SEED-IF_4-5氏_28

Last-modified: 2008-09-25 (木) 18:22:26

「マハムール基地より誘導ビーコン捕捉しました」
シンが告げる。
「ビーコン固定。入港準備」
タリアはそれを聞いて命令する。
「ビーコン固定。入港準備開始します」
「ふぅ」
ティモール海の海戦からペルシャ湾奥のマハムール基地まで戦闘はなかったが、気は抜けなかった。
皆ほっとする瞬間である。

 

整備も戦闘準備体制から解かれて、やれなかった事をやってしまおうと活気に満ちる。
『CPU、生化学メインテナンス対チームに伝達。ザクの脳幹冷却システムの交換作業は15時に変更された』
「注文通りセンサーの帯域を変えてみた。確認してくれ」
令は頷くとコクピットに上がっていった。
「あ、アスランさん」
マユがアスランに声をかける。
それをルナマリアは複雑な顔で見つめていた。

 

――どうにも引っかかるのよね。ルナのアスランさんに対する態度。
――ば、馬鹿言ってんじゃないわよ。叩かれたのよ? 私は?
――その後抱きついたよね? 叩かれた事気にもしないで。
――それは……
――ねぇ、ルナ、好きな人作りなさいよ。レイでもいいし。シンでもいいわ。そしたら、あたし安心できる。

 

マユとの会話が蘇る。
「ばっかみたい」
ルナマリアは整備に集中した。

 

「でもいいよなぁ軍本部の奴等。ラクス・クラインのライヴなんてほんと久しぶりだもん。俺も生で見たかったぁ」
ヴィーノがヨウランに言う。
「けど、だいぶ歌の感じ変わったよな、彼女」
「ああ、うん」
「俺、前々から今みたいな方がいいんじゃないかと思ってんだけどさぁ。なんか若くなったって言うか、可愛いよな最近」
「それに今度、衣装もな~んかバリバリ?」
「そうそう! そしたらさぁ胸、けっこうあんのなあ。今度のあの衣装のポスター、俺絶対欲しい!」
その時、アスランが二人の後ろに現れた。
「「ああッ!」」
「インパルスの整備ログは?」
「……ああっとこれです!」
「ありがとう」
アスランは立ち去る。
「あっはは……」
「はぁ……」
「婚約者だもんなぁ。いいよなぁ」
「ちぇ。ケーブルの2、3本も引っこ抜いといてやろうか? インパルス?」
「聞こえてるぞ二人とも」
アスランが振り向いて、言った。
「あっ!!」
「さっきのも全部」
「「あぁすいません!」」
アスランは苦笑した。

 

『ナブコムオンライン。コンタクト。メリットファイブ。LHM-BB01ミネルバ、アプローチそのまま』
「コントロール、BB01了解」
ミネルバは無事にマハムール基地に入港した。

 

『入港完了。各員速やかに点検、チェック作業を開始のこと。以降、別命あるまで艦内待機。ザラ隊長はブリッジへ』

 

タリアとアスラン達は挨拶と打ち合わせのために艦外へ赴く。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」
「副長のアーサー・トラインであります」
「特務隊、アスラン・ザラです」
「アスラン……ザラ……」
マハムール基地の司令が何か思いついたように言う。
「アスランってクルーゼ隊の?」
基地の兵士達もざわつく。
「はい」
「いや、失礼した。マハムール基地司令官のヨアヒム・ラドルです。遠路お疲れ様です」
「いいえ」
「まずはコーヒーでもいかがです?ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんでね」
「ええ、ありがとうございます」

 
 

「なんだと? アスハ代表が攫われただと?」
「ああ。どうやらそうらしい」
ユウナはアグニス達に告げた。
「見当は付いているのか?」
「ああ……。カガリと一緒に前大戦を戦った仲間がいる。地球連合もプラントの者もいた。戦後、オーブに亡命した者達がいた。彼らが、行方不明だ」
「では、彼らと?」
「おそらくね」
「代表が進んで着いて行ったと言う事は考えられないのですか?」
ナーエが尋ねる。
「それはない。カガリは責任感のある娘だ。確かに父ウナトが亡くなった後、オーブは世界安全保障条約機構に加盟する事になったが、それで失踪するなんて、逃げ出すなんてありえない」
「ウナト様の後任の、マシマ様ですか? 彼は信頼できると?」
「ああ、自分の実力をよく把握し、驕らない人だ。世界安全保障条約機構への加盟についても、自分の力では中立を守れないと思ったからだ。僕は信頼するよ」
「そうか……」
「これから、君達はまだまだ世界中を回るのだろう?」
「ああ」
「では、頼む。カガリの情報を探してくれ」
ユウナはアグニス達に頭を下げた。
「頭をお上げください。当然、我々も協力されてもらいますよ」
「ありがたい! では、オーブからオブザーバーと言う形で2名随行させたい。……入ってきてくれ」
ユウナの声で2名の者が入ってきた。
「ガルド・デル・ホクハです」
「サース・セム・イーリアです」
「お前達、どうか、探しにいけない僕に代わってよろしく頼む」
二人に向かってユウナは頭を下げた。
「お任せください」
ガルドは答えた。

 
 

「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」
出されたコーヒーに口をつけながらタリアは言った。
「ええ。流石にスエズの戦力には迂闊に手が出せませんでねぇ」
「はぁ……」
「どうしても落としたければ前の大戦の時のように、軌道上から大降下作戦を行うのが一番なんですが。何故かその作戦は議会を通らないらしい」
「こちらに領土的野心はない。と言っている以上、それは出来ないって事かしらね」
「いたずらに戦火を拡大させまいとする今の最高評議会と議長の方針を私は支持していますが。ふん、だが、こちらが大人しいことをいい事にやりたい放題もまた困る」
「と言うと? 何かあると言うこと? スエズの他に」
「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。だが今はそれが思うように出来ない。何故か。理由はここです」
「ユーラシア西側地域か」
「ええ。インド洋、そしてジブラルタルがほぼこちらの勢力圏である現在、この大陸からスエズまで地域の安定は地球軍にとっては絶対です。でなきゃ孤立しますからね、スエズ。なので連中はこの山間、ガルナハンの火力プラントを中心にかなり強引に一大橋頭堡を築き、ユーラシアの抵抗運動にも睨みを利かせて、かろうじてこのスエズまでのラインの確保を図っています。まあおかげでこの辺りの抵抗勢力軍は、ユーラシア中央からの攻撃に曝され南下もままならずと、かなり悲惨な状況になりつつもありましてね」
「しかし逆を言えば、」
アスランは口を挟んだ。
「そこさえ落とせばスエズへのラインは分断でき、抵抗勢力軍の支援にもなって間接的にでも地球軍に打撃を与える事が出来ると、そう言う事ですね」
「ぉぉ!」
「ま、そう言う事だ。だが向こうだってそれは解っている。となれば、そう簡単にはやらせてはくれないさ。こちらからアプローチできるのは唯一この渓谷だが、当然向こうもそれを見越していてね。ここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している。前にも突破を試みたが結果は散々でね」
「ぁぁ! あの時みたいな……」
アーサーはオーブ近海での戦いを思い出した。
「だが、ミネルバの戦力が加わればあるいは」
「なるほどね。そこを突破しない限り私たちはすんなりジブラルタルへも行けはしないと。そう言う事ね?」
「ぇ?ぁぁ……」
「ま、そう言う事です」
「……」
「私達にそんな道作りをさせようだなんて、一体どこの狸が考えた作戦かしらね」
「ん?」
「ま、いいわ。こっちもそれが仕事といえば仕事なんだし」
「ふふ。では、作戦日時等はまた後ほどご相談しましょう。こちらも準備がありますし。我々もミネルバと共に今度こそ道を開きたいですよ」

 
 

「あ……」
甲板に出ていたルナマリアが人の気配に振り向くと、アスランがいた。
「……」
「……」
「どうしたんだ? 一人でこんなところで」
「どう……って事もないですけど」
「最近話しかけて来ないな。気にしてるのか? 叩いた事?」
「いえ、あの時は民間人が敵意向けてきた事の方がショックで」
言える訳ないじゃない! アスランと話すとマユが機嫌悪くなるだなんて。
「そうか。嫌われてはないんだな」
「嫌ってなんか! ……いません」
やばい! 頬が赤くなる!
「そうか。……あー。ティモール海ではなんで君を叩いたかわかるか?」
「その、勝手な事はするなと」
「ああ、それもある。だが……オーブのオノゴロで家族を亡くしたと言ったな君は」
「はい」
「考えなかったか? あの時力があったなら、力を手に入れさえすればと。民間人を助けようと思ったのは代償行為じゃなかったのか?」
「そうかも、しれませんけど。なんでそんな事言うんです?」
「自分の非力さに泣いたことのある者は、誰でもそう思うさ。多分。けど、その力を手にしたその時から、今度は自分が誰かを泣かせる者となる」
「……」
「それだけは忘れるなよ。俺達はやがてまたすぐに戦場にでる。その時にそれを忘れて、勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ。そうじゃないんだろ?君は」
「……」
「俺達は軍としての任務で出るんだ。喧嘩に行くわけじゃない」
「はい……」
「ならいいさ。それを忘れさえしなければ君は優秀なパイロットだ!」
「ぁ……ありがとうございます」
「ははは。柄にも無い事言ったかな」
「……アスラン……あの……私……」
「なんだい?」
「……」
「……」
「……」
「……」
あ、何見詰め合っちゃってるんだろう!
「あ、な、なんでもないです! 失礼します」
甲板から艦内へ戻る。
ルナマリアの鼓動はまだドキドキしていた。

 
 

「大丈夫か? ラミアス艦長?」
頭痛が起こったマリューをカガリは部屋に送ってきていた。
「ごめんなさいね、いつもはノイマンが送ってくれるのだけど」
「ん?」
ふとカガリはゴミ箱の中を見た。
その、シートに見覚えがあるような気がしたからだ。
あれは……精神病薬じゃないか!
「これ……」
カガリはシートを拾い上げた。精神病薬だ。
「一日どれくらい飲んでいるんだ?」
「寝る前に1シート10錠程度よ」
……! 一時にそれではせん妄などの副作用が起きても仕方の無い量だ! まさかそれを利用して洗脳を……?
「それを飲むとねぇ、よく眠れるのよ」
当たり前だ! 副作用に眠気に注意とある。眠気を起こす薬だ。
カガリは、キラの治療のために何かないかと色々調べた時にその薬の存在を知っていたのだ。
「飲みすぎる危険性は無いか? 依存してしまう……」
「大丈夫よ。その時に飲む分だけ、持って来てもらってるから」
「薬は、誰が持ってきてくれるんだ?」
「え、ノイマンだけど?」
「……」
「カガリさん?」
「いや、なんでもない」
あんな薬飲まされてたまるものか! 何とかしなきゃ……
カガリは焦り、決意した。

 
 
 

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