SEED-IF_4-5氏_29

Last-modified: 2008-10-02 (木) 18:46:32

よし、ドアに挟んで置いた髪の毛には異常はないな。
カガリは安心した。
寝ている間に何かをされる事がここしばらく一番の恐怖だったのだ。
しかしこれでは……神経が参ってしまうな。なんとかして早くここから出ないと。
あらためてカガリは決意した。

 
 

「間もなくポイントです」
「エコーからのシグナルは?」
ラドルは聞いた。
「まだです」

 

「カーゴハッチの用意はいいわね?」
「はい!」
「ポイント通過後はコンディションをレッドに移行します。パイロットはブリーフィングルームへ集合」
「はい」

 

「けど、現地協力員て、つまりレジスタンス?」
ルナマリアはマユに聞いた。
「まあそういうことじゃない?だいぶ酷い状況らしいからね、ガルナハンの街は」
その時、一人の少女が案内されてきた。
「あ、子供……?」
「……」
レジスタンスらしき少女は黙ってきっとルナマリアを睨んだ。
「着席。さあいよいよだぞ。ではこれよりラドル隊と合同で行う、ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦の詳細を説明する。だが知っての通り、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが……ぁぁ……結果は失敗に終わっている。そこで今回は、アスラン」
「え?」
「代わろう。どうぞ。後は君から」
「ぁぁ……はい。ガルナハン・ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況だ。この断崖の向こうに街があり、その更に奥に火力プラントがある。こちら側からこの街にアプローチ可能なラインは、ここのみ。が、敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしていて何処へ行こうが敵射程内に入り隠れられる場所はない。超長距離射撃で敵の砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはモビルスーツの他にも陽電子リフレクターを装備したモビルアーマーが配備されており、有効打撃は望めない。俺達はオーブ沖で同様の装備のモビルアーマーと遭遇したな?」
「ぁ!」
「はい!」
「そこで今回の作戦だが……ミス・コニール」
「あ、ああ。ここに……」
図が映し出された。
「本当に地元の人もあまり知らない坑道があるんだ」
コニールが説明する。
「中はそんなに広くないから、もちろんモビルスーツなんか通れない。でも、これはちょうど砲台の下、すぐそばに抜けてて、今、出口は塞がっちゃっているけどちょっと爆破すれば抜けられる」
「モビルスーツでは無理でもインパルスなら抜けられる。データ通りに飛べばいい」
「ええ!? そんな、真っ暗闇の中を行くなんて!」
マユは驚きの声を上げた。
アスランはそちらを向くと微笑んで言った。
「俺を信じろ。信用できないか?」
「い、いえ……」
「君達が正面で敵砲台を引き付けろ。敵のモビルアーマーが必ず出てくるはずだ。俺は坑道から奇襲してそいつを倒す。盾さえなくなれば……攻略は可能だ。なんならお前達だけで攻略しちまってもいいぞ」
冗談めかしてアスランは言った。

 

ザフト軍は再びガルナハン・ローエングリンゲートの攻略に向かう。ミネルバと共に。
「ルナマリア達は? じき作戦開始地点よ? アーサーは? 何をしてるの?」
「ぁはい。間もなくポイントB。作戦開始地点です。各艦員はスタンバイしてください。トライン副長はブリッジへ」

 

「ん? なんだい? ミス・コニール?」
なにかいいたそうなコニールにアスランは聞いた。
「前にザフトが砲台を攻めた後、街は大変だったんだ。それと同時に街でも抵抗運動が起きたから」
「ぁぁ……」
「地球軍に逆らった人達は滅茶苦茶酷い目に遭わされた。殺された人だって沢山いる。今度だって失敗すればどんなことになるか判らない。だから、絶対やっつけて欲しいんだ!あの砲台、今度こそ!」
「……」
「だから……頼んだぞ! うぅぅ……」
「任せろ」
アスランは優しくコニールの肩に手を置いた。
「俺達は勝つ!」

 
 

「なぁ、キラ、戦争を止めるにはどうすればいいんだろう?」
「うーん、むずかしいよね」
「オーブ軍はさぁ、なんとか巻き込みたくないよな? お前もそう思うだろ?」
「うん」
「また、オーブ本土で戦なんてごめんだ。お前達と一緒だった子供達もどうなるかわからん」
「うん、そんな事には絶対させない! 僕にはフリーダムがある!」
「前は、だめだったろ? アスランのジャスティスまで居てさ」
「あ……」
キラがうつむく。
「国元でタツキ・マシマがうまくやってくれるといいんだが……」
「マシマ家なんて! 地球連合と同盟を結んだじゃないか!」
キラは怒った様子を見せた。
「そうだよな。それを思うとウナトはうまくやったもんだ。よく中立を守ってくれてたよ。本当に彼を失った事はオーブに痛手だな」
「そうだね」
「とにかく、何か考えようよ、なんとかなる。キラ。今までもそうだった。そうだろう?」
カガリはキラの怒りにまともに対応せず、受け流す。今までだったら言い返していただろうが。そして気安そうに肩に手を置く。微笑みかける。
「うん、カガリ!」
カガリは、乗員と積極的に、気楽な打ち解けた様子で話すようになっていた。
気づかれてはいけない、気づかれては……。仲間になったと思わせなければ、どんな薬を使った洗脳が待っているかもしれないのだ
カガリの精神は、外見とは逆に非常に注意深く臆病になっていた。
キラと話すのは基本的に楽だった。病人だと認識していればいいのだ。病人に対するように話せばいい。それになんと言っても姉弟。よく話すのに疑いの目を向けるものは居まい。
「あら、お話ですの? 混ぜてくださいな」
ラクスだ!
カガリの警戒モードが最大になった。背中に冷や汗が流れる。
こんな事! 国を背負って立つ重圧に比べれば! サハク姉弟を見習え!
カガリは更に父ウズミやウナトを思い出し、心を奮い立たせ、なんでもないように言った。
「ああ、オーブ軍は、なんとか戦闘に巻き込みたくないなってさ。ラクスも、そう思わないか? 地球軍とザフトの戦いにオーブが巻き込まれるのは、私は嫌だ」
「ええ、その通りですわね」
微笑を作ってカガリはラクスに話しかける。
注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ注意しろ。
緊張するな汗をかくなゆったり構えろ微笑を作れ。
その光景を外部の者が見たら、仲のよい友達が3人おしゃべりしているとだけ映ったろう。

 
 

「ポイントBです」
「よーし、作戦を開始する。ワグリー、ミネルバに打電。モビルスーツ隊発進準備」

 

「インパルス発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーへ。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。中央カタパルト、発進位置にリフトアップします。コアスプレンダー全システムオンライン」
シンがアナウンスをする。初めての中央カタパルトの使用だ。
「ブリッジ遮蔽。対モビルスーツ戦闘用意。インパルス発進後、ヘズモンド、ワグリーの前に出る」
「シウス、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャーワン、セブン、1番から5番、全門パルシファル装填」

 

『X23Sセイバールナマリア機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルト、スタンバイ確認。レイ・ザ・バレル、ブレイズザクファントム発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレンダー発進、どうぞ』
「アスラン・ザラ、コアスプレンダー出る!」
『カタパルトエンゲージ。チェストフライヤー射出、どうぞ。レッグフライヤー射出、どうぞ』
チェストフライヤーとレッグフライヤーがコアスプレンダーの後を着いて行く。

 

『進路クリアー。セイバー発進、どうぞ!』
「ルナマリア・ホーク、セイバー、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
「マユ・アスカ、ザク、行きます!」
「ショーン・ホワイト、ザク、出る!」
「ゲイル・リバース、バビ、行きます!」
続いてセイジのバビも発進していく。

 

「よーし、展開!」

 

「上昇。タンホイザー起動。照準の際には射線軸後方に留意。街を吹き飛ばさないでよ。モビルアーマーを前面に誘い出す」
「はい! タンホイザー照準、敵モビルスーツ群!」
「フライマニ兵装バンク、コンタクト。出力定格、セーフティー解除」
「てぇ!」
「うぅ……」
衝撃波が収まった時、ミネルバが見たのは敵モビルアーマーに守られて無傷な敵砲台であった。

 

「行くわよ! できるだけ引っ掻き回す!」
「「了解!」」

 

「敵砲台、本艦に照準!」
「機関最大! 降下! 躱して!」
「はい!」

 

敵砲台から陽電子砲が放たれる。
「うぅ……」
「ぁ……」

 

「この隙に!」
ルナマリアは敵モビルスーツを掻い潜り、敵砲台を狙う。
敵モビルアーマーが下がっていく。
その時! 爆発が起こった!
「アスラン!」
敵砲台至近からコアスプレンダーが飛び出す。そして、次々に合体し、インパルスになる。
「うおーー!」
アスランはM71-AAK フォールディングレイザー対装甲ナイフを取り出し、操縦席らしき所を、エンジン部分らしき所を狙い、敵モビルアーマーに突き刺す! 切り開く! そして開いた破孔に胸部のCIWSをぶちかます!
敵モビルアーマーは機能を停止した。
「ミネルバ! フォースシルエットを!」
敵モビルアーマーを蹴り落としながらアスランは叫ぶ。
敵砲台は地中に収納されていく。
アスランはそれにかまわず発射されてきたフォースシルエットと合体する。
「ああ!?」
ルナマリアは敵砲台にまっすぐ突っ込もうとする。
「ルナマリア、砲台なんかほっとけ! すぐに退避しろ! ミネルバ! 俺達が退避したら陽電子砲を敵砲台にぶちかませ!」
アスランがルナマリアを止める。
ルナマリア達は退避していく。
そして――ミネルバから陽電子砲が放たれる!
「うぅ……」
土煙が晴れた時、砲台があった山頂は消滅していた。

 

「ようし、ラドル隊とともにガルナハンの解放に向かう」
「「了解」」
……だが、ルナマリア達が戦う事はなかった。レジスタンスが蜂起して、地球軍は撤退して行ったのだ。

 

「連合は皆殺しだ! 一人も逃がすな!」
ガルナハンの町の者達は、狂喜して、逃げ遅れた地球軍兵を追い回した。なにしろ逃げ遅れた地球軍兵士のその中には昨日まで傍若無人に振舞って憎まれていた者達が多く含まれていたのだ。

 

『ご苦労だったわね、アスラン。あとはラドル隊に任せていいわ。帰投してちょうだい』
「……」
『どうしたの? アスラン?』
「地球軍の撤退が早すぎます。町に誘い込む罠かも知れません。町の周囲に気をつけていてください」
『わかったわ。あなた達も気をつけて帰って頂戴』
「はい」
「……アスラン」
ルナマリアがアスランに声を掛けてきた。
「どうした? ルナマリア」
街のあちこちで、地球軍の軍旗が焼かれたりしている。
……嫌な物を見てしまった。
「アスラン、あれ、地球軍の人達が、殺されてる……いいんですか? ガルナハンの人たちにひどい事してたって言っても。裁判も無しに、こんなリンチ」
「……今は、しかたないだろう」
アスランは苦い声で言った。
「ここの人達にとっては、ザフトも連合もよそ者でしかない。なにかあれば彼らは敵に回る。……だが、この事は、ラドル隊に話をしておく。地元の人と繋がりを保っていたラドル隊から言ってもらう方が良いだろう」
「了解。じゃあ、帰艦しましょう」
「ああ」
ルナマリア達はモビルスーツから降りる事無しにミネルバへ向かった。
みんなに担ぎ上げられて笑っていたコニールの笑顔が、ルナマリアには素直に喜べなかった。

 
 

「ふーん、なるほどねぇ」
地球軍がガルナハンの街中に仕掛けた監視カメラ、近くの高台に設置した望遠カメラ、そして無人偵察機グローバルホークから送られて来る画像を見ながら、ネオは呻った。
「こりゃまた、ジブリール殿が喜ぶかな? いいネタが出来たと。ま、やられてる奴らは自業自得だけどね」
だれが思いつくだろう? 逃げ遅れさせられた者達は皆部隊でも鼻つまみ者だったと。
地球軍にとっては懐が痛む話では全然なかった。
ネオは、自分の謀略のもたらした結果を眺め続ける。
しばらくの後、ネオはガンバレルユークリッドを発進させた。

 
 

「艦長! 東北東方面にアンノウン急速接近!」
「なーに? 警戒態勢に入れ!」
「速い、速いです!」
「迎撃体制に入れ! コンディションレッド発令! モビルスーツは?」
「間に合いません!」

 
 

「あんたらの行為が気に入らないんでね、予定には無かったが攻撃させてもらう! まったくビクトリア大虐殺の時と変わってないよなぁ! あんたらは!」
それは、あるいは謀略のために犠牲にした者達への贖罪行為だったのかもしれない。
ネオはミネルバにまっすぐ向かい、すれ違い様に本体の機関砲とビーム砲、ガンバレルのビーム砲を叩き込む。
「ふん、今はこれで済ませてやる。仮初めの勝利に浮かれていろ。ガルナハンなんぞすぐに取り返してやる!」
ネオは去って行った。
この攻撃による機関部付近の損害が、この戦いで唯一ミネルバが受けた損害であったが、その修理には3日を要す、意外に大きな損害であった。

 

「アスランの警告が無ければもっと損害を受けていたかもしれないわね」
「あれは、ミネルバを狙った罠だったのでしょうか」
アーサーがタリアに尋ねた。
「うーん、そう言う感じの攻撃でもなかったけど。それにしても……」
タリアはため息をついた。
「なかなか完勝させてくれないものね、地球軍も」

 
 

ここはローマ周辺。ユニウス7の落下で、ローマは不可思議にも何の被害も受けなかったが、周辺の街にはかなりの被害が出ていた。
「まぁ、ディアゴの知り合いの方ですの?」
「あ、ああ……そうでございます~」
ディアゴはロウを見るなりセトナに向かって土下座した。
「まぁ、どうしたんですの?」
「実はそいつ、地球降りる時に俺のモビルスーツもってっちゃってさー」
「まぁ! いけませんよ、ディアゴ!」
「お許しをー!」
「まぁ、いいっていいって。返してもらえりゃ。役に立ったろ、あいつ」
「ああ、大いに役に立った。おかげでセトナ様に会えた。礼を言うぞ。テラナー」
「へへ、そう言ってくれりゃ、ジャンク屋冥利に尽きるぜ! アグニス達に聞いたよ。お前、この人を守るんだろう?」
「ああ」
「じゃあ、俺の持ってきたシビリアンアストレイジャンク屋ギルドカスタムやるよ。マーズジャケットも付けられるぞ」
「いいのか?」
「ああ。セトナ様は被災者のために頑張ってる。俺、そう言う人みると応援したくなってな!」
「ありがとう! お前はいい奴だ!」
「おーい」
ひょこっとジェス・リブルが顔を出した。
「あら、ジェスさん、どうしましたの?」
「おおー! ジェスじゃねえか! 元気でやってるか?」
「ああ、おかげさまで! ロウもここに来たとはなー」
「まぁ。ロウさんともお知り合いだったのですね。あらら、そう言えばお話はなんですの?」
「あの、ラクス・クラインが黒海沿岸の都市ディオキアに来るんだってさ。それをちょっくら取材して来るわ」
「まぁ」
「良かったらあんたも行くか?」
「いいえ」
セトナは首を振った。
「興味はありますけど、今は被災者の救援の方が大事です。ラクスさんとは、もし出会う運命ならまた出会えましょう」

 
 
 

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