SEED-IF_4-5氏_49

Last-modified: 2009-02-18 (水) 00:09:11

「まったく! フランスでは勝ったってのに……」
ルナマリアはぼやいた。
「ほんとよね。フランスから追い出されるだけじゃなくバスク地方まであっという間に取られちゃうなんて」
マユもぼやいた。
「仕方ないさ。ミネルバが居る所だけで勝っても多方面から押されちゃなぁ」
ハイネが宥める。
「それに……いや……」
アスランは口ごもった。
「なんだよ、アスラン。言いたい事があったらはっきり言えよ」
「いや、ジブラルタルは、防衛線を縮小したいみたいだ。むしろここまで退けてラッキーみたいな感じだろうな。俺が聞いた所だと。その方が防衛しやすいらしい」
「ふーん、なるほどねぇ。内線防御か」
ハイネが納得したように頷く。
「ま、上が考えても、俺達は力を尽くして戦うだけだ」
「まーかして! ミネルバを世界を狙えるチームにして見せます!」
ショーンは明るい口調で言った
「ちょっと! その動きは何だ、ショーン?」
「……? ボーリングですが?」
「戦闘と関係ないだろう!」
ハイネはショーンに凄んだ。
「……」
「不思議そうな顔をするな!」
「えーとえーと……隠し芸をしまーす!」
マユは右手で左の脇を隠して叫んだ。
「隠し毛!」
「女の子がそんな事言っちゃいかーん!」
ハイネは涙を流してマユに訴えた。
「いやぁ、場を和まそうかと。えへへ」
「ハイネは女の子が下品な事言うのが嫌いなのだ」
ゲイルがクスクス笑った。

 

グアディアナ川の戦いは、フランスで行われたトゥール・ポワティエ間の戦いと同じ様相で始まった。
両軍が川を挟んで砲撃戦を行う。
親ザフト軍はじりじりと後退する。地球軍は機を逃さずと一気に川岸に迫る。
そこへ! ミネルバが川中から姿を現す!
タンホイザーが発射され、地球軍をなぎ倒す!
「再チャージ! 急いで!」
「はい、タンホイザー再チャージ!」
「アスラン達に隙を作るなと伝えて!」
「はい!」

 

「ははは、撃ち放題だ!」
ミネルバのデッキに陣取ったデスティニー、レジェンド、セイバー、ブラストインパルス、ガナーザクはミネルバとエネルギーが直結され、混乱した地球軍に向けてひたすら撃つ。撃ち続ける。

 

「タンホイザー、再チャージ完了」
再び、タンホイザーが放たれる。
地球軍は後退を開始する。
「再チャージ! 急いで! もう一度!」
この戦いで、3度目のタンホイザーが放たれた時、地球軍はついに壊走へと移った……

 

この戦いの後、親ザフト軍はメリダを奪回し、さらにバダホスまで進出、同時にバレンシア・デ・アルカンタラを押さえ、リスボンからマドリードへの街道の防備を固める。
マドリード政府は北西はグアダラマ山脈、グレドス山脈を利用し堅固な陣地を築く。北東はサラゴサを拠点にエブロ川を挟んでフランスから南下してきた地球軍と対峙、クエンカ山脈にこれまた強固な陣地構築を始めた。
南東はセグラ山脈、シエラ・ネバダ山脈に陣地を築き、地中海方面からの地球軍の侵入を防ぎ、南西はポルテガナを押さえ、アヤモンテ、ウェルバ、カディスと言った沿岸の諸都市を固める。
マドリード政府は、もうザフトを頼る気などなかった。ジブラルタルが落ちても自主独立を図る方針を固めた。

 

地球連合軍はマドリードの激しい抵抗を見て方針を転換する。
スカンジナビア軍はサモラからの別働隊が渡河に成功。サラマンカに拠点を移し、マドリードと対峙する。リスボンからの地球連合軍もイベリア半島西岸の諸都市を制圧しながらウェルバに陣を進め、セビリアの親ザフト軍と対峙した。

 
 

「よう! よく戻ってきたな!」
「あ、ケビンさん」
ジブラルタルに降りたアスランを迎えたのはケビンだった。
「どうなんです? その後?」
「んー。送れる物は潜水艦や輸送機に乗せてカーペンタリアに出て行かせたよ。シャトルで本国に送った者も多い」
「そうですか。ケビンさんは?」
「警備隊長だからなぁ、この基地の。元ジブラルタル基地司令と言うプライドもある。最後まで残るさ」
「――!」
「そんな顔するなよ。死ぬと決まっている訳じゃない。限界になったら降伏するさ。地球軍の奴らもビクトリア大虐殺を宣伝してる手前、野蛮な事はしないだろうよ」
最後は少し自嘲気味にケビンは言った。

 
 

その女性は追憶に浸っていた。

 

――ワシはな、それに気づいた時、こんな地球の姿を傍観しておれんようになった。
――そこで、ある誓いを立てた。何があろうと、この地球を自然の溢れる元の姿に戻して見せるとなぁ!
――笑わせるな! 貴様! 優しいという言葉を勘違いしておるのではないか?
――よいか? ワシの目的はな、人類の抹殺なのだぞ!
――わからぬか? 地球を汚す人間そのものがいなければ、地球はおのずと蘇る! 
――ふっはっは… ふっはっはっはっはっはっ…… ふはははははは! そうだ! それがいい! それが一番だ!
――その為ならば、人類など滅びてしまえ! はぁーはははははは!

 

「もうすぐですわ。もうすぐ。もうすぐ私が貴方様の望みをかなえましょう」
女性は誰もいない暗闇に向かって微笑んだ。まるで聖母の様に。

 
 

「私が、新しくミネルバに配属されたプロ・デューサーであります!」
ミネルバに配属された、その男を見てタリアをはじめ、ブリッジの者達は頭を抱えた。
今は亡きタケダ、そしてセイジに瓜二つだったからだ。
「わかりました。あなたの配属を認めます」
タリアは溜息をつきながら言った。
「部屋に戻って頂戴。しばらく休んだらパイロット達にも引き合わせるわ」
「は……」
しかし、デューサーは立ったまま動かなかった。
「まだ何か?」
「いや、まだ自分の部屋を教えられておりません」
「……ああ、そうだったわね。シン、案内してあげて」
「はーい♪」
「……ああ、自分等は……?」
「え?」
タリアは驚きの声を上げた。
「……ああ、あなた達ね」
後ろめたそうにタリアが言った。
そこには、デューサーと同じく配属されてきたカン・トークとシリー・ズ・コウセイがすっかり忘れられ、所在無く立っていた。

 

「ねぇ、おじさん」
シンはデューサーに尋ねた。
「おいおい、おじさんはよしてくれーな。お兄さんと呼んでちょーよ」
「はい、お兄さん。……自分そっくりの人に会った事あります?」
「いんや? 特にないよ?」
「そう……世界に三人は自分にそっくりな人がいるって言うけど……」
部屋に着いた。
「ん? なんや? あの写真?」
「あ、片付け忘れてた! ……セイジさん、ナルシストだったんだなぁ」
部屋の棚には、セイジの写真が入ったスタンドが片付け忘れられ、飾られていた。
「これが、ここに前いた人なんですよ」
「嫌やわー。ワイにそっくりやないけ!」
「……あのね、ミネルバのみんな、貴方を幽霊を見るような目で見ると思うけど……」
シンはデューサーの手を取り、胸の前でぎゅっと両手を握ると言った。
「気にしないでね。じゃ!」
「……」
デューサーは顔を赤くしていた。
「へへへ。男の娘ってのもいいもんやなぁ」

 

トラブルはデューサーがパイロット達に紹介された時に起こった。
一通り紹介された時、やはりみんな頭を抱えた。
そしてお流れで解散になる時……レイがデューサーを自室に呼び出したのだ。
レイはいきなりデューサーを壁に押し付けた。
「聞いておこう。お前はクローンか!?」
「なんや、クローンって、そんな……」
「タケダも、セイジも、ミーアのマネージャーも! 皆同じ顔、同じ声だ! 双子でもないと言う! これが偶然だとでも言うのか!?」
レイはデューサーの喉元を締め上げた。
「くるしぃで……レイはん……」
その時、部屋の扉が開いた。扉の前にはアスランがいた。
「ん? 何をやっている?」
「たまらんわ、もう! 何が何やらわからんでぇ、まったく!」
デューサーはこの隙にレイを振りほどくと、部屋を出て行った。
レイはベッドに座るとうつむいた。
「なんだ? 暗いなぁ。しかし、デューサーにも驚いたな。まさか」
「アスラン……」
レイは座ったまま上目使いでアスランを見上げた。
「なんだ?」
「聞いてくれますか? 俺の……秘密……」

 

「そうか……」
レイから、彼がクローンだと言う事を打ち明けられ、アスランは唸った。
何が言えるだろう。確かに自分達はクローンであろうとなかろうと、いつ死ぬかわからない存在。だが……レイは、生まれつき寿命が短いのだと言う。
レイは慰めの言葉など必要としていないだろう。励ましの言葉もまた。
「関係ない」
結局、アスランの口から出たのはぶっきらぼうな一言だった。
「お前はお前だ。俺にとっては。お前だけがお前が。二人目なんかいない!」
「アスラン!」
レイは、涙を流しながらアスランの手を取った。アスランはしっかり、その手を握り締めた。

 
 

「大西洋艦隊がウェルバを攻略したらしいねぇ」
ここはバレンシア。ジョンがパエリアを頬張りながら新聞を見る。バレンシアはパエリア発祥の地である。
「うちらも何かした方がいいのかな? マラガ辺り攻略とか」
「ところが。スペイン人はウェルバ陥落で一層各地の防備を固めたらしい。余分な事で戦力をすり減らすなとさ」
ミラーが答える。
「ま、セウタに入っちまったらこっちのもんさも」
「ああ、うずうずするなぁ。こんな所でのんびりしてられねえぞ!」
シャムスが耐え切れないように、言う。
「まぁまぁ、これもジブラルタル決戦前にのんびりさせてやろうっていう隊長の親心よ。ね、アルジェリアのオランに行ったら旧市街に行ってみようよ」
ミューディーが、ガイドブックを見ながら普通の女の子のようにはしゃいだ声を出した。

 
 

ミネルバが宇宙へと戻る準備は日に日に進んでいく。
バビ、ゾノを降ろし、代わりに予備機としてグフ、ザクが搬入されていく。
「あら、コアスプレンダーも一機配備?」
「ええ、これでインパルスが2機使えますね」
「それはいいんだけど……」
「すみません」
伝令が入ってきた。
「レイ・ザ・バレルに面会者です」
「誰? IDカードは?」
「それが無いと言っておりまして……顔を見せればわかると……」
「いいわ。レイは手すきでしょう? 会わせて頂戴。一応警備はしっかりね」
「はい!」

 
 
 

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