SEED DESTINY “M”_第14話

Last-modified: 2009-03-08 (日) 01:59:43

「また黄昏てる」
 積載デッキが解放され、ウィンチがガイアとシーリングリフターを引き上げるのを見ながら、マユがキャットウォークの手すりにもたれかかっていると、そこへルナマリアが、妹のメイリンを伴ってやってきた。
「あ、ルナお姉ちゃん」
 マユはけだるそうに身体を起し、ルナマリアを見た。
「ルナお姉ちゃん、じゃないわよ。まるでメイリンより歳食ったような顔してるわよ」
「ちょ、お姉ちゃん。それじゃ私がよっぽどみたいじゃない」
 ルナマリアの言い種に、傍らにいたメイリンが軽く驚いて、侵害だというように言い返した。
「あら」
 悪戯っぽく苦笑していたルナマリアだったが、マユの背後に、続いて新しいMSが搭載されてくるのを見て、ふと声を出した。
 そのMSは自力で動いていて、VPSが起動し、ピンクがかった赤に染まっている。
「…………」
「何なのこの新型。一体誰?」
 マユが一瞬見とれかけると、その横でキャットウォークに身を乗り出したルナマリアが怪訝そうな声を出した。
 ハンガークレーンのレール端位置まで来ると、VPSが落ち、そのMSは停止した。コクピットハッチが開き、中からパイロットが現れる。
「え!」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-14

 
 
 

「アスランさん!?」
「え、うそ!?」
 ルナマリアがその名前を呼んで、驚きの声を出す。メイリンも驚いて、身を乗り出した。
 アスランはタラップからキャットウォークに上がると、マユの方に向かって、歩いてきた。
「認識番号285002、特務隊FAITH所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」
 アスランはIDカードを提示して、マユに向かってそう言った。
「え……あ、はい。ミネルバ所属FAITHマユ・アスカ、乗艦を認めます」
 マユは一瞬戸惑ってから、直立不動の姿勢で返礼し、そう言った。
「艦長は艦橋かい?」
 一度敬礼の姿勢をとってから、アスランは気さくな口調を気取って、そう言った。
「あ、はい。だと思います……けど」
 マユがそう答えると、その脇から、
「私がご案内……」
「確認してご案内いたします」
 メイリンが言いかけたのを、さらにルナマリアが遮って、そう言った。
 2人とも目を輝かせている。横槍を入れられたメイリンは少し不満げにむくれた。
「あの!」
 艦橋に内線をつなげる為、端末に向かったルナマリアと入れ替わるように、マユが進み出て、アスランに声をかける。
「何?」
 アスランはキョトン、として、マユに聞き返す。
「申し訳ありません、私、オーブでアスハ代表の拉致を……阻止できませんでした」
 困惑の混じった表情で、マユは謝罪するようにそう言った。
「ああ……聞いてはいるよ。あれは気にしなくても良い」
「ですが……」
「フリーダムのパイロットの事は良く知っている。アークエンジェルのクルーもね」
「え……?」
 アスランの言葉に、マユは驚いたように目を円くした。
「大きな声ではいえないが、オーブは政情が不安定だったからね。フリーダムのパイロットはカガリ……アスハ代表の実の弟だし、間違いなく代表の立場と安全を考えての行動だろう。心配は要らないよ」
 笑ってもいないが深刻そうでもない口調で、アスランはマユに言い聞かせるように言っ
た。
「ですが……」
『マユ・アスカ、ブリーフィングルームまで来られたし』
 アスランに、さらに何か言おうとしたマユの言葉を、艦内放送が遮った。アーサーの声だった。
「すみません……この話は後で」
「ああ」
 マユはそう告げて、アスランと別れた。
「お待たせしましたー」
 マユが立ち去ったところへ、うきうきとした様子のルナマリアが戻ってきた。
「? どうかされたんですか?」
 マユの立ち去った方向を見つめていたアスランに、ルナマリアがきょとんとして訊ねる。
「あ、いや、なんでもない……」
「えっと、艦橋へご案内いたします」
 ルナマリアはアスランの態度に戸惑いを覚えつつ、そう言った。
「ありがとう、よろしく頼むよ」

 

「まったく議長も何を考えてらっしゃるんだか……」
 ブリーフィングルームでは、アーサーがぶつくさと愚痴っていた。
 すると、突然リニアサーボの自動扉が開き、マユが入ってきた。
「マユ・アスカ、来ました……え?」
 ブリーフィングルームに入ってきて、敬礼の姿勢をとったマユは、目の前にいたその人物を見て、目を真ん円くして絶句した。それはアーサーではない。
「ステラさん!?」
 マユはゴクリと息を呑みなおしてから、素っ頓狂な声を上げた。
 そこには、ZAFTの緑服を着たステラの姿があった。
「マユ!」
 マユとは対照的に、ステラはその顔を見るなり、表情を輝かせた。
「あー……義勇兵ステラ・ルーシェだ」
 アーサーはやる気なさ気に言いかけて、姿勢を正してから、そう言った。
「義勇兵……?」
 マユは怪訝そうな表情をして、鸚鵡返しに聞き返す。
「こほん」
 3人目の人物が、咳払いをした。本来なら第1医務室に詰めている筈の軍医長だった。
「もとより彼女を君から離すことなど考えられなかったからね」
「はい、ですから同意書にはサインしましたが、義勇兵って……」
「それは、デュランダル議長の肝煎りでね……」
 マユが聞き返すと、今度はアーサーが少し呆れたような表情でそう言った。
「理由は……アーモリー1での襲撃の際、カオスとアビスを強奪して行った連中のことは覚えてるね?」
「アウルとスティング!」
「いや、君じゃなくて」
 アーサーがマユに向かって訊ねるように言うと、ステラが勢い良くその名前を言ったので、アーサーは困惑気に言った。
「彼らと戦って、その時の感想はどうだった?」
「最初の時、ですか?」
 アーサーの問いに、マユは怪訝そうにしながら、確認する。
「そう。アーモリー1で君がガイアを起動したときだ」
「あの時は必死で、ガイアもオートバランサーの設定ひとつろくにできていなかったから、手動で補正して…………あ!」
 マユは思い出すように呟き、記憶をたどって、ふと気がついた。
「あっちもOSは未設定で、しかも奪った機体で、あそこまで……だよ」
 アーサーの言葉に、マユはステラを凝視する。ステラは解っているのかいないのか、にこにこと笑顔のままだった。
「つまり……?」
「つまり、彼らは高い適応能力を備えている。もちろん、この子もね」
 軍医長が、手振りを加えて説明した。
「まさか、あれにステラさんを!?」
 マユは笑みのような引きつった表情を浮かべて、素っ頓狂な声を出した。
「そう。本音を言えばこの艦には、無駄に積んでおく機材も人もいない状況だからね」
 アーサーはそう言って、軽くため息をついた。
「けど……」
 マユはアーサー、軍医長、ステラの順に顔を見る。
「ステラさんは……そう、連合の兵士だったんでしょ?」
 それまで半ば確証していたが、口に出さなかったことを、マユは認めてステラに問い質すように言う。
「それなのに……連合と、味方と戦えるんですか?」
「それは彼女も了承済みだし、誓約も受けている」
 アーサーがそう言いきった。
「第一、何が味方かね。生きた人間にこのような扱いをして!」
 軍医長が思わずといったように、唾棄するように言った。他の3人の視線が、いっせいに軍医長に向く。
「……すまない、思わず」
 軍医長は申し訳なさそうな表情になって、そう言った。
「マユ」
 ステラがマユを振り返り、言う。マユはふと、視線をステラに向けた。
「ステラなら……大丈夫」
「でも……」
「ステラが戦って、この戦争を早く終わらせられれば、ネオやスティングたちも助けられるって」
 ステラは何の疑問も持っていないかのような表情で、そう言った。
「ネオ……?」
 さらに、新たに聞く名前に、マユは困惑気な表情をしつつ、聞き返した。
「ステラ達の隊長……すっごい強い」
 ステラは笑顔のままで、小さな子供のように大げさな手振りを加えて言った。
「まさか、あの新型!」
 思い当たる節に、マユは思わず声を上げた。アーサーを見ると、アーサーは軽く頷いた。
「GAT-04ウィンダム……だそうだ。我が軍の情報と突き合わせると、ダガLーの後継に当たる量産機らしいよ」
「…………」
 マユは複雑な表情をする。ガイアでも、ルナマリアのゲイツDでも追い詰めきれなかった機体。
「特殊部隊とのことだから、そうそう前線で我々と出会うことはないと思うが、要注意なパイロットであることは確かだね」
 アーサーは険しい表情でそう言った。
「さて、それではステラ・ルーシェ。この命令書を持って格納庫に行ってくれ。エイブス班長に渡して、機体の受領、調整に入るんだ」
 アーサーはそう言って、A4サイズの封筒に入った命令書をステラに渡す。
「うん、じゃなくて、はい!」
 ステラは元気良く返事をして、アーサーから書類を受け取る。
「マユ、悪いが君はもう少し残ってくれるか?」
 ステラとともにブリーフィングルームを後にしようとしたマユを、アーサーが呼び止めた。
「え? あ、はい」
 マユは振り返って、反射的に返事をしてから、
「ごめんステラさん、先に行ってて」
 と、すまなそうな表情でステラに言った。
「うん! じゃなかった、はい!」
「何か困ったことがあったら……そうだ、ミレッタってパイロットを呼んで。多分、何とかしてくれると思うから」
「は~い」
 マユがそう言うと、ステラは返事もそこそこに、パタパタと小走りに通路を駆けていった。
「ハーフ・コの彼女か。確かに、彼女ならナチュラルにアレルギーも少ないだろうな」
 マユの背後で、軍医長がそう言った。
 マユは振り返ると、軍医長に近付き、問い質すような口調で言う。
「上手く言いくるめましたね?」
 軍医長を鈍く睨む。
「私じゃない。説得したのは議長だ。電話越しでだがな」
「はぁ」
 軍医長の言葉に、マユはガクッと項垂れるように脱力し、短くため息をついた。
「まぁ、子供のような性格が幸いした。その辺は彼女をあのようにした、連合に感謝かな。もっとも行為自体を認めるわけには断固として出来ないがね、仮にも医者として」
「でも」
 マユは言いつつ、軍医長とアーサーの顔を交互に見る。
「大丈夫なんですか。彼女にあれを与えて」
「だからこそ、マユ、君に特別に伝えておくことがあるんだ」
 マユが訊ねると、アーサーはそう言った。
「もし彼女が連合に寝返るなり、あるいは戦場で無差別に暴走することになったら……」
 アーサーは言葉を濁す。マユはゴクリ、と喉を鳴らした。
「本来、僕としては反対なんだけどねぇ、いくらFAITHでも、君はまだ……」
「副長、その心配は彼女には無用だよ」
 渋るような態度のアーサーに、軍医長がそう言った。
「酷な話であることには変わらないがね。我々も同罪か、彼女を作り出した連中と」
 軍医長は険しい表情で、マユを見て自嘲気味にそう言った。
「こんなことはこれで最後にしたいものだ」

 

「しかし厄介な事になったわね。ひとつの艦にFAITHが3人か。ややこしい事にならなければいいけれど」
 ケースに入ったままのFAITH襟章を前に、艦長席のタリアはそう言った。
 アスランはFAITHとしてミネルバMS隊を率いよ、との命令を受けたと同時に、タリアのFAITH任命を伝達するように頼まれていた。
「それほど面倒な事にはならないと思いますが……自分はMS隊の指揮を任されていますから、艦長はフネを、という形で」
 艦長席の傍らにいるアスランは、そう言った。
「マユはどうするの?」
「彼女は単独、遊撃戦力という形にしておけば」
 タリアの問いかけに、アスランは手振りを加えつつ、そう説明した。
「元々この艦の員数ではないそうですし、無理に出撃させなくても」
「彼女、ああ見えて強情よ? 言っても聞かないかも……」
「大人が言って聞かせれば良いだけのことです」
 タリアが反論すると、アスランは真剣な表情でそう言った。
 僅かに沈黙。タリアはアスランの顔を見つめる。
「まぁ、いいわ」
 短いため息の後、タリアはそう言って、自分から視線を外した。
「それで……この命令の方は、興味深いけれどね」
 アスランがタリアのFAITH任命証と共に持ってきた、ミネルバへの命令書には、カーペンタリアを発って、現在インド洋経由でスエズ攻略中のジブラルタル駐留軍と合流せよ、そう書かれていた。
「ユーラシアの西側のこともあって、今一番ゴダゴダしているところよ」
「ユーラシアの西側とは? すみません、まだ情報に疎くて、いろいろと良くわかっていません」
 タリアの呟きのような言葉に、アスランが聞き返す。
「大西洋連邦と常に同調、というか、言いなりにされているユーラシア連邦の内部に、体勢に反対する勢力があるのよ」
「ああ、それは知ってます。前の戦争の時からそうでしたから」
 タリアの言葉を聞いて、アスランは納得したような声を出した。
「西ヨーロッパやコーカサスの地域の住民が分離独立を求めて揉めだしたのよ。今回の開戦で一気に火がついたのね。ユニウス7突入で混乱の続いている最中に、戦争再開だなんてごめんだ、ってね」
「そうでしょうね、元々ユーラシア連邦はブルーコスモス影響下といっても、穏健派が中
心で、大西洋連邦ほど先鋭的じゃありませんでしたから」
 この大惨事の始末もつかないうちに、面子の戦争につき合わされてたまるか、そう考えるのはある意味当然である。
「そこへ行けということでしょう、つまり。この戦争はプラントにとって積極的自衛権の行使だ、領土的野心はない。そう言っている以上、そうそう介入するわけにはいかないでしょうけどね。私達がいかなければならないのは、そういうところだということよ。覚えておいてね、FAITHとして」
「はい!」
 タリアの言葉に、アスランは軽く姿勢を正して、明瞭な返事をした。
「ところで……」
 タリアはそう言って、話題を変えた。
「フリーダムの事、何か知っていたら話してもらえるかしら。ああ……公式な詰問のつもりはないから、良かったらでいいのだけど」
「さあ……すみません、自分にも寝耳に水のことでしたので」
 アスランは申し訳なさそうに、そう答えた。
「そう……」
 タリアは少し気落ちしたように、そう言った。
「正直言って、ニュースを知ったときは驚いたのです。その……自分はアスハ代表の近くにいましたが、セイラン親子が進めていたのは大西洋連邦との同盟のはずだったんです」
「それは……」
 タリアは一度、周囲を見渡すようにしてから、
「いまさら隠してもしょうがないから言うけれど、それはアスハ代表御自身の考えだったそうよ」
 と、言った。
「えっ、カガリが……!?」
 アスランは、タリアの言葉の内容に衝撃を受け、目を円くして立ち尽くした。
「大西洋連邦とは同盟しない、中立が無理ならまだしも義を重んじてプラントと組む、そう言われたそうだわ」
「そんな……」
 アスランは搾り出すように言い、そのまま絶句する。
 父・ウズミの残した“オーブの理念”に頑なだったカガリが、よもやそんなことを言い出すとは、アスランにとっては信じられなかった。
「当然といえば当然ね、前の戦争で大西洋連邦は問答無用でオーブに攻め込んだんですもの」
「それは……そうですが」
「それを快く思わなかった一派による政権乗っ取り……なのは理解できるけど、問題はなぜフリーダムがそれに加担するようなことをしたのか、ね。しかもそのまま行方不明」
「キラと……いえ、キラ達のことですから、アスハ代表の身に危険はないと思いますし、何か考えがあってのことだと思うのですが……」
 アスランは、キラとラクス、と言いかけて、それを濁した。今、ラクスは公式には議長の元にいるのだ。
「彼は元連合兵よね。大西洋連邦に味方したって事は?」
「それはないと思います。連合にとっては……ですから」
 裏切り者、という言葉を出せず、アスランは濁すように言った。
「そう……。どっちにしても代表が戻られない限り、プラントの対オーブの問題は解決さ
れないわね……ごめんなさい、今、貴方に言ってもしょうがないことだったわ。忘れて」
「いえ……」
 アスランは答えつつも、未だ愕然としたように半ば立ち尽くしていた。

 

「YFX-M56……コアスプレンダー?」
 メインディスプレィの起動画面を見て、シートに座ったステラが呟いた。
「MSとしての機体名はここ、ZGMF-X56S」
 コクピットの外側に取り付いていたミレッタが、腕を伸ばして、ディスプレィを指差した。
「インパルス……」
「あたらしいシルエットのソフトのインストールもやるって言うから、このまま起動させ
ておいて、設定メニューを……」
 航空機用のエレベーター型ハンガーの上で、ステラとミレッタがやり取りしているのを背景に、アスランが格納庫を歩いていく。そこにルナマリアが背後から絡んでいた。
「ちょっと、無視しないでくださいよぉ」
「え? あ、ぁぁ……」
 未だにショックの抜け切っていなかったアスランは、ルナマリアの不満げな声に、ようやく我に返った。
「ごめん。えっと……何の用?」
「用って程のことじゃないんですけど…………あ! 私はルナマリアって言います。ルナマリア・ホーク、ゲイツDのパイロットをやってます」
 ルナマリアは顔を輝かせて、そう言った。
「ああ……そうか、あの時ダガーLを3機もやったのは君か」
「覚えててくれたんですね! 嬉しい」
 アスランが思い出して言うと、ルナマリアはにこっと笑った。
「この機体も凄そうですよね、新型ですか?」
「ああ、X23S『セイバー』だ」
「変形機構を備えてるって聞きましたけど」
「ああ、……良かったらコクピット、座ってみるか?」
「良いんですか!?」
「ああ、でも動かすなよ」
「はい! ありがとうございます!」
 はしゃぐルナマリアを伴って、アスランはタラップを上がり、コクピットハッチを開いた。
 ルナマリアがそのシートに収まり、コンソールを一瞥した。
「すごぉい、やっぱりゲイツDとはぜんぜん違いますね。あれ?」
 感動したように目を輝かせていたルナマリアだが、ふと気がついたように言う。
「このモードセレクタ、ガイアの増設コンソールのとちょっと似てますね」
「ガイアの増設コンソールだって!?」
 ルナマリアが何気なく口にした言葉に、アスランは驚いたように聞き返した。
「ええ、飛行機能がついたからって、やっつけの増設パネルでしたけど」
 セイバーのコンソールを物色するルナマリアがそう言うと、アスランは慌てて振り返った。セイバーと並んで格納されているガイア。先程はあまり気にしていなかったが、確かにスカートの形が多少変わっている。
「俺とセイバーじゃ……足りないって言うのか? 議長……」

 

「明朝、ですか」
 艦橋で、アーサーがタリアに聞き返した。
「ええ。カーペンタリアの基地の方にも命令が出たわ。ボズゴロフ級を1隻、護衛につけ
てくれるそうよ」
「1隻、ですか……」
 タリアはあっさりと言ったが、アーサーは少し残念そうに言った。
「オーブと大西洋連邦の正面だから、仕方ないわね。それに、輸送船の事故で水中用MS
の納入が何機かなくなったらしいし……1機だけでも間に合ったのが幸いかしら」
「パイロットに不安が残りますが……」
 タリアはさばさばと言うが、アーサーは納得しきれない様子だった。
「無理とも言えないでしょう。ほら、全艦に通達。準備始めて」
「あ……は、はい」
 アーサーは返事をすると、ため息をついてから、艦橋を出て行った。