SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第13話分岐

Last-modified: 2009-09-15 (火) 02:30:38

 デブリ帯での最終決戦より少し前、月では2つの艦隊が出撃の準備をしつつあった。
 放棄されたレクイエムを拠点に、本部より離脱したジャンク屋達が
 放置されていたザフトや連合の戦艦を修理していたのだ。

 

「結局、艤装が間に合ったのはミネルバJrと連合系とザフト系のそれぞれ1隻だけか」
「それでもないよりはマシですよ、アスランさん」
 上がってきた報告書を前に、ネオザフト総帥アスラン・ザラはぼやき声を上げる。

 そんなアスランにメイリンは濃いコーヒーを出しながら慰めの声をかけた。
 アーモリー1突入作戦が失敗した後、なんとかザフトの追撃を振り切り姿を隠したアスランは、

 突入前に手配しておいたこの地に身を隠し再起の時を伺っていた。

 

「ヤキンの時は3隻で突入したんでしょう」
「あの時とは状況が違うよ。そもそもだ、今になって振り返れば連合の上前を撥ねていたようなものだ」
 そもそもあの時とは違い圧倒的な戦力を持つ相手に突入しなければならないのだ。

 連合、ザフトの両軍が総力をかけて激突していた戦場にちょっかいをかけるのとは訳が違う。
 正直に言えば今度の作戦も自殺志願と大差がないのだ。

 

「アーモリー1の生き残りは9隻。それも殆どは後方に控えていた補給艦ばかりか……」
「やっぱり補給艦は後続とするしかありませんね」
「まあ、ミネルバJrの船足についてこれないだろうしな。
 後の事もある、むしろそっちに護衛についてもらうべきか……」
「戦力としてあてに出来ないと?」
「はっきりと言えばそうなる」

 

 ネオザフトの、あるいはそれ以外の抵抗勢力の戦力的に考えて、次の戦いが最後の戦いだろう。
 これに負ければ、もはやラクス・クラインの野望を止める術はない。
 出し惜しみしている余裕などないが、半面でネオザフト総帥としてみれば後の事を考えればならない。

 戦後を考えれば後続艦隊に護衛をつけないわけには行かない。正直悩みどころだ。
 何とかならないかとアスランが再び悩みだしてしばらくすると、一人の女性がアスランの元を訪れた。

 

「アスランさん、ロミナ・アマルフィさんがお見えになられたそうです」
「そうか、通してくれ」
 正直にいえば会うのは気が重い。だからと言って、避けては通れない道だ。

 

 しばらくすると、アスランの執務室に婦人がやってきた。

 

「お久しぶりです。ロミナさん」
「久しぶりですね、アスランさん」

 

 旧知の人物に対する挨拶のはずなのに、婦人の目は決して友好的な人物を見る目ではなかった。
 無理もない。自分は、自分達はそれだけの苦しみを彼女に与えてきたのだ。
 そしてそれをわかっていながら、自分はさらに彼女を茨の道に突き落とさなければならないのだ。         
 決して天国には行けないだろう。アスランは表情には出さず内心だけで自嘲する。

 

「私のお話を考えていただけたでしょうか」
「後続の救助艦隊の指揮をしろと言うお話ですか?」
「はい、難しいところはすべて別の者がやる手筈になっています。
 貴方にはネオザフトの新たな象徴となって欲しいんです」
「御輿になれと?」

 

 戦後の象徴に自分はなれない。 他のプラント議員も似たり寄ったりだ。
 2度の戦争の責任に、コーディネータ至上主義の蔓延。
 さらに何処にクライン派が潜んでいるかもわからない以上、
 下手な人物を据えて戦後復興の邪魔をされるわけにはいかない。
 彼女には伝えて無いがアスラン・ザラ最後の命令として、
 クライン派の大粛清を行なう手筈も既に整えてある。
 自分はまさしく血塗られたザラの名を次ぐ者であり、元はラクス・クラインの協力者なのだ。

 

 それ以外にだって、アスランには表舞台に立ってはいけない理由がある。

 

 一方でロミナは評議会議員の妻として、かつて政治の舞台に携わってきた人物である。
 そして戦争で家族を失い、ラクス・クライン一派に命を狙われた悲劇のヒロインとなる。
 ラクス・クライン亡き後、御輿としては使い易い存在なのだ。
 虫の良い話だ。普通なら絶対に引き受けないだろう。
 だが、その様な事はアスランも承知している。

 

「ずるい大人になりましたね、アスラン君。いえザラ総帥、お父様にそっくりですよ」
 彼女には知る限りの“真実”を話してある。
 そして全てを知ってしまった以上は、聡明な彼女は逃げられないだろう。
 既に彼女の逃げ道は全て塞いであるのだ。

 

「ずるくなければ生き残れませんでしたから」
 責めるような口調の彼女に、アスランはもう一度だけ内心で自嘲した。
 自分が行く先は地獄だろうと。

 
 
 
 

「アレのどこが世界のために必要なんだ。
 何度死んでも生き返る奴にどんな覚悟があるって言うんだ。言ってみろ!」
 アスラン・ザラの言葉に、アスラン・ザラは怒りを滲ませながら
 ロストジャスティスのビームサーベルを振るった。

 

「そ、そんな……、お前は何なんだ!!」
 一方のアスラン・ザラは突然現れた自分と同じ存在に動揺しながらも、
 インフィニットジャスティスのビームシールドで攻撃を受け流した。

 

「決まってる、お前を殺す者だ」
「ふ、ふざけるなっ!!」

 

 高機動の格闘を得意とする機体特有の高速でのぶつかり合いを繰り返しながら、
 二人は攻撃と怒声をぶつけ合う。
 同じ人物二人が戦うなどと悪夢じみた光景に、さすがのシンも唖然としていた。
 そんなシンの事情などお構い無しに状況は進んでいく。ザフトの増援がこの宙域に到着したのだ。

 

「シン! 何をぼおっとしているのよ!」
 一方で同じ宙域にミネルバ級改造艦ミネルバJrを旗艦としたネオザフト艦隊も到着する。
 ミネルバとガーディ・ルーのパッチワーク戦艦から、コアスプレンダーが若い女性の怒声と共に出撃する。
「って、ルナ! お前無事だったのか!?」
「無事じゃ無い方が良いみたいな言い方をしないでよ! メイリン、やっぱブラストでお願い!」
「了解、お姉ちゃん……、カタパルトエンゲージ……、シェルエットフライヤー射出、どうぞ!」
 メイリンの誘導に従いミネルバJrよりブラストシェルエットが飛び立つ。
 さらにレッグフライヤーとチェストフライヤーも出撃し、ブラストインパルスへとその姿を変えた。

 

「シン、ギリギリで撃つからちゃんと避けてよ!」
「まて、ルナ! これは俺だ!」
「って、ルナ! お前何を考えて! うわわわわっ!!」
 シンやレイの抗議もなんのその、ルナマリアの乗るブラストインパルスは
 二人のすぐ傍をかすめるようにケルベロスを発射した。
 二人が慌てて回避しなければ、当たっていたかもしれない。
 まぁ、ルナマリアも絶対に当たらないと信じて撃ったのだろうが非常識だ。
 もっとも、その非常識な砲撃は非常に効果的だったようで、
 接近していたドムトルーパーとドラグーンフリーダムをまとめて数機薙ぎ払った。
「お姉ちゃん! 無茶しないでっ!」
「多少は無茶しないと、仕方ないでしょう」
 もっとも、それでオペレーターの妹に叱られていてはどうしようもない。
 相変わらずのルナマリアにシンが頭痛を感じ始めていると、
 当の姉妹は死人であったはずのレイと普通に挨拶を交わしていた。

 

「ルナマリア、相変わらずだな。メイリン、身体は大丈夫か?」
「あ、レイ。久しぶり」
「うん、ありがとう」
「気にするな。当然の事をしたまでだ」

 

 その様子に、ますます頭痛を感じるシンであった。
 なんだって、あの姉妹は死人であるはずのレイとの再会に動揺しない。
 まるで事前に知っていたようで……。
 大体、メイリンは先ほどまでエターナルにいたはずなのに何時の間にミネルバに……

 

  ……いたはず?

 

「メイリン? お前なんで……」

 

 そういえば偽りの人格がエターナルを出撃した時、そこに“メイリン”がいた。

 

 夢の世界でシンは確かに“アスラン”と“メイリン”と会っていた。

 
 

 『どうしても撃つというなら、メイリンだけでも降ろさせろ! 彼女は!』
  『シン!!』
   『あんたが悪いんだ……。あんたが、あんたが裏切るからぁ!!』
     そして、グフは嵐の海中に消えていった……。 

 
 

 そしてシンの脳裏に浮かんだ推測を裏付けるかの様に、
 二人のアスランの怒声が通信機越しに伝わってくる。

 

「この、偽者がっ!!」
「そうだ、それがどうしたっ!! 少なくとも貴様よりはマシだっ!!」

 

 そう、連中はクローンを作る技術を。同じ人間を何人も作る技術を持っている。
 なぜ、なぜ自分はそんな事を失念していたのだろう。すぐに気がついてよかったはずなのに……。

 

 あの時既にアスランとメイリンは……。

 

『シン!』
 動揺しかけていたシンの元に、アスランからの通信が入る。

 

「あ、アスラン?」
『今は何も考えるな! 後悔なら後にしろ! 今やるべき事はそんな事じゃないはずだ!』

 

 もう一人の自分との決戦中に自分の動揺を察し、わざわざ通信を回したと言うのか?
 そんな、最も自分に言いたい事があるのはアスランだろうに……。
 ミネルバにいた頃は隊長らしい事なんて何一つ出来なかったくせに、今になってするんじゃないよ……。

 

「りょ……、了解!」
 シンは涙を拭い、再び前を向いた。

 

 そう、今は後悔をする時ではない。
 ラクス・クラインの野望を阻止する為に、全ての力を向ける時なのだ。

 
 
 

 戦いは常に圧倒的戦力を持つザフト軍……いや、ラクス・クラインが有利に進めていた。
 しかし、ここにきて状況が一変する。
 この時実に4割近いドラグーンフリーダムがザフトの制御を離れ暴走しただけではなく、
 プラントを始め各所のラクス・クラインの支配下の施設や艦船で
 様々なコンピューター障害が発生していた。
 さらに、たった3隻とはいえ突如戦場に出現したネオザフト艦隊と、
 月から上がってくる所属不明の艦隊への対処にラクス軍は忙殺される事になる。
 結果、虫の息だった連合ザフトの残存艦隊は息を吹き返すことになり、
 プレッシャーを跳ね除けることに成功したミハシラやアルテミスからも残存艦隊が出撃し、
 パワーバランスは短時間のうちに完全に逆転していた。

 

 カイロでのラクス・クラインの地球圏同時占拠から約9ヶ月。
 この時ラクス・クラインの天下は終焉を迎えようとしていた。

 

「シン、それにザラ総帥。聞こえるかいっ!?」
 無数のドラグーンフリーダムに囲まれたミネルバJrからアーサーがシン達に連絡を取る。
 ジャンク屋が大気圏内の航行能力を捨てる代わりに、
 過剰ともいえる程火力と防御力を増強したミネルバJrだからまだ耐えていられる。
 ミネルバだったら既に撃沈させられているところだ。

 

「ああ、聞こている」
「こちらも聞こえている」
 応えたシンやアスランも無数のドラグーンフリーダムに囲まれている。
 特に最大戦力と目されているのがファイナルデスティニーだ。
 突撃してくるドラグーンフリーダムの数も半端ではない。
 一方で、インフィニットジャスティスにのったアスランは乱戦のどさくさに
 いつの間にかどこかに行ってしまった。
 無論、ラクス・クラインの制御を離れたドラグーンフリーダムもこの戦場に集結しつつあるのだが、
 それでも数の差だけはいかんともしがたい。
 今だ艦艇の脱落こそないのが奇跡のようだった。
 そしてその奇跡に何時までもすがっているわけには行かない。

 

「このまま戦えばジリ貧だ。
 相手が何時ドラグーンフリーダムの制御を取り返すか分からない以上ゆっくりは出来ない。
 いいかい、これから本艦は突貫、進めるところまで進んでタンホイザーで敵のど真ん中に風穴を開ける。
 君達はそこを通って敵本陣に突入してくれ。
 目視できるところまで行けば、デスティニーやロストジャスティスに追いつける機体は存在しない」
「ちょ、ちょっとまってくれ。それじゃあミネルバはどうなる!」
 アーサーの無茶な作戦にシンが抗議の声を上げる。
 今だって、ギリギリの防戦なのだ。ここで最強の2機が抜ければどうなると言うのだ。
 そんなシンを、アーサーは穏やかな彼らしくない怒声を上げて一喝した。
「甘ったれるな!! この戦いはコーディネーターだけではない。全人類の未来が懸かっているんだ!!
 我々は今までに倒れて逝った者、そしてこれから倒れるだろう者の意思を引き継ぎ、
 是が非でもラクス・クラインを倒さなければならないんだ!
 もはや我々には自分の命以外に賭けるチップはない。
 シン、君も分かっているだろう。我々は屍を踏み台にしてでも進まなければならないんだ!」
「副長……」
「なあに、安心してくれ。本当に拙そうだったらさっさと逃げるよ」
 そしてアーサーは最後に一言だけおどける。

 

 そう、分かってはいるのだ。自分がやらなければならないことなど。
 その為に、皆ここに来たのだ……。

 

「了解……」
「艦長。すまん」
「なあに、心配しないでください。僕は悪運だけは強いんですよ」

 

 そして、アーサーの宣言通り、ミネルバJrは単艦で敵陣に突貫して行く。
 そこにドラグーンフリーダムが次々に群がる。インパルスや味方のドラグーンフリーダムが
 必死に援護に当たるが、それでも各部でミネルバJrは小爆発を起す。
 護衛に回った味方機が次々に脱落してゆく。
 そして……。

 

「キラやラクスの元に行かせるかぁっ!!」
「艦長! インフィニットジャスティスです! 天頂方向から来ます!」
「くそ、拙い!!」
 突如、いつの間にかいなくなっていたインフィニットジャスティスが天頂方向より
 ミネルバJrに急接近をしていた。
 インフィニットジャスティスは十分な加速をとると、ファトゥム-00を切り離す。
「迎撃!」
「ダメです、間に合いません!!」
 アーサーが迎撃を指示するも、間に合わないとアビーが悲鳴を上げる。

 

「させるかぁ!!」
 その射線上にアスランのロストジャスティスが割り込む。
 ファトゥム-00とロストジャスティスが衝突する。
「この程度で、俺が落ちるかぁぁぁぁぁぁ!!」
 アスランが力の限り叫びを上げる。
 ファトゥム-00がロストジャスティスの左腕をごっそりと抉り取ると同時に、
 ロストジャスティスがファトゥム-00の推進部に致命的なダメージを与える。

 

「邪魔をするなぁ!!」
 大ダメージを負ったロストジャスティスに、インフィニットジャスティスが
 ビームサーベルを振り上げ追撃に入る。
「ここは通さない!!」
 一方で、右腕となったロストジャスティスも負けじとビームサーベルを突き出す。
 真紅の機体が交差し……。

 

「タンホイザー、撃てぇっ!!」
 アーサーの号令に、ミネルバJrの艦首特装砲が唸りを上げる。
 一筋の光がドラグーンフリーダムの群れを薙ぎ払った。

 

「行けえ!! シン!!」
「飛べえ! シン!!」
 男達の叫びがシンの元に届く

 

『お兄ちゃん!!』
「行くぞ、マユ。VL最大稼動だ!」
 その声に、シンは後ろをふりむかずに飛び立つ。

 

 その頬に一筋の涙が流れていた事に、マユはあえて気付かぬ振りをした。 

 
 
 

『過保護だね、アスラン』
『うるさい。余計なおしゃべりをしている場合か!』
 ネットワークの片隅で、アーモリー1にアタックしてくるプログラムを処理しながら
 キラはアスランをからかう様に話しかけた。

 

『その忙しいさなかに、わざわざ外に話しかけたんだから』
『元々俺の迷いが彼らの悲劇を生んだんだ。最低限のフォローをしただけだ』 
 そう言うと、一人目のアスランは作業に没頭する。
 そんなアスランにキラは苦笑を浮かべると、自身も作業に戻ろうとした、その時だった。

 

『キラ、見つかりましたよ!』
 キラやアスランとは別の作業をしていたニコルが、見つけ出したデータを持ってくる。

 

『でかしたぞ、ニコル!』
『それで、彼らは何処に!?』
『それが……』

 

 喜ぶキラとアスランに、ニコルは言い難そうにしながらもデータを開示する。
 そこにはカガリ・ユラ・アスハをはじめとした各国の代表者の……
 そう、カイロでラクス・クラインに誘拐された人々のデータがあった。
 そして、彼らの最新の所在地は、全員こうなっていた。

 

【エターナルに乗船】