SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第06話分岐

Last-modified: 2009-05-01 (金) 21:39:03

月での戦いからすでに3年の月日が経っていた。
それ以降大きな戦争こそおきていないが、反面で治安は悪化の一途をたどり
経済も不況を脱する事が出来ずにいた。
貧困が世界を多い、地方では疫病や餓死者が毎年のように出ていた。
これには様々な要因が絡んでおり、一カ国で解決できるような問題ではない。

 

そんな中、各国を悩ませていた脱走兵や一部の心無いジャンク屋により無秩序にばら撒かれた
兵器について話し合う、首脳レベルの国際会議がカイロで開かれる事になった。
拡散兵器回収会議と銘うたれたのこの国際会議は、ほとんどの国の代表は各国の回収プログラム
(軍事行動含む)のスケジュール調整と、ジャンク屋ギルドに対して兵器売買の中止を求める内容を
採択するものだと考えていた。
そして、そのように事前調整を行っていた。

 

だが、一人だけ違う考えの者がいた。
プラント代表のラクス・クラインである。

 

ラクス・クラインは会議冒頭にまず、平和の祈りや夢見た世界などと、常人には今一理解しかねる
長々しい前振りを交えながら、各国が兵器の破棄と軍隊の解散を行った上で軍事権を
“歌姫の騎士団”に全権委託する“軍事委託制度”を提唱する。

 

その発言に、当初各国の代表は固まってしまっていた。
当初は皆冗談だと思ったのだ。
実際、大西洋連邦大統領のジョージは演説終了後にラクスにこう言った。

 

「ナイスジョークだよ、お嬢さん。これで皆の肩の力が抜けたよ。
 今度のプラント代表はジョークも話せるみたいだね」

 

いかにもアメリカ人らしいオーバーアクションとにこやかな笑みを浮かべそう親しげに語りかける大統領に、
ラクス・クラインはすまし顔でこう答えた。

 

「あら、ジョークではありませんわ。
 此処にお集まりの皆は、皆が持つ悪しき力を消し去る為の話し合いではないのですか?」

 

まぁ、この後にも長々と話は続くのだが、要約すれば各国が兵器など持つから争いが生まれるのであって、
それなら兵器を奪い信頼出来る者が管理すればいい。それは自分が一番だ……というのだ。

 

この言葉に、今度こそ各国代表は凍りついた。

 

目の前の、親子どころか祖父と孫ほど年の離れているこのプラント代表が何を言っているのか、
正気なのか、まったく理解できないでいたのだ。

 

そもそも、自分たちがどれだけ信頼されていると思っているのか!?
プラントを理事国から強奪し、未遂を含めれば3度の人類滅亡クラスの大災害を引き起こしたのは
どこだと思っているのだと?

 

この、ラクス・クラインの狂気とも取れる発言に、最初に噛み付いたのは
意外にもプラントの傀儡と思われていたオーブ代表のカガリ・ユラ・アスハであった。

 

「何を考えているんだ、クライン議長は!! そのような暴挙が認められるかっ!!」

 

カガリはこの提案がどれだけ無茶であり、各国が受け入れる事ができない物か理解していた。
いや、2年間の代表生活で理解できるようになっていたのだ。
精神的にアスランと決別したカガリは、2年間で首長として大きく成長していたのだ。
セイランを疎んじ、失ったのがどれだけ痛手で愚かだったか判るほどに……。

 

このカガリの一喝で各国代表も自分を取り戻し、ラクス・クラインの提案の無茶さを次々に非難、
以降は議題に上ることも無く一週間の会議は終了した。
この一喝により未だ年若く未熟なれど獅子の娘の片鱗ありとカガリは国際社会で高い評価を得て、
ラクスは逆にザフトの狂気は未だ健在と各国に警戒をさせる事になる。

 
 

だが、前者はともかく後者は遅すぎた。

 
 

会議が終了したその瞬間、それは起こった。

 

会場となっていたホテルが突如降下してきたフリーダムタイプのMSにより制圧され、
各国代表が拉致される事態となる。
それと同時に、各国の主要軍事基地及びオーブにも同様のフリーダムタイプのMSが降下、
制圧ないし破壊を開始する。
一体どこでこれだけの数のMSを作り、人員をどうしたのかと聞きたくなるような数のMSであった。
ある基地の通信記録では『空が1、フリーダムが9です!』との悲鳴が残されているほどだった。
後に、このMSはドラグーンシステムを流用した無人MS、ドラグーンフリーダムである事が判明する。

 

とにかく、世界の主要基地に同時奇襲という今まで誰一人として考えつきもしなかった、
そして実行など出来もしなかったプラントの暴挙により、各国は組織的な抵抗活動能力を
一時的にではあるが失ってしまう。
この事をラクスに最初に詰め寄ったのは、やはりカガリ・ユラ・アスハだったという。
激昂するカガリに、ラクスは悲しそうな表情でこう答えた。

 

「皆様が私の話をよく聞いてくれていれば、このような事はしたくは無かったのですが」
「したくないならするんじゃない! お前やキラは何がしたいんだっ!」
「決まってますわ」

 

そう言うと、ラクス・クラインハ花のような笑顔で、あるいは決意の表情でこう言った。

 

「世界に永久の平和を……」

 
 
 

「で、その話と俺の何の関係があるんですか? 月のくず鉄屋の親父に過ぎない俺と」

 

今更聞くまでも無いアスラン・ザラの世界情勢の説明に、男は取り付く島も無い様子で答える。
その言葉に激昂するでもなく、不気味なほど無表情でアスランは頼みを口にする。

 

「アーモリー1に、ドラグーンフリーダムの中枢ユニットが存在する。
 それを破壊するのに協力して欲しい」
「はん、そう言って、土壇場になってキラ・ヤマトが出てきたら俺を撃つんですか?」

 

男の挑発とも取れる悪態であったが、アスランはそれに反応する事も無く淡々と答える。

 

「アーモリー1に対してはネオザフトの全艦隊を囮にし、
 守りの薄い方角から最速のアグライア単艦で特攻をかける」
「アグライアって、おい、あんた何を言っているんだ!」
「出来うる限り接近した後、ルナマリアのインパルスと、俺のロストジャスティスでコロニー内に侵入し、
 中枢ユニットを破壊する」
「無茶だ! だいたい、今はプラント周辺はドラグーンフリーダムがうようよいるんだぞ! 
 近づく前に沈められちまう!」

 

かつての同僚達が乗る戦艦の名前に、あまりにも無謀な作戦ともいえない特攻に、男は声を荒げる。
だが、アスランはその男の声も無視する。

 

「出来ればあと一枚カードが欲しい、シン、お前に参加を命令する」
「なっ! 俺にはあんたの命令を聞く理由はない!」

 

アスランは常に無茶で理不尽を言う男であったが、此処まで理不尽な事は珍しい。
さすがに疑問に思った男は、鋭い目でアスランを睨みつけた。

 

「もう一度言うぞ、俺にはあんたの命令を聞く義理は無い」
「そうだろうな。だが、お前には参加しなければならない訳がある」
「どういう意味だ?」

 

シンの言葉に、アスランはぞっとするほど冷たい目で、呟くように応えた。

 
 

「レイとステラ、それにマユ・アスカがあそこでお前を待っているからだ」
「なっ!」

 
 
 

「どうしたの?」

 

結局の所、言いたい事だけを言うとアスランとロウは帰っていった。
明日、桟橋にMSを持ってくるようにとだ。
そして二人が帰った後、一人応接室のソファに固まったままの男に、婦人は優しく語りかけた。
無論、隣りの部屋にいた婦人にも話は聞こえていたし、
確信こそ無いが彼女にとっても無関係な話では無かった。

 

「お、俺は……」

 

だが、婦人に話し掛けられても、男は呆然としたままだった。
無理もない、婦人も先ほどまで余りの恐怖に動けないでいたのだ。

 

「行きたいんでしょ」
「う、うん」

 

婦人は男のどこか上の空の返事に、そっと抱きしめる事で応えた。
柔らかい女性の感触に、男の中の恐怖が少しずつ薄れていく。
現金なものだと思うが、それが男の本能なのかもしれない。

 

「行ってらっしゃい、シン。そして、絶対に此処に帰ってきてね」

 

頬に感じる、水の感触を、男はあえて気が付かない不利をした。

 

気が付けば、未練になるから。

 
 

それが、婦人と男の別れであった。