みんなが誰かを忘れる日。だゾ
ピピピピ……ピピピピ……ピピッ(カチッ)
ふあ~……俺、シン・アスカは目覚ましを止めてベッドから身を起した。
今日は4月1日……日曜日か。
せっかくの休日だし天気もいいみたいだし。今日はしんちゃんとどこかに出掛けるかなあ~。
そんな事をぼんやり考えながら俺は着替え、朝ごはんを食べるべく野原家の居間に向かった。
「おはよ~」
俺は朝ごはんを食べてるみんなに挨拶する。
だけど何故だろうか、みんな俺の顔を見てきょとんとしている……どうしたんだろ?
「……誰?あなた」
……え?
「おいお前!なんで俺の家に勝手に上がりこんでるんだよ?」
「ねえ、この人みさえ姉の知り合い?」
「私は知らないわよ?」
「た~?」
な、なんだよみんなのこの反応は?なあしんちゃんからも何か言って……
「おにーさん、人の家に勝手に上がりこむのはいけないと思うゾ?」
ッッ?!!
しんちゃんにそう言われたとたん。俺は頭の中がまっ白になって……気がついたら野原家を飛び出していた。
な、なんだ?どういうことなんだこれは!あのみんなの反応はいったい……
……ふう。少し頭を冷やしたほうがいいかもしれん。『あ~くえんじぇる☆』にでも行ってコーヒーでも飲んでくるか。
「……なんだこりゃ」
何もなかった。
春日部○丁目5-○ー×△。その住所には、メイド喫茶『あ~くえんじぇる☆』がある……はずなのに。
そこは空き地が広がっていた。
な、なんで?店舗移転するなんて話聞いてないぞ?
俺は嫌な予感がして知り合いを片っぱしから訪ね歩く事にした。まさか……まさかッ!
2時間後。
俺はかすかべ児童公園のベンチに座って途方にくれていた。
俺が勤めるスーパーミネルバ、バルトフェルドさんの喫茶「砂漠の虎」、キラさんの病院にディアッカさんの店……
ない!何も無い!あるのはそこに建物があったと思われる空き地だけだ……!
ど、どういう事なんだよこれ……そういえば、今日は種キャラのみんなと1人も会っていない……
またずれ荘にも行ってみたけどイザ―クさんもアウル達もいなかった。
大家のおばさんに聞いてみたら、あいつ等の部屋はここ数年ずっと空部屋だったって……そんなバカな!
頭がおかしくなりそうだ!どういう事なんだよこれ……ッ!
「さー今日もはりきってリアルおままごとするわよ~♪」
「ええ~ぼ、僕はちょっと今日は遠慮したいなーってそのあの」
「僕も塾が……」
「おだまり!今日は夫のドメスティック・バイオレンスに耐える妻がテーマよ! ほら、マサオ君も風間君もさっさと配置につく!」
あッ!あれはネネちゃん、風間君にマサオ君!
顔見知りの彼らなら、みんなの行方を知ってるかも……おーい君たち~~!
「……なんですか?」
「知らないお兄さんねえ。私達になにか?」
じ、冗談はやめてくれよ……君達まで俺を知らないって言うのか!
俺だよほら、シン・アスカだよ!
「ら、乱暴はやめてください!」
「このお兄さん、もしかして子供目当ての変質者ー?!」
「ぼ、僕お巡りさん呼んでくる!」
なんで……なんで誰も俺の事憶えていないんだよ! これも負○の陰謀か?それとも……
「こらーッそこな不審な男!幼稚園児相手になにしてる!ちょっとそこの交番まで来てもらおうか!」
俺は……マサオ君の通報で駆けつけたお巡りさんに逮捕され、今は警察署の牢屋に入れられている。
わけわかんねえ。春日部のみんなは1人として俺の事を知らないみたいだし、他の種のみんなは忽然とみんなして姿を消すし。
もしかして。今まで俺が春日部で過ごしてきたことは全部夢だった、てのか?
まさか!まさか……とは思う……だけど……だけど今は……
「寂しい……」
独りぼっちだ……今の俺はそばに誰もいない。さみしい……1人きりがこんなにつらいだなんて。
こんな思いはあの時以来だ。家族がみんな死んでひとりきりになっちまったあの時と。
俺はあの時と同じ独りきりなんだ……嫌だ!ひとりは嫌だ……嫌だ……
せっかく家族が出来たと思ったのに、この異世界で俺はまたひとりに逆戻りするなんて……
「君、出なさい。これから取り調べをする」
警官らしいのが俺を牢から連れ出しに来た……もういいよ……俺、もう疲れた。
死刑でもなんでも勝手にしてくれよ、ははは……
マユ 「あ、きた~♪お兄ちゃん、お勤めごくろーさまで~す!」
キラ 「あ~驚いてる驚いてる!わざわざこんな盛大に準備したかいがあったみたいだね!」
アスラン「俺としてはなその、一応は止めたんだが……」
……。
アウル 「ははは!まんまと騙されやがったみたいだな~?シン、お前今日が何日か憶えてねえのか?」
しん 「今日は4月1日だゾ~♪」
ひろし 「つまり……」
みんな 「4月バカこと、エイプリル・フールなのでーす!」
……。
むさえ 「いやーそれにしても今年はシン君1人騙すのに手の込んだ事しまくっちゃったわねえ?」
マリュ―「あ~くえんじぇる☆やミネルバを昨夜のうちに戦艦に変形させといて、
春日部郊外に隠しておくとか」
タリア 「特大ミラージュコロイド毛布被せて見えないしとくとか、ね」
イザ―ク「まったく……夜中の引越しは大変だったんだぞ!」
二コル 「いいじゃないですか……どうせ僕らの部屋は荷物が少ないんだし」
……。
ネネちゃん「みんなもオスカー級の演技だったわよ~♪シンお兄さんったらコロリと騙されちゃってたもの!」
風間君 「僕も人のこと言えないけど、みんな意地悪いなあ。
年に一度ウソついていいからって、こんな事までしてシンさんを騙して……」
しん 「で、どうだったシン兄ちゃん?びっくりしたでしょ~?」
……。
しん 「シン兄ちゃん?」
…………ぐすっ。
マユ 「あ、あれ?お兄ちゃん……ど、どうしたの?」
……う、うええ……お、俺ひとりぼっちになったわけじゃ……ぐすっな、なかったんだ……
よ、良かった……ほんとに……うう~……うえええ~~~~っ(号泣)
しん 「おおう?シン兄ちゃんマジ泣きしちゃったゾ!」
スティング「……こ、これはちょっとやりすぎちまった、か?」
キラ 「これはあれだね、
シン君のもっとも触れてはいけない不幸な過去の再来ともいえるべきイタズラを、
僕たちが超リアルに再現しちゃった為に、
普段シン君の中にあった潜在的な不安が表面化してしまいどうたらこうたら」
マユ 「そんな理屈なんてどうでもいいの!
だ、大丈夫だよ~誰もお兄ちゃんの事嫌いになったり忘れたりしてないからね~?」
しん 「そうそう。オラはいつまでもシン兄ちゃんの友達だゾ!」
シン 「ぐすっ……ありがと……ありがとう……しんちゃん、マユ……」
結局、すべてはみんなの仕組んだタチの悪いイタズラだった。
頼むよ……お願いだからこんな、心臓に悪いエイプリル・フールは2度とやらんでくれ。
それにしても、妹やみんなの前でマジ泣きしちまうとは……あー恥ずかしい。
こりゃーしばらくはこれをネタにからかわれたり奢らされたりするかもなあ。
……まあ、みんなが居なくなったリ俺のことを忘れるより全然マシだけど、ね。