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Last-modified: 2009-03-17 (火) 19:09:19

サハロフは、海岸の方は大変だろうな、と思った。
彼は沈没したボズゴロフ級の生存者である。
彼ら、漂流生存者大隊は、内陸部に配備されていた。
海岸の味方が壊滅しない限り、この陣地へは攻撃はこないだろう。だが……
いかに陣地を作られていると言っても、この程度の陣地では艦砲、そして大型ミサイルの攻撃には耐えられない事を曲がりなりにも水兵であるサハロフは知っていた。
サハロフのいる機銃座には射手を命じられた彼を含め5人の人間が配置されていた。その中に、『鉄の男』との異名で知られてるヨシフ・ヴィサリオノヴィチ・ジュガシヴィリがいた。彼はザラ派の強硬派として知られていた。
サハロフは乗艦が沈没する際、ジュガシヴィリに命を助けられていた。老齢で、しかも片足が不自由だというのに、彼は救助されるまでの間、気絶したサハロフを抱えて洋上を泳ぎ続けてくれたのだ。
サハロフは鉄の男に深く感謝し、同時に信頼するようになっていた。鉄の男と一緒にいる限り、どんなに苦しい状況でもなんとか切り抜けられるように思えるのである。
その時、サハロフは、硝煙とは異なる煙が漂いはじめたことに気づいた。
「が、ガス!?」
彼の声は恐怖のあまり、上ずっていた。ガスマスクの数が足りず、この部隊までは行き渡っていなかったのだ。
こんな密閉された空間にいてガス攻撃されたら、まず助からない。
「ど、どうしよう」
「落ち着け」
そう言う鉄の男の声は冷静そのものであった。
「で、でも……」
一刻も早く脱出すべきだとしか、サハロフには思えなかった。
「毒ガスじゃない。発煙弾だ」
確かに、濃密な白い煙の中で、味方の歩兵は咳き込みながらも、普通に動いている。
ふうっと言う安堵のため息が、一斉に漏れた。
「油断するな。来るぞ」
「えっ、なにが?」
「何のために、敵が煙幕を張ったと思う? 突撃支援のために決まっているではないか!」
「来た!」
悲鳴が上がった。
白煙の向こうで、黒い影が動いている。
敵か? 敵なのか?
「撃て!」
鉄の男が叫ぶと同時にサハロフは機銃の引き金を引いた。
命中しているのかわからぬまま、サハロフはひたすら撃ち続けた。
と、カラン、と射撃用の開口部から飛び込んできたものがある。
手榴弾だ!
サハロフは一瞬にして悟った。
もう終わりだ!
サハロフは覚悟した。
その時、ジュガシヴィリがその身をもって手榴弾の上に覆い被さるのを、サハロフは見た。
ず……んと言う腹に響く音がした。キーンと耳鳴りがする。だが、サハロフはまだ生きていた。
「鉄の男! スターリン! スターリン!」
サハロフは腹の下を血で濡らしつつあるジュガシヴィリに駆け寄った。
ジュガシヴィリの口元がわずかに動いた。
「なんだ? なんて言ったんだ?」
「……神よ、今御許に参ります……」
それがジュガシヴィリの最後の言葉だった。無神論者が多いコーディネイターらしくない最後だった。
「くそう! スターリンの仇だ! ナチュラルども皆殺しにしてやる!」
再び、機銃の引き金を引こうとした彼を、仲間が押さえつけた。
「なにしやがる! 邪魔するな!」
「大隊本部からだ。射撃中止命令が出た」
「な、なんだって!?」
「降伏したんだとよ」
外を見ると、薄れはじめた煙の中、友軍が武器を放り出して両手を上げて地球軍の方に歩いていく。
「じゃ、スターリンはなんのために……」
サハロフは力尽きたかのようにうずくまり、声を出して泣きはじめた。
その肩に仲間がそっと手を触れる。
「せっかく、スターリンが我が身を犠牲にしてまで救ってくれた命だ。大切にしよう」
それを聞くと、サハロフの泣き声はますます大きくなった。

 
 

「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
ネオ、ユウナ、そして大西洋艦隊の司令長官は杯を干した

 

ジブラルタルは戦闘の傷跡が多いのでセウタで戦勝パーティが開かれている
「これで、祖国に帰れるかと思うとほっとしますな」
「ああ、オーブ艦隊はカーペンタリアの封鎖に加わるのでしたっけ」
「ええ、ですが、大分楽が出来ます
「われらもこれからは最低限の海軍力を残して、カーペンタリアに向かわねばなりませんからなぁ、その時はぜひ」
「ええ、歓迎しますよ」
「ま、私はどうも宇宙に帰りそうで」
ネオが言った。
「それはそれは」
「宇宙でもご活躍される事でしょう」
「そう願いたいものです」

 

この日、地球軍は浮かれていたのだ。本当に――

 
 

「あれほど修行をして、棒形手裏剣を使えるようになったのが1割とは!」
訓練を負かされたSP達の体たらくに服部正吾は嘆いていた。
「いやいや、棒形手裏剣は難しいですから」
副官が宥める。
「しかたない。棒形手裏剣を使えないものには星形手裏剣を配るように!」
「はっ!」
「では、ミラージュコロイドを使った船で地球軍の月基地近くまで行くぞ!」
「ユニウス条約違反では?」
「我々はユニウス条約から外れた存在だろう君ぃ」
そうであっても守るべき物もあるだろうと副官は思ったが何も言わなかった。

 

「ふっふっふ。こんなに月基地まで近づけるとはな」
「地球軍も油断してますね」
「進水式直後の戦艦を奪ってやるのだ。痛快だぞ」
「はぁ」
「では、作戦開始!」
闇夜に溶け込む濃紺色で固めた宇宙用スクーターで皆は出発した。
レーダーもこれほど小さな物が進入してくるとは考えていない。
皆は忍者熊手を使って艦内へ乗り込んだ。どうやったのかはわからないが。おそらくロック解除の機能でも仕組まれているのだろう。
「誰何!」警備員の声が消える前に、服部正吾の棒形手裏剣が警備の者の喉に突き立っていた。
なにしろ100人で1400人を殺さねばならないので大変である。
「声を出させるな! 静かに死んでもらえ!」
服部の指示が飛ぶ。
賑やかな声がする。娯楽部屋のようだ。
「ようし、催涙弾、投擲開始!」
「はい!」
部屋の中に、催涙弾が投擲される。
ゴホゴホと咳き込む声がする。
「今だ!」
ガスマスクを着けた服部達が部屋に突入する。
服部は棒手裏剣で苦しんでいる。地球軍兵の止めを刺していく。
わざわざ手裏剣で止めを刺さなくても、消音ピストルでも使った方がいいのでは? と考えた者もいるがもう何も言わない。
ぐさ!
棒手裏剣を投げずに、地球軍兵を刺し殺している者がいる。ラクスだ。
「ラクス様! ラクス様が手を汚される事など……」
「わたくしは、部下にだけ危険を犯させて自分だけ安全な場所にいるのがもう我慢できませんの。許してくださいましね?」
そう言いながらラクスはナイフを突き刺す手を止めない。
「うううーー感動した!」
服部は感涙に咽んだ。
その時、銃声がした。
「誰だ! 銃を撃ったのは!?」
おどおどと、女性隊員が前に出る。
「ヒルダ、貴様か! 銃は最後から二番目の武器と言ったろうが!」
「は、はい。ごめんなさいぃ。……あのう、最後の武器はなんなんです?」
「決まってるじゃないか」
あっさり服部は言った。
「核爆弾だよ、君ぃ」
服部はにやりと笑った。

 

服部達はこの調子で艦橋に入り、艦長も手裏剣で仕留めた。
その時艦内通信が入った。
『隊長! 見つかってしまいました。機関部です!』
「なにい!」
服部は阿修羅のような形相になった。
「3名、艦橋に残れ。地球軍をごまかし続けるんだ」
「は!」
服部達は機関部に向かった。
そこでは銃撃戦が起こっていた。
「くうう。忍者が銃撃戦などなんと無様なのだ! 催涙弾投擲!」
2・3人が投擲しようと立ち上がった所を撃たれる。だが、一人が投擲に成功し、地球軍は混乱し始めた。
「こうするのだ! よく見るがいい! 伊賀忍術の真髄を!」
服部は突入し、棒手裏剣で止めを刺していく。
……結局1400人の乗組員のうち、半舷上陸で半分しかいなかった事もあり、午後9時頃SP部隊の侵入を受けた『プリンス・オブ・ウェールズ』は午後11時に制圧された。当然、約700名の乗組員はピストルで射殺されたごく一部を除き、全員が手裏剣で皆殺しにされたのだ。

 

「隊長、生き残りが59名しかいません! これでは操縦が!」
「伊賀忍術を使えばなんとかなる! さっさと配置に付かんか!」
「はいぃ!」
「時間だな」
服部は時計を見た。
月基地に突入した時に使ったスクーターが一斉に爆発した。積んでいた核爆弾も一緒に――

 

月基地は大混乱に陥った。
「この隙だ! 脱出する!」
「はっ!」
こうして『プリンス・オブ・ウェールズ』は脱出を果たした。
「大変です! 1隻、我が艦を追跡してくる艦があります! 熱紋照合、ネルソン級『レパルス』!」
「ふうむ、さすがに簡単に逃がしてはくれんか。主砲、発射用意!」
「相手はネルソン級ですよう、モビルスーツが出撃してきますぅ!」
だが、対空戦艦として設計された『プリンス・オブ・ウェールズ』はその真価を発揮した。今までの味方に向かって。
「敵モビルスーツ撃破! あは! あは!」
針鼠のように増設されたビーム砲は、次々とモビルスーツを絡め取っていった。
そして……
「ええい、射撃とはこうするのだ! 伊賀忍術の精髄を見ろ!」
服部が主砲の管制を取る。
「あ、我が艦の主砲、敵戦艦に直撃!」
ネルソン級と言えど、『プリンス・オブ・ウェールズ』の225cm2連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.72」に耐える事は出来なかったのだ。
レパルスは、爆散した。
「やったー! やったー! やったー!」
浮かれる乗員の前で、服部は沈んでいた。
「明日はわが身……死して屍拾うもの無し。それが伊賀者の生き様よ」
服部はつぶやいた。

 

一週間の韜晦航路の後、『プリンス・オブ・ウェールズ』は『エターナル』と合流した。
マリューはラクスを迎えにいったが、すさまじい臭いに鼻をしかめる。なにしろ700名の敵乗組員の死体も一緒に運んできたため死臭がひどかったのである。
マリューはラクスに、顔をしかめて
「先に、風呂と着替えを……」
と言うしか出来なかった。

 
 

結局マドリードはジブラルタルが落ちても長期持久体制を崩す事はなかった。
地球軍はスカンジナビア軍を主体とした軍隊で北西から、フランス軍を主力とした軍隊で北東から圧力をかけるに留め、ジブラルタルには最低限の守備隊を置き、撤退する事になる。

 

「オーブに着いたら、観光スポットを案内しますよ。命の洗濯も必要でしょうからね」
「ははは、それはありがたい」
ユウナの台詞にネオが答える。
一週間後、南アメリカのホーン岬を廻ってオーブ艦隊はついに長い航海を終え、帰国を果たした。

 

「ユウナ!」
カガリがユウナに飛びついてきた。
「無事だったか。心配したぞ」
「あはは、君の姿をもう一度見るまでは死ねるもんかとね、頑張ったよ」
カガリの頬が赤く染まった。
「ひゅう」
ネオが口笛を吹いた。
「若いってのはいいねぇ。いや、仲がいいのは結構な事だ」
「ともあれ、ご苦労様でした」
マシマ・タツキがネオに挨拶をする。
「ネオ・ロアノーク殿もご苦労様でした。ささやかながらジブラルタル解放パーティーが整っておりますので」
「わかった」
「では、トダカ」
「はっ」
「君のおかげでほんの予備仕官だった僕も無事に任務を果たせた。礼を言うよ」
「いえ、私こそ、ユウナ様とご一緒できた事を光栄に思います。オーブを離れ、あちこち見物できました。ジブラルタル攻略という大作戦にも参加できた。もうすぐ生まれてくる孫にいい昔話ができるでしょう。ひまになったら回想録でも書きましょうかな。はは……」
「ではな。兵達も労ってやってくれ」
「はっ」

 

「君ねぇ、ステディがいるって、いい事よ?」
パーティーで酔っ払ったネオがユウナに絡んだ。
「あなたこそ、地球軍大佐。お見合いの一つ二つあるでしょうに」
「それがさっぱりなくてねぇ」
「そりゃ、やっぱり猫の仮面のせいじゃないですか? 妙なんですよ、やはり」
「うっ。まぁ、傷跡を隠していると言う理由もあるが、被ってると便利なんだよ」
「便利?」
「嗅覚と聴覚が猫並になる。暗視も利くぞ」
「そりゃ便利でしょうけど」
ユウナは苦笑した。結局ネオは女性が怖いのではないのか。
こんな妙な人を気に入ってくれる人は果たして現れるのだろうか?
神ならぬユウナは、それが結構間近なのに気がつかなかった。

 
 

「な、なぁ、今、なんて言ったんだよ?」
タキトは恋人のリンナ・セラ・イヤサカの言葉を信じられない思いで聞き返した。
「だから、あなたにはあたしよりもっと合う人がいるんじゃないかなぁって」
「そ、そんな事ないって! 君だけだよ! 君しかいないんだ!」
「……うざい。はっきり言おうか? 降格されるようなかっこわるい人、あたし、嫌いなの。二尉ごときであたしと付き合おうとすんじゃねーよ! じゃ!」

 

……タケミカヅチに戻り、デッキからぼんやりと海を見つめていたタキトは、不意にぽん、と肩を叩かれた。
振り向くと、アマギ一尉がにこりと微笑んでいた。

 
 

ネオの艦隊は修理などに一週間オーブに滞在した。
「いやぁ、ジャングルが続くねぇ」
ネオとスウェン達はカガリ、ユウナ達とソロモン諸島のファロ島に冒険しに行った。これもユウナ達にとっては接待である。
「ジャングルを抜けると、それはきれいな浜辺に出るんですよ」
その時、突然カガリの体が宙に持ち上げられた。
「なんだ、あれは!」
「ゴリラ? でもあんな巨大な!」
巨大な7メートル以上あるゴリラがカガリを捕まえていた。
「ファロ島の『巨大なる魔神』と呼ばれる生き物ですよ。本当にいたなんて!」
ユウナも、呆然としている。
「あはは! キングコングは美女にしか興味がないと言われている! 私は美女と認められたのだ! はははは」
巨大なゴリラに捕まえられたカガリは、ハイになっていた。
が、しばらく経つと興味を失ったように、キングコングはカガリをぽとりと落とすと森の中へ去って行った。
「いやぁ……あれを見ただけでもここに来た甲斐があったねぇ」
ネオは感慨深げに呟いた。
「そんな事より私を助けろ-!」
木の枝に引っかかったカガリが叫んだ。

 
 

一週間後、オーブに、日本での最終艤装が終わった地球軍の改アークエンジェル級『ガルガリン』が到着した。

 

「貴様が司令官か! ワシが艦長の大官寺じゃ! この艦はいいぞぅ! 大船に乗った気でいる事じゃ!」
「は、はぁ?」
「最近のひよっこどもはなっとらんのう。敬礼ぐらいちゃんとせんかい!」
「あ、はぁ」
慌ててネオは大官寺に向かって敬礼する。
「うむ」
大官寺は頷いて答礼する。
なんで俺が先に敬礼するんだ? 逆じゃないか?
ネオは混乱した頭に疑問を浮かべるが大官寺の態度が変わるわけでもない。
「ほれ、これが仕様書じゃ」
大官寺はえらそーにネオに仕様書を放り投げる。
「は、はい、ありがとうございます」
ネオは、艦長の大官寺の調子に飲まれ、つい敬語を使ってしまった。
「ほう」
仕様書を読むとネオは、ほぅと溜息をついた。
改アークエンジェル級と言ってもだいぶ変わっている。アークエンジェルより一回り大きい。それは、左右舷側、下側に船体が増築がされたこともあるが……ラミネート装甲にさらに複合和紙装甲を重ねた事が大きかった。
複合和紙装甲――それは文字通り和紙を使った装甲である。ぴちぴちの女子学生が真心をこめて漉いた、畳一畳程の手漉きの和紙を数百枚ほど積み重ね、竹の繊維で綴じ、厚さ10ミリの標準鉄板で挟み込むと言う職人の魂が籠もった装甲である! これが1ユニットになるのだ。それを積み重ねる。各ユニット間には1センチ程の隙間が空いている。ボルト締めするために生じる隙間だが、これが垂直からの圧力を実によく受け流すのである。ミサイルなんかへっちゃらである。仮に、成形炸薬弾、ビームで攻撃されても、一定の防御力を発揮する。瞬間的な高熱に対しては、和紙は却って断熱性を示すのである!
特装砲には、プラントに亡命した陽電子博士をも超えると評される中嶋陽子博士が十二国記研究所で開発した『麒麟Mk.1――蝕』砲が搭載されている。地球軍の一部で開発が進められ、一時は搭載が検討されていた反物質砲とは違い放射能汚染を引き起こさないのが特長である。……なぜか研究中に謎の人体消失事件が起こった事は秘密だ。
主砲の225cm2連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.73」は上部に2門の他に左右に1門、下方に2門増設されている。
これは、アークエンジェルが海上でモラシム隊に苦戦した戦訓からだった。それに……宇宙であれば上下左右の区別など無い。一方向にだけ攻撃力があってもだめなのだ。
110mm単装リニアカノン「バリアントMk.8」も変わらず装備されている。
そして機動力だ。速力もかなり増加している。そして大気圏での限界高度が非常に上がっている。ぶっちゃけ、自力で大気圏突破できるのである。
「もしこれが前戦役時にあったらねぇ」
ネオは呟いた。アフリカの山地を飛び越えてビクトリア防衛に参加し、マスドライバーを守りぬけたかもしれない。あるいは、北方に抜け、ユーラシアを経てアラスカ・JOSH-Aに史実より早くたどり着けたかもしれない。もし、史実と同じ行動を取ったとしても、ザフトの水中用モビルスーツの遥か上を飛行し、史実のような危険な目になど会わなかったはずだ。
「准将?」
「……」
「ネオ准将?」
「わぁ!」
そう言えば、自分はジブラルタルを落とした功で昇進していたのだった。
そこにはヘイゼルの瞳と金褐色の髪を持つ美しい若い女性がいた。確か自分の新しい副官だった。
「ええと、君は確か……」
ネオは副官に名前を尋ねた。一度は聞いた筈なのだが失念してしまっていた。
「アンネローゼ・緑森中尉です。閣下」
「ああ、そうだった」
「もう! 閣下は私と初めて会った時の事も覚えてないでしょう?」
「え? 前に会ってた?」
ネオにはさっぱりわからなかった。
「1年前のベルファストの動乱の鎮圧の時ですわ。私が巴旦杏(ケルシー)のケーキを持って行ったら、おいしそうにペロリと食べられましたわ。他の人達の分まで! それで、おかわりが欲しいなぁって!」
緑森中尉は嬉しそうに言った。
「そんな事、言ったかな?」
ネオにはさっぱり覚えがなかった。
「ま、まぁよろしく頼むよ、中尉」

 
 
 

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