SEED-IF_4-5氏_48

Last-modified: 2009-02-11 (水) 00:45:12

「なぁ、セトナと言う娘をどう考える? 経歴を洗ってみたが、作られた偽者ではなさそうだが」
バルトフェルドがラクスに尋ねた。
ラクスは親指を噛み締めた。
こんな事ならミリアリアも洗脳しておくべきだったかとラクスは心の中でつぶやく。
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔同じ顔嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……
「おい、ラクス」
ラクスははっと己の想念から覚めた。
いや、セトナと言う娘の事など知らなかったのだ。どうしようもなかったとラクスは吹っ切った。
「……ただの、そっくりさんにすぎませんわ! ロゴスと繋がりがあるのでしょう? そんな娘、気にする事など!」
「そうかい。それならそれで別にいいんだ」
だけど……自分と同じ顔の少女が存在すると言うのも嫌な物だ。それが自分にとって邪魔になりそうなら特に。ターミナルに命じてサイオキシン中毒者を送り込む手はずを整えておいた方がいいかもしれない。
「おい、ラクス」
再び自分の考えに浸っていた事にラクスは気づいた。
「なんでもありませんわ。それより、カガリさんを手中から失った事による計画の変更、よろしくお願いします」
「ああ、わかっているよ。だが、オーブはもうあてにしない方がいいかもな」
バルトフェルドはため息をついた。
「所詮ザフトにも劣るオーブ軍なぞ元々頼りにしていませんわ。ただ、国からのバックアップを得られる体制が取れなくなると言うだけの事。それならいっそプラントを手中に収める方法を進めましょう。大洋州からの、例の物の手配は?」
「進んでいる。十分な。世界を2回は滅ぼせる」
「そう。ならよいのです。私は世界の物、世界は私の物」
呪文のようにラクスはつぶやいた。

 
 

親ザフト軍がトゥールを放棄――その報に接したマンネルヘイムは機を逃さず追撃をする事に決定した。
戦いの様相は今までと違った。親ザフト軍はユーロファイタータイフーンを大量投入し、グリペンに対抗。スカンジナビア軍に制空権を取らせなかったのである。
戦いの主役は地上に移る。ポワティエの手前20kmの平原で両軍は遭遇。リニアガンタンク、そしてランチャーストライカーを装備したウィンダム、ダガーが320mm超高インパルス砲『アグニ』を互いに撃ち合う。
親ザフト軍はじりじりと押され、ついにスカンジナビア軍はゆるやかな坂の頂上を占位する。
後は下方の親ザフト軍に向けてひたすら撃ち下ろし、斜面を下って突撃するだけである。
マンネルヘイムは勝った――と思った。

 

「今よ! ミネルバ、上昇!」
ロワール川の支流に身を潜めていたミネルバが姿を現す!
「……もう少し……そこ! タンホイザー、発射!」
「タンホイザー、てぇーーー!」
タリアの指示と同時にアーサーが叫んだ。
チェン・ジェン・イーがタンホイザーを発射する!
タンホイザーの射線は親ザフト軍を下に、斜面の頂上のスカンジナビア軍を一掃した。
「タンホイザー、エネルギー再充填急いで! 『パルジファル』発射!」
「はい! タンホイザー、エネルギー再充填! 『バルジファル』発射! 目標スカンジナビア軍中央!」
タリアの命令では省略されていた部分を補い、アーサーが指示する。彼もやる時はやるのだ。
地上用ミサイル『パルジファル』が混乱するスカンジナビア軍を襲う。
ミネルバは更に上昇する。
「タンホイザー、エネルギー充填完了!」
「マリク! 俯角を取って!」
「了解!」
ミネルバがスカンジナビア軍を見下ろす形になる。
「タンホイザー、発射!」
「タンホイザー、てぇー!」
再び、タンホイザーの光が街道上のスカンジナビア軍をなぎ払う――
「……残存スカンジナビア軍、撤退を開始しました。友軍、橋を落とし、河向うの陣地に撤退完了!」
「ふぅ。なんとかなったようね」
「ええ、これでスカンジナビア軍の侵攻も一先ず止まるでしょう」
「あくまで一時の事でしょうけどね」
「それにしても、タンホイザー、地上で使用するとこれだけの効果とは……陽電子博士がプラントに亡命してくれていなければどうなったか……」
「ともあれ、後は友軍に任せても大丈夫そうね。任務は果たしたわ。帰還しましょう」

 
 

スカンジナビア軍は、悄然としながらトゥールまで撤退した。
「調子に乗りすぎておったな」
マンネルヘイムは呟いた。
「いつの間にか、兎を狩る猟師の気持ちになっておった。ところが! 相手は爪も牙もある獣だったと言う訳だ」
「「……」」
幕僚達はうなだれて声も出ない。
「しっかりせんかい!」
マンネルヘイムは喝を入れた。
「這い上がろう。負けた事がある、と言うのが、これからのスカンジナビア軍の財産となろう」
これより、スカンジナビア軍は自軍のみで一気に攻めると言う方針を転換し、フランス東南部の親地球連合軍と共同して、フランス西南部に逼塞した親ザフト軍に両面から圧力をかける事になる。

 
 

「なぁ、ミリアリア」
「なぁに? ジェス?」
「俺は、ジブリールさんが悪い人とは思えない。言ってる事はデュランダル議長の方が間違ってる様に思える。セトナが言ってる事の方がもっともだ。もちろんユニウス7が落下してからプラントがあちこちに援助の手を差し伸べた事も知ってる。地球軍が強引だったのもわかってる。だが……何と言うか、うまく言えねえが、まったくの善人も悪人もこの世には存在しないと俺は思ってる。だから……プラントでも地球連合でもない、アークエンジェルが何を考えているのか知りたいんだ。取材……できねぇかなぁ?」
「んー……ほかならぬジェスの頼みだしね。わかった! つなぎ取って見る!」

 
 

――彼は自分の運命を変えた2年前の事を思い出していた。

 

必ず倒すと思いつめた敵さえついに倒せず自分の運命を呪っていた、あの宇宙を漂っていた半壊したモビルスーツの座席。そこに、『彼』が現れたのだった。
いつの間にかいた、としか言いようがない。印象的な巻き毛と青い瞳のこちらを突き刺すような目をした少年。
『彼』は言ったのだ。
「そんなに寿命が短く生まれたのが憎いのなら、永遠の命をくれてやる」
と。
まるで魅了されていたようだった。『彼』から目が離せず、ただうなずく事しかできなかった。
そのまま『彼』の口付けを受け入れ、私は意識を失い、目が覚めた時には『彼』の一族となっていたのだ。
目覚めた私は、いつの間にか地球の鄙びた村にいた。『彼』はさまざまな事を語ってくれた。注意すべき事や、信じがたい『彼』の過去などを。
そして『彼』は来た時と同じように、いつのまにかいなくなっていた。
私は自分の体の変化をすぐに実感できた。なにしろ薬を飲まなくともなんともないのだ。
私はすぐにでも私の可哀相な弟を一族に加えてやりたかったが、『彼』から注意されていたので、連絡を取るのは控えていた。もう少し、彼が大人になるまで……

 

私は方々をさ迷い、この町にたどり着いた。『彼』の過去に出てきた名前の同じ名前のこの町に。
この荒廃した町のはずれに小さな家を建てた。
そして薔薇を植えたのだ。年を重ね、家の周りは薔薇に包まれるだろう。
そしてもし『彼』、エドガーがここに現れたら言ってやりたいのだ。「ポーの村へおかえり」と。

 

そんな静かな暮らしをこれからも続けていくつもりだった。
だが……再び戦争が起こり、ザフトは各地で負け続けている。この町の近くにも親ザフト軍が逃げ込んできた。
私は決心した。荷造りをし、家の手入れを隣人に頼むと、ポーの町を後にしたのだった。

 
 

フランスでの戦況が動いたのはトゥール・ポワティエ間の戦いより10日が過ぎた頃である。
フランス東南部の親地球連合軍がスカンジナビア軍の要請に答え、また、イタリア軍の後ろ盾を得てマシフ・サントラル(中央高地)に進出してきたのである。

 

「将軍!」
とうとう、残存親ザフト軍の指導者となってしまったモーリス・トレーズ大佐――暫定的に将軍のもとに伝令がやってくる。
「親地球連合軍はブリヴ・ラ・ガイヤルド、そしてトゥールーズからモントーバン、モンレジョーへ進出との事です」
「ううむ……」
モーリスは唸った。
しばしの沈黙の後、苦渋の決断をする。
「ポワティエを放棄する! ボルドーを拠点にアングレーム、ペリグー、アジャン、タルブに防衛線を張るのだ!」
モーリスはその防衛線で長期持久を図るつもりだった。
だがその構想は短期間で崩壊する。翌日、大西洋連邦の大西洋艦隊が、フランス西岸に進出しボルドーを攻撃するとの情報が入ったのだ。
親ザフト軍は地球連合海軍が現れない内に、急ぎイベリア半島へと脱出していった。

 

イベリア半島の情勢は、大きく東西に分かれていた。地中海側のバルセロナ、バレンシアは親地球連合派。内陸部ではマドリードが親ザフト派。他にリスボン、セビリア、マラガといったジブラルタル基地近くの都市が親ザフト派であった。
しかし、それはマヌエル・アサーニャ率いる共産主義派の人民戦線政府がマドリードに成立すると変化する。
ポルトガルが人民戦線政府に反発、親地球連合派に着き、リスボンから地球連合の軍が上陸、マドリードを目指したのである。
同時に、フランスから南下したスカンジナビア軍は大西洋連邦と協力し、一気にバスク地方を奪回、バリャドリードを拠点とし、ドゥエロ川を挟んで人民戦線政府と対峙する――

 
 

「どうします? 艦長」
アーサーはタリアに尋ねた。
ジブラルタルからの司令は早急に帰還し、宇宙へ帰る用意をしろ、と言う物。そして……親ザフト軍からは悲鳴のような救援要請がミネルバに送られてきていた。
「んー」
タリアは悩んだ末、今一度親ザフト軍の救援に赴く事を決断した。

 

「お集まりの皆さん、グアディアナ川を使ってもう一度地球軍を罠にかけます」
タリアが皆に語りかけた。
「なんと! メリダから撤退すると言うのか!? あそこはセビリヤを守るための重要な要地……」
「また、取り返せばいいではありませんか。勝てばそれも可能です」
少々いらついた声でタリアが説得する。
「しかし、再び罠にかかるのかのう?」
「再び、スカンジナビア軍と戦うなら、相手も警戒して来ましょう。ですが、戦うのはリスボンから上陸したばかりの大西洋連邦陸軍です。仮に、警戒されていたとしても陽電子博士の開発したタンホイザーはそれなりの被害を敵軍に与える事でしょう!」

 
 

「そう、あなたがジェス・リブルさん? よろしくね」
マリューはジェスに微笑んだ。
「光栄です! 前戦役時の英雄に会えるなんて!」
「英雄、ねぇ」
マリューは苦笑した。
「大した事をした訳ではないのよ。英雄と言うなら、キラくんとラクスさんね」
「もう一人、プラント側、ザフトにも居たのでは?」
「ああ、アスランくんね。そうよ。彼もそう。なんで忘れちゃったのかしら」
マリューは頭を押さえた。
「頭痛でも?」
「ええ、ちょっと。でも平気よ」
「では、取材を続けます」
ジェスは言った。
「今回の戦役、あなた方は何を為そうとしているのですか?」
「戦争を、止めたいのよ。前のようにうまくいくかはわからない。でも、何かせずには居られなかったのよ」
「ずいぶん少人数のようですが? 失礼ですが、何が出来ると?」
「キラくんとラクスさんが帰ってくればなんとかなるわ。そう、私は彼らに希望を感じているの」
「そうそう、今までだってなんとかなってきたんだ」
「キラ達と合流すりゃ怖いもんなしさ!」
周りからも声が上がる。
「今は、ここで何をやられているのですか?」
ジェスは尋ねる。
「キラくんとラクスさんを待っているのよ。さすがに今は動きようが無いわね」
マリューは苦笑した。
「今は、彼らはどこに?」
「宇宙よ」
「行かせた理由を聞いてもよろしいですか?」
「行かせた……理由……彼らが、行きたがったから」
「それでは、まるでこの組織の指導者はその二人みたいですね」
「指導者って……そんな訳でも……」
マリューは困ったように口ごもる。
「キラくんとラクスさんとは、あなた方にとって何ですか?」
「希望よ」
夢見るような表情に変わりマリューは言った。
「そうだ、希望だ」
「希望だなぁ」
周囲からも、賛同の声が上がる。
「話題は変わりまして、プラントのデュランダル議長についてはいかがお考えですか?」
「……怪しいわ。言ってる事、やってる事はまともだけど……でも、私達には彼を疑うべき理由が出来てしまったの」
「それは?」
「襲われたのよ。ラクスさんが、コーディネイターの特殊部隊に」
「なぜ、コーディネイターと?」
「まだ正規軍にしか配備されていないモビルスーツに乗っていたし、ああ、バルトフェルド隊長が……」
「セトナ・ウィンタースさんの演説についてはどう思われました? 同じようにデュランダル議長には批判的なようですが?」
「……セトナ?」
訝しげにマリューは首を傾げた。
「ご存知、ありませんか?」
「ああ! 思い出したわ。ええ、彼女の事をもっともだと思ったのよ。ラクスさんも同じような事を言っていたはずよね。デュランダル議長の発言には疑問が多いと。それで……なんで忘れちゃったのかしら? あんなに感銘を受けたのに……頭が痛い……」
「大丈夫ですか?」
「……ええ、大丈夫」
「では、オーブのアスハ代表首長を知っていますね? 彼女の名前でアークエンジェルに手配書が回っていますがご存知ですか?」
「まさか、彼女が? だってカガリさんはこの船に…… いえ、オーブの空母に降りたんだった。そうよ。それっきりカガリさんには会ってないわ。なんで忘れてたのかしら。そう。彼女は監禁されているに違いないわ。オーブを牛耳っているウナト宰相が勝手に手配書を出しているのよ!」
「オーブ宰相、ウナト・エマ・セイランは暗殺されました」
「え? あ、そうね、そうだったわ。何で忘れてたのかしら。そう、今はマシマ家ね。マシマ家にオーブは牛耳られているのよ。きっとカガリさんも軟禁されて……」
「アスハ代表首長自ら会見を開いていますが?」
「そんな! いえ、そう、そうだったわ。私はそれを見てひどくショックを受けたのよ。なんで忘れちゃってたのかしら。頭が……痛い! っつう!」
「すみません。マリュー艦長は具合が悪いようですのでここまでに!」
アーノルド・ノイマンがマリューをかばうように、飛び出してきた。
「あ、ああ」
ノイマンはマリューを抱えるようにして部屋を出て行った。
「……さ、ジェスさん、取材終わりよ。縁があればまた会えるさ! ね?」
ミリアリアは努めて明るい声で言った。
「ああ。とりあえず、出ようか」

 

「さあ、艦長、この薬を飲んで」
「……ありがとう。ノイマン。楽になったわ。それにしても……」
ミリアリア達と別れたマリューはため息を付いた。
「このまま海の底に潜って、何をしているのかしらね。私達は」
「修理の方は大体終わりましたが……どうしましょうね、本当に」
「今、地球軍の攻撃は、と言うよりスカンジナビアね。目指す所は明白。ジブラルタル」
「スカンジナビアには恩も在ります」
「攻める訳にも行かないわねぇ」
「艦長」
ノイマンが言った。
「この状況でキラ君達が帰っても、出来る事はない、と考えます」
「……宇宙に行きましょうか?」
「ああ、いいでしょうね。何かあってもアークエンジェルなら地上のどこにでも降下できますし」
「そうしますか! 決めた!」
マリューは久しぶりに明るい顔に戻った。

 

「なぁ」
ジェス達はバレンシアの定宿に帰った。
「なんかぁ、変じゃなかったか? マリュー・ラミアス」
ジェスはミリアリアに話しかけた。
「うん、なんか、変だった。変だったし、キラやラクスさんの事を神様みたいに言うのも変だった」
「こういっちゃなんだが、洗脳と言うか、精神操作されてる人みてぇだった。マリューさんは」
「そうそう、それよ! マリューさんも、周りの人も!」
「……一人だけ、冷静な顔をした奴がいたな」
「ノイマンさん?」
「素人考えだが、彼がみんなに何かしているのかもしれねぇ」
「まさか!」
「まさかなぁ。だが……今度、精神科医連れて取材に行ってみるか? 専門家の目なら、何かわかるかもしれねぇ」
「……わかった。とにかくなんかおかしいもんね、アークエンジェル。前はあんな風じゃなかった!」

だが、ミリアリアがターミナルを通じて再びアークエンジェルにつなぎを持とうとした時、既にアークエンジェルは地球上には居なかった。
「こうなりゃあ、オーブに行って見るかな。そしてアスハ代表首長に取材を申し込む! このままじゃぁ収まりがつかねぇ!」
「うん! 私もひさしぶりにカガリに会いたいし!」

 
 
 

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