SEED-IF_4-5氏_35

Last-modified: 2008-11-12 (水) 18:06:51

「回避! 下げ舵15! 降下!」
地球軍の攻撃に、マリューが叫ぶ。
「バルトフェルドさん! アークエンジェルを頼みます!」
カガリの予定に無い突然のタケミカズチ着艦に呆然としていたキラが叫ぶ。
「了解! でも俺、キラ程の腕はないからねぇ。そちらもフォロー頼みますよ、ラミアス艦長」
「了解。ムラサメ発進後、本艦はミネルバに向かいます。オーブと地球軍を牽制して」
「はい」
マリューの言葉にノイマンは冷静に答えた。

 

「進路クリアー。バルトフェルド隊長、ムラサメ発進よろしいですわ」
「アンドリュー・バルトフェルド、ムラサメ行くぞ! でぇい!」

 

「俺はキラ程上手くないと言ったろうが! 落としちゃうぞ!」
「うわぁ!」
バルトフェルドはアークエンジェルを攻撃せんとする地球軍のモビルスーツを落としていく。

 

「ミネルバ右舷へ! モビルスーツ4!」
「間を狙える?」
「やります!」
「機体に当てないでよ? ゴットフリート2番、てぇ!」

 
 

「なんなの? あいつ!? 一体どっちの味方よ!」
ミネルバに取り付こうとしたミューディーが罵る。
「一旦退避だ。仕切りなおす!」
スウェンが言った。

 
 

キラはフルバーストで地球軍のモビルスーツを次々に撃墜していく。

 
 

「か、艦長! あの艦が……」
「始めはこちらの艦首砲を撃っておきながら……どう言う事なの? まさか本当に戦闘を止めたいだけなんて、そういう馬鹿な話しじゃないでしょうね?」
アークエンジェルに救われた格好のタリアは訝しがる。

 

「ミネルバ以外の艦艇に射撃を集中しろ。その方が効率的だ」
ユウナが命じる。

 
 

「左舷前方、クラオミカミ級、あれの足を止める! バリアント、てぇ!」
ミネルバを追い込もうと運動を続ける護衛艦を見て、マリューが命じる。

 

「うわぁ!」
クラオミカミはバリアントによって作られた大波に、体勢を立て直すのに必死になる。

 

「ちっ」
2隻のクラオミカミ級でザフト艦艇を追い込もうとしていたユウナは舌打ちした。

 
 

「くっそー、冗談じゃないぜ」
ハイネが罵る。
「キラやめろ! 何故お前がこんな!」
アスランは必死にキラと通信を試みるが通じない。
「手当たり次第かよ、この野郎生意気な!」
キラは向かって来るセイジのバビの翼を撃ちぬいた。
「はッ!? ぐわぁーーー!」
「セイジ!」
バビはアスランの声も空しく墜落していく。
「ぅ……セイジ……! キラ…!」

 
 

ミネルバと地球軍の間が開き、砲火が静まると、フリーダムとアークエンジェルは撤退していった。
まるで天上からの使者が帰っていくかのように……

 
 

「……資材は直ぐにディオキアの方から回してくれると言う事ですが、タンホイザーの発射寸前でしたからねえ。艦首の被害はかなりのものですよ」
「はぁ……」
ここはダーダネルス海峡に近い港。ミネルバをはじめ親ザフト同盟軍はここまで撤退してきた。
タリアは溜息をついた。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
「そうね。兎も角、出来るだけ急いで頼むわ。いつもこんな事しか言えなくて悪いけど」
「いえ、解ってますよ、艦長」

 

「あいつらのせいよ……」
「ん!」
「あいつらが変な乱入して来なきゃセイジだって……」
「ルナ……」
セイジのバビの機体は翼を破壊されただけだった。だが……高所からの墜落によりセイジは死亡した。
「大体何よあいつら! 戦闘をやめろとか。あれがほんとにアークエンジェルとフリーダム!? ほんとに何やってんのよオーブは! 馬鹿なんじゃないの?」
「ルナ!」
マユがたしなめる。
「くっ!」
アスランはセイジの面影を思い出そうとする。ああ、もうぼんやりしていてわからない。前に戦死したタケダの顔も……どっちがどっちだか判らない。なぜだかミーアのマネージャーの顔しか浮かんでこないのはどう言う訳だ?
「くっそー! く……」

 
 

戦闘後、当然ネオはタケミカズチに乗り込んできた。
「さて、どう言う事だかご説明いただきたいですな。……お初にお目にかかります。アスハ代表……?」
ネオはカガリに言った。
「ああ。私は、アークエンジェル一味にかどわかされていた。これは国の信用に関わるので秘密にして欲しい」
「誘拐?」
「ああ、そうだ」
「しかし……アークエンジェルとフリーダム、どこに隠してあったので?」
「それは知らない」
カガリは平然と嘘を言った。
「私はマルキオ導師の家に行った所から意識を失って、目覚めたら、もうアークエンジェルだった」
「マルキオ導師が怪しいですな」
「と言うか。マルキオ導師はおたくの外交官だろう?」
「くっ。戦闘を止めろとは、どう言う訳で? お言葉によってはお国もただでは済みませんよ?」
「彼らから脱出する方便だ。戦闘を止めたいとでも言わなければアークエンジェルから出してくれなかったろう」
「彼らの目的は?」
「戦闘を止めたい、だそうだ。戦争を止めたいだと」
「しかしだねぇ! 彼らに撃墜されたモビルスーツの数わかりますか!? 急所こそ外してある。ああ、すごい腕ですよ。だがね、ほとんど高空から墜落死ですよ。戦闘を止めたいと言うのは、戦う両者を滅ぼすとの意味か!」
「しかたない」
カガリは首をすくめた。
「彼らは心を病んでいる」
「心を病んでいる?」
「ああ。急所さえ外しておけば自分は人殺しじゃないと信じて疑わない。病んでいるんだ。こんな事なら、早く病院に入れるべきだった」
どこか突き放した口調でカガリは断言した。
「彼らとは……知り合いなのか?」
「うっ……」
「どうも……フリーダムのパイロットは先の代表首長ウズミ様の隠し子だったようで」
「え!?」
カガリが言葉に詰まると、ユウナは助け舟を出した。
「そんな訳でオーブ側も遠慮がありまして。後は……お察しください」
ユウナは困ったように両手を広げ、肩をすくめた。
ユウナが話している内にカガリは自分を立て直した。
「だから、モビルスーツは退かせろと言った。砲撃はしていいとも言ったぞ。私は。邪魔をする方法は聞いていたんだ、私は。砲撃によるアークエンジェルからの被害は微々たる物のはずだ。違うか?」
カガリは言葉を続けた。
「うっ」
ネオは言葉に詰まった。
ユウナが口を出した。
「まぁ、今後の事を前向きに考えましょう。ミネルバ以外の艦には撃沈及び再起不能の損害を与えたと判断します。ミネルバは逃がし、残った黒海を楽に我らが頂く。どうです?」
「そう言う訳にもいかん。が、考慮してもいい。だが、アークエンジェル、討ってよろしいか?」
ネオの目が鋭く光った。
もしアスハ代表が躊躇うようなら……。
「討ってくれ。地球軍が討てるもんならな。邪魔などしない」
カガリはなんの躊躇もなく言った。
「まず現状の戦力では無駄だと思うが。オーブとしては相手するのはごめんこうむりたい。私はアークエンジェルを討つために核ミサイルを用意しろと言いたくなった程だ。逃げるのに成功した時は」
……まったく。妙に親近感が沸くのは何故だろう。この代表には。追求はここら辺にしといてやるか。
ネオは仮面の下で苦笑した。

 
 

「え? あの艦の行方を?」
タリアはアスランの要請に驚いた。
「はい。艦長もご存じのことと思いますが、私は先の大戦時ヤキン・ドゥーエではあの艦、アークエンジェルと共にザフトと戦いました。おそらくはあのモビルスーツ、フリーダムのパイロットも、あのアークエンジェルのクルーも、私にとっては皆よく知る人間です。だからこそ尚更この事態が理解できません。というか納得できません」
「それは確かに私もそうは思うけど」
「彼等の目的は地球軍に与したオーブ軍の戦闘停止、撤退でした。しかし、ならばあんなやり方でなくとも、こんな犠牲を出さなくとも手段はあったように思います。彼等は何かを知らないのかもしれません。間違えているのかもしれません。無論、司令部や本国も動くでしょうが、そうであるなら彼等と話し解決の道を探すのは私の仕事です」
「それは、ザフトのフェイスとしての判断と言う事かしら?」
「はい!」
「なら私に止める権限はないわね。はぁ。確かに無駄な戦い。無駄な犠牲だったと思うもの。私も。あのまま地球軍と戦っていたらどうなっていたかは判らないけど。いいわ、分かりました。貴方の離艦了承します。でも、一人でいいの?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

「なに?どうしたの?」
アスランが出撃したのを見てルナマリアは聞いた。
「さぁ? フェイスの仕事とかなんとか」
「ふーん」

 

「はい」
ノックの音にタリアは答えた。
「レイ・ザ・バレルです。よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
部屋に入ってきたレイはデータディスクをタリアに差し出した。
「ん?」
タリアは怪訝そうな顔をした。

 
 

「カガリ、アークエンジェル一味はどうするつもりだい?」
ユウナはカガリに尋ねた。
「……難しいな」
カガリはむっつりと答える。
「国際指名手配をするつもりだが、もう少し考えたい」
「もしかして弟君の事を考えてるのかい? カガリは優しいねぇ」
「いや……問題はラクスだ」
「ラクス・クライン? そのまま、指名手配してしまえばいいのでは? プラントにもラクス・クラインがいる。混乱させられるかもしれない」
「なぁ……ラクスを……」
「なんだい?」
「……ん、いや、いい」
カガリは思った。自分はラクスが怖いのだと。
そして……自分は何を言おうとした? 人一人の命を奪う命令を出しそうになった。
今更、かな。アフリカじゃザフト兵の命を狙ってたじゃないか。
しかし、やはり踏ん切りが付かない。ラクスの底が知れないのだ。仮にもオーブ代表首長を、前大戦を一緒に戦った仲間をドラッグ漬けにするなどまともな精神ではない。
それに、私を言うなりの人形にしたところで何をするつもりだったのだ? オーブ軍の戦力など大した物でもないのだし。不審に思う者も出るだろう。
それに、小耳に挟んだ、ラクスを支援する組織だとか言う『ターミナル』。どれだけの規模なんだ? まさかオーブにも手が入っているのでは?
うかつには手が出せない……
カガリの身体に一気に倦怠感が襲ってきた。

 
 

アスランは人気の無いところにインパルスを隠し、車を借りた。
ナビゲーションと検討しながら、アークエンジェルが隠れていそうな所を考える。
「ん? ミリアリア!」
歩道に、知った顔を見かけた。
そうなのか?
「ぁ…?」
その女性が振り向く。
「ミリアリア・ハウ?」
サングラスを外して、もう一度問い掛ける。
「アスラン・ザラ?」
その女性はやっぱりミリアリアだった。

 

「そう。それで開戦からこっちオーブには戻らずザフトに戻っちゃったって訳?」
「ぁぁ、簡単に言うとそう言う事だ」
「……」
「ぁ…向こうではディアッカにも会ったが」
ミリアリアの沈黙が辛くてアスランはディアッカの名前を出した。
「ええ?」
ミリアリアは露骨に嫌な顔をした。
「ぁ……」
失敗したか!? ディアッカ、お前何をした!?
アスランは焦った。
「はぁ……」
「それは兎も角アークエンジェルだ。あの艦が一体何でまたこんな所で。あの介入のおかげで……だいぶその……」
「混乱した?」
「ぇ?」
「知ってるわよ。全部見てたもの、私も」
「……混乱したし、死人も出た! アークエンジェルがミネルバの陽電子砲を撃った時に! それ以外にも!」
「ふーん」
「……」
「でもアークエンジェルを探してどうするつもり?」
「ぅ……話したいんだ。会って話したい。キラと」
「今はまたザフトの貴方が?」
「それは……」
「それに、どうやって探すつもりなの? ただ辺りをうろうろしてるだけ?」
「うっ……街で、何か補給したんじゃないかと。聞き込みに回るつもりだ」
「ふぅ、非効率ね。いいわ。手がない訳じゃない。貴方個人になら繋いであげる。私もだいぶ長いことオーブには戻ってないから詳しいことは分からないけど。誰だってこんな事ほんとは嫌なはずだものね。きっとキラだって」
「ありがとう!」
アスランはミリアリアに手を合わせた。
――ふいに、疑念が兆した。
……ところで、なんでオーブを離れてたミリアリアがアークエンジェルへの連絡方法を知っているのだろう。自分には何も……オーブで2年も暮らしていたのに。
アスランは軽くショックを受けた。

 
 
 

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