ソレスタルビーイングの長い一日 【その1】
私は買い物にきていた。
この『スーパーミネルバ』は地元で評判のお店ね。大抵の欲しい物が比較的安い値段で手に入るから、今日はスメラギさんが美容院行くとかでミレイナはそっちについていったけど……
生活必需品がいろいろ切れてるんだもの。私が買い物にいかないとみんなが困るわけで。
ほんとは私も行きたかったんだけどこうして一人買出しにきているというわけね。
メモにあるものを一通り買って店を出る。
それにしても妙ねこのお店……店員がやけに若い子ばかりのような……まあどうでもいいことだけれど。
この街……春日部は最近やってきたばかりで道がよくわからないのよね。
どうしたものか……そう私が辺りを見渡すと
「っ!?」
気のせいだろうか。道をはさんだ向こうの歩道に見知った人物を見かけた気がした。
栗色の髪を後ろで束ねたあの後姿……は……!
気が付くと私は買い物袋を放り出して走りだしていた。
なんかいつものほほんとした人だった。
戦争の最中にいうというのにどこか緊張感がない人で。
頼りなくて年下の私が叱る羽目になっていた。
そのくせ私をいつも気にかけてくれていて。
迷惑がってるのに知ってて無理矢理わたしを買い物に連れ出したりして。
そして……最後の瞬間まで私のことを心配してくれた。
なにが…・・もっとお洒落に気をつかってね……よ……!
「………ナ……エラ……!」
変えたわ……私は世界を変えたわよ!あなたの願い通りにっ!
私ひとりの力じゃないけれど!私の力なんて微々たるものだけど……!それでもあなたの遺言どおりに世界を変えたわっ!
だから……!だから今度はあなたが私にこたえて!
「クリスティナ・シエラァァァァッ!!」
人通りが多い道のまん中で私は彼女に向かって叫んだ。
たぶんそこにいた大勢の人が全員びっくりして私を見たはずだ。
恥ずかしい?でもそんなことはどうでもいい!私が本当に振り向いて欲しい人間はこの世に何人もいないから……!
私が大声で呼び止めた向こう。その女性はゆっくりとこちらを向いた。
そして私を見て少し驚いたらしく。びっくりした顔でこちらに歩みよってきた。
「あら……え?フェルト……フェルトじゃないの?」
「……」
「久しぶりじゃない!あら髪切ったの?あはは、なんか野原さんとこのルナマリアちゃんみたいで変な感じねえ~♪」
「……」
「大人っぽくなったわねフェルト……私が逝ってから『そちら』では7年も経ってるから当然かしら?」
「……」
「恋愛してる?……うん、してるみたいね。雰囲気でわかるのよ。私も現在彼氏持ちだから」
「……クリス」
「うん?」
「私あなたに言われたとおり……お洒落に気を使ったわ。ロックオンの分まで……生きたと思う」
「……うん」
「少しは笑えるようになったのよ……? 私不器用だから上手くいかないけど、昔に比べれば……」
「フェルト」
「え……」
「がんばったわね」
「っ!……うん……私がんばったわ……がんば……うっ……」
思わず涙がでてきた私を、クリスが優しく抱きしめてくれた。
それだけでなんかもう今までの頑張りがすべて報われたような気がして。
大泣きするのを我慢するだけで精一杯だった……
「それじゃスメラギさんとかみんな春日部に?」
「うん……この街ででみんな力をあわせてなにかやるつもり。もう戦争は終わったし……マイスター達はまだ行方不明ばかりで、今はクルー要員しかいないけれど」
一通り泣いて落ち着いて。そこのベンチに座って缶コーヒー飲みながら、私とクリスは互いの情報を交換した。
私たちの世界の行方はどうなったか……クリスたちは今まで春日部でどうしてたのかとかを。
「そっかあ。だったらフェルト達のこと、ロックオンにも知らせないといけないわよね」
「ロックオン……!あ、あのそれって…」
「ああもちろんお兄さんの方ね」
「二ール……ディランディ……また会える……?」
「あとうちにいるのは……アニューでしょ」
「アニュー……?もしかして……アニュー・リターナー!?」
「そうよ。驚いた?」
「え?ええまあ…………かなり」
「それとね、あとは……」
「おーいクリスっちー♪」
「あ……リヒり~ん♪」
「もう、心配したっすよー。買い物から全然帰ってこないから~」
「ごめんねー♪ちょっと旧友とばったり出会っちゃって~」
「あ……う……?ク、クリスっちー……?リヒ……」
「え?あ……もしかしてフェルトっすか!?」
「そうなのよ~ほらリヒティよフェルト!懐かしいでしょー」
「ご……ご無沙汰……しています」
「いやほんと久しぶりっす!いやー大人っぽくなったですねえー♪ああそうだ!実はついさっき店(プトレマイオス)にも懐かしい人が来たんですよ!」
「トレミーにも?」
「まあそんな訳でクリスっちーを呼びにきたっす!さあはやく帰りましょう!ほらフェルトも来てっ」
「ええ?いや私は」
「ほらほらそんな昔みたいに遠慮なんかしないで!じゃあ私たちのお店に向けて~出発おしんこー」
「なすの味噌漬け~♪」
(ついていけない……な、なに?このクリスとリヒティの異常なノリは……!?)
それがクレしん世界クォリティです……とは、さすがに春日部滞在歴が短いフェルトにはわからなかった。
そして舞台はビューティーサロン『プトレマイオス』へ……
(つづくゾ)