SEED DESTINY “M”_第16話

Last-modified: 2009-03-10 (火) 21:14:59

 バチバチバチバチッ
 ウィンダムのビームサーベルがガイアのシールドに叩きつけられ、アンチビームコート
と接触して激しく火花を散らす。
「どうした、アーモリー1でのお前の強さはこんなものじゃなかった筈だ!」
 ウィンダムのコクピットで、ネオは防戦一方のガイアに、不満をぶつけるかのように言
う。
「……この人が“ネオ”かもしれない……」
 マユはガイアをじりじりと下げつつ、憔悴して呟く。
「この人を殺してしまったら……ステラさんが……」
 はっきり言ってマユには、ステラを強化人間として使役する仇でもあるのだが、ステラ
にとっては“家族”のような存在でもある。
「くっ」
 スラスターの推力を一瞬落とし、僅かに高度を落とし、少しだけ間合いを取る。
「もらった!」
「このぉっ!」
 ネオはそれを隙と見て突っ込んだ、だが、マユは瞬時にガイアのビーム突撃砲を起すと、
ウィンダムの頭部めがけて射撃した。
「く!」
 すんでのところで、ウィンダムをスナップ、というより仰け反らせて、ビーム突撃砲の
射撃を回避する。
 マユはその隙に、ガイアの右手にヴァジュラ・ビームサーベルを抜かせた。
「フリーダム程の性能があるわけじゃない! やるだけやってみるしかないっ!」

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-16

 

「マユ、チィッ」
 カオスと斬り合いになっていたセイバーだが、アスランは補助カメラに、ウィンダム相
手に“苦戦”しているガイアを見つけると、歯を食いしばるようにしながら舌打ちする。
 セイバーが、カオスを蹴飛ばす。僅かに間合いが開いたところで、スーパーフォルティ
ス・ビーム砲で速射をかける。
「っ!」
 カオスが回避機動を取った隙に、セイバーは一気にカオスから離れた。
「マユ、今行くぞ!」
 アスランはセイバーをMS形態にしたまま、ガイアとネオのウィンダムが斬り合っている
空間へと飛ばす。
 だが。
 直後、セイバーのコクピットにロックオンアラート。
 カオスのビームポッドが、セイバーのやや後ろ斜めの側面から狙ってくる。
「新型ぁ! お前の相手は、俺だぁぁっ!」
 カオスがセイバーに迫ってくる。

 

「くっ」
 アスランは、短く呻くような声を漏らす。
 だが、今度はそのカオスが、ロックオンアラートを受ける番だった。
「何」
 ビーム・マシンライフルの五月雨のような射撃が、カオスに向かって浴びせられる。ス
ティングはそれを悠々と回避する。だが、撃っている灰白色のゲイツD、レイも命中を期
待しての射撃ではなかった。
 そのビームにまぎれて、別のものがカオスに撃ち込まれる。
「何!?」
「もらったっ!」
 エクステンショナル・アレスターのアンカーが、カオスの装甲に撃ち込まれる、のでは
なく、その腕をワイヤーで絡めとった。
「こんなもの!」
 スティングはカオスの腕を引いてワイヤーを手繰り寄せ、ビームクロウでワイヤーを切
断しようとしたが、
「ゲイツDの推力を舐めないでよね!」
 ルナマリアがゲイツDの左手にワイヤーをつかませて、カオスを力任せに振り回した。
「ぐぅっ!」
 振り回されながらも、スティングはヴァジュラ・ビームサーベルの切っ先でワイヤーを
切断する。
 海面に叩きつけられる寸前のところで、逆噴射をかけた。
 だが、体勢を立て直すより早く、レイのゲイツDから、ビーム・マシンライフルの射撃
が降ってくる。
「隊長! こいつは私が!」
 レイの射撃アシストを受けながら、ルナマリアはカオスにシールドタックルをかけた。
「ぐぁっ!」
 カオスは一瞬、海面に叩きつけられ、僅かに沈んだ。
「すまない、ルナマリア」
 アスランはルナマリアに対して礼を言ってから、そのままガイアとネオ機の交戦空域へ
と向かう。
 ────そのさなか。
「はぁっ!」
 マユはカガリが囚われたフリーダムにしたのと同じように、ウィンダムの腰部を狙って
斬撃を試みる。
「むっ!」
 ネオはウィンダムをスナップさせて、ガイアの斬撃から逃れる。
「このぉっ!」
 マユはその体勢から、シーリングリフターの推力を乗せて、ウィンダムにタックルをか
けた。
「ぐぅっ!」
 衝撃に、ネオはくぐもったうめき声を上げた。

 

 ガイアはタックルを敢行しながら、スラスターをさらに吹かしてウィンダムに追いすが
る。
「はっ」
「何!?」
 ガイアのビームサーベルが、ウィンダムの左腕を斬り落とした。
「次は、右腕……そうすれば、武装は!」
 ウィンダムにシールドを押し付け、ビームサーベルを構えさせつつ、一瞬逡巡する。
「その隙が、命取りだ!」
「きゃぁっ!」
 ウィンダムがガイアを蹴飛ばした。ガイアは一気に高度を落とす。
 そこへ向かって、ネオはシールドに装備された2発のヴェルガー・ミサイルを放つ。
「くっ」
 スラスターを吹かして姿勢を回復させつつ、シールドでミサイルを受け止める。衝撃が
ガイアを揺するが、VPS装甲は破壊されない。
「なら、行くよっ!」
 スラスターを全開にし、ガイアは急上昇でウィンダムに迫る。
「はっ」
「させるか!」
 マユはガイアで左腕に斬りかかるが、今度はウィンダムのシールドに阻まれる。
「この!」
 もう一撃。やはりシールドで受け止められた。
「はぁっ!」
 さらにもう一撃。難なく、といった感じで、ウィンダムはそれを回避した。
「こっちは片腕だというのに、その戦い方は……!」
 むしろマユの戦い方に不満げな声を漏らしかけたネオだが、次の瞬間、戦慄しながら、
ウィンダムを急ロールさせて回避する。
 ガイアのビーム突撃砲が、ウィンダムの頭部めがけて撃たれた。ネオは紙一重でかわす。
「くっ、味な真似をする!」
「なら今度は、これで!」
 マユはガイアをMS形態のまま、ビームウィングを展開した。ビームサーベルを構えさせ、
さらに追撃を入れようとした。
 だが、それより早く、ビームライフルの閃光が、片腕のウィンダムを掠めた。ガイアの
ものではない。
『マユ! 逃げるんだ!』
「アスランさん!? 一体どうして」
 通信ディスプレィに映し出されたアスランに、マユは一瞬、目を円くする。
「なんだか知らないが、これは好都合だな。残念だがここは、引き上げる」
 ネオは声に出して呟き、ウィンダムを一気に降下させると、離脱にかかった。
「あ、ま、待て!」
 マユもガイアを急降下させ、ネオのウィンダムを追う。

 

「この野郎、たかがゲイツの分際でやるじゃねぇか!」
 ルナマリアのゲイツDと対峙しながら、スティングは毒つく。
 その周囲では、レイが基地ウィンダム隊と戦っていた。
 ウィンダム隊はビームライフルで、遠巻きにレイを狙ってくる。
 だが、レイの操るゲイツDは、そのたびに跳ねる様な機動で、照準の死角へと移動して
いく。
「はっ!」
 気合一閃。レイのゲイツDが急接近したかと思うと、ウィンダムは腰部をパルチザンで
貫かれた。破壊された腰部は分解して、上半身と下半身が泣き別れになりながら、海面に
落ちていった。
「くそっ、ケリを……」
 スティングが焦れたように呟いたとき。
『各機、撤収せよ。作戦中止!』
「ネオ!? ちぃ、しかたねぇ」
 ルナマリアのゲイツDが、カオスめがけて突っ込んでくる。
 スティングはそのリーチギリギリでスラスターを切り、一気に降下すると、MA形態に変
形して、その場を高速離脱した。
「この!」
 ルナマリアは自らも急降下でカオスを追おうとしたが、
『全機、深追いするな!』
 と、アスランの声で、我に返った。
 だが、その直後、アスランは全機に向かってチャンネルを開けたまま、声を上げた。
『マユ!』

 

 ギシィィ……
 防戦一方になりながらも、アビスに対してインパルスは一歩も退かない。
 背後にはニーラゴンゴの姿があった。
「あのパイロットは、確か……」
 ニーラゴンゴの艦長は、カーペンタリア基地で得た記憶を辿る。
「連合の強化人間と聞いていたが……」
 その間も、インパルスはアビスのランスによる激しい刺突を、シールドと自分のランス
で裁いていく。
「アウル、ステラ、解らないの!?」
 身体の方ではインパルスを激しく動かしながら、ステラはアウルに再度呼びかけた。
『お前なんか知るか! 大体お前、声聞くだけでも気持ち悪いんだよ! さっさと死んじま
え!』
「えっ……!?」
 ステラが愕然としたように、一瞬動きを止める。その額に、脂汗が浮かんだ。
『そら、これでバイバイだ!』
 アビスはインパルスの隙を見逃さず右肩のシールドをくるりと回すと、インパルスに向
かって高速短魚雷を放った。
「うわぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
 次の瞬間、ステラは獣のような咆哮を上げた。
 短魚雷をシールド避けると、一気にアビスに向かって間合いをつめる。
「ステラ死なない! マユがいるから! だからステラは、マユを!」
 怒りのような形相で、インパルスをアビスに急接近させると、短魚雷を放った側のシー
ルドにランスを突き刺した。
「ぐへっ!?」
 アウルが妙な悲鳴を上げるが早いか、アビスの右肩シールドは接合部を破壊され、本体
から外れる。
「くそぉっ!」
 アウルが毒つき、インパルスに襲い掛かろうとしたとき。
『各機、撤収せよ。作戦中止!』
 アビスのコクピットに、ネオのウィンダムから撤退命令が飛び込んできた。
「ネオ!」
『命令だ、撤収しろ!』
 アウルは不満げに声を上げるが、ネオは厳しい口調でそう言い切った。
「ちっ、じゃあ、ついでだ!」
「!」
 今度は左肩のシールドから、短魚雷を発射する。だが、その狙いはアビスではない。
「マユ!」

 

 本人がそこにいるはずはないが、ステラは離脱するアビスを放り、ニーラゴンゴに向け
て発射された魚雷を追う。
 MA形態に変形して一気に追いすがると、躊躇う様子もなく、インパルスで魚雷の先端部、
撃発信管を叩いた。
 大爆発。
「お、おお!?」
 衝撃波で揺さぶられるニーラゴンゴの中で、艦長は信じられないような物を見たかのよ
うな声を出した。
 魚雷の爆発による気泡が収まると、しかし、その中からインパルスは出てきた。シール
ドは若干損傷していたが、本体には傷ひとつない。VPS装甲の恩恵だった。
「はー……はー……ステラ……マユを……マユの仲間……守れた……」
 息を整えるように、若干苦しげな深呼吸をしながら、目じりにうっすらと涙を浮かべつ
つ、ステラはコクピットでそう呟いた。

 

 ネオの撤収命令に、数えるほどになったウィンダムが、蜘蛛の子を散らすように一目散
に逃げ出していく。
『全機、深追いするな!』
 アスランの声。
 ビームライフルで、逃げるウィンダムをさらに狙撃しようとしていたミレッタは、そこ
で我に返る。
「あっちゃぁ……ずいぶん奥まで引っ張ってこられちゃったなぁ……」
 周囲を確認すると、そこはマダガスカル島の海岸線が見える場所にまでミレッタは引き
寄せられていた。
「ん……?」
 引き返そうとしたミレッタだったが、海岸線の南側にふとそれを発見した。
「あれは!」
 壊走するウィンダムがそちらへ向かっている。おそらくその推測は正しいだろう。
 バビをMA形態に変形させると、それを視認する為に高速で接近した。
 すると、やがて眼下に、ミレッタが想定した通りのものが現れた。
「MS部隊の基地、連合の!? こんな、カーペンタリアの鼻先に!」
 まだ建設中のようだったが、それは明らかにMSの運用を前提とした軍事施設だった。
 作業員と思しき人の群れが、飛来したバビの姿に、逃げ惑っている。
「えっ!?」
 次の瞬間、ミレッタは目を疑った。
 作業員の群れに向かって、軍服を着た軍人が、機関銃を乱射したのだ。
 作業員は軍装ではなく、拳銃すら携行していない。
「な、なにやってんだよ!」
 その姿が、嘗て──平気で自国の市街地を戦場とした祖国と被った。
「それが軍人のすることかぁ!!」
 ミレッタはバビをMS形態にすると、基地に滑り込むように着陸させた。
 右腕のセスタスを展開し、機関銃を乱射していた銃塔をなぎ払った。
『ミレッタ! ミレッタ・ラバッツ、何をやっているんだ!』
 アスランの咎める声が聞こえる。だが、ミレッタは基地を破壊するのをやめない。
『いい加減にしろ! ミレッタ! 彼らにもう戦闘能力はない!』
「えっ……あ……」
 アスランの声に、ミレッタは我に返る。
 見回すと、作業員が逃げていく方向に、有刺鉄線の巻かれた高い柵が設置されていた。
 その向こうに、女性や子供の姿が見える。それは、逃げ出してくる作業員を呼んでいる
ように見えた。
「無理やり働かせてたってワケ?」

 

 ミレッタの推測は当たっていた。大西洋連邦を中心とする連合軍は、圧力に屈した赤道
連合各国の事実上の黙認の元、基地を設営する為の人員を強制徴用していた。
「なら、この!」
 バビの右腕が、金網の柵を破壊した。有刺鉄線には電流が流されていたが、火花が散っ
たかと思うと、大地短絡で回路が焼け停止した。
 バビの破壊した柵の破口から、作業員達が脱出すると、その外側で待っていた女性達と
抱き合った。
『危ない!』
 アスランの声。
 次の瞬間、バビの背後で爆発音がした。対機動兵器用の大口径の機関砲塔が、4脚形態
のガイアのビームウィングで破壊されていた。
「わ……ごめん、マユちゃん、ありがとう」
『大丈夫だよっ』
 通信ディスプレィに現れたマユは、苦笑交じりにはにかんだ。

 

 パァンッ!
 乾いた音が、ミネルバの格納庫で響いた。
 その勢いで、ミレッタは後ずさりする。だが体勢を整えると、自らにその平手打ちを加
えた相手を、軽く睨んだ。
「何をしているんですか!」
 マユはガイアのコクピットから降りるなり、それを目撃すると、全力で走って2人の間
に割り込み、ミレッタを庇うように手を広げる。
 そして、平手打ちを入れた相手──アスランを睨みつけた。
「マユ……あ、当たり前じゃないか、彼女は独断であんなことをしたんだぞ!」
 割り込んできたマユに、若干戸惑いながら、アスランは言い返す。
「戦争はヒーローごっこじゃない! 勝手な行動をされては困るんだ! マユ、君も!」
「ヒーローごっこ? 冗談じゃない! 例え敵国だろうと、非武装の民間人を救って何が悪
いんですか!」
 アスランは高圧的な口調で言うが、マユも負けじと声を荒げる。
「救う? 俺達はずっとここにとどまるわけには行かないんだぞ! もし、連合がまた戻っ
てきたら、彼らはどうなるんだ!」
「だからと言って、誰も何もしなかったら、解決のきっかけすら与えられないじゃないで
すか!」
「ま、マユちゃん……」
 アスランを睨みつけ、言い争うマユの姿に、庇われたミレッタの方が気後れしたように
声をかける。
「それに、私達はZAFTです。いえ、例えどこの軍人だったとしても、力有る者なら、自ら
の良識に従って行動する権利があります!」
「ぐっ……」
 アスランは言葉に詰まる。やがて、彼の瞳が哀しげな色に染まり、マユを見つめる。
「何で理解してくれないんだ、マユ!」
 アスランは嘆くように声を上げた。
「どうやって理解しろって言うんですか!?」
 マユは敵意をむき出しにしてアスランを睨み、言い返した。
「そこまで言うなら! ようし、今後ミレッタは君が指揮を取れ!」
「え、ええ!?」
 あまりにも唐突なアスランの提案、というか押し付けにマユは一瞬、目を円くして、戸
惑いの声を上げた。
「君もFAITHなんだからな! そうすれば、俺の言っていることの意味が解るはずだ!」
 アスランは半ば自棄的に、無理に高圧な口調を作って言う。
「それは……」
 マユは戸惑い、ちらりとミレッタを振り返る。ミレッタもおろおろとした様子でマユと
アスランを交互に見ている。

 

「出来ないって言うんなら……」
「わ、解りました」
 アスランが表情を少し和らげて、言いかけたとき、マユは僅かにどもりつつも、真剣な
表情で声を上げた。
「FAITHマユ・アスカは、ミネルバ所属MS搭乗員、ミレッタ・ラバッツを配下に、アスカ
隊を組織します!」
「ま、マユちゃん……」
 マユが宣言すると、背後でミレッタがおずおずと声をかけてきた。
「…………」
 アスランは、哀しげな表情になり、愕然とした様子でマユを見たが、やがて、
「そうか、解った」
 と、低い声で言い、その場から立ち去った。

 

『だからと言って、誰も何もしなかったら、解決のきっかけすら与えられないじゃないで
すか!』
 マユの発言は、危ういものではあったが、しかしそれは現実のものとなる。
 赤道連合各国の主要都市では、この事件をきっかけに、反大西洋連邦の動きが活発化し、
連日のようにデモが繰り広げられるようになった。
 中には、警官隊と衝突になり、死者が出たものもあったが、それでも、その勢いは、止
まらなかった────。