SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第27話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:56:12

27話「龍虎覚醒・後編」

 
 

シンの目の前では、この世界にやってきてからもう何度目になるのかわからないものの、にわかに信じ難いような出来事が起こっていた。

 

超機人と呼ばれる機械とも生物とも思われる物体は、ブリットとクスハごとグルンガスト参式を絡め取り、自分の中へと取り込むと一歩一歩静かにペルゼイン・リヒカイトに向かって歩いて行く。
そして手元に龍の尾をイメージさせる部分を手元に寄せると、その先にある珠が分離する。龍虎王とブリット達に名乗った機体がさらにその珠に手をかざすと、その珠を中心として柄・鍔、
最後に先端が龍の頭部を思わせる形状をした刃が召喚されて剣の形をなすと龍虎王の手に握られた。
他方のペルゼイン・リヒカイトは突然の超機人の復活に虚を突かれたのか、それとも超機人の放つプレッシャーに気圧されたのか、攻撃を仕掛ける素振りが見当たらない。
その隙を突くように一気に速度を上げてペルゼイン・リヒカイトとの距離を詰めて、ペルゼインを切り裂き、ボディに深い傷をつけた。

 

強い衝撃を受けて怯んだペルゼイン・リヒカイトにさらなる追撃をかけるべく、瞬時に2体の超機人は分離・合体を行い、今度は虎の顔を模したような頭部をした姿へと変化すると、
その全長ほどの巨大な槍を召喚してペルゼイン・リヒカイトへと向かっていく。先ほどは不意を突かれたペルゼイン・リヒカイトであったが、今度は手にした刀を構えて
防御態勢を取り始めることで虎龍王と名乗った超機人の攻撃に対処する。
そして、そのまま突き出された槍の穂先を刀の刀身で受け止めて、相手の動きを止めると両の肩の鬼面を分離させて虎龍王へと向かわせた。

 

「クッ!」

 

先程の参式のように、鬼面によって機体の動きを止められるわけにはいかず、ブリットは舌打ちをしながらも、虎龍王をいったん後ろに下げて鬼面との接触を回避せざるを得なくなってしまう。
一方で、蘇り、その直後から正体不明の相手との激しい戦いを始めた超機人の姿を見て1つの決断をせざるを得なくなった者がこの戦場に1人だけいた。

 

「…ユウキ君、カーラ君、僕達は退きますよ」

 

名門と呼ばれるほどであった自分の家を凋落させるきっかけとなった超機人が敵対する連邦軍のパイロットのものとなってしまい、
突如として現れたアインストとの戦闘により戦力が大きく低下しただけでなく、エリ・アンザイらの研究スタッフという人質すら失ってしまったアーチボルド・グリムズである。

 

「超機人はどうすんの!?」
「残念ですが、超機人はもう連邦のパイロットを操者として選んでしまったようです。それにアインストに超機人を奪われてしまうことに比べればマシです」
「了解しました。ではここは自分が後詰めをします。少佐は先に撤退を」
「…そうですね。ここは上官として部下に華を持たせるとしましょう。ですがヒリュウ改の機体…度重なるこの屈辱…忘れませんよ」

 

ペルゼイン・リヒカイトの攻撃によって防御力の高くないエルアインスは大きなダメージを受けていることに加えて、既に目覚めた超機人は操縦者を選んでしまっており、
超機人のパイロットとなる可能性がある念動力を持った部下であるユウキやカーラの利用価値はアーチボルドにとっては大きく減少してしまっている。
そうだとすればここで捨石にしても大きく困ることはない、各部との折衝・部下からの陳情処理・時折見せるアーチボルドのアヒャった顔や
無茶な作戦への耐性など挙げればキリがない実務能力がある者を寄越してもらえばいいのだと彼の頭の中で結論が下され、後詰めをさせるという判断がされた。

 

戦場からの撤退を開始したノイエDCの部隊に危険はないと判断して目の前の敵であるペルゼイン・リヒカイトと対峙することに専念することにしたシンやブリット達は
刀を大地に突き刺してそれにしがみついてゆっくりと立ち上がっていくペルゼイン・リヒカイトを見て、その驚異的な耐久力にわずかに心が蝕まれつつあった。

 

「くっ!まだ再生するのか!?」
「あ、あれじゃあこの前の斬艦刀ロボじゃないけどキリがないよ!」
「そんなことわかってる!問題はどうやってあいつを倒すかってことだろ!?」
「貴様達の目は節穴か?」
「何!?どういうことだ!」

 

通信に割り込んできたのはシンやブリットにとっては最近聞き慣れてきてしまったと言っても嘘とは言い切れない、言葉のどこかに少々棘を潜ませる男の声。
ほどなくして、全身の至る所に実弾兵器を仕込んだ、赤色をした戦車のような機体が脚部のローラーを駆動させて虎龍王やビルトビルガー、ガンドロ、ヒュッケバインガンナーの下へとやって来た。

 

「貴様は一体何を見ているつもりだ?」
「この…!こっちが大人しく聞いてやってれば調子に…」
「よせ、シン!………ユウキ・ジェグナン。もしかして何かわかったのか?」
「ほう…珍しく冷静のようだな、ブルックリン」
「今は俺達が争っているような時じゃない、何度も言ったはずだ!」
「確かにそうだったな。奴の再生速度自体は先ほどと比べて随分と落ちてきている。どうやら完全無敵というわけではないらしい」
「アンタ…!?」
「よし、だったら決まりだな。一斉攻撃で再生される前にやつを倒すぞ!」
「けどあの面はどうするの?原理は不明だけどかなりの機動性があるみたいだし…」
「なら鬼の面の動きを抑えるのは俺とビルガーがやる!どっかのすかした野郎の機体じゃできないだろうしな!」
「ほう…ならばせいぜい頑張って機体性能を引っ張り出すのだな」
「ああ!アンタなんかに言われるまでもないけどな!」

 

言葉の上では反発しあいながらシン、ユウキはともに口元に僅かな笑みを浮かべていた。周囲のブリット、タスク、リョウトらも仕方ないな、と言わんばかりの表情を浮かべている。
見つめ合って目をウルウルさせながら名前を呼び合うことで互いの全てを理解し、友の仇すらも許してしまえるという、健全な男児には理解困難な和解方法とはある意味対極的な位置にある、
殴り合って、ぶつかり合って衝突を繰り返すことで互いを少しずつ理解し始め、共通の困難に直面した時に初めて手を取り合い出すという伝統的な少年漫画のように、
シンやブリットとユウキという、いわばライバル同士がそれぞれの考えと力をぶつけ合った末の共闘がこの場で始められようとしていた。

 

「派手にやってやろうぜ?マサキじゃねえが、俺達の力押しが半端じゃねえってのを見せてやる!」
「フッ…だが思いつく方法はそれしかない」
「みんなの火力を一気にぶつけるんだ…!」
「よし、行くぞ!面を破壊しつつ、一気に本体を撃ち貫くんだ!」
「「「「了解!」」」」

 

ブリットの掛け声に他の4人が応え、再生を終わらせ、再び向かってきたペルゼイン・リヒカイトと相対する虎龍王、ビルトビルガー、ジガンスクード・ドゥロ、ヒュッケバインガンナーは
一斉に四方に散って散開する。突然の行動に一瞬だけ足を止めたペルゼインであったが、そこに対して先程まで放たれていたものよりもさらに膨大な数のミサイルが降り注がれていく。

 

「これは…数が多すぎますの…」

 

あまりのミサイルの数の多さに、ライゴウエによる広域攻撃によっても対処しきれないと判断したアルフィミィは迎撃をすることを断念する。
そしてその代わりにペルゼインの前に両肩にある鬼面を広げてミサイルを防ぐ盾としようとするのだが、降り注ぐミサイルの中には向かってくる途中で大きく軌道を変えるものがあった。

 

「!?これは…」

 

ペルゼイン・リヒカイトに向かってミサイルを放ったのはラーズアングリフだけではない。ヒュッケバインガンナーからもミサイルは放たれていたのである。
通常のミサイルとしてペルゼイン・リヒカイトがいる場所の「付近」へと降り注ぐラーズアングリフのミサイルは、ペルゼイン本体に命中するものは少ないが鬼面を含めて周辺へも突き刺さる。
だが、念動力による制御を受けたヒュッケバインガンナーのマルチトレースミサイルは防御のために動きを止めてしまっているペルゼイン・リヒカイトの本体に確実に命中してダメージを蓄積させていった。

 

「ウイング展開!テスラドライブ全開!ビルガー必殺、ビクティム・ビイィィィック!!」

 

多くのミサイルが爆発して大量の煙に包まれている中へ、背中の翼を広げて緑に輝く粒子を撒き散らしながらビルトビルガーが突っ込んでいった。
推進器と羽ばたくウイングにより巻き起こされた風が漂う煙を吹き飛ばし、紫色をした野生の百舌は背部のウイングから発生させた巨大な刃で鬼面を切り裂いて、すぐにそこから離脱した。
だが、さらにまた接近して切り裂いてはまた離れるという行動を繰り返すうちに、1つ、2つと大きなヒビが生まれ、徐々に鬼面に刻まれた傷は大きく、そして数を増やしていく。

 

「そんな思った通りにはいかせませんのよ…?」
「だがそれはお前にも当てはまる!」
「え?」

 

攻撃対象を主要な防御機能を果たす鬼面だと判断したアルフィミィはビルガーに向けて斬りかかっていくが、まだ漂っていた爆煙の中から突如として槍の先端がペルゼイン・リヒカイトの前に突き出てきた。
それは何とか受け止めることに成功したペルゼイン・リヒカイトであったが、槍の持ち主である虎龍王の攻撃はまだ続いている。
ブリットは連続して突きを繰り出させ、ペルゼインはそれを防がなくてはならないために攻撃態勢に移ることができず、この隙に鬼面にさらに攻撃が加えられていくのを防ぐことができない。
一方、ビルガーの中にいるシンは後続の到着を確認すると最後に一撃だけウイングの刃による斬撃を加えてその場から急速に離脱をする。
それを見て一瞬だけ首を傾げたアルフィミィであったが、ビルガーが離脱した理由はすぐに判明することになった。

 

ビルトビルガーにより何度も突き上げられて宙に漂う2つ鬼面それぞれが、どこからか射出されてきた巨大なアンカーにより捕獲されたのである。
アンカーに繋がった鎖の先にあったのは言うまでもなく最強の盾と呼ばれた超巨大な特機、ジガンスクード・ドゥロ、略してガンドロであり、ガンドロはそのまま一気にアンカーを引き寄せる。
そしてガンドロはそれと同時に自らの機体を回転させ始め、遠心力を利用して空高くへと鬼面を放り投げてしまった。
ビルガーから受けたダメージに加えて、上空に放り投げられることによって本体との距離が離れすぎてしまい、動きが鈍くなっていた鬼面にさらにガンドロが迫っていく。
そのガンドロの機体各部は既に青白い光を発しており、次の攻撃の準備が完了していることが虎龍王のソニックジャベリンを受け止めているペルゼインの中のアルフィミィにも明らかであった。

 

「ギガサークルブラスタァァァァァ!!!」

 

ヒリュウ改の面々の中でも必殺技の叫び声に何故か一番慣れがあるように聞こえるタスクの声が辺りに響き渡る。
それと同時にガンドロの本体から4つの巨大なリングが射出されると、それらは一度散開するものの、一斉に鬼面へと襲いかかっていく。
1つ目は鬼面を大きく弾き飛ばすだけに終わってしまうものの、2つ目は片方の鬼面の上下を貫く大きな亀裂を走らせることに成功する。
そして3つ目のリングがその鬼面を砕いて、破片は砂のようなものへと姿を変え、風に乗って消えていき、リングがさらにもう片方の鬼面を弾き飛ばす。
最後のリングが残った鬼面を削り取っていき、とうとう耐久力の限界を迎えた鬼面は音も無く静かに崩壊を始めた。

 

「くっ…やってくれますのね…!」
「いや、まだまだだ!!」

 

鬼面が破壊されたことに意識を奪われたペルゼイン・リヒカイトはそれを操るアルフィミィの焦りを反映したのか、拙い斬撃が虎龍王へ向けられる。
だが虎龍王は迫る剣先をジャベリンの先端で容易く弾き飛ばすと、反撃とばかりにソニックジャベリンを突き出す。
矛先はボディに突き刺さることはなかったものの、ペルゼインの左肩に突き刺さり、白骨のような物質に包まれた青い珠を貫いていた。そして1つ間をおいて青い珠が砕けると左腕の先が地面に落下する。

 

「左腕が!?」
「残念だったな。今は余所見をしている場合ではないぞ!」

 

そこでは追撃をかけずにジャベリンを納めた虎龍王が後ろに下がると、それとほぼ同時に、ペルゼイン・リヒカイトの横に回りこんでいたラーズアングリフが巨大な岩山の影から姿を現した。
既に普段は背部に背負っているフォールでリングソリッドカノンの展開は終えられており、コックピットのディスプレイに表示されている照準の中心には既にペルゼイン・リヒカイトの姿が固定されている。
そして虎龍王の攻撃によってまだ怯んでいるペルゼインが回避行動を取る前にユウキはトリガーを引いた。
砲塔の先端から飛び出した巨大な鋼鉄の塊である弾丸はそのまま一直線にペルゼインへと迫っていき、左腕を失ったペルゼイン・リヒカイトの左脇腹に相当する部分に直撃する。
その衝撃によりペルゼイン・リヒカイトは大きく吹き飛ばされるが、ペルゼインのコックピットに相当する部分にいるアルフィミィの身体にも大きな衝撃が伝わり、苦悶の表情が浮かんだ。
だが間髪を置かず、今度はペルゼインを通して見える視界が突然暗くなったことにアルフィミィは気付く。
上空を見上げると、ペルゼインと太陽の間あったのは射撃戦闘に特化した第三の凶鳥の姿。そしてその先端にある4門の重力衝撃砲にはそれぞれ紫と黒が混ざり、鈍く輝く光が宿っている。

 

「続けていくよ!フルインパクトキャノン!!」

 

まさに上空から押しつぶすかのように放たれた重力衝撃波は、とっさに刀を掲げて防御姿勢を取ったペルゼイン・リヒカイトの全身を圧迫していく。
重い荷物を持ち上げるかのように膝で踏ん張り、必死に押しつぶされまいとするペルゼインであったが、その各部分には、盾兼バリアの役目を果たしていた鬼面と同様に、
1つ、また1つと大小様々なヒビや亀裂が入っていく。とはいえ、ミシミシと音を立てながら頭部、右腕部、本体、両足の亀裂は拡大を続けつつもまだペルゼインは膝をつかなかった。
右腕部の肩を揺らしながらではあるものの、重力エネルギーによる圧迫を耐え切ったペルゼイン・リヒカイトがフルインパクトキャノンにより生じた巨大なクレーターの中心から浮かんでくる。

 

「さすがに今のは危なかったですのよ……?」

 

末尾で問い掛けるようにしてアルフィミィの言葉が止まった。先ほどまで対峙していた超機人虎龍王が姿を消していたのである。
アルフィミィは左右を見回して辺りを確認して、再び横に回りこんでいたラーズアングリフの姿を確認する。すぐさまその方向へとペルゼインを向け、
先手を取ったラーズアングリフから放たれたフォールデリングソリッドカノンを、身体を捻り回避するが、今度はまた別の方向から飛び出してくる影があった。

 

「こいつで…終わりだあああああ!!」

 

ペルゼインに超高速度で突っ込んでくる1つの影。踏みしめた岩の大地には4本の爪の跡が深々と、そしてくっきりと残っている虎の足跡がある。
アルフィミィはその両の目で迫ってくる影を必死で追うものの、姿を捉えることができたのは既に虎龍王が自分の間合いに入ってきた後であった。
その虎龍王は静かに右腕の掌をもう左の腕の肘付近に置き、そのままその掌を腕の先までなぞるように移動させると、掌の下から出てきたのは万物を抉り貫かんばかりに鋭く尖ったドリル。
そして虎龍王がありったけの力を込めて突き出した、耳を劈く音を立てて回転するドリルは、その行く先を遮ろうとするペルゼイン・リヒカイトの刀を力任せに弾き飛ばすと、
そのままペルゼイン・リヒカイトの胴体部にある珠のすぐ下、腹部にあたる部分へと突き刺さり、遮るペルゼイン・リヒカイトのボディを
構成する物質を砕いてゆき、ついにはドリルの先端がペルゼイン・リヒカイトを貫いた。
続いて虎龍王は突き刺したドリルを引き抜くと、いったんバックステップをしてペルゼイン・リヒカイトとの距離を開ける。
一方のペルゼイン・リヒカイトはドリルを引き抜かれてすぐに力なく仰向けになって倒れこむ。

 

「守護者のしもべ…完全に力を取り戻されたのですの?」

 

震えるように上半身を起こそうとするペルゼインリヒカイトの中からアルフィミィが問い掛けた。

 

「そうだ、俺達の力とグルンガスト参式を取り込むことによって…虎龍王、そして龍虎王は蘇った」
「くっ…修復が…ここは退かせていただきますの…でも…守護者のしもべよ…あなたに…私達の邪魔はさせませんの…今度も…」

 

わずかに残された力を振り絞って出したと思しき声が発せられてすぐにペルゼイン・リヒカイトの姿は光に包まれて、次の瞬間には姿を消していた。
トドメをさすことこそできなかったものの、すぐにその場にいた全員が安堵のため息をつく。

 

「あ゙ー…さすがに今回は肝を冷やしたわ~」
「ホントそうだな、もうビルガーも俺もエネルギーすっからかんだ」
「大丈夫か、タスク、リョウト、シン?」
「僕達は大丈夫だよ、MK-Ⅲもね」
「バーロー!おめえだけにゃ言われたくねえよ、ブリット。心配させやがって」
「全くだな。いくらなんでもこんなSFみたいなのアリかよ」
「…お疲れの所で悪いが、俺はここで任務完了だ…また会おう」

 

シン達に先立ち、既に戦場からの離脱を始めていたラーズアングリフから通信が入ってきた。

 

「待て!既にアメリカもハワイもインスペクターの手に落ちた。それでもまだこんなことを続けるつもりか!」

 

シン・アスカ、ユウキ・ジェグナンに比べた場合、ブリットの持つ異星人に対する警戒心は強い。
これはL5戦役のオペレーションSRWにおいて、最前線でエアロゲイターの幹部クラスの機体とも交戦したブリットの体験に基づくものであろう。
そしてL5戦役ではDC残党部隊もエアロゲイターの機動兵器部隊との交戦を行っていたし、
オペレーションSRWにおいてはDCとイスルギ重工が開発・製造したリオンシリーズが重要な役割を果たしたことも事実である。
整理するのであれば、ブリットとしては既にL5戦役末期のように、対話が完全に不可能な者を除けば、地球人類同士の戦闘行為継続はすべきでないという認識に至っているといえる。

 

「…今回の借りはいずれ必ず返す。もちろん貴様にもだ、シン・アスカ」
「そんなのはどうだっていい!だけどその代わりに1つ答えていけ!」
「何だ?」
「どうしてアスランのやつがDCにいる?あいつがどんな奴だか知ってるのかよ!?」
「なるほど。どうやら貴様達が知り合いだというのは本当だったようだな」
「ああ、なんてったってあいつは裏切り者の元上官だからな」
「貴様ら連邦と同じように、俺達DCも1枚岩ではないということだ…所詮、推測の域は出ないがな」
「じゃあそれでもアンタはDCに手を貸すってのかよ!?」
「俺はノイエDCのパイロットだ。共に戦う部下達もいる…それに…もしもここで俺が連邦に寝返ったならばあのアスラン・ザラと同じ裏切り者になってしまうようだしな」

 

これまでブリット、そしてシンと幾度も言葉と刃を交じえあってきたユウキとしても、異星人からの地球圏の防衛というDC・ノイエDCの本懐を忘れたわけではない。
やり方・考え方にこそブリットやシンとは小さからぬ違いがあるものの、戦う中でユウキが認識したブルックリン・ラックフィールドとシン・アスカという人物は嫌悪の対象にはなっていない。
互いに銃口と刃を向け合う理由は、必要だとそれぞれが認識する目的実現手段の性急さの違いによるものなのだろう、というのがユウキ・ジェグナンが最近になって徐々にわかってきたところである。
だがユウキにとって、ノイエDCには共に戦う絆を信じあうことのできる仲間や部下がいることも確かであるし、ノイエDCの首魁バン・バ・チュンも信用できる上役である。
むしろ皮肉なことに自らの上官であるものの、目的と自己の快楽のための残虐行為を厭わないように思われるアーチボルド・グリムズや、
アーチボルドほど長い付き合いがあるわけではないものの、交わした言葉や間合いから相容れないものと感じられたアスラン・ザラやその一党という、
所属上の味方の方がユウキにとっての嫌悪の対象となっているのは皮肉なことだと自覚していた。

 

「そんなの詭弁だろ!」
「…だが………貴様の言葉は忠告としては受け取っておこう…ではさらばだ」
「あいつ…!」

 

ビルガーのカメラに映るラーズアングリフの姿がどんどん小さくなっていくのを見ながらシンは歯を食いしばっていた。
ラクシズが既にノイエDC内部に入り込んでいることをまだ知らないシンであるが、それでもスクールのこととアスラン・ザラが手を貸している時点で
シン・アスカの中で形成されているノイエDCの印象は最悪なものに近い。今さっきまで共に戦ったユウキ・ジェグナンの考え方も全てが正しいとは思えない。
だが、話が全く通じない、会話にならない、心底嫌いな相手というわけでもない、という部分があることもわかる。
そして現に今も「忠告」という留保は付けられたものの、言葉は通じ合っていたのである。
そのため、インスペクターの脅威がすぐ近くにまで迫ってきている今の状況下においては、小憎たらしい好敵手に対して何ともいえないもどかしさが感じられていることも確かであった。

 
 

「物資の搬入が終了し次第、エターナルは極東地区、伊豆基地へと向かいます」

 

アースクレイドルの奥深くに鎮座するエターナルのブリッジに覇王の号令が響き渡った。
その声を聞いて、情報収集活動に従事中のアンドリュー・バルトフェルドを除いたエターナルの主要なブリッジクルーとインフィニットジャスティスの調整を終えたアスラン・ザラ、
そしてインフィニットジャスティスに施されたマシンセル処理の調整を兼ねたアースクレイドルの中枢コンピューターである
コンピューターメイガスの調整のアシストを行っていたキラ・ヤマトらの顔が一斉に引き締まる。

 

「キラ、ラピエサージュに不都合はございますか?」
「大丈夫だよ、ゲイムシステムとのリンクにも慣れたしね」
「アスラン、インフィニットジャスティスの修復はいかがですか?」
「問題ない。キラが手伝ってくれたしな」
「ダコスタさん、ヴァイサーガの引渡しは?」
「はい。シャドウミラーは強奪した既に先にシロガネで極東に向かっています。直接出向いて催促する他ないかと」
「…わかりました」

 

ほんの一瞬だけ覇王の顔が引きつった。その理由は他でもない。
ヴァイサーガの引渡しが上手く進まないこと、突き詰めれば忌々しいレモン・ブロウニングの思い通りになってしまっているからである。
戦力はあるにこしたことはない。それが一機でMSやPT、AM数機分の戦力となりうる特機であればなおさらである。
そして新しい技術や情報の獲得は自分の思う通りに事を運ぶための最も重要な要素である。
これは覇王自身がターミナルやオーブ、プラント各部の至る所に忍ばせた工作員などから常に新鮮で正確な情報を入手して巧妙に立ち回ったからこそ、
他の勢力に比べれば少ない戦力によってもCEという世界を武力によって統べるまで後一歩という所にまで至ることができたからである。
とはいえ、思い通りに行かなかったからと言って不貞腐れるような真似は、自らのカリスマ性維持のため、ひいては世界は自分のものという信念を現実のものとするためにも、決してしない。
覇王は静かに、少し深く息を吸うとコーディネーター達の思考の奥底にまで溶け込み、聞いた者達を自らの虜として導くための声を紡ぎ出した。

 

「皆さん、今この世界の地球は異星人による侵略を受けている最中です。このままでは地球圏に未来はありません。たしかに私達はこの世界に本来いるべきではない者かもしれません…
 ですが…だからといって地球圏に迫る危機に目を背け自分達の世界に帰る術を探していればよいのでしょうか?
 わたくし達がこの世界に来たことに意味はないのでしょうか?
 わたくし達にしかできないことがあるはずです。それは容易なことではないでしょう。ですがわたくし達であれば決して不可能ではないはずです…
 この地球を守るため、どうか皆さんのお力をわたくしにお貸し下さい…」

 

艦内回線を用いて艦内全てに流された覇王の言葉が終わるとエターナルの中で、クルー達の歓喜と喝采の声が一斉に沸きあがった。
思わぬことから新西暦の世界に迷い込むことになったエターナル内のコーディネーター達は皆一様に自分たちの行く末について強い不安感を抱え、精神的な安定は損なわれていた。
地球圏に迫る異星人の脅威、連邦とDCという知らない勢力が繰り広げる戦争、見つからないCE世界への帰還方法、ストライクフリーダムと双璧をなすインフィニットジャスティスの不在、
最強のパイロットキラ・ヤマトが駆るCE世界の聖剣ストライクフリーダムのあっけない撃墜、ノイエDCという組織との接触に、アースクレイドルへの移動と、
コーディネーター達の精神的な負担は見過ごせない大きなものとなっていたのである。

 

しかし彼らの不安感は覇王の言葉により霧散していた。
自分たちがこの世界に来たことには意味がある、自分たちだからこそできることがある、今はまだそれがはっきりとはわからないが覇王がいうのであるから必ず見つかるであろうし、
それは上手くいくであろうという確信がコーディネーター達に生まれ、「ラクス様」との大号令がエターナルの至る所で響き始めていく。
そして、高い士気を回復して各クルーが配置につくと覇王は静かに口元を緩ませた。

 

言うまでもなく、クルーのコーディネーター達がそのような思考に至ることを考慮に入れた上で意図的にぼかした表現をいつものように多用したのである。
誘導されて出した結論を、コーディネーター達は自分で出したものであるかのように認識して、それは結論へのきっかけを与えてくれた覇王へのさらなる信仰に繋がっていく。
音声レベルでの覇王の声がコーディネーター達に対して遺伝子のレベルで思考を抑制させた上で、
その言動からコーディネーター達からの絶大な支持と信仰、カリスマ性を持つ覇王が紡ぐ言葉は、意味内容レベルでコーディネーター達からのさらなる信仰を生み出していく。
この二重構造こそが強運と先見性、決断力と実行力に並ぶ、コーディネーター達の上に君臨し、世界の掌握を進めてきた覇王の持つ武器の1つなのである。
そしてまだエターナルの中では覇王のもとにとどまっているに過ぎないことであるが、ヴィンデル・マウザーから知らされた異星人インスペクターとの接触の可能性の存在が
徐々に正史との齟齬を生み出していくことになるのだということをまだ誰も知らない。

 

その頃、覇王を称賛する声で溢れるエターナルの奥深く、ライトブルーの透明なカプセルの中で静かに眠っている男がいた。正確に言えばずっとそこで眠っている。
身体の一部は損傷したからであろうか、機械のようなパーツとどこかに繋がったケーブルがある。
しかし耳を劈く覇王を讃える声にもかかわらず男の意識は闇の中にあるままである。
男の名前はキラ・ヤマト。正確に言えば周囲の人間からキラ・ヤマトと呼ばれるスーパーコーディネーターのオリジネーターその人である。
彼の忌まわしき出自は遺伝子上の母の親類縁者であると同時に育ての親であるヤマト夫妻により秘匿され、世界に2千万人ほどいるコーディネーターの中の、ありふれた中の1人として彼は育った。
憎悪と欲望の渦巻く戦場とは遠く離れた、工業カレッジの学生となっていた彼の運命を狂わせたのは、彼を至上の存在とするアスラン・ザラが所属するザフトによる
中立コロニーヘリオポリス襲撃であった。そして成り行きで連合軍の試作新型MSストライクのパイロットとなった彼はさらに自分の運命を予想外の方向へと導くこととなる女に出会うことになる。
それこそ、彼が偶然に発見・回収したポッドに乗っていた覇王その人である。そしてこのとき覇王に目を付けられたことが彼の人生の転機となった。

 

覇王をアスラン・ザラに引渡して地球へと降下したキラ・ヤマトであったが、以前から密かに想いを寄せていた、コーディネーターに最愛の父を目の前で殺害されて
コーディネーターを激しく憎んでいたフレイ・アルスターと肉体関係を持つに至る。
これは憎むべきコーディネーターを一人でも多く世界から消し去るために自分の身体さえも対価にしたフレイ・アルスターの捨て身の報復目的と、
後のシン・アスカと同じく守ろうとしたのに守りきれなかった存在を喪失して深い悲しみの中にあったキラ・ヤマトが慰めを求めたこととが合致したためである。
だが、自らの言動も相まってナチュラルの艦であるアークエンジェルの中で周囲から孤立しつつあったキラ・ヤマトの心の最後の拠り所であったことは確かな事実である。
後に衝突したキラ・ヤマトとフレイ・アルスターは一度関係を清算するものの、互いの存在の重要性を失ってみて初めて自覚した両者には歩み寄りの兆候が生じた。
しかしその矢先、ニコル・アマルフィをキラに殺されて怒りに震えるアスラン・ザラとの死闘の末、イージスの自爆に巻き込まれたキラは重傷を負ってしばらく眠りにつく。
運が良かったのか悪かったのか、地球・プラントの双方での影響力保持を必要としていたマルキオに救助されたキラはそのままプラントの覇王の下へと運ばれることになる。
ここでマルキオが密かに有していたスーパーコーディネーターのクローン体とともに、
プラントで大きな影響力を有している覇王に献上されたキラ・ヤマトであったが、彼がすぐに目を覚ますことはなかった。
そこで可及的速やかに強大な戦力を必要としていた覇王は献上されたクローン体の1体にキラ・ヤマトの有していた記憶を情報として与え、
目覚めたクローンを新たなキラ・ヤマトとした上で覇王の忠実な道具として仕上げたのである。
ここで幸運であったのは、別人であるクローンであっても、覇王による教育の成果によりあたかも何かを悟ったような人格となっていたために、
多くの人間からは人格の同一性を疑われることはなかったことであろう。

 

覇王が裏で2人目と呼ぶ1体目のクローン体は途中まではほぼ忠実に覇王の思うとおりに動いていた。だがオリジナルの記憶を情報として所有しており、
覇王の想定外の人格までもが蘇ってしまったためにすぐに破棄されることとなった。
具体的には、ラウ・ル・クルーゼによりNJCのデータを持たされてポッドごと射出されたフレイ・アルスターとの通信によりオリジナルに近い人間臭さ、フレイ・アルスターへのこだわりが
出てしまったために覇王の怒りを買ってしまったのである。そしてこれは覇王にとって数少ない誤信の1つであった。
ちょうどその直後に一時的にではあるが、激しい戦闘が中断された時期があったので、運悪く目覚めてしまったオリジナルのキラ・ヤマトはヤキンでの決戦まで覇王による調整を受けることとなる。
これにより2人目とあまり変わらない人格が形成されるのである。
以後この2人目に対して形成させた、静かで達観したような振る舞いと覇王に思考に忠実なパイロットという人格は、
育ての親をも欺くために戦闘能力を少々犠牲にしてでも対人コミュニケーション能力を重視した、ヤキン決戦直後からサイバスターとの戦闘まで稼動することとなった3人目、
逆に戦闘能力にやや比重を置かれた最近稼動し始めた4人目の基本的な人格パターンとなる。
滅多にない覇王の誤算のうちのもう1つがジェネシス付近での最終決戦の折、再びラウ・ル・クルーゼによってオリジナルの人格が蘇ってしまったことである。
ドミニオンからの脱出艇を取り囲んだドラグーンのビームを1条防いだときにガラス越しの再会を果たすことの出来たキラ・ヤマトとフレイ・アルスターであったが、
別のドラグーンの攻撃により脱出艇はキラ・ヤマトの目の前で炎に包まれて消えたのである。

 

紆余曲折を経たものの再び手を取り合うことがかもしれない相手を殺された。

 

守りたいと願った相手を、再び目の前で殺された。

 

この時ばかりは深い悲しみと怒りを糧として死力を尽くしたキラ・ヤマトは、ラクシズが唱える憎しみの連鎖からの解脱とはかけ離れた、憎しみと怒りに身を任せた戦いをしていた。
しかし、皮肉だったのは心からの怒りや憎しみ、悲しみという典型的な人間性の発露がキラ・ヤマトに存在していたのは現時点においてはこの時の戦いが最後となっている。
ムゥ・ラ・フラガの父のクローンとして高い空間認識能力を持ち、ナチュラルの身でありながらもザフトの白服にまで上り詰めた天才ラウ・ル・クルーゼは
愛機プロビデンスの性能も相まって終始最高のコーディネーターとして人類最高の性能を持つはずのキラが乗るフリーダムを圧倒していた。
にもかかわらず、最後にクルーゼを倒すことができたのはその時のキラ・ヤマトが怒り・悲しみ・憎しみという人間の感情に基づいて力を振り絞って己の限界にまで迫りえたからであった。

 

そしてフレイ・アルスターが死んだ直後、キラは彼女の声が聞こえたような気がしていた。
フレイ・アルスターの本当の想いがキラ・ヤマトを守る、というものらしい。
最後こそ勝ち得たものの、戦闘技術面でも精神面でもクルーゼに圧倒され、力のみがお前の価値だというクルーゼの言葉に反論をし得ないまま終わったキラ・ヤマトの心は
クルーゼとプロビデンスの消滅を確認した後、それを待っていたかのように崩壊した。
人殺しの「力」以外の取り柄など見当たらず、守りたかったものすら守れず、キラ・ヤマトにとっての自分と自分を取り巻く世界はこの時終わりを迎えたのである。

 

平凡に生きていれば味わうことのなかった多くの悲しみや苦しみが押し寄せてくる。欲した人は失われた。
どうしてそのようなところまでキラ・ヤマトの接する世界は来てしまったのであろうか。
フリーダムのコックピットから這い出て宇宙をただ彷徨いながら最後に一言だけキラ・ヤマトは呟き、目を閉じた。
以後、彼の目は閉じられたままとなった。
生命反応がないわけではない。ただこれ以上生きることを彼自身が拒絶しているのである。

 

だがこれで終わりではなかった。

 

肉体だけが何故か生き長らえさせられている以上、深い闇の中で崩壊したキラ・ヤマトの心は静かに眠っているだけのはずである。
しかし暗闇の中で音も無く横たわるキラに、毒々しいピンク色をした鎖や触手が襲いかかってくるようになったのだった。
外では、「ゆりかご」と呼ばれるコントロールマシンを入手した覇王による、キラ・ヤマトの精神の再構築が始まったのである。
避けることも防ぐこともできない壊れた心では、どうすることもできない。
そうだとすればピンク色の侵略者に抗う術はないはずであったのだが、その侵略者からキラを守っているのが彼を包む赤色の光であった。
これ以上の戦いだけでなく、生存すらも拒絶する彼の心を犯させないように、キラを包む光は定期的に襲い来るインベーダーからキラの心を守っていたのである。
しかし、最近になってキラを包み守る光が気のせいであろうか、弱くなってきているように彼は感じられていた。

 

「もうほっといてくれ…死なせてくれ…このまま…静かに…」

 

何度心の中で思ったかも既にわからなくなった言葉がまた出てきていた。

 

                                                つづく

 
 

  

 

 

レイ「結局ラウは偉大だってことだな」
シン「また随分大雑把にまとめたな、オイ」
ブリット「アザラシのつまり、シンの両親を殺したのが2人目で、シンが守りたかった敵軍の女の子を殺したのは3人目。
     2人目はもうラクシズに消されていて、3人目はアカシックバスターの餌食ってことだな」
タスク「それを言うならとどのつまりだろ」
レイ「そんなことなんてどうでもいい!次回は俺様久々の出番だぜ!」
シン「ってことはまさか俺、主役なのに出番なし!?」
リョウト「…リュウセイ君も言ってたけどキャラ大杉だからね…でもそんなこと気にしてたらビッグにはなれないよ?」
シン「俺は大物じゃなくても主役の方がいい!」
レイ「気にするな、俺は気にしない。では次回予告をアバン風にまとめたから今日はこれでおしまいだ。次回、『コーヒーブレイク』をお楽しみにな!次回でも予告でも俺は最初からクライマックスだぜ!というわけでアバン風次回予告、3,2,1、キュー!」

 
 

時はやや遡ってオリジナルとは異なる魔人であるレイのペルゼイン・リヒカイトが現れて少しした後の極東地区、日本の伊豆基地近くにひっそりと一軒の喫茶店がオープンした。
店主の顔には大きな傷が走っており、只者でないことだけは容易に判断することができる。
店名決定まですったもんだの大議論が行われ、砂漠珈琲、喫茶ネルガル、地獄先生の珈琲屋、喫茶千本桜、笑麗顔闘(エレガント)珈琲からミルクディッパーに至るまで様々な候補があったりする。

 

そんな店に、ドアの上部に付けられた鈴が鳴り響くと1人の男が入ってきた。
一見すると女性のようにも思わせる長い髪は肩の辺りまで伸びており、髪に触れた手からこぼれ落ちるかのようにサラサラとこぼれ落ちていく。
男の名前はレイ・ザ・バレル。
記憶喪失な特撮ヒーローの中の人として小さな子供達やその若奥様方から昼下がりの団地妻、果てはその独特かつ印象的な決め台詞で大きなお友達にまで広く慕われている男であると同時に、
その素性が異世界であるCEの世界で覇王に弓引いたがために邪神の怒りに触れ、抹殺されたギルバート・デュランダルの懐刀であり、もう1人のラウ・ル・クルーゼでありながら
クルーゼとは正反対に世界の存続を願いつつも、キラ・ヤマトの3人目に敗れた元ザフトのエースパイロットの1人である。

 

そして店主はデータ上でではあるが、彼を知っていた。
店主の名はアンドリュー・バルトフェルド。かつて砂漠の虎との異名を馳せながらも、キラ・ヤマトに敗れて死に損なった男である。
とはいえ、生き延びはしたものの、愛した女を失った喪失感を埋めることはできず、覇王の発する言葉を心の拠り所としたことからバルトフェルドの新しい戦いが始まることとなった。
そして、極東地区の情報を集めるためにラクシズからも直接ラクシズの息のかかった諜報活動員を派遣することになったのであるが、覇王やキラ・ヤマト、アスラン・ザラなどの個性の強い面子が
非常に多いエターナルの面々の中では最も社交性と一般常識がありそうな者として極東地区の軍事的中枢である伊豆基地付近に潜伏することとなったのである。
そんな彼の店に、近くでロケを行っていて、休憩時間に暇をもてあましたレイがやって来たのであった。