ソレスタルビーイングの長い一日 【その2】
僕は困ってたんだ。自慢の愛車が故障してにっちもさっちもいかなくなって……
誰か助けを呼ぼうと周りを見渡したら、ベンチに座った作業服姿のおじさんと目があったんだ。
「ウホッ……いいなんたらかんたら」
「やらないか?」
「い、いいんですか?」
「おいおい、ホイホイついてきてよかったのかい?俺はノンケでも(以下略」
そして僕はおじさんに誘われるまま薄暗い建物へ……
「三輪車直してくれてありがとうございます~」
「はっはっは。坊主、気をつけて帰れよー」
俺はラッセ・アイオン。ここ万能修理工場『プトレマイオス2(仮)』の整備士みたいな仕事をしている。
うちはなんでも修理するのが売りで、それこそ三輪車からモビルスーツまでなんでも直すつもりだ。
まあ……まだ正式に開業したわけじゃないがな。
で、午前の仕事をひとまず終えて外で一服してたら、三輪車の車輪が外れて難儀していたマサオとかいう坊主がいたんで、親切心にも無償で直してやったというわけだ。
ま……セリフはあまり気にするな。
「おうラッセ。お前仕事は終わったのか?」
「イアンのおやっさん?ああこっちはぼちぼち……でもこの仕事どうするよ?」
「ラクス・クライン嬢から依頼された、自家用車の整備とチューンナップというあれか?」
「どんなピーキー設定でもいい、スピードさえ充分以上に出れば……という注文だけどなあ。実際どのくらいに調節すればいいんだか」
「そうだな……スピードさえ出ればいいんだろ?いっそGNドライブでも搭載してみるか?」
「やめろよ!GN粒子バラまきながら走る車なんてゾっとすらあ!」
「トランザムすればさらにスピードは三倍♪三倍♪」
「車体が空中分解しちまうわあ!」
おやっさんは時々冗談みてーなことをさらりと言うから怖え。ほっといたらマジでこの車にツインドライヴを搭載しちまいそうだ。
そして仮にそんな無茶を本当にやったとしても、ラクスという嬢ちゃんが文句どころか本気で喜びそうなのがさらに恐ろしい。
「うーむ……それじゃあ仕方ない。社長が帰ってくるまでこの件は保留だな」
「保留ねえ……で?その肝心の社長様はどこ行ったんだよ」
「ミレイナと美容院にいくと出かけていきおった」
「び……おいおい、みんな仕事しろよな……真面目に働いている俺が馬鹿みたいじゃないか……」
「安心しろ、フェルトはちゃんと仕事しとるぞ。生活必需品の買い出しに行ってもらっとる」
「フェルトだけは、だろ。まったく……」
知らなかったんだ……俺たちがこんな他愛もない話をしていたとき、出かけていった連中がどんな衝撃体験をしていたかなんてな。
まあ俺たちにとっちゃ、すでに連中は思い出になってたからなあ……
んじゃ、そろそろ向こうの『プトレマイオス』が現在どうなっているか見てもらおうか?
(つづくゾ)