SRW-SEED_ビアンSEED氏_第48.5話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:08:15

ビアンSEED 第四十八・五話 進化するラッキースケベ

 

 注意・本編の流れから離れた話であるため、読まなくても本編を読み進めるのに支障は無い内容になっています。

 

 淡く輝く青と白の装いの星を背に、人の夢と欲望を乗せて建造された人造の城に二隻の船が傷ついた体を休めるべく入港していた。
 レフィーナ・エンフィールドが艦長を務めるゲヴェルと輸送艦シルバラード、そしてそれらに搭載されていた機動兵器との偶発的戦闘を終えたWRXチームと、アルベロの率いていたクライ・ウルブズの一部の隊員達の帰還であった。
 慌ただしくメカニック達や自動化がすすめられた整備機械達が船に取りつき、格納庫の中の鋼の巨人達の傷を調べ上げ、それを癒す為の手段を選択し実践して行く。
 同等の戦力同士の戦闘でありながら、互いの機動兵器が一機も失われなかった事、重軽傷者こそ出したが、無事に帰還できたと言える被害で収まったのは僥倖であったと言う他ない。
 パイロット達の力量と機動兵器の機体性能が拮抗状態にあった事で、通常の戦闘よりも数割増しで疲労を覚えたパイロット達や艦のクルー達は、無事に生きて戻って来れた事に安堵し、次の戦いの為に短い休息をそれぞれ満喫しようとしていた。
 そんな中、『ラッキースケベ一号』シン・アスカはアメノミハシラの有重力ブロックの、居住区画に設けられたバスルームに居た。
 バスルームと言っても、旧時代の日本において銭湯と呼ばれていた施設を模した、一種の娯楽施設だ。
 最大百人が同時に入れるだけの広大なスペースに、岩盤浴やサウナ、温水プールなどを備えていて、利用を希望する者は後を絶たない。
 常に連合の目を警戒しなければならないアメノミハシラの現状を考えれば、スタッフ達のストレス緩和の役目を、それなりに果たしている施設とも言える。
 ゼオルートとの三時間に及ぶ訓練を終え、体中に青痣を拵えたシンは、たまたま余人のいない銭湯を独り占めする事が出来ていた。
 これまでも何度か利用した事はあるが、一人っきりで貸し切りと言うのは初の事で、なんだか得をした気分になり、体中の痛みを一時忘れる事が出来た。
 早速与えられた士官用の個室に戻って、アンダーウェアとタオルを引っ張り出し、鼻歌交じりに銭湯へと向かった。
 普段から腰に差している長さ90センチほどの木刀阿修羅は、部屋に置いて来た。
 入口を通ってすぐにある脱衣所に靴を脱いで上がり、てきぱきと衣服を脱ぎ、棚の中に置かれている籠の中に丁寧に畳んでしまい込む。
 まだDCに入る前だったら、脱いだら脱ぎっぱなしにして、妹のマユや母に窘められていた所だが、クライ・ウルブズに入隊した頃辺りから、自分の面倒は自分で見ようと言う意識が働き、整理整頓が行き届くようになってきた。
 銭湯は普段ならば時間ごとに男女の利用時間が変わるか、入口を男女で二つに区切って運営している。
 今は区切られておらず、他の誰かの姿もない。
 プラスチックの桶を一つ掴み、そこにお気に入りのシャンプーとリンス、タオルをいくつか放り込んだ。
 腰にタオルは巻かず、男が男である為の象徴を堂々と晒して、シンは擦りガラスの入れられた戸をガラガラと勢い良く開けた。
 ガラガラという戸を開ける音と言うものは、今の、というか数世紀前の技術でも無音に出来たのだが、あえて今でも音が立つ様に造られている。
 その『音』が思い起こさせる知識でしか知らない筈の光景や醸し出す雰囲気の様なものが、人間の感性に情緒を感じさせるからかもしれない。
 戸の向こうの世界は乳白色の霧の中に紛れていた。シンの鼻がすんすんと鳴って、浴場の中を満たす匂いをかぎ取る。
 赤薔薇の香りと、極上のミルクの甘い香りが混ざり合った匂いだった。
 湯煙と浴室暖房の効果で裸一貫でも身震いするような事はない。
 ひたひたと自然石を模した人造石の床を素足で歩き、横壁に備え付けられているシャワーと、持ち込んだ一式で体と髪の毛を洗う。
 カラスの行水というほどでは無いが、あまり丁寧とは言えない洗い方だ。特に髪の毛は時間をかけずに適当に済ましてしまう。
 ゼオルートとの訓練で体にたまった疲労を、早く湯の中に溶かしてしまいたい衝動に駆られていたせいだろう。
 流した汗を、泡立てた泡に塗れたスポンジで荒っぽくごしごしと垢と共に削り落す様に体を擦る。
 多少の痛みが皮膚にある痛点から訴えかけられるが、シンの体にしこたま造られた打撲傷などが訴える叫びに比べればむしろ心地よいほどであった。
 一通り洗い終えてから、火傷しそうなほど熱いシャワーと震えてしまいそうな位冷たいシャワーを交互に五回ずつ浴びる。
 体中の神経が弛緩と緊張を繰り返し、常に鋭敏化された状態を維持するようになって行く。
 今日は赤薔薇の花弁入りの美白風呂の様で、白濁した湯面からは先程シンが嗅ぎ取った甘やかな匂いが絶えず立ち昇っている。
 ずっとこのまま包まれていたい、そう思わせる優しい匂いだ。
 爪先から湯の中にいれ、程よい熱さがじんわりと皮膚を通じ、肉を通過して血を温めながら骨まで沁み入ってくる。
 思わずふうっと息を吐いた。
 湯の中にタオルを入れるのは少々マナー違反だが、この際構わないだろうとシンはお湯に浸したタオルで顔や首筋、耳の裏を丁寧に拭った。
 体の中を満たしていた疲労が、春の日差しに当てられた雪の様に溶けてゆく。
 じんわりとした気持ちよさが、体の奥の方から湧きあがり、思わずシンは目を細めて首まで湯の中に沈めた。
 ウォーダン・ユミルとの戦いでの完全なる敗北、一度は折れ掛けた心。それをつなぎ止めてくれていたステラやアウル、スティングといった仲間達。
 失ってしまった愛機ガームリオン・カスタム飛鳥と獅子王の太刀。それに代わる新たな戦友グルンガスト・飛鳥。
 短い時間の間に立て続けに起きた出来事と、それに付随してシンの中で渦巻いていた感情も、今こうして湯の中に浸っていれば忘却の彼方に置いておける。
 さりげなく、常に傍にいて気遣ってくれていたステラのぬくもりと、ムラタとの戦い、そしていつもと変わらぬように接し、シンを見守ってくれていたゼオルート達のお陰か、シンの心は平穏を取り戻していた。
 十分か二十分か、その姿勢のままお湯の中に浸り続けていたシンの耳に、ざぶざぶと湯を掻きわける音が届いた。
 ふと開けた目には、揺らぐ湯面に浮かぶ赤薔薇の花弁が一枚、二枚……。
 そして

 

「シン?」
「……………」

 

 ごしごしとタオルで瞼を揉みほぐす様に拭う。落ちつけおれ、とゆっくりと息を吸ってそろそろと吐き出す。
 吐きだす息は紙縒りのように細長い。
 よし、OK。脈拍は正常、煩悩の生み出す幻はこれで見えないわけで。決して瞼を開いたら裸のステラが見えるわけはなくて。
 ――いざ!

 

「ステラ!?」
「うん?」

 

 一糸纏わぬステラがそこにましたとさ。
 かつてゾルダーク邸にて目撃した時と概ね似た状況でシンとステラは遭遇していた。
 膝まで白く濁った湯面に浸かったステラは、にこにこと無垢な笑みを浮かべてシンをまっすぐに見つめている。
 一度シンに懐いてから、ステラはずっとシンに対して無償の、見返りを求めぬ好意をまっすぐに向けている。
 裸と裸で向き合っている今もだ。
 だから、シンを目の前にして自分の体のどこも隠そうともしない。
 金に染まった絹糸の様な髪はわずかに火照った肌に張り付き、ほのかに桜色を帯びた肌とのコントラストは、ただそれだけでこの世界のモノとは思えぬ可憐さと、不思議な色香に満ちていた。
 大粒のスミレ色の瞳には、この上なく間抜けな顔をしたシンの顔が映っている。
 シンの赤い瞳には、無邪気であどけないステラの笑みが――加えてその年齢に比して豊満に成長し、これからもそれ以上に成長してゆく事が約束された肢体が映っている。
 数か月前に目撃した時よりもいくらか豊かになった双乳に、まろやかさを増した尻、それを繋ぐ腰の頼りないまでのくびれは変わらない。
 隠すべき乙女の秘所も、うっすらと柔らかい肉を押し上げてラインを浮かべる鎖骨も、湯の珠を浮かべるうなじも、なにもかもがシンの前に惜しげもなく晒されている。
 これまでに培ってきたステラの中のシンに対する信頼と、男も女もなく育てられた環境の結果であろう。
 ステラは黙ったままのシンに対して不思議そうな顔を浮かべて、ちゃぷちゃぷと音を立ててゆっくりと歩み寄りはじめた。
 ステラが右足を前に出す。膝から腰へとつながる太ももから、一粒二粒と湯の粒が少女の肌の上を滑り、ミルク色の湯の中に落ちてゆく。
 その幾分かはステラの流した汗であったろう。右足が踏み出された事で両足を繋ぐ股の形も歪む。
 膝から腰、腰から胸へと伝わった震動が、鍛えられた大胸筋と若さの張りに支えられた二つの乳房へと伝わり、淵一杯にまで満たされた水の表面の様に揺らぎ波打つ。
 ステラの胸で揺れる白肉それ自体が、ミルクの匂いを発しているような錯覚を、シンは覚えた。
 ステラのそれが母乳を噴きだす変態的な妄想がシンの脳裏によぎり、股ぐらをいきり立たせた。
 右足の後には左足が、左足が踏み出されれば今度は右足が踏み出される。
 その度に揺れ動く乳房、わずかに捩じられる腰、それらが確かに、手に届く位置にまで近づいてくる現実に、シンの思考は停止している。
 ステラの足が動きを止めた。首までお湯の中に漬かったままのシンに向かい、ゆっくりとステラが屈みこんだ。
 腰から上、より細かく言うならば慎ましく窪んだ臍から上のステラの体がシンの目の前に降りてくる。
 釣り鐘の様に重々しく垂れ下った乳房が作る柔らかい肉の谷間が、ものの見事にシンの目の前にある。
 胸の肉の付け根から、桜色と白色とを混ぜ合わせた色の肉の丘の頂点に色づく肉粒まで、ステラの両腕に挟まれてぴたりと触れ合い、入り込む隙間の無い線を描いていた。

 

「ぐはあ!?」

 

 しんの りせいに 999のダメージ。こうかはばつぐんだ。

 

 うなじに掛かった髪をそっと左手で払いながら、ステラは優しくシンに声をかけた。
 どこまでも悪意の無い純粋な信頼と好意に満ちた声だった。ヒトが知恵の果実を食さずに神の園で生き続けたなら、こんな存在になっていたのかもしれない。
 他者に対して悪意を抱かない、純粋な存在。
 もっとも、ステラの場合はシンやスティング、アウル、ビアン達を始めとした一部に限定されているが。
 鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離で、ステラはシンの瞳を覗き込みながら言った。

 

「シン、どうしてここにいるの?」

 

 ギャグ漫画なら鼻血噴出モノのエロスの爆弾に木端微塵になっていた理性が、ステラのその声にかろうじて繋がり合い、覚醒する。

 

「ドドどうしてと申サレまして、汗を流ソウカと思い風呂に来たワケでしテ、そも、お風呂と言うものはその為にある物かトオれはオモイマすです、ステラサン」
「でも、今はステラ達の貸し切り」
「へ?」

 

 小首を傾げるステラの仕草は思わず抱きしめて頬ずりしたくなる愛らしさであったが、その言葉の意味が、シンを凍てつかせた。
 多分、脊髄とか、脳味噌とかそこらへんを。
 ステラ達の貸し切り、と言う事はクライ・ウルブズのパワフルな女性陣の貸し切りと言う事ではないだろうか? 
 どういう経緯でかは謎だが、シンはそれを知らずにこれはいいや、と一人風呂に入ってしまったらしい。
 いやいやいやいやいや、これはヤバイ。同世代のステラの裸一つでもノックアウト間近のシンの理性は、早急にこの場からの離脱を訴え始めた。
 思春期特有の取り留めない性衝動は、この場に留まりあわよくばその美の共演を脳細胞に刻みつける事を望んでいた。
 だが、シンとて命は惜しい。ステラの裸一つ見れただけでもこの上ない幸運だ。
 これ以上を望んではバチが当たると言うもの。
 シンはいきり立つ股間をステラに悟られないようにタオルで隠しつつ立ち上がろうとした。

 

「ごごご、ごめん、ステラ。おれはもう上がるからさ」
「そうなの? みんな来たから一緒に入ればいいのに」
「みんな、来た……」

 

 サアッと音を立てかねぬ勢いでシンの顔面から血の気が引き、たちまち青白い物に変わる。
 耳を澄ませば、なるほど、幾人かの話声が聞こえ、ガラガラと戸を開く音も聞こえてくるではないか。
 もはや退路はない!?
 シンは絞首刑に処される自分を実に緻密にイメージした。
 ステラは、この世の終わりを悟ったシンの顔を、不思議そうに見ていた。
 先に湯船に向かったステラに遅れる事数分で、姿を見せたのは、今回新型機のテストに出ていた、レオナ、カーラ、ルナマリア、シホ、ヴィレッタ、アクアだ。
 加えてアメノミハシラで艦隊の編成や本土の内政状況、アフリカと南米の戦況の報告を受けていたミナもいる。
 無論、この場が湯で体を清め、疲れを癒す場所である以上、誰もが一糸まとわぬ生まれたままの姿だった。
 この銭湯をはじめ、アメノミハシラ内の一部の娯楽施設などは駐留しているザフトや、民間人にも開放されている。

 

「今日も撃った、撃った。良い仕事した後は命の洗濯をしないとね~」
「どこでそんな言葉を覚えて?」

 

 今にも鼻唄を歌い始めそうなほど上機嫌なのはカーラだ。
 カーラの言動にやや呆れたような調子で聞いたのはレオナである。
 ステラよりやや年上の十八歳。少女の域から大人の女にいよいよ差し掛かる年頃だ。
 年に似合わぬ肢体の豊かさであったが、カーラはダンスで、レオナはパイロットしての訓練で絞った体には余分な脂肪は無く、引き締められた肉体には健康的な美貌が宿っている。
 二人とも体を洗う事から始めるようで、カーラは赤みの強い髪を濡らして手早く洗い始める。
 周囲の目をあまり気にしていないようすで、腕を動かす度に揺れる自分の胸元の果実や、立ち込める白い乳白色の湯気に映える褐色の肌を隠そうともしない。
 一方のレオナは、育ちの違いからかやや気恥ずかしいらしく、背を丸めるようにして椅子に腰かけていた。
 髪がうなじを隠す位のカーラに対して乳房に届く程度にまで伸ばされた金の髪は手入れが中々大変そうだ。
 ゆるく波打つ髪の、絹糸のように細い一本一本まで丁寧に梳る様にしてシャンプーを馴染ませている。

 

「ねえねえ、レオナ」
「何」?
「タスクとはどこまで進んだの」

 

 カーラの言葉に、レオナは思わず目の前にある鏡に額を打ちつけそうになった。
 シャンプーハットを被ったやや愉快な姿のカーラは、レオナの反応が面白くて仕方がなさそうにしている。
 人の恋の話ほど楽しいものはない、というタイプか?
 レオナはカーラの期待通りの反応をしてみせた。白磁の如き美肌に羞恥の赤を登らせ、アイスブルーの瞳はあたふたと落ち着きが無い。 透度の高い湖を思わせる透き通った蒼の瞳が動揺している様子は貴重だ。

 

「ど、どこまでって。私とタスクは別になんでもなくてよ?」
「へー、でもこの間タスクと一緒に出かけてたじゃない。てっきりデートだって思ったんだけどな~?」
「あれは……タスクが私に似合うアクセサリーを見つけたから、どうしても一緒に見て欲しいと言うから……」
「なんとも思っていない人にそんな事言われても一緒に出かけたりしないんじゃないの? それに、見掛けた時はすごく嬉しそうだったけど」
「そ、そんな事無くてよ。ただ同じDCで戦っている仲間だからというわけで、そんな、特別に何かあるわけでは」
「ムキになってるところが怪しい~」

 

 賑やかな二人とは別に、なんだかしみじみとお風呂に浸かっている三人が居た。
 ルナマリア、シホ、アクアのDFCスーツ着用組である。普段はDFCスーツを着用したままお風呂やシャワーを利用する事もあるが、今回ばかりはハイレグの水着スーツは脱いでいた。
 胸元の乳肉の丘の上半分が覗く位置まで体をお湯の中に沈めて、それぞれの美貌は弛緩している。
 いずれも美人の水準を大きく上回る美少女、美女だ。
 その三人が程良く力を抜いて暖かな快楽に身を浸している様子は何とも和やかで、それ以上に扇情的だ。
 この三人が並んでいる光景だけでも、若い盛りの雄なら三日は眠りにつけず、情欲の的にしかねない。
 白い湯によって半分に割られた乳球が揺らめく湯に濡れ光り、無事帰還できた事に安堵した三人の唇からは悩ましい息が零れ落ちる。
 本人達には何の気もなくても、ただそうしているだけで頑健な理性の持ち主でも蕩かしてしまう艶を醸し出している。
 三人の中では最年長のアクアがふうっと深窓の令嬢に似た優雅さで溜息を零す。男がその吐息に触れればその場でアクアを押し倒してしまいたくなる様な悩ましさだ。

 

「生き返るわね……」
「アクアさん、二十三歳のセリフじゃないですよ、ソレ」

 

 全身くまなく白濁した液体に濡れたルナマリアだ。頭頂部にある一房の髪だけは、何時も通り重力に逆らって跳ねている。

 

「あはは、聞かなかった事にしてくれる? それにしても、DFCスーツを脱いでバスルームに来るのもなんだか久しぶりな気がするわね」
「待機中とか、基地に居ても緊急時に備えて着用するようにって念を押されていますからね。隊長が許可してくれたから良かったですけど、本当にDFCスーツを脱ぐのって久しぶりですね」
「そうね……。最初はあれだけ嫌だったDFCスーツにもすっかり慣れたわねー」
「慣れ、ちゃいましたよね。ハイレグの水着にしか見えないあんなのを着てるのが当たり前になっちゃったし」
「……」

 

 最後の沈黙がシホである。
 ルナマリアとアクアの会話になんら反論できず、セクハラとしか思えなかったDFCスーツを着ているのが当たり前になった自分達に、愕然としていたのである。
 そういえば確かにあの締め付ける感じが無くなって落ち着かないような……って、それじゃまるで縛られるのが好きな性癖の持ち主見たい……。
 そこまで考えて、シホは肩を並べる二人に比べてややさびしい自分の胸元を見つめてから溜息をつき、口元までお湯の中に沈めて息を歯吐き出して、ぶくぶくと泡を立てた。
 細く長い指と掌で、そっと自分の乳房を撫で回した。
 きゅっと力を込めると、自分の指が自分の乳房に沈みこむ。込むが、指と指との間から乳白色の湯に暖められた肉がわずかにはみ出す。 湯の中に隠れていたが、それを隣のアクアやルナマリアも思わず生唾を飲み込んでしまったろう。
 シホが、決して豊かとはいえない自分の乳房を弄っている姿は、卑猥と言う言葉でも足りないほどの淫らさだ。
 たとえその気の無い同性さえも狂わせかねない。

 

(イザーク副隊長も胸の大きい人の方が好みなのかしら?)

 

 自然と、銀髪の特徴的な髪形の少年の顔が頭に思い浮かんだ。
 それから、隣の赤毛と淡い紫と水色の混じった髪の美しい同僚の胸元を見て、大きく溜息を吐いた。
 決してシホの胸が、同世代の水準に比べて小さいわけではないのだが、比較対象である二人はいささか育ちが良すぎなのである。

 

「皆、くつろいでいるようだな」
「ええ。この施設も結構役に立つ様ね、ミナ副総帥。ところで」
「なんだ?」
「貴女が『皆』と言うと、なんだか洒落みたいね」
(天然か? それともわざとか? この女)

 

 銭湯に居る全員の様子を眺めて、かすか微笑と共に呟いたのはミナであり、その傍らで肯定したのはヴィレッタだ。
 白い湯の中に、その長い黒髪は影が伸ばした手の様にミナの白皙の肌に張り付いている。
 光の差し込まない世界に気高い美女を連れ去ろうとする魔物の手の様だ。
 口紅を落としてもなお艶めかしい赤い唇は、一時緊張を忘れているようで、珍しく緩んでいた。
 190センチの長身を差し引いても大きく実り育った乳房は、アクア以上の大きさだ。
 鍛え抜かれ搾り抜かれた体に支えられる胸は、少女の様な張りを残していた。
 傍らのヴィレッタも、DC副総帥を隣にしていながら全く緊張した様子を見せず、賑やかな自分の仲間達の様子に微笑みを浮かべている。
 軍人として過酷な訓練を経ているアクアやレオナ以上に搾り抜かれた体は一見頼りない位に細く、不釣り合いなほど大きな胸元と豊かで丸みを帯びた尻肉が無かったら、思わず心配になってしまいそうなほどだ。
 女としては理想の一つと言っても良い位の形の良さと大きさを持った胸元の柔肉と、腰から下の足先に向かうほど細くなって行く脚線美は、この美躯を隠す事など世に対する罪としか思えない美しさと淫らさだ。
 短く整えられた蒼い髪に絡みついた湯の雫が、淡い照明を反射しながら毛先からぽつぽつと湯面に落ち、そこに映るヴィレッタの美貌を乱していた。
 切れ長の瞳、どこまでも涼やかな目元、美人と呼ばれるのに何の支障もないほどに整った眼鼻顔立ち。
 普段は厳しさと静謐だけを湛える唇は、ほんのわずかに桃の色を刷いている。
 桃の花びらから切り抜いて繊細な技術で貼り付けられたような唇の形は、男の誰もが浮かばせたいと思うような笑み。

 

「その様子では、テストは上々だったようだな。ヴィレッタ・バディム」
「ええ。私の見た限り貴方がたDCの方も。でも、今はその話は止さない? 折角気持のよいお風呂に入っているのだから」
「それもそうだな」

 

 痛くもない腹の探り合いなど無粋なだけだと暗に告げるヴィレッタに、ミナは苦笑一つと引き換えに賛同し、心地よさに吐息を吐いて、ゆっくりと目を閉じた。
 その様子からは戦女神の如き普段の様子からは見られない人並の穏やかさがあった。
 ミナがくつろぎに身を委ねる様子に、ヴィレッタも同じように心地よさに身を任せて大理石の壁に背を預けた。
 壁に預けて伸びた背筋が、豊かな胸元がさらに大胆にその姿を晒した。

 

 と、以上の様にそれぞれがくつろぐ間、我知らず飢虎の折に足を踏み入れてしまっていた愚者(ある意味幸運とも言えるが)シン・アスカはどうしていたか?
 湯船の縁に活けられたシダ科の観葉植物の陰に隠れていた。
 無論、それだけではあっという間に見つかり、ひき肉寸前の状態にまで追いやられるのは目に見えていた。
 幸いにして、シンにはシンを守ろうとしてくれる協力者がいた。
 守ろうとしてはくれるが、守れるかどうかとなるとまた別の話なのがミソである。
 どう言う事かと言えば、シンの体を壁と観葉植物に押し付ける様にして隠しているのが、ステラであった。
 シンの顔や体に自分の背中やお尻を押しつけているのである。
 呼吸を確保するためにかろうじて鼻から上を出しているだけのシンの目の前には、染み一つない、まっさらな雪原の様なステラの背中が映っている。
 ステラは後ろ向きで加減がつかないのか、時折シンの鼻を押し潰してしまっている。
 二人の態勢は、足をやや曲げて尻餅を着いているシンの膝の上に、ステラがちょこんと座りその柔らかなお尻の感触を惜しげもなくシンの膝に与えている。
 膝の上に乗っかった姿勢から、ステラは後ろに倒れるようにして背を伸ばしてシンの体を隠していた。
 手を伸ばそうとすれば、いとも簡単にステラの柔らかく豊かな胸の肉を思う存分捏ね回し、抓り、弄ぶ事が出来るだろう。
 シンは自分の指で思う存分にステラの胸を揉み解し、吸いつき、むしゃぶりつくしたいのを必死に抑制していた。
 シンが不意に膝を動かすとそれに合わせてステラのお尻も揉みほぐされて、ステラの鼻からは甘い声が零れ出る。

 

「あん、ん。……シン、あんまり動かないで」
「ごごごご、ゴメンナザイ」

 

 ステラは振り向かずにシンにそっと小声で懇願した。
 答えるシンの声音はガチガチに固まっていた。無論股ぐらの彼の分身もだ。
 頬に密着しているステラの背中の感触とお湯に暖められた熱、ボディーシャンプーの香りとステラの少女特有の甘い体臭がシンの脳を狂わせていた。
 正気を保っているのは、念と剣術の猛烈な訓練によって鍛え抜かれた精神の賜物だろう。
 時折、ステラの背から覗くレオナ、カーラ、ルナマリア、シホ、アクア、ミナ、ヴィレッタと一度に目にするにはあまりにも刺激的すぎる美の女神たちのあられもない姿に、シンの脳味噌は沸騰しきり、何が何だか分からなくなっていた。
 同世代のルナマリアやシホの成長途上の、幼さを残した肉体は健康的な魅力と美しさで弛緩し、レオナやカーラといった姉位の世代の美女の姿はほんのわずかに年齢が違うだけでこうも違うのかと思うほど色香を纏い、シンの目を血走らせる。
 そしてアクアやミナ、ヴィレッタと言った大人の美女たちの生まれたままの姿は、シンの妄想の限界をはるかに超えた美と艶めかしさがあり、これが女という生き物が手に入れる『色』という武器なのだと、否がおうにも思春期の少年に教え込む。
 有史以来数多の雄を狂わせ、破滅させてきた雌の雌たる由縁を幸か不幸かシンはたっぷりとその目に焼き付けていた。
 しばらくは眠れぬ夜を過ごす事になるに違いなかった。
 湯船の片隅でじっと動かずにいるステラを訝しく思ったのか、ミナが声をかけてきた。
 いつもなら誰かの隣でちょこんとしているはずのステラが、今日に限っては皆から離れて大人しく風呂に入っているではないか。

 

「どうしたステラ。今日は皆の傍には寄らぬのか?」
「ん、今日は良いの」
「そうか。あまり長く入りすぎるのは体に毒だ。気持ち良いからと言って長湯はしてはならぬぞ」
「うん」
「そう言えば髪は洗えたのか?」
「うん。シャンプーハット使えば一人でも大丈夫」
「そうか、よく出来たな」

 

 幼い妹を褒める良く出来た姉の様な口調である。包み込むような母性と暖かな優しさが込められた、そんな声。
 となりのヴィレッタが思わず視線を向けた程ミナが口にしたとはにわかには信じ難い、柔らかな声音である。
 その優しさに、ステラは嘘をついているような罪悪感にチクリとふくよかな胸を痛めた。
 思わず、背もたれに身を任せるのと同じ要領で体の重心を後ろに下げたのがまずかった。
 いや、決定打となったと言うべきだろうか。
 顔を項垂れたまま重心を後ろに下げたステラは、お尻を乗せていたシンの膝から滑り落ち、そのままシンの体にまるまる乗っかってしまったのだ。
 シンの膝から両足の付け根、股間にお尻が当たり、シンの体を浴槽の壁と挟みこみ潰してしまう。
 美白効果満点の湯でより滑らかに、すべすべとした肌が動いた速度は緩やかなものだったが、シンに回避と言う選択肢はあり得ぬ状況であった。
 身体の前半分に触れるステラの体の柔らかな感触に、シンの頭の中で色々なモノが切れるブチンという音がたて続けにした。

 

「シン?」

 

 不意に、背中越しに感じていたシンの体から力が抜けてゆくのに気付き、ステラが少しだけ振り向き、シンの顔を伺った。
 シンは――

 

「シン!?」

 

 頭に血が上り過ぎたのと、のぼせてしまった結果、気を失っていましたとさ。
 この後を眼を覚ましたシンが、どのような目にあったかは、語るまでもあるまい、ギャフン。