SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_GSCg_第06話

Last-modified: 2009-10-08 (木) 02:52:12
 

それにつけてもカネの欲しさよ。
――シン=アスカ  地球圏外周艦隊 初代提督(羽鯨来襲のため以降は空席)

 
 

「で、本当に討伐隊は負けたのかよ?」
「負けてたね。ビデオ始まった瞬間に何で負けたか解ったけど、実際その通りに負けてたね」
 アーモリーワンのドックに停泊するナスカ級『ラーツァルス』へ戻ったシンは、
ラウンジでヴィーノ相手におだを上げていた。
コーヒー缶片手にすこぶる上機嫌である。

 

「キラさんもアスランもさぁ、何ていうのかな……ヘタに美化されてヨイショされたから、
 変に拘っちゃったっていうか綺麗な自分を捨てられなかったっていうかぁ?
 ほら、俺ってそういうの無いじゃない」
「ふうん」
 PDAにシン専用のカスタムジンを表示させてシミュレーションを行いつつ、
ヴィーノが気の無い返事を返した。
デスティニーを受け取れる筈だったのに、当のシンが「維持費が高い」「目立つ」などとゴネた為に
ジンを使い続けざるを得なくなったのである。
「まーあれだよ。そういう戦い方から脱却させてやらなかったラクス様も、
 先が見えてないってか器が小さいっていうかさー」
 ネガティブな方面での良いニュースだからか、シンの喋り方が通常の3倍不愉快である。
今まで散々辛酸を舐めさせられてきた相手の失態だけに、無理もないところだが。
「じゃあ、シンはこれからどうなると思う?」
「どうもならない。オーブからキラさんが帰ってきてさ、ラクス様に泣きついて……
 ラクス様がもっと強いフリーダムを渡すんだろ。
 大砲を2倍にして、地上でも使えるドラグーンを装備させるとかか?
 とにかく負けないようにお膳立てしてくれるのさ」
軽薄な笑みを浮かべたシンが手払いする。缶コーヒーに口を付け、無糖のそれを喉に流し込む。
小さく息を吐いて窓から見えるドックを一瞥した。
「俺達の計画も変更ナシだ。すぐに地球連合軍が押し寄せてくるかもしれないが、
 プラントなんかに未練はない。混乱に乗っかって地球まで逃げ切った後、商売を始めれば良い」
 シンの顔から笑みが消え、紅い目に剣呑な光が宿る。

 

浮かない顔をしたアーサーが入ってきたのはそんな時だった。2人揃って起立し、敬礼する。
「お帰りなさい、トライン艦長」
「お疲れ様です、艦長」
「どうしたんだい、君達」
 スーツケース片手にぎこちない笑顔を浮かべたアーサーが、シンの前にケースを差し出す。
空き缶をヴィーノに押し付け、それを受け取るシン。
「クライン議長からのプレゼントだ。きっと……気に入らないよ」

 

「金塊にしちゃ軽いですね」
 アーサーの話をまるで聞かず、シンはケースを開けた。

 

開けたまま硬直する。

 

「30分前、君をザフト特務隊『FAITH』の一員とする事が正式に決定された。
 同時に、現存していたFAITHは全てバッジと地位を返上した。つまり君が唯一の隊員だ」
 羽のようなデザインのFAITH章を摘みあげたシンの指が小刻みに震え、
 左手を突いていたザフトホワイトの制服に早速皺が出来た。

 

「君は今からザフトのナンバー2として……いや、クライン議長の指揮権は形式的なものだから
 実質ナンバー1、長官として任務に臨まなければならない。
 そして最初の任地は地球連合……ワシントンのホワイトハウスだ。
 直接出向き、今回の事件を阻止できなかった事を謝罪し、首謀者を可及的速やかに引き渡す事を確約する」
 原稿を読む口調でアーサーが言い終わり、シンの両肩に手を置く。
「僕が口を出せる段階じゃなかった。全ては決定事項だったんだよ」

 

「そん、な」
 存在するだけで赤字を生み続ける、崩壊した組織の長となる事に何の意味があるのか。
これでは、キラ達が敗北した責任を取らされているのと同義である。涙声になるシン。

 

「僕も皆も、出来る限りのサポートをする。気を強く持つんだ」
「そんなぁ」
 泣き崩れるシンをヴィーノが支えるのを見て、アーサーは帽子を被り直してラウンジから出ていく。
室内に嗚咽が漏れ始めた。

 

「ま、因果応報ってことで」
「俺が何をした!」

 
 
 
 

「シン=アスカか……パっとしない顔だな」
「クライン政権下での映像だ。無理もない」
 アーモリーワン居住区の端に建つパブの2階で、30代から40代の男4人が写真を前に額を寄せ合っていた。
頭上で大きなファンが回り、店内の淀んだ空気を掻き混ぜている。

 

「こいつが、いまやザフトの長官だと?」
「ああ。クラインはキラ=ヤマトの処遇を他言していないから、代行という事になるかもしれんが……
 ザフトのシンボルに相応しいエースパイロットである事に違いはない」
 咥えていた煙草を灰皿に押し付けた男が、紫煙を吐き出した。
「嫌々ながら従っているか、誇りも信念も消え失せたか……」
「あるいは、奴の望む所は別にあるのかもしれん。
 でなければ、地球へ落ちる核弾頭を破壊する事はなかった」
「ザフト兵は、所詮ザフト兵だろう」
 誰かが吐き捨てるように言い、皆が溜息をついた。
「とにかく、ワシントンまで行ってキチンと謝って貰わなくちゃな」
「具体的な任務は? ボスは何て言っている……まさか護衛か? 俺達が、ザフト兵を?」
 1人が訴えるような身振りで周囲を見回す。2度目の溜息。
「訓練は受けてきた。後はやり遂げるだけだ……青き清浄なる世界の為に、な」
 反プラントを標榜するテロ組織のスローガンを口にし、煙草を咥えていた男はシンの写真に火を付けた。

 
 
 

「何が長官ら、何がふぇいしゅら……知ったこっちゃらいろ」

 

 路上。非常用の公衆電話に抱きついたシンが寝言を垂れ流していた。
顔を真っ赤にして半分目を閉じ、時々いびきのような音を立てている。
何もかも忘れようとバーにやってきたのだが、立ち上る酒気に当てられただけでこの有様だった。
プラントでの成人年齢には達しているのだが、それ以前の問題だったようだ。

 

「みんな、みんなおれおころ……おれのこと、ばかにしへ……」
 白服にFAITH章をつけた、ある意味非常にマズい恰好で道路に転がるシン。
その彼に近づく人影が2つあった。
港湾労働者の作業着を着た2人が、左右からシンを抱き起こす。
「大丈夫ですか、兵隊さん……泥酔してるな、全然酒臭くないが」
「ぁあ? んぁあ?」
「白服の人がこんなところで潰れてちゃ駄目でしょう……毒物って事はないだろうな?」
「大丈夫そうだ。ん、ラーツァルスは……4番ドックだな。車を回して貰う」
 片腕でシンを抱き起こしたまま、男は携帯型の端末を閉じる。
右耳に中指を入れて首を傾けた。小さな電子音が上がる。
「シン=アスカを発見した。ああ……基地の方じゃない。飲み屋街だ。車を寄越せ」
「手のかかる長官殿だ。ワシントンどころか北米まで辿り着けるかどうか」
「あふぁ……かね、かねへぇ」
「わかったわかった」
 しゃくりあげて意味の解らない事を言い出したシンを宥める大人2人。
靴がアスファルトを踏みしめる音を聞いて、2人とも振り返った。
シンを落として立ち上がる。
「あいてっ」
 年若いザフト兵2人が、明確な殺意をその目に宿してシンを睨みつけていた。
1人がポケットに手を入れる。

 

次の瞬間、事は済んでいた。
両脚にタックルを受けた1人が建物の壁に頭を打ち付けて昏倒し、
折り畳みナイフを取り出そうとした2人目がその右手を捻り上げられ、投げ飛ばされた。

 

「……クライン派、ってやつか?」
「かもな。トラブル追加だ」
 さりげなくナイフを没収した後、男は胸元から取り出した煙草に火をつける。
左側から車のヘッドライトに照らされ、眩しそうに目を細めた。

 
 

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