SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_SEEDDtheUntold_第06話

Last-modified: 2009-02-07 (土) 17:24:32

「カーペンタリアでは既に我が軍による基地建設が始まっており、
 ジブラルタルも間もなく敵残党の殲滅を完了する予定です。
 しかし例の海底基地ですが、正確なポジションがまだ解っていません。
 そしておよそ70分前、ガルナハンに展開していたオーブ、ザフト混成部隊を排除し、
 一帯を制圧したという報告が入りました」

 

 天井の照明を落とした会議室に、若い男の声が響き渡る。
円卓に腰掛けた地球連合軍の将官達が、中央に投影された三次元スクリーンを見つめている。
赤く記された点が消滅し、青い光へと変わった。
半透明の地球儀上に表示されている幾つもの白い矢印は、地球連合軍の部隊を意味していた。

 

「宇宙は……アメノミハシラは、どうなっておるかな」
「作戦行動中の部隊とは連絡が取りにくいもので……あ、失礼」
 白髪の老人の言葉に返答しかけた青年将校が、左腕に取り付けた小型端末に視線を落とす。
キーを幾つか叩いて、小型モニターに幾つかの画像を呼び出した。
「最新情報によりますと、核ミサイル3発をアメノミハシラに全弾命中させ、完全に機能を
 喪失させたとの事です。が、残骸を調査したところ、1機のMSも1隻の船舶も無いとか」
「つまりロンド=ミナ=サハク代表達は逃げた、と」
「その可能性は大であると、レポートにはあります。しかも戦力として使える物が悉く無いという事は
 すなわち、24時間以上前に作戦を察知していたのではないかと……所見に」
「やっぱり、化かし合いじゃあ敵わんかのう……」
「元帥、なにを弱気な。とにかくこれで準備が整ったではありませんか」
 グリーンティを啜る老人に自分のクッキーを差し出しつつ、会議室内では比較的若手に
位置する中年の男が席を立った。右手の指をゆっくりと折り曲げて拳を作る。
「地球連合に、大西洋連邦に多大な損害を与えた者達に対し、ツケを払わせてやる時が来た。
 無法者どもを教育してやるのです。我々にはその資格と力がある。
 民意も我々を支持しています。今こそ連合は、プレジデントという指導者の下で一体となり……」
「会議室は貸しスタジオではないよ、中将。仕事が終わったらカラオケにでも行きたまえ」
 別の人間が飛ばした野次に、室内で笑いが起きる。 中断させられた本人も頭を掻いて着席した。
ただひとり笑みを浮かべない白髪の老人が、湯のみから顔を上げる。
「国民の大半は武力攻撃を支持しておる。
 プレジデントもまた、容赦なき再征服を断行せよと指示を下された。
 無警告、無通知で始められる攻撃は、さながら内乱の鎮圧か」
「何かご不満な点が? 私には、事態の正常化としか思えませんが」
 横合いから問われ、老人は湯気を立てる茶の水面に息を吹きつけた。
「我々はこれより、地球圏の敵を一掃する。地球圏は地球連合というひとつの意思により、
 再び統合される。しかし、それは正常化を意味しない。何かが変わるのだ……間違いなく」

 
 
 

「ヴィーノ、何であいつらは俺達を追撃しなかったんだろうな」
「連合軍の話か?」
 MSキャリアの格納庫には、シンのM1カスタムがメンテナンスベッドに寝かされていた。
両側の壁が棚状に開き、オーブとザフトのMS用携行兵装が並んでいるのが見える。
遠隔操作パネルでロボットを操り、機体の各部を修理させているヴィーノは、そこで顔を上げた。
MSのあちこちで上がる青白い火花を眺めていたシンは、彼と目を合わせないまま言葉を続ける。
「たかがキャリア1機とMS1機だし、追いかけてきたって不思議じゃない。
 何であんな簡単に諦めたんだ。別働部隊を疑ったのか、自分達の強さを教えたかったとか?」
「メカしか詳しくない俺に聞いたって仕方ないと思うんだけど……そうだなあ。
 あのMA、実は息切れが早いのかもしれない。継戦能力に不安ありってやつさ」
 モニターを一度切ったヴィーノが、席を立ってスポーツドリンクのボトルを手に取る。
「MSを歩兵と考えれば、連合軍のMAは攻撃ヘリとか攻撃機みたいなものなのかもな。
 まともに戦えば、相手の作戦通りにかち合えば歩兵側の勝ち目は殆ど無いだろ?」
「じゃ……さっきは歩兵1人で攻撃ヘリに勝ったってことか?」
「みたいなもの、って言ったろ。それほど絶望的じゃなかったよ。
 とにかく、きっと連中は予定外の戦闘とか行軍が大の苦手なんだ。
 さっき俺達を見逃したのも、後続を待ちたかったのかも知れない。
 詳しい情報が欲しいな。馬野郎と甲殻類と飛行船もどきってだけじゃあ、対策も立てられない」
 ヴィーノに頷いたシンは、頷いたまま視線を下に向けた。

 

MSパイロットとしての自分には少なからず自信があった。重装甲、高火力のMAと戦い倒した事もある。
しかし、そういう敵に寄ってたかって襲われた事はない。
量産されたデストロイは異常なほど貧弱だったし、他のMAもそれほど戦法がしっかりしていなかった。
 軽く両の頬を叩く。これまでに戦った事のない相手なのだ。
敵MSの群れ相手に奮闘していた過去の自分は忘れねばならないと、シンは感じていた。
「……左手の武器はディンの散弾銃にしてくれ。できれば銃身を切り詰めるか何かして、
 取り回しを良くして欲しい。射撃型のビーム兵器はやめよう。
 スラスターにエネルギーを回す事が多くなりそうだ。代わりに、レールガンを右手に持たせられるか?
 ソードは左肩に移して、ショットガンと使い分ける」
「面倒な事を言い出すなあ……腕に重量が掛かるから、右肩には何も積めないぞ」
 身を捩りすぐ傍のコンソールに触れ、機体データを呼び出して試算を始めるヴィーノ。
「構わない。今回は対MA用の実験装備のつもりだから。
 奴らには単に弾をばら撒いても効果はないだろ。狙った所に威力の高い一撃を叩き込まないと……」

 

2人の後ろにあるドアがスライドし、コニールの仲間であるゲリラ兵が血相を変えてやってきた。
アサルトライフルのスリングベルトを握り締め、シンに詰め寄る。
「俺達を降ろさないってのは、本当か!」
「連合軍が予想以上にあちこち手を伸ばしてる。
 今アンタ達を降ろせば、間違いなく見つかって殺されるだろう。
 とにかくオーブまで戻って、難民って事でカガリ様に……」
「だが! お前らの軍隊は、連合に蹴散らされただろう! オーブだって危ないんじゃないのか!?」
 男の言葉に、シンもヴィーノも即答できなかった。
今の連合軍に攻められて、果たしてオーブは保つのだろうか。

 

シンが眉間に皺を寄せる。こんな時、何と言えば良いのだろう。
『シン=アスカが敬愛する』ラクスとキラなら、どう行動するのだろう。

 

 ややあって、シンは男に頷いてみせた。ライフルを提げていない方の肩に手を置く。
「ガルナハンよりは安全だ。俺が保証する。俺が……アンタ達の安全に、責任を持つ」
「馬鹿言え! そんな出来もしない事を」
「信じろ! ……あのMAと戦って勝った俺を、信じろ。
 確かにオーブに行っても全部解決する訳じゃない。地球連合は何の声明も出してない。
 何を考えているのかさえ解らない!とにかく俺達は生き延びた! なんでだ? 俺が勝ったからだろう!」
 シンは男を睨み返し、歯を食い縛る。
実際、シン1人で勝ったわけではない。傷の癒えたコニールがそう言いふらせばまずい事になる。
だが、問題は今なのだ。

 

やがて男の方が目を逸らし、肩を落とした。
「その通りだ……認めたくないが、連合の機体とまともに戦えてたのはお前だけだよ。
 俺は皆の代表として来たんだ。仲間にも今の事を伝える。……邪魔したな」
 背を向けて立ち去る男の姿が消えると、シンは近くの機材にもたれかかって目を閉じる。
言い切ってしまった。16歳の少年は、自分の意思で自分以外の命を背負ってしまったのだ。

 
 

 明け方の海。水平線の向こうが薄っすらと白み、暗闇の世界が終わりを告げる。
無数の航跡を残し、夥しい数の艦船が海上を進んでいた。
四脚と六脚の機動兵器を搭載したMA母艦群が互いの識別灯を瞬かせる。
MSの倍以上ある巨人が2機、隊列を組む専用輸送船のカーゴスペースで蹲っている。
ラグビーボール状のボディを2つ横に繋げた航空兵器が、空母の甲板に並べられている。
それらは艦隊の外周に配置され、更にその周囲をダニロフ級イージス艦が固める。
 艦隊中核にはスローターダガーを多数搭載したスペングラー級改修揚陸艦隊があった。
大艦隊であるが、目立つ旗艦はない。灰色の群は互いに身を寄せ合い、
まだ見えぬ目標に向けて粛々と進んでいく。

 

 オーブ連合首長国史上、最後の武力衝突開始まで、5時間を切った。

 
 

<次回予告>
 何もかもが突然だったのか、来るべきものがやって来たのか。明日が、迫る。

 
 

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