SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_GSCg_第05話

Last-modified: 2009-10-07 (水) 02:43:59
 

――あらすじ――

 

 オーブ慰霊碑の前でその場のノリに流され、生まれながらの勝ち組キラ=ヤマトと
屈辱の握手を交わしたシン=アスカはやや遅い復讐の決意を固める。

 

とりあえずカネだという事で都合良く海賊に襲われていたオーブの輸送船に立ち入り検査を行い、
天然の生鮮食品を闇市場に横流ししようとしたところ、コンテナに入った核弾頭を発見してしまう。
人生の冷たい風に負けるものかと、今度はその弾頭をネタにオーブの役人を脅迫して
チマチマ口止め料を稼ごうとするシンだったが、押収したコンテナをザラ派テロリストに奪われ、
すったもんだの末、超人的狙撃(重突撃銃で)により全基破壊。
地球を核攻撃から、プラントを3度目の全面戦争から救ってしまう。

 

それでも挫けないシンに、弾頭を送りつけたのは悪しき地球連合であるという、
三段跳び論法ならぬテレポート論法で結論を出したラクス達勝ち組セレブが連合の歪みを正すため、
キラ、アスランを旗印とした討伐隊を組織し、武力による抗議を行うという情報が入ってきた。

 

 彼らが暴れれば地球圏が大いに乱れ、火事場泥棒のチャンスが舞い込んでくる。
そう確信したシンは大いに喜んだ。

 

そう、討伐隊が壊滅し、キラの乗るストライクフリーダムが単機でオーブに帰還するまでは。

 
 
 

「どうしてなんだよ」
「地球連合が映像を送ってきたから、何が起こったかは解るかもしれない」
「どうして敵の時はあんなウザかったのに、味方になると呆気ないんだよオォ!」

 

 アーモリーワンに移ったザフト総司令部へと向かうタクシーの中で、髪を掻き乱したシンが叫んだ。
怯える運転手に向かってアーサー=トラインが手を振り、笑顔を見せる。
「ところでシン、ジンから乗り換える気はやっぱり無いのかい?」
「なんでですか……?」
「シンがジンに乗るっていうと、言いにくいっていうか鬱陶しいから」
「そんな理由!?」

 

 司令部前で車から降り、シンとアーサーがそれぞれ自分のIDカードを見せ、
敬礼して基地の敷地内に入った。
兵達にも落ち着きがない。連合軍の物量が恐るべきものだという認識はあったものの、
キラ、アスランという彼らにとって絶対無敵の存在が敗北したのだ。
 2人が司令室へとやってくると、主だった白服達は既に揃っていた。
注がれる白い目にアーサーはペコペコし、シンは逆に睨みつけつつ隅の席へと座る。
室内が若干暗くなった。

 

「映像を見る前にひとつ言っておく。これはあくまで連合軍からもたらされた情報であり、
 改変や編集が加えられている可能性が高い。
 つまりええと……キラ様が敗れたというのはデマである可能性が……」
 クライン派のザフトホワイトによる歯切れの悪い説明が続く。
 シンが2度目の欠伸をしたところで話が終わり、映像が始まった。
配置されているのは、連合の大規模MA部隊だった。
ザムザザーと、低空に浮かぶユークリッド。共に非人型であり、重装甲と高火力に定評がある。
その武装は全て、接近するストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、
ムラサメ、シュライクを装備したM1アストレイ、
そしてザフト機であるグフイグナイテッドやバビに向けられていた。
カメラが一度ズームして、機体を確認する。

 

「あー……わかっちゃった」
「えっ?」

 

 面倒臭そうなシンの言葉にアーサーが振り向いた時、戦闘が開始された。
密集隊形を組んだMA部隊が砲弾やビームをシャワーの如く空へと撃ち上げる。
機動力で勝る討伐隊側は散開して弾幕を一時凌いだ。
元々物量で劣る彼らは、敵戦線を蹴散らすエースを主軸した一点突破作戦をとるべく、
ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスの後方へ移動し、両機の突撃に合わせ――

 

「な……」
「う、動かない……?」

 

 白服達から呻き声が漏れる。
最も肝心な初手で、キラ=ヤマトの駆るSフリーダムは何の動きも見せなかった。
回避行動さえ取らず、アスランのIジャスティスが戸惑うように蒼と白の天使の周囲を飛び回る。
両端のM1アストレイやムラサメが被弾し、統制が取れないまま反撃が始まった。
「どうしてキラ様は動かないんだ!? いつもみたいに……な、なぁ?」
「だ、だから連合軍が映像を改竄している可能性が」
「改竄なんてしてない。解ってるだろ」
 貴重な時間を金稼ぎに使えない事に苛立つシンが、白服達の会話に割り込んだ。

 

「キラさんは、コクピットを狙わないんだよ」
 誰もが言いたくても恐ろしくて言えなかったタブーに、触れるどころか尻に敷いたシンが、
机に置かれた飲み物のストローに口をつけた。
指揮の行き届いた集中砲火で討伐隊の戦力を削り取っていく連合軍を半眼で見遣る。

 

「馬鹿な、そんなつまらない理由でっ! 大体、コクピットを狙わなくてもっ」
「連合のこの機体は、2種類とも何とかリフレクター……対ビームバリアを持ってるから、
 精密射撃で武装を破壊しようとすれば、近づかなくちゃいけない。
 ストライクフリーダムのスーパードラグーンは重力下じゃ使えないしな」
 デュランダル側についた所為で、ヘタレだの負け犬だの言われているシン=アスカだが、
その実力については誰もケチをつけられない。
状況はそれぞれ異なるが、彼はキラもアスランも撃墜した経験を持つのだ。
その後、アスランに大変格好悪く撃墜されたが。
「MSってのはさ……意外とデカいんだよ。MAの大群が本腰入れて弾幕を張ったら……
 あちこちゴテゴテ突き出した20メートル弱の人型兵器は、物理的に接近できない」
 討伐隊側のミサイルが1機のユークリッドに着弾し、機体が揺らいだ。
続いて追撃のビームが降り注ぐが、それはリフレクターで防がれてしまう。
回避行動を取るM1が全身を緑の光条に貫かれて爆散した。
Sフリーダムは動かない。
Sフリーダムを守っているIジャスティスも、有効な手が打てない。

 

「だが……インパルスのコクピットは狙っていた」
 映像越しの爆発に横顔を照らされたアーサーが、真意を訊ねるようにシンを見る。
それに頷いて、シンは足を組み直した。もう少し身長があれば机に足を乗せたい所だったが。
「それは、俺がキラさんを殺しにかかったからです。
 命の危険を感じれば、幾らキラさんだって拘りを捨てざるを得ない。でも、見てください」
 彼が指差す先に、その場にいる全員の視線が吸い寄せられた。
連合軍の機動兵器部隊が展開する弾幕には奇妙な穴があった。
Sフリーダムにのみ、彼らの攻撃が及んでいない。
それに気付いたグフやバビが高度を落とし、もしくはSフリーダムの背後に隠れようとするが、
動いた僅かな隙を狙われて被弾し、墜ちていった。
 ともすれば当りそうになる弾幕を前にしてもSフリーダムは動かない。
高い空間認識能力を持つキラは、猛烈な勢いで撃ち上げられてくる射線全てが自機に当らないと解るのだ。
ラクス達を乗せたアークエンジェルが沈みかけた時ですら、キラは自分が殺されかけるまで
シンの命を狙おうとしなかった。
名も知らないオーブ兵、ザフト兵、そして立ち位置を常にはっきりさせないアスランが
危険にさらされた程度で、本気で戦うわけがない。

 

 連合MAの数機が被弾した頃、討伐隊側の機体は粗方失われていた。
Iジャスティスが突撃させたファトゥムを、ザムザザーが下がりつつクローで受け止める。
加速を殺しきれず、甲殻類のような身体に半ばまで埋まり込んだが、
ハサミが閉じ切ってファトゥムを逃さない。
間髪入れずに突進したIジャスティスが、網の目のような弾幕に補足された。
回避が間に合わず、シールドで前面からの攻撃を受け止めながら背部に撃ち込まれ、
左に避ければ左側に食らい、実体弾で動きを鈍らされ大出力ビームで抉られ、
シンの言葉通り『物理的に』弾幕を抜けられず地面に転がった。
パイロットの技量など関係ない、数の暴力を前にキラのSフリーダムが反転し、遠ざかっていった。
映像が途切れる。

 

「アスランを墜とせたのは、連合にとって単なるラッキーヒットでしょう。
 何で突っ込んだのかな……キラさんを守る為? まあどうでも良いですけど。
 帰りましょう、トライン艦長」
「いや、僕は残るよ。シンは帰って良い。艦で待機していて欲しいな」
「……了解」
 溜息混じりに腰を上げ、シンは挨拶もそこそこに部屋から出て行った。
彼にとって、時間の無駄以外の何物でも無かった。当然の事実を確認したに過ぎない。
照明が元に戻る。
アーサーが笑みを浮かべて立ち上がった。
「さて……皆さん。この後はどうすべきでしょう?」

 

 直後、シンが出て行ったのとは別のドアが開く。桃色の髪が空調で揺れた。

 

「既に、答えは出ていますわ」

 
 

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