SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第17話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:48:56

17話「異邦人達の想い」

 

大空を翔る蒼き炎の鳳凰は立ち塞がった覇王の剣へと迫り、突き刺さり、食い破っていく。纏った超エネルギーと一体になったサイバスターが覇王最大の加護ともいうべきセーフティシャッターをも貫くと、
覇王の剣はエメラルドに輝く光に呑み込まれ、その輝きの中から生まれた爆発へと姿を変えた。
同時に覇王の剣を飲み込んだ輝きの中から風の魔装機神サイバスターが姿を現すと、戦場の視線のほとんどがその銀色の機体に集まった。

 

「キラ!?…………………………………………………ここは撤退します」
「ラクス!?」

 

バルトフェルドだけでなく、エターナルのブリッジクルーのほとんどが自分の耳を疑った。
既にストライクフリーダムの撃破を見ただけで自分達の目を疑いたかったクルー達であったが、
覇王の口から発せられた言葉は無情にも、覇王の手となり足となってきた聖なる剣を見捨てることを意味するものであり、一部のクルーを除いては、信じ難い出来事の連続にもはやパニック状態になりつつあった。
他方の覇王の心中も穏やかではなかった。新西暦の世界という異世界に迷い込んでしまったこと、地球を脅かす異星人の存在、自分への畏怖と敬意がまるで存在しない世界、
そして覇王軍の戦力の中核であるスーパーコーディネーターと最新技術の粋を集めて完成・改良させたストライクフリーダムの撃破。
己のいた世界において、望んだことのほとんどが望んだとおりに、都合よく物事を運んできた覇王にとってはイレギュラーな出来事が続いていた。
一瞬、ギルバート・デュランダルの呪いなのかとも考えてしまったが、今は現実逃避をしている場合でないことは覇王も承知の上。
今なすべきことは戦力と体勢を整えなおすこと。拙速は身を滅ぼすのだということは、デスティニープランという、少なからぬ問題を抱えた政策を突然提唱して付け入る隙を作り出し、その隙を突いて自らが滅したデュランダルのことを考えれば嫌というほどわかる。
この異世界を平定し、自分の世界に戻ってから自らの手で覇道を完遂させるため、今は雌伏の時なのだと思った。

 

「ダコスタさん、撤退した後、回収班を出してください」
「いいんだな?」
「はい。わたくしはキラの無事を信じています。ですから今は撤退を。ここでわたくしたちが力尽きるわけには行かないのです」
「…了解した。ダコスタ君、撤退命令を出してくれ!その後、全速でこの空域を離脱するぞ!!」

 

アンドリュー・バルトフェルドはザフトの砂漠の虎と言われた名将であり、戦争というものの現実を熟知している。戦場で、死は万人に平等に訪れる。それは覇王の剣、スーパーコーディネーターであっても例外ではない。
強い力、強い想いがあったとしても、それ以上の力と想いを以ってすれば滅せられてしまうのである。
それ故、目の前に起きた事態、覇王から発せられた命令にもなんとか適応することができた。
間もなくして、戦場の空に発光信号が上がり、覇王のしもべたちの動きが一瞬止まる。

 

量産型ヒュッケバインMK-Ⅱとリオンの混成部隊を、アイビスのアステリオンとともに相手にしていたクスハの目にもその光が映る。
クスハは、サイバスターが敵の指揮官機と思しき見慣れぬ機体を撃墜した後、敵部隊のパイロット達に迷いや動揺が走ったことを感じ取っていたが、続いて上がった発光信号で動きがわずかに止まったことから、
敵部隊がおそらくはもう撤退するであろうことを予想していたが、ヒュッケバインやリオンは直後、弐式の方を向くと、
狙いを定めることなく一斉に携行火器やミサイルなどをこちらに向けて放ってきた。

 
 

「!?念動フィールド展開!」

 

グルンガスト弐式のT-LINKシステムとクスハの持つ念動力を利用したバリアシステムが、着弾前に弐式の機体を覆いつくす。
思念の力を物理的障壁と変化させたバリアは量産型の機体が持つ通常兵器レベルで破ることは敵わず、周辺の大地に着弾したものと併せて弐式の機体を少々揺らしたに過ぎなかった。

 

機体とは対称的に、クスハの持つ2つの超怒級サイズの超高級林檎―遺伝子と健康マニアの妖しい食品とグッズの効用が神の悪戯により絶妙な割合で混ざり合い、
EOTの粋を集めても分析することの叶わない超化学反応の結果として生み出された、神秘の黄金の国ジパングが全宇宙に対して誇る秘宝であり、
その林檎は付近を通り過ぎる健全な者の男女を問わずにその視線を釘付けにして離さず、視界に入れただけで万物を溶かしてしまうような甘さを想像させて口内の唾液を溢れさせ、
むしゃぶりつきたくさせる衝動は赤色のフェイズシフト装甲ですら打ち破れるほどである。
もし仮にこの果実が覇王の軍勢の者達の目に留まってしまったならば、豊かな果実が存在しない覇王軍の男達の精神が、
目に映った信じ難き夢か幻か妄想かロマンかわからない光景によって破壊されてしまうであろう―
そんな2つの林檎が着弾の衝撃により上下左右に我侭に暴れまわった。クスハが纏っているのが水着であったならば確実に林檎は零れ落ちていたであろう。

 

「え、撤退していく…?」
「全機、敵が後退したこの隙に我々もこの空域から全速で離脱する。遅れるなよ」

 

レーツェルから各機体に指示が届き渡ると、ヒュッケバインMK-Ⅲに続き、弐式、アステリオン、そしてサイバスターが離脱を開始していた輸送機へと向かっていく。
ストライクフリーダムの撃墜を以って、インスペクター、そして覇王の軍勢との連続した戦闘はここでひとまずの終わりを告げた。

 

「マサキ、交渉こそ叶わなかったが、お前のおかげで助かった。改めて礼を言うぞ」
「いや、気にすんなよ」
「今回もシラカワ博士を追ってまた地上へ?」
「まあな。奴を放っておいたら何が起こるかわからねえ。なかなか尻尾を掴ませてくれねえしな。それよりあいつらは何者だ?
 言ってることが無茶苦茶な奴は他にもいるかもしれねえが、なんかこう…すっげえ嫌な感じがすんだよ」
「嫌な感じ?」
「ああ、ここら辺を通りかかったときからサイバスターが急に何かを警戒しだしたんだよ」
「サイバスターが!?」
「こんなことはグランゾンが出てきやがったときくらいのもんだった…まあグランゾンのときとは少し違ってたけどな。
 でもあの白い奴を落とした後もそれは止まんなかった。原因がインスペクターなのかピンク野郎にあるのかわからねえけどな…」
「むう……とはいえ私も全てを把握しているわけではない…ん、どうしたシン?」
「あんたがあのロボットのパイロットか?」
「ん?お前はさっきの…ああ、俺が風の魔装機神サイバスターの操者、マサキ・アンドーだ」
「そうか…」

 
 

なんとか輸送機に着艦し、ガーリオントロンベから降り立ったシンがそこに通りかかった。
目の前で起こった出来事が信じられないわけではないが、未だ心の中で幾つかの考えが錯綜している状況の中にいた。
ただ1つわかっているのは、目の前にいる緑色の髪をした、自分とそんなに年齢も変わらない男が今度こそ、機体を貫かれた直後海へと落下したあの時とは異なり、
最愛の両親、妹、ミネルバのクルー達、そして守りきれなかったステラ・ルーシェの敵を取ってくれたという事実である。
だが、自らが敵を討ちたかった想いがあったことは間違いなく、マサキの顔を見るものの、何をいうべきか自分でもわからず、言葉がなかなか出てこなかった。

 

「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
「いや………その…ありがとな」
「?どういうことだ?あ、オイ!ちょっと待てよ!」
「待て、マサキ!実はな…」

 
 

「友軍の救助、ですか?」

 

アメリカ大陸付近の海底を移動中のキラーホエールのブリッジで、ある男の質問が発せられる。

 

「ええ、先ほどバン大佐から新しい命令が届きました。
 インスペクターが地球に現れて既にアメリカ大陸の一部をその支配下に置いた今、残された友軍を回収せよ、とのことです。リクセント公国は後回しになりそうですねぇ」
「了解です、少佐」
「あと、ついでですからバン大佐とヴィンデル大佐から預かったType34の稼動データを集めてしまいましょう」
「Type34…確かラーズアングリフという名前でしたね」
「おや、ユウキ君。どうしました、浮かない顔して。新型はあまり君のお気に召しませんでしたか?」
「…いえ、悪い機体ではありません。特機並の装甲にジャマー、ランドグリーズ以上の火力。我が軍の機動兵器の中でもいい機体だと思います。ただ…」
「ただ、何ですか?せっかくバン大佐がお気に入りの君に預けてくれた機体だというのに」
「………いえ、何でもありません」
「頼みますよ。情報によると最近のアメリカには異星人のほかに、ピンクの戦艦に乗った凄腕のテロリストがいて、連邦だけでなく我々DCにも攻撃してくるらしいですから油断してるとやられてしまいますよ」
「ピンク、ですか?…品の無い奴らだ」
「突っ込み所はそこですか?最近、随分と柔らかくなりましたねぇ。カーラ君の影響ですか」
「我々にも攻撃をしてくるのですか?連邦にならともかく一体なぜ…」
「強引に話題を戻しましたね。まあテロリストの考えることなんて私にはわかりませんよ」
(……よくも言えたものだな)
「何か言いたげですね?」
「いえ、何もありません。では早速ラーズの調整を行なってきます」

 

そう言ってノイエDCのパイロットであるユウキ・ジェグナンはブリッジを後にして格納庫へと向かった。
彼自身、ラーズアングリフという機体が気に入らないというわけではない。
それに異星人がとうとう攻めてきた今、地球を守るための戦力をまとめることは極めて重要であり、
得体の知れない部分のあるスクール関係者との共同作戦や連邦軍と交戦するより遥かに今回の作戦の方がモチベーションが上がる作戦だといえる。
ただ彼にわずかに引っ掛かっているのは、エルアインスの方がとある理由から個人的に気に入っている、というだけのことである。

 

(…ふう、ラーズが空を飛べれば不満はないんだがな)

 

ユウキ・ジェグナン。彼が目指す所は蝶人か、それとも不死鳥がごとき鳥人であるかは定かではないが、彼は空が大好きだ。

 

「悪いな、邪魔するぜ」

 

輸送機内のラウンジが開き、一人の

 

「…なんか用ですか?マサキさん」
「歳もそんな変わんねーし、マサキでいいぜ。俺は軍人じゃねーしな」
「…わかった。それで俺に何か用か?」
「話はエルザムのオッサンから聞かせてもらったぜ。他の事情もな。……………その…悪かったな」

 

覇王の軍勢と接触したことにより、レーツェル以外のメンバーにも自分の素性がある程度わかってしまったことはシンも理解している。
そして、レーツェルがマサキに対してシンのことを話したのであれば、自分のことを口にするべき日はもうすぐそこにある。
ただ、マサキから発せられた謝罪の言葉にはシンも少し驚きを感じた。

 

「!?…いや……あんたが謝ることじゃない。あいつを倒せなかったのは俺が弱かったからだし」
「そう言うなよ。俺にも、こいつだけは!って奴がいるからな…お前の気持ちもわかるんだよ。
 いきなりやってきた余所者にそいつがやられたら色々と考えたくもなる」
「……そりゃそうだけど、本当に気にしないでくれ。確かに俺があいつを…フリーダムを倒すと決めてたし、引っ掛かることはなくはないけど、気分が晴れた部分もあるしさ。その点はホントにアンタに感謝してるんだ。たださ…」
「ただ、何だよ?」

 

自分でも心の中の整理はついていない。しかし、怒りと憎しみの対象であった「フリーダムのパイロット、キラ・ヤマト」の死亡が
シンの心に途方もなく大きな穴を開けてしまい、異世界にいる自分自身の行く末と行くべき道を失ってしまったように思えることは確かであった。

 

「…よくわからないけど、これからどうするべきかが少しわからなくなってきたんだ。レーツェルさんも、あのピンク色の奴も言っちまってたからわかると思うけど、俺はもともとこの世界の人間じゃない。
 自分の世界であいつらに俺の家族は殺された。力がないのが悔しくて軍に入ったけど、今度は仲間があいつらに殺された」
「…」
「必死になってみんなの敵を取ろうとしたけど、結局は無様にやられちまった…いや、最後は奴に戦いを挑むことすら出来なかった…それでこの世界に飛ばされてきてからはあの機体、フリーダムのパイロットを倒すことで自分をなんとか保ってた気がするんだ…」
「…そうか………悪いが少し俺の話も聞いちゃくれねえか?」
「え?」

 
 

「ま、長々と話しちまったが、俺もこっちの世界はもう自分のいる世界だ、っていう感覚があんまりねえときもある。
 だが少なくともDCの連中やエアロゲイターをこのままにしたらどうなるかってのを考えると、俺はそれに無関心でいるわけにはいかねぇらしい。
 だからハガネの連中に手を貸したし、これからも俺はインスペクターと戦うつもりでいる」
「……」

 
 

「他の世界から来たお前も、他の世界に呼び出された俺も、この世界とのつながりみてーなもんが他の奴らに比べりゃ弱いのかもしれねぇし、この世界に関係がねえなら、できるだけ地上に干渉しないほうがいいのかもしれねぇ」
「…」
「でしゃばり過ぎちまったら、それこそさっきのピンク色の野郎と同じになっちまう。それに俺だって連邦の連中の全員が信用できるだなんて思っちゃいねえしな。
 でもよ…上手くは言えねえけど、信頼できる仲間と一緒に、地球を守るってのは悪くはねえ。戦うことで守れるもんがあるなら、そこに手を貸してもいいんじゃねえか?
 サイバスターが力を貸してくれるなら俺はこのまま戦う。少なくとも俺はそう思ってるぜ。あとはお前の問題だ。この世界を見て直感で何を思ったかを考えてみりゃいいんじゃねえか?…なんだか説教じみたことを言っちまって悪かったな」

 

そう言ってマサキはシンの下を後にする。他方のシンは去るマサキを見ることもせず、ただ黙っていた。

 

「異世界」

 

残されたシンにはこの言葉が重くのしかかっていた。

 

「俺のしたいこと、か…」

 

力なさげに呟き、シンは今までの自分を振り返ってみることにした。
レーツェルに救助されてから今日まで、気付けば再び自らの身を戦場においていた。最初こそ、個々が異世界であることを忘れてはいなかったが、
この世界においては自分のいた世界とは異なり多くの良い仲間に恵まれたことや、なかなか個性的な敵パイロットの存在のせいであろうか、いつの間にか自分が異世界の人間であるという感覚は失われていた。
新入りのパイロットである自分に対してもよくしてくれたキョウスケ、エクセレン、ブリットと接し、幸運にも神々しいまでの形と柔らかさを持つラミアのマスクメロンにも触れ、
名前こそ知らないが何度も自らの前に立ち塞がったDCの部隊の隊長であるユウキと激論・激戦を繰り広げ、ラトゥーニからはスクールの存在を聞いて憤った。
気付いてみれば、この新西暦の世界の出来事はいつの間にか「他人事」ではなくなっていた。
これは戦争により引き起こされるもの―戦いには誰もが関係なく巻き込まれるということ―をシンが経験してきたからに他ならない。

 

だが、アスランとの再会、フリーダムとの再戦、覇王の軍勢の登場が、シンに自分が異邦人であることを強く思い出させることとなった。
特に、今までは覇王軍といっても彼の眼中に入ってくるのはフリーダムとそのパイロットキラ・ヤマトとザフトを裏切ったアスランばかりであり、他のものに意識が行くことはほとんどなかったし、意識を向ける余裕がなかったのが現実であった。
シンは、現場の1パイロットに過ぎず、むしろ政治的意見等、1パイロットとして必要なこと以上のものを考えることをせずにいたからである。
それの是非は論者のよって立つ立場ごとに違うであろうが、シンとは明確にスタンスを異にした典型がアスラン・ザラであろう。
そして、今まではキラ・ヤマト、アスラン・ザラ、その他多くの人間と組織を影で操り、CE世界において覇道をなさんとし、今回の戦闘においてはとうとう異世界への介入を明確に宣言した覇王とその軍勢が今回シンの前に現れた。
それとほぼ同時に、状況こそ異なるが異邦人という立場に近いマサキが現れた。
覇王の真意は、シンが知るところではないが、少なくともあの戦闘の時の状況からすればマサキとは明らかに異なるスタンスを取ってこの世界で動こうとしていることはわかる。

 

長年、家族や仲間達の敵と憎み続けたフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトが魔装機神サイバスターとマサキ・アンドーによって討たれた今、
これから先において、自分がこの世界においてどうすべきか、どうしたいかをシンは考え、決めなくてはならなかった。

 

しかし、それを考えたとき、彼の答えは意外にも割とすぐに出てしまった。
復讐という道が失われたことで、シンの心に打ち込まれた巨大な楔は消えてしまっている。
元々アスラン・ザラとは異なり、シンは、そこまで深く物事を考えすぎるタイプではない。むしろタイプとしてはマサキやリュウセイらに近い。
シンとしては、異世界に飛ばされた自分を様々な面でフォローしてくれたエルザムやギリアム、ゼンガーに恩返しとしての手助けをしたいし、
少なくとも現状において戦争を広げるDCを支持できないし、自らが今現在いる地球を異星人による侵略から守りたいと思っていることも確かである。
さらに、過去の自分と重なる所が少なくないためであろうか、それとも救えなかったことの贖罪のためであるかは自分の心の中ではっきりとしてはいないが、
非人道的行為をなす者達から仲間の救出を願うラトゥーニの手助けをできるだけしたいとも思っている。
それらの願いを叶えるためには、この世界で出来た新しい仲間達と一緒に戦うことが一番の近道であったからである。

 

直後、シンはレーツェルの下へ行き、この世界で戦い続けたいという旨を伝えに行った。
そこでレーツェルと話し合った結果、間もなく合流するヒリュウ改にいるギリアムに話を通した後、自分の素性を明かすことを決めることとなるのであった。

 
 

「キラ達が見つかったのですか!?」

 

現在、アフリカ大陸のとある場所に姿を現しているアースクレイドルの奥深くで行なわれている、アギラ・セトメとトカゲ王子ことイーグレット・フェフの、定例お茶会の場にアスラン・ザラの叫びに近い声が響き渡った。

 

「そうじゃ。情報部からこんな写真が回ってきてな。お前さんのジャスティスのデータに残っていた戦艦とよく似ておるじゃろう?」

 

アギラから手渡された写真には、遠くから撮影したものであったが間違いなくアスランの見慣れた、覇王の居城ことエターナル、そしてその近くには彼にとって至上の存在が駆る自由の名を冠した覇王の剣がはっきりと映っていた。

 

「キラ達は今どこにいるのですか!?」
「フェフェフェ、情報部によると今はアメリカ西海岸近くにいるそうじゃよ」
「ありがとうございます!」
「ちょっと待て、アスラン・ザラ」

 

礼を言ってすぐさま格納庫のある方向へと走り出したもう1人の異邦人を、プリンスが呼び止める。

 

「何ですか、フェフ博士!俺は早くアメリカに…」
「アメリカは今やインスペクターどもの支配下になりつつあるんだぞ。エルアインス1機で何が出来る?」
「そ、それは…」
「私のラボの機体を使え。マシンセルの処置が完了した」
「博士の!?ではジャスティスが?!」
「ああ、処置は大成功だ。以前のジャスティスと同じだと思ったら大間違いだぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「アスラン、お前の仲間達じゃが、できるならここに連れて来い。異世界に来てロクな補給もしとらんじゃろうし、ワシらが客人としてもてなしてやる」
「セトメ博士…何から何までありがとうございます!」
「フェッフェッフェッフェ、気にするでない。早よ、行って来い。時は一刻を争うかもしれんぞ」
「はい!」

 

にたぁ、と笑い、年老いてできたシワに覆われた目が鋭く光ったのを見ることなく、アスランはイーグレットのラボへと走っていった。
そんな姿をその容貌からはにわかには信じ難いほどに美しく、そして整って並ぶ歯を浮かべながらイーグレットも、笑みを浮かべながら見ていた。

 

「さて、ここから面白くなるかもしれんぞ」
「そうじゃの。ようやくこれでワシもあやつの主に会えるというものじゃ」
「悪趣味な奴め」
「人のことを言えた義理か、貴様は」
「ふん、グルンガスト参式はマシンセルの注入を受けたことであんな化け物に姿を変えたが、参式は特機だし、数も少ない。
 既存の機体に近い性能を持つ機体がどこまでパワーアップできるのかを試すいい機会なのだ」

 

マッドサイエンティスト達のお茶会に、悪趣味談義の華が咲き乱れる一方で、アスランは愛機の起動準備を完了していた。

 

「すごい…これが本当にジャスティスなのか?待ってろよ、キラ!アスラン・ザラ、ジャスティス出る!」

 

アースクレイドルから1つの赤い機体が飛び出していく。
頭部から大きく突き出た王冠のような、鶏冠のような部分で風を切りながら、ジャスティスゲルミル、と名を変えた、もう一本の覇王の剣が新西暦の世界の空へ飛び立っていった。

 

次回予告みたいなもの
ヒリュウ改と合流したシンは、壊してしまったガーリオントロンベに変わる、赤い試作機に乗ることとなる。そして、偵察を兼ねて出撃したシンの前に、あの男が再び現れた。
開拓者が作った大陸を駆け巡る3機の赤い機体。その色は情熱によるものか、アッサムティーによるものか、はたまた大地を染める血か。そしてアスラン・ザラはエターナルを無事に保護することができるのか。
次回スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATIONS DESTINY 第18話「マシンセルの脅威」期待しないで待っててください