SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_SEEDDtheUntold_第03話

Last-modified: 2009-01-22 (木) 21:56:56

 洗脳されているとはいえ、シン=アスカの技量は欠片も衰えていない。勝負は最初から
ついていたと言えるだろう。首から下のほぼ全てに追加装甲を施されたM1カスタムに、
コニールのストライクダガーは1発たりとも当てられなかった。至近弾さえない。
 ビームライフルの銃口を見切っているかのように、重量で加減速が鈍っている事も計算
に入れているかのように、シンの機体は単純極まりない蛇行で全弾避け切ってみせた。

 

「この、着膨れしてる癖に!」

 

 サブモニターでビームライフルの限界温度が近い事を知り、コニールはトリガーを素早
く2度押し込んだ。左手が背部に伸びてビームサーベルを掴む。FCSのモードが切り替
わる寸前、M1カスタムが土煙を残して視界から消えた。消えたようにみえた。意識が逸
れる瞬間を突いたのである。外部スピーカー越しに声が響く。

 

「え、何処……」
『よくも俺の前で、ラクス様に対する暴言を吐いたな、コニールッ!!』

 

 コニールの声がそこで途切れ、右からの激震にヘルメットを被っていない頭をヘッド
レストに打ち付けた。なにぶん、正規の手段で手に入れた機体ではない。左手には盾が無
いし、パイロットスーツも揃っていないのだ。整備が行き届いていないセンサーが、遅れ
て右側にいる敵機をパイロットに教えた。
 肩の追加装甲で体当たりしたM1カスタムが、流れるような動作でライフルを構え、
ストライクダガーの頭部を吹き飛ばす。メインカメラが落ちてサブに切り替わったと同時、
ノイズが走る画面に、左手甲のサーベルを起動させて腕を引く敵機が映る。息を呑み操縦
桿を引き戻し、機体を後退させた。ライフルを突き出したままの右手が貫かれ、武器を落
とす。爆発によってコクピットが揺れた。
 機体がよろめいたまま左手のサーベルを振り抜く。僅かなスラスター噴射でスウェイ
バックしたM1カスタムにかわされ、代わりに強烈な膝蹴りがコクピットハッチに突き刺
さった。失神寸前まで追い込まれ、ストライクダガーが転倒する。

 

『ラクス様は何時だって平和を願っているんだ! アンタ達みたいな連中の平和もな!』
「シン、どうして……あぐっ!」

 

 凹んだハッチをM1カスタムが踏み付け、メインモニターにヒビが入る。シートごと身
体が跳ね、後付けされたベルトが少女の身体に食い込んだ。

 

『ラクス様は皆を平和にしてくださるんだ! ラクス様に、ラクス様に従いさえすれば!』

 

 自分に言い聞かせるように、上ずった声で繰り返すシン。彼の狂った祈祷を、砲撃の爆音が遮った。
左肩から煙を吐くM1カスタムが、地面に叩き付けられて横転する。

 

「え、援護……?」

 

 サブモニターに、長銃身の砲を2門構えた四脚のMAが小さく映っていた。

 
 

『中尉! 敵部隊との交戦を開始しました! 先行したストライクダガーを援護します!』
「馬鹿か!? 今回MSは全て敵だ! 一端後退しろ! 奴らをおびき出す!」
『あ、そうでした! すみません、つい!』

 

 六脚型MAの機内で渋面をつくった地球連合軍の指揮官は、全部隊に回線を開いた。

 

「ケンタウリ隊は戦闘モードで散開! 俺達カラパスは密集隊形で他を援護! 上空の
レイザーバックはしばらく防御に徹して、俺の指示を待て! とにかく、敵を引き寄せろ!」
『敵、来ます! ザフト系が7機、オーブ系が4機! 3機が飛行型です!』
「お出迎えだ! バリアを過信するなよ! 射角を意識して戦え!」

 

 レーダーに映った光点の数は部下の報告と一致していた。四脚MA達のスカートが割れ、
競り上がってアーマージャケットに変形する。二つの上半身を緑色の薄膜が覆い、消えた。
光波防御帯に似た光だったが、輝きが弱々しい。ドライバーとガンナーが計器を調整する。
 峡谷を飛び出したMS隊は、50メートルの巨体が寄せ集まる様を見てもたじろぐ事は無い。
地球連合は数だけ多いのだ。大勢で群れる烏合の衆である筈なのだ。ザクがビーム突
撃銃を連射し、グフが速射ビームを叩きつけた。緑の薄膜を突き破ったそれらが、六脚
MAの装甲表面で霧散する。別のグフが、エネルギーを送って赤く変色したスレイヤー
ウィップで四脚MAの腕部を絡め取ろうとするが、身を翻され装甲表面に浅い掻き傷をつ
ける。その横合いからビームを連射され、左手のシールドを吹き飛ばされた。
 別の四脚MAが、向かい合わせの上体に構えたビームライフルに残光を灯す。

 

「マルチロック完了しました、中尉!」
「パターンBで斉射3秒! 全機、蹴散らせ!」

 

 六脚MAの全身に搭載された機銃とビーム砲が火を吹き、四脚MAが敵部隊に飛び込ん
で前後にライフルを撃ちつつ、後部コンテナから垂直式の連装ミサイルを打ち上げる。
ユークリッドを左右に繋げたような航空兵器の迎撃に向かった3機をも巻き込んだ、破滅
の嵐が峡谷に吹き荒れる。
 もうもうたる煙の中、カメラアイが幾つも瞬いた。分厚いスモークを引き千切り、異形
の集団が前進を始める。六脚の大型MAが4機、大出力のスラスターを吹かし崖上に
上った四脚MAが谷を挟んで5機ずつ、航空兵器が3機。ムラサメの右腕とディンの左足
が、進軍方向に落ちた。重装甲、高火力、大推力、そしてそれらの長所を最大に生かす為
の、圧倒的物量。

 

『……良い、景色ですね。中尉』
「図に乗るな。敵に本物が……本当のモビルスーツ乗りが混じっていれば、単機では勝て
ないと思え。俺達は今日、少なくとも戦いには勝つ。問題は……勝ち方だ」

 

 前進を続けるMA部隊の後方で、全長60メートル弱の巨人が動きを止めた。両脚の外側
が火花を上げ、ロック解除されたアンカーがレールを滑り降りて地面に深々と突き刺さる。
口元にビーム砲を備えたGAT系の頭部カメラが輝き、両肩と同化した巨砲がそそり立つ。
空と大地を揺るがす轟音。アンカーを撃ち込んだ地面に亀裂が入り、砂塵が舞い上がった。
光の尾が2筋、青空に美しい放物線を描いていく。

 
 

「う……」

 

 転倒した機体を起こしたシンは、レーダーに視線を走らせる。戦闘能力を殆ど失った
ストライクダガーも、やられた右腕を庇いつつ岩壁にもたれながら直立しつつあった。

 

「ビームが出ない?発生器が駄目になったのか」

 

 その声音に、先程の熱は感じられない。僅かに身を苛む吐き気に顔をしかめたシンが、
オンになりっ放しだった外部スピーカーを通じて呼びかける。

 

「連合と、手を組んだのか?コニール」
『シン! 大丈夫なのか……って、組めるわけないだろ馬鹿っ!』

 

 ついさっきまでと様子が違う事はスピーカー越しで解ったのか、コニールの怒りも大分
質が変わっていた。思考が混濁したまま、シンは左手の武装を切り替える。肩部のレール
ガンが展開し、砲身が脇を通る。マニピュレーターがグリップを掴むと、照準器が光った。

 

「なるほど。そ……」

 

 何か言いかけたシンだったが、背後で生まれた巨大な光に言葉を失う。先程まで自分が
いた基地本部と、その隣にある収容所が超高熱の火球の中で消えていく。MSすら揺らぐ
爆風が津波のように襲い掛かって、機体に片膝を突かせた。一撃で、拠点が消滅したのだ。

 

『あぁ……』

 

 コニールの声に涙が混じる。シンは絶句していた。メインモニターが光量を調節し、炎
の中で崩れていく建築物を映し出す。

 

『シン! ……えるか、聞こえ……か、シン!』
「ヴィーノ! ヴィーノか!? 無事か! どうなってるんだよ!」
『滅茶苦茶だ! 防衛部隊はほぼ全滅! 本部も今無くなっちまった! 敵の大部隊がこっ
ちに向かってくるぞ! 幸いMSキャリアは動く! さっさと逃げないと!』
「了解! こっちで格納庫のシャッターを開ける!」
『いや、大丈夫だ! 怖いゲリラ兵のオッサン達が手伝ってくれてる!』

 

 シンは、コニールの機体を見遣る。岩壁にもたれたストライクダガーに呼びかけた。

 

「コニール! 俺のすぐ後ろに格納庫が見える筈だ! そこへ行け! 脱出するんだ!」
『冗談じゃない! 誰がお前の言う事なんて聞くか! イカレ信者!』
「コニールの仲間もいる! ここで無意味に死ぬのが望みかよ!?」

 

 機体越しに睨み合う両者。ややあって、ストライクダガーが崖から離れる。バランサー
が故障し、右足を引きずるようにしてシンのM1カスタムの横を通り過ぎた。

 

「ヴィーノ! 発進準備を進めてくれ! 俺も……」

 

 そこまで言い終えた時だった。上方からビームが降り注ぎ、崖に機体の背を押し付ける。
地響きを上げ、格納庫前に降り立ったのは四脚の下肢と、背中を預け合った2つの上半身
を持つ怪物。横殴りの砂塵を浴び、機体上部を覆う薄緑色の光膜が浮かび上がる。

 

「いや……俺は、こいつを何とかする!」

 

 中波したストライクダガーへ2つの頭を巡らせるMAに対し、シンはトリガーを引いた。

 
 

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