた。
膝蹴りの態勢はそのまま、武装を展開したのだ。流れるような、舞うような機動である。
『や、べ……!』
 その時、ヘルベルト機の背後で落雷のような閃光が走った。頭部の真上を掠めたシュレッダーの火線を、
フリーダムは左のウィングユニットに掠めさせつつ回避に成功する。その火花と共に狙いがずれた
レール砲が放たれ、弾体がファクトリーの壁面を削りつつ虚空へ消えていく。
「間に合ったか!」
『助かったぜ、シン!』
 ヘルベルトは辛うじて成功したのだ。宙に浮き上がってしまったフリーダムに、マーズ機が迫る。
フリーダムの左手と背中に回ったマーズ機の右手が同時に動き、漆黒の闇に光の弧が2つ
生まれた。
『……出力の差だ。残念だったな』
 交錯する両機。強化型ビームサーベルを背部に戻したマーズ機が、腰の後ろのギガランチャーに
触れる。フリーダムの左手にあったビームサーベルは、過負荷を起こし柄が熱で崩壊した。
 ビーム刃の根元、つまりビームの発生器どうしが接近しすぎ、コロイド場の結合が緩み、
エネルギーが逆流したのだ。
『決めろ、シン!』
「オオオォッ!!」
 光翼が限界まで広がり、真紅の双眸と胸部の単眼が強い輝きを放った。血涙が散る。
間合いは完璧。エネルギーの奔流を纏った長大な肉切り包丁が、接近戦武器を失った
フリーダム目掛けて振り下ろされる。
 荒れ果てた壁面に光刃が叩き付けられ、赤熱したタイル辺が鮮血の如く虚空に散った。
「こ……こんな」
 フリーダムは、自由の天使は未だ其処に在った。翼を閉じ、膝を壁面に突くほどの低姿勢を取り、
サーベルを失った左手を握り締め、クリーバーを持ったデスティニーⅡの太い右腕にアッパーカットを
当てる事で、僅かに剣の軌道をずらしたのだ。
「強い……今までの誰よりも、何よりも」
『射撃戦闘データ、修正。回避機動データ、修正。近接戦闘データ、修正』
 デスティニーⅡに密着したまま、フリーダムのツインアイが輝く。
『……完了』

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