SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第03話

Last-modified: 2008-11-03 (月) 23:28:12

「何だと!」

 

イケヤは、いや、そこにいた全員が叫ばずにはいられなかった。

 

だがそんな反応は意に介さず、ミナはコックピットからアマツの手を引き抜き、残骸と化したグフを海へと投げ捨てる。

 

「三小隊! グフを確保しろ!」

 

先程の戦闘で海面に着水した小隊に残骸の回収を命じると、MSへと変形し、滞空する。
なにしろ相手はあの鬼神シン・アスカ、実際に確認しなければ安心できない。
それに証拠が無ければ上も納得しないだろう。
だがその前にイケヤにはやるべき事があった。

 

「こちらオーブ軍特別派遣部隊指揮官イケヤ三佐、ロンド・ミナ・サハク様とお見受けいたします、一体何のおつもりですか?

 

全周波通信を使い、なるべく感情を抑えた声でイケヤは告げた。

 

「私はただ、我が道を遮った下郎を斬っただけだが?」

 

通信画面の向こうで黒い長髪の女性が、何を言っているのか、と首を傾げる。

 

「惚けられるおつもりですか、ならば! 共に来ていただきます!」

 

生き残ったムラサメ隊7機が、アマツを円周状に取り囲む。

 

「ほぅ、私に刃を向けるとは……覚悟はしているのだな?」

 

絶体絶命の危機にもかかわらず、ひどく楽しそうにミナは笑う。

 

「今更、それを聞かれますか!」

 

ミナに返答するかのように、ビームサーベルを抜いた。

 

「三佐!」 
グフの回収を行っている筈の三小隊隊長の声に、飛びかかろうとしたイケヤのムラサメは動きを止め、瞬時に海面へと振り向く。

 

「フォビドゥンブルー!?」

 

そこには4機のムラサメの背後に立ち、先端が十文字の実体槍を突きつける群青色のMS。
通常のフォビドゥンブルーとは違い、クローを備えたシールド、ゲシュディッヒパンツァー発生器を大型化していた。
また機体各部にハイペリオンタイプの光波防御体発生装置、腕部に金色に輝く盾を備え、レールガンを装備していた。

 

「上からも来ます!」

 

ゴウの声に上を見ると二機のMSが降下してくる

 

「レイダーか!」

 

先に降りて来たのは、一見大昔の複葉機にも見える連合軍に正式採用された後期GATナンバーのレイダー。
こちらも機体色が深緑に変更されており、複翼には大量のミサイルや機関銃、ビールライフルと思われる物を積み込み。
レイダー本体は背面の翼とスラスターを大型化し、両肩に大型の光学観測機器、両腕に長銃身の狙撃銃を装備していた。

 

「ソードカラミティだと!?」

 

そしてもう一機、アマツを守るように立ちはだかる深紅のMS。

 

連合のソードカラミティに酷似しているが、リフターを背負い、腰に短めの刀、リフター上部に対艦刀を持った深紅の機体。

 

「……そうか、こいつらがソキウス! アメノミハシラの切り札!」

 

イケヤは聞いたことがあった。
前々大戦の後アメノミハシラを接収しようとした連合、ザフトの部隊を悉く退かせ、被害の多さから両軍共、最終的に『公式には存在しない物』という判断を下すに至った原動力。
ラテン語で戦友と言う意味の名を持つ、戦闘用コーディネーター、ソキウス。

 

「くっ……」

 

アマツを守るように立ちはだかるカラミティとレイダー、海面の部下と対峙するフォビドゥンにイケヤは奥歯を噛み締めた。
タイミングが悪すぎる。 通常時であれば相手をしてのける自信があったが4機を人質に取られ、7機でアマツ、カラミティとレイダーの相手はきつ過ぎる。
そんなイケヤの心を読んだかのように、カラミティが腰の刀に手をかけた。

 

「止めよ」

 

しかしその動きはミナの一言により遮られる。

 

「ミナ様、しかし……」

 

ミナの言葉に三人のソキウスは声をあげた。

 

「私は止めよ、と言った」

 

先程よりも語気を強め、ミナは告げる。
一切の反論を許さないという強い意志を感じられた。

 

「了解」

 

一切の感情が感じられない、全く同じ声で三機は同時に武器を下ろした。
イケヤは知らなかったが、ソキウスはナチュラルには危害が加えられない様に作られていた。
しかもオーブ機はオーブ製のOSによりナチュラルとコーディネーターの区別は付きにくい。

 

「何故?」

 

そんな事情を知らないイケヤは驚きを隠せない。

 

「イケヤ一佐、先ずは謝罪しよう。 貴官の任務を考えもせず、己の感情のまま無礼者を手打ちにしたのは私の短慮だった。 どうか許してもらいたい」

 

思わぬ謝罪にイケヤを含め、オーブ側は何も言えない。

 

「……なんか妙なことになってきたな」

 

そんな甘い言葉を聞き、オシダリは嫌な胸騒ぎを感じていた。
甘言を囁く奴には古今東西碌な奴がいない。というのが彼の持論であった。

 

「私としても、オーブ本国との関係が悪化し、アメノミハシラとオーブ軍、『歌姫の騎士団との争い』になることは何とか避けたい」

 

歌姫の騎士団を強調し、ミナは言う。

 

「グフの回収はフォビドゥンに行わそう。 それで何とか穏便にすませてはもらえまいか?」
 ……貴官も戦端を開いた軍人にはなりたくはないだろう?」

 

これは脅しだ。 イケヤにもそれは分かった。
丁寧な言葉遣い、だがその裏にあるのは、これ以上は一歩も引くつもりは無いという強い意志。
しかもイケヤには断る事が出来ないと見越しての。
オーブはプラントと同じで、いや、プラント以上にオーブは一枚岩ではない。
現在政権を掌握して、現状を維持しようとするアスハ派。
ザフト、つまり歌姫の騎士団との関係を重視する親プラント派、国力の大きい大西洋連合と手を結ぶべきだと主張する親連合派。
下級氏族と市民を中心に広まっている、氏族を政治より廃し、国民主体の政治に移行しようと活動するオーブ民主革新連盟。
一々挙げればきりがない。
そして一番厄介な派閥がサハク派である。
CE72、ロンド・ミナ・サハクがアメノミハシラの人員を解散させた為、オーブ本国にも人が流れた。
つまり潜在的な人員はかなりのものになる。
更に、軍内部にも未だ軍事を司っていたサハクを慕う者は多い。
もしミナが反アスハの旗頭として決起すればオーブは内戦状態になる。
イケヤは軍人、国民として三度国を焼くわけにはいかなかった。

 

「……分かりました」

 

屈辱に奥歯がギリギリと軋む。

 

(ま、妥当な判断だな)

 

オシダリは照準を放し、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「よろしい。 シックス・ソキウスよ、後は任せるぞ」

 

アマツはフォビドゥンを一瞥すると、振り向き、離脱して行く。

 

 

───暗い闇に包まれた空間で、シン・アスカは夢を見ていた。

 

まだオーブに移住する前の日々を。
オーブに移住し、家族と過ごした日々を。
オノロゴ島で全てを失った日を。
プラントに移り住み、アカデミーで友人が出来た日々を。
ザフトの赤服となり、インパルスのテストパイロットとなった日々を。
アーモリー1でステラと出会い、再び戦争が始まった日を。
ブレイク・ザ・ワールドを。
ガルナハンでの戦いを。
ハイネの死を。
ステラの死を。
アスランの裏切り、そして墜した日を。
ルナとの日々を。
あの月での敗戦を。
それからの日々を。

 

身動きすらとれず、ただ思考する。

 

(……結局俺は誰も守れなかった、何も出来なかった)
(無駄だったのか? 何もかも……)

 

絶望に打ちひしがれるシンの前に無数の金色の光が集まり、人の形を成していく

 

───そんな事ないよ
───そんな事はない

 

(ステラ、レイ!?)

 

光と同じ色をした友と守りたかった少女が目の前に居る。

 

───ステラ、シンに会えて良かった。
───俺はお前に未来を託した。

 

涙が、涙が止まらない。

 

───だから前を見て、明日を
───だからお前は、明日を生きろ

 

(俺は……)

 

 

「俺は、まだ生きているのか?」

 

一瞬、回復した意識は、口を開くと同時に襲い掛かってきた激痛に勝てず、シンの意識は再び闇の中へと飲み込まれた。

 
 

公海海上に、3機のMSが三角を描くように飛行していた。
先頭をGFアマツ、その後方に深紅のカラミティ、ブレードカラミティと深緑のレイダー、コマンドレイダーが控える形だ。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

誰かの声が聞こえたような気がしたミナは通信を開き、護衛のフォー・ソキウス、サーティン・ソキウスへと問いかける。

 

「いえ、何も言ってはいませんが……」
「むっ、そうか」

 

ミナは一人、首を傾げる。

 

「ミナ様、何故その男をお助けになられたのですか?」

 

アマツに右後ろに位置する、ブレードカラミティの搭乗者フォー・ソキウスがミナに疑問を問いかける。
勿論オーブ機に傍受されない様、秘匿回線を用いて。

 

「ふむ」

 

アマツが右手をゆっくりと開ける。 手の中でシンは気を失っていた。

 

「知っているか? シン・アスカは群雲劾やお前達、ソキウスのような戦闘用コーディネーターではない」
 スーパーコーディネーター、キラ・ヤマト。 プラント議員の息子で高度にコーディネートされたアスラン・ザラと違い、何ら特別な調整がされていないことを」
「はい、書面上だけではありますが。そしてキラ・ヤマトを唯一破損、相打ちでなく撃破した男であります」

 

フォー・ソキウスは事実と知識のみを淡々と述べる。
薬物により精神が壊されたためだ。
……もっとも先程の質問で分かるように、最近では多少回復の兆候を見せているようだが。

 

「この男は、オーブ戦後、たった数年で最高級コーディネーター達に並んで見せたのだ。……面白い男だとは思わんか?」

 

ミナにしては珍しく、新しい玩具を手に入れた子供のように嬉しそうに語る。

 

「理解しかねます」

 

帰ってきたのはなんとも味気ない答えだ。

 

「ふむ、まあいい。 それにこの男はあの状況で諦めなかった……私は他人に生き方を強いる人間は好かぬ。 だが自分の生きる道を切り開く為、己から行動する者は好きだ」

 

ソキウスの答えに興が削がれたのか、先程よりは熱が冷めた様子でミナは言う。

 

「「……ミナ様のお心のままに」」

 

フォーとサーティーン。 二人のソキウスの肯定を聞きながらミナはアマツの速度を上げた。