SEED-IF_4-5氏_15

Last-modified: 2008-06-19 (木) 20:21:18

「アスラン!」
翌朝、食堂でモーニングコーヒーを飲みながらノートパソコンをいじっているアスランにカガリは声をかけた。
「おはよう」
「昨日はすまなかった。あの後もずっと行政府で……ああ今日も朝からずっと閣議になるからゆっくり話しもしていられないが、あの……」
「いいよ、解ってる。気にするな。それよりどうなんだ。オーブ政府の状況は」
「ぁ……」
カガリは沈黙する。アスランはその沈黙で状況を見て取る。
「……そうか」
「今は情勢がああ動くのも仕方ないかとも思う。他と比べれば軽微だろうがオーブだって被害は被った。首長達の言う事はわかる。けど、痛みを分かち合うって、それは報復を叫ぶ人達と一緒になってプラントを憎むって事じゃないはずだ!」
「……」
しばらくの沈黙が続く。
「俺は、プラントに行ってくる」
「ええ……?」
「オーブがこんな時にすまないが、俺も一人ここでのうのうとしているわけにはいかない」
「アスラン……けどお前それは……」
「プラントの情勢が気になる」
「ぁ……」
「デュランダル議長ならよもや最悪の道を進んだりはしないと思うが。だが、ああやって未だに父に、父の言葉に踊らされている人もいるんだ。議長と話して、俺が…俺でも何か手伝えることがあるなら…アスラン・ザラとしてでもアレックスとしてでも……」
「ぁ……」
「このままプラントと地球が啀み合う事になってしまったら、俺達は一体今まで何をしてきたのかそれすら分からなくなってしまう」

 
 

「な、どこ行きたい?」
「うーんそうだなぁ」
「俺腹減った!」
マユ達は、はしゃぎながらオーブ本島へ向かうバスに乗り込んだ。

 

その頃、ルナマリアは一人射撃の訓練をしていた。
撃ち終わって、隣をみるとレイが入ってきていた。
「上陸したかったんじゃないのか? 出たろ? 許可」
レイが聞いてきた。
「後で行くわ。皆でわーきゃー行きたくなかっただけよ。あそこは……そう言う所じゃないから」
「そうか」
それだけ言うと、レイは銃を撃ち始めた。

 
 

「では、お兄様、行ってまいりますわ」
「ああ、気をつけてな」
「でも護衛など必要ないのに……」
「お前はプラントのラクス・クラインに似ている。血迷った馬鹿が出ると困るからな」
「ふふふ。ブータニアスがいれば大丈夫ですわ」
「まぁ、確かにブータニアスは……」
なんと言うか、頼りがいのような物を感じてしまうのも確かだ。
「では、ブータニアス。セトナをよろしく頼むぞ」
ジブリールがブータニアスの頭を撫でると、ブータニアスは「にゃー」と鳴いた。
セトナとブータニアスは赤十字のマークが付いたヘリコプターに乗り込んだ。
窓からセトナが手を振るのが段々と小さくなっていく。
ジブリールは神々に、できる限りの祝福をセトナのために祈った。
汚れた手の自分よりも、はるかに幸福になる資格があの子にはあるのだ……。

 
 

プラントに出立するアスランを、カガリは時間を割いて見送る。
「ユウナ・ロマとのことは解ってはいるけど……」
突然アスランは言った。
「え?」
「やっぱり、面白くはないから……」
アスランは、赤い石の付いた指輪を取り出すと、カガリの手を取り、指にはめる。
「ぁ…ええッ!?」
アスランは顔を赤らめ、横を向く。
「ぁぁ……ぅ……ぉ……おま……いや……あの……こういう指輪の渡し方ってないんじゃないか!?」
「悪かったな」
「ぁ……うふふ。気を付けて。連絡寄こせよ」
「カガリも、頑張れ」
二人はどちらからともなく、身を寄せ合いキスを交わした。
アスランは迎えのヘリに乗り込むと、旅立っていく。それを小さくなるまで、カガリは見つめていた。

 
 

「ここか……」
夕暮れ。ルナマリアは一人、あの場所を訪れていた。オーブ攻防戦の流れ弾により、父を、母を、妹のメイリンを失った場所――。
一面に花の株が埋まっている。戦争の傷跡なんてまるでない。
そのせいだろうか。
「意外と、出ないもんね、涙」
……花束が……違う。傍らに植えられた花が花束に見えたのだ。石碑……慰霊碑だろうか。
その前に、男の人が立っている。
「慰霊碑……ですか?」
「うん。そうみたいだね。よくは知らないんだ。僕も此処へは初めてだから。自分でちゃんと来るのは……。僕は今まで、逃げてたから。自分から」
ひょっとしたら彼も、彼の知り合いを亡くしたのだろうか?
「せっかく花が咲いたのに、波を被ったからまた枯れちゃうね」
その男性が言った。
「誤魔化せないって事かも」
「ん?」
「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす……」
「君……?」
「すみません。変なこと言って」
その男性にお辞儀をして、ルナマリアは踵を反した。
もう、ここに来る事はないだろう……。

 
 

「やっと着いたか」
シャムスが言った。
「心細かったんですか?」
マホ・イサワ少尉が聞く。
「強がるなよ。誰だって味方の所に着きゃほっとする」
「……そうね」
案外素直にマホは頷いた。12歳年上の彼氏の事でも思っているのだろうか?
「よお、お前ら、お疲れさん!」
ネオが休憩所に顔を出した。
「ネオー!」
ミューディーが飛びついていく。
「なんだか基地はごたごたしているようですが」
スウェンが尋ねる。
「ああ。何か作戦があるらしい。だが、うちらには何にも命令は来ていない。まるまる3日間休暇をくれるそうだ。しっかり休んどけよ」
「おー! じゃ、基地のプールバーでも行くかな」
「じゃあ、あたしも付き合う」
「スウェンはどうする?」
シャムスはスウェンを誘った。
「んー。俺は、観測所の見学だ。すまんな」
「いいって。お前は宇宙好きだからなぁ。……DSSD(深宇宙探査開発機構)でも行ければいいんだがな」
「……」

 
 

セトナは被災地の救護活動に勤しんでいた。
「これが被災地……」
でも。
火星の環境も厳しかった。運良くジブリールお兄様の世話になって、安楽とも言える生活もできた。
今度は自分が返さなければ……。
「あ、あんた、ラクス・クラインじゃないか!? プラントの?」
「何だって?」
「プラント?」
いきなり上がったその声に、セトナに視線が集中する。
中には憎しみの篭った視線もある。
ブータニアスがセトナを守るように動く。
「静まれ!」
セトナの護衛が声を張り上げた。
「こちらに居られるのは、ジブリール家ゆかりののセトナ・ウィンタース様だ。断じてプラントのラクス・クライン等ではない!」
「ジブリール?」
「あのコーディネーター嫌いの?」
ロード・ジブリールがコーディネーター嫌いである事は広く知られていた。この場は、その悪評? が役に立ち、周囲のざわつきが静まっていく。
「なぁ、あんた」
一人の老婆がセトナに声をかける。
「ラクス・クラインにそっくりって事はさ、歌もうまいんじゃないかい? 歌っておくれよ、一曲」
セトナはちょっと戸惑ったが、両手を胸の前で組み、静かに歌いだす。
「Amazing Grace…… How sweet the sound…… That saved a wretch like me…… I once was lost, but now I'm found, Was blind, but now I see……」
セトナの歌うアメイジング・グレイスが、静かに流れてゆく……。

 
 

その頃オーブ内閣府――
執務をしていたカガリのところにとんでもない知らせが舞い込んできた。
「そんな馬鹿なッ!? 何かの間違いだそれは!」
「いえ、間違いではございません」
カガリの願いを裏切るようにウナト宰相が言う。
「先ほど大西洋連邦、ならびにユーラシアをはじめとする連合国は、以下の要求が受け入れられない場合は、プラントを地球人類に対する極めて悪質な敵性国家とし、此を武力を以て排除するも辞さないとの共同声明を出しました」
「ぁぁ……」
カガリはため息をつく。

 
 

プラント評議会は紛糾していた。
「全く以て話にならん! 一体何をどう言ってやれば、彼等に分かるのかね」
「何を言ったって分からないんじゃないですか?そもそも最初からそんな気などなかったように思えます。これではっ……」
「何を今更、テログループの逮捕引き渡しなどと。既に全員死亡しているとのこちらからの調査報告を大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」
「その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣とは。とても正気の沙汰とは思えん」
「奴等だって、こちらが聞くとは思ってないでしょうよ。要は口実だ。例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が煽っているのでしょう。宇宙にいるのは邪悪な地球の敵だとね」
「しかし、いくらなんでもこれは無謀です。連合は、本気でこのまま戦端を開くつもりなのでしょうか。今そんなことをすればむしろ彼等の方が……」
「従わなければそうすると言ってきているではないか、現に!」
「月の戦力は無事らしい。被害の大きかったのは赤道を中心とした地域だ。大西洋連方とユーラシアは元気なものさ」
「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」
「しかし……それにしてもこれは……」
「やると言っているのは向こうですよ。我々ではない」
「皆さん」
デュランダルが発言するが、誰も聞いてはいない。
「弱腰では舐められる」
「ともかく、こちらも直ぐに臨戦態勢を」
「いや、それではあまりにも遅い」
「どうか落ち着いて頂きたい! 皆さん!」
無視されて、デュランダルは少しいらついた声を張り上げる。
「お気持ちは解りますが、そうして我等まで乗ってしまってはまた繰り返しです。連合が何を言ってこようが我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません。そうでなければ、先の戦争で犠牲となった人々も浮かばれないでしょう」
「だが、月の地球軍基地には既に動きがあるのだぞ。理念もよいが現状は間違いなくレベルレッドだ。当然迎撃体制に入らねばならん」
「軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります」
「議長!」
「でも、やむを得ませんか。我等の中には今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますしね」
デュランダルは、結局軍の展開を許可した。
「防衛策に関しては国防委員会にお任せしたい。それでも我等は、今後も対話での解決に向けて全力で努力していかねばなりません。こんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウス7を落とした亡霊達の思う壺だ。どうかそのことをくれぐれも忘れないで頂きたい」

 
 

「やぁ、また来たのかい」
観測所の職員は言った。
「すみません。またお邪魔します」
スウェンはすまなそうに答える。
「ははは。いいって。宇宙ってきれいだものな。今度はどこを見たい? どこでも出してやるぞー」

 
 

「デュランダル議長がお会いになると?」
ナーエは驚きの声を上げた。
アグニス達はプラントに到着後、接触は友好的に進んだ。だがこの緊迫した世界情勢の中、すぐに会えるとは思わなかった。
「火星とプラントは友好関係にある。マーシャンにはコーディネーターも多いしな……。だが、いつ開戦してもおかしくない状況で、議長自ら俺達に会うとはな……」
「何か裏があると?」
「わからん。だが、実際会えばわかる事もあるだろう」

 
 
 

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