SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第28話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:56:47

28話「コーヒーブレイク」

 
 

時はやや遡ってオリジナルとは異なる魔人であるレイのペルゼイン・リヒカイトが現れて少しした後の極東地区、日本の伊豆基地近くの小高い丘にひっそりと一軒の喫茶店がオープンした。
店主の顔には大きな傷が走っており、只者でないことだけは容易に判断することができる。
ちなみに、店名決定に至るまでの間すったもんだの大激論が行われ、珈琲砂漠の虎に始まり、喫茶ネルガル、喫茶落ち目のスケコマシ、地獄先生の珈琲屋、喫茶鬼の手、喫茶千本桜、
笑麗顔闘(エレガント)珈琲、ギャラクシアン・エクスプロージョン~ちょっと厨臭いが反省はしない、英国仮面2世、傷の男のコーヒー屋、喫茶シャインバラム、四角っ鼻の美味しい珈琲
ついにはDENライナー食堂車やミルクディッパーに至るまで様々な候補があがったりしたという経緯がある。

 

そんないきさつのあるこの店『コーヒーが…飲みたいです…prz』に、ドアの上部に付けられた鈴が鳴り響くと1人の男が入ってきた。
一見すると女性のようにも思わせる長い髪は肩の辺りまで伸びている。その髪は、触れればその触れた手からこぼれ落ちていきそうなほどにきめ細やかであり、店の外から入ってきた風になびく。
かすかな潮の香りを乗せた風とともに店に入ってきた男の名前はレイ・ザ・バレル。
記憶喪失な特撮ヒーローの中の人として小さな子供達やその若奥様方から色々なものを持て余した昼下がりの団地妻、
果てはその独特かつ印象的な決め台詞に盛大に釣られた大きなお友達にまで広く慕われている男である。そして、彼にはもう1つの顔がある。正確に言えば「あった」と言うべきであるのだが。
異世界CEで邪神の写し身たる覇王に弓引いたがためにその怒りを買い、志半ばで抹殺されたギルバート・デュランダルの懐刀であると同時に、
もう1人のラウ・ル・クルーゼでありながらクルーゼとは正反対に世界の存続を願ったザフトのエースパイロットの1人という素性が、今は失われている過去の顔である。

 

そして店主はデータ上でではあるが、彼を知っていた。
店主の名はアンドリュー・バルトフェルド。かつて砂漠の虎との異名を馳せながらも、キラ・ヤマトに敗れて死に損なった男である。
とはいえ、生き延びはしたものの、愛した女を失った喪失感を埋めることはできず、覇王の発する言葉を心の拠り所としたことからバルトフェルドの新しい戦いが始まることとなった。
そして、極東地区の情報を集めるためにラクシズからも直接ラクシズの息のかかった諜報活動員を派遣することになったのであるが、覇王やキラ・ヤマト、アスラン・ザラなどの個性の強い面子が
非常に多いエターナルの面々の中では最も社交性と一般常識がありそうな者として極東地区の軍事的中枢である伊豆基地付近に潜伏することとなったのである。
そんな彼の店に、近くでロケを行っていて、休憩時間に暇をもてあましたレイがやって来たのであった。

 

事前に集めた情報及びレイの乗るペルゼイン・リヒカイトと交戦したアスラン・ザラからもたらされた情報からすぐに店にやって来た人間がレイ・ザ・バレルその人であることはわかったが、
そもそも記憶喪失であること自体が本当であるか疑わしいとバルトフェルドは考えており、店にやってきたレイの狙いを必死に推測し始めた。
まずいことにバルトフェルドの顔自体は砂漠の虎、という異名で広報などにも載ったことがあるために記憶喪失というのが嘘であれば
ザフトを裏切って覇王の手先となった彼が伊豆基地近くで喫茶店のマスターをやっている理由などすぐに知られてしまうおそれがある。
そんな最悪の推測がバルトフェルドの頭の中をよぎるものの、店のカウンター席に腰掛けたレイはまっすぐにバルトフェルドの顔を見て口を開いた。

 

「マスター。コーヒーだ」

 

一瞬だけ最悪の事態が浮かんだものの、とりあえず受けた注文に応ずるべく、バルトフェルドは自分の持つコーヒーへのこだわりと情熱すべてを込めた一杯のコーヒーを作り、レイに差し出した。
レイはカップの取っ手を軽く掴み、顔の近くに持って行く。すぐに口に入れたりはせず、漂う湯気と混ざり合い漂う香りを嗅覚で堪能する。

 

そしてその後、一口、また一口と今度は味覚による吟味をレイは開始した。他方で、その吟味がされるたびに動く喉元をバルトフェルドは見つめながら再び最悪の事態の想定を開始する。
堂々巡りになるバルトフェルドのした108通りのシミュレーションを余所に、レイは空になったカップをカウンターに置くと、そのまま店主であるバルトフェルドの顔を黙って睨みつけた。
沈黙の時は十秒もなかったのであるが、バルトフェルドは自分が現在大量の発汗をしていること、口を閉じているのに喉がどんどん渇いていくのを自覚していた。
彼にとっては10秒が1時間以上にも感じられる。そして、レイがさらに強くバルトフェルドを睨みつけて口を開いた

 

「おい…!」
「は、ハイ…いかがしましたか?」

 

いつもとは違い、やや裏返った声でバルトフェルドは反応してしまう。脳内シミュレーションは既に終了し、
こんなことならザフトの広報の取材を断っておくべきだった、広報誌にコーヒーへのこだわりを語る連載などするんじゃなかった、サイフォンを持った写真をでっかく載せるんじゃなかった等と
いう後悔の念が浮かんでは消えるという作業をバルトフェルドの思考が繰り返す。
だが、当然ながらそんな思索などレイが知る由はなく、空になったカップを黙って突き出し、続く言葉を紡ぐために再び口を開いた。

 

「マスター、おかわりだ!!」
「へ…?」
「へ?って…だからおかわりだって。オッサンのコーヒー、美味ぇじゃねえか」
「…………あ、ありがとうございます。ただいまお作り致します」
「頼むぜ、しっかりしてくれよ」

 

名将と称されて数々の戦場を駆け抜けてきた歴戦の戦士と言っても過言ではないバルトフェルドであったが、このときばかりは発せられた言葉に頭が完全にホワイトアウトしていた。
正体がばれていなくてホッとしたからではない。彼の淹れたコーヒーが「美味ぇ」と言われたからである。ザフトの軍人として戦場にいた時も、ラクシズ主要メンバーとともにオーブに潜伏していたときも1日たりとも彼はコーヒーの研究だけは欠かしたことがなかった。
だが身近にいた覇王や3人目のキラ・ヤマト、カガリ・ユラ・アスハ、アスラン・ザラ、幾度も粉をかけていたマリュー・ラミアスだけでなく、副官のマーチン・ダコスタにまで
バルトフェルドの淹れるコーヒーは拒絶され続けていたのである。そして、そのことは彼がいくら寝食を惜しんで全精力を研究に注ぎこんでも変わることはなかった。
にもかかわらず、彼のコーヒーが偶然に移転した先の世界では受け入れられたのである。初めて「美味い」という評価を受けたのである。これはさすがのバルトフェルドも想定していなかった。
結局この後にレイを追うようにやってきた撮影スタッフ達が入れ替わり立ち替わりバルトフェルドの店へとやってきて大盛況となり、客達は口々に彼の淹れたコーヒーを絶賛していった。

 

この店は窓の外から伊豆基地全体を見渡すことができる場所に位置していることからわかるように、基地の状況を探ること、基地のスタッフを店に来させて情報をかき集めることを目的としている。
そのために基地周辺や軍人が多く住む場所に割引クーポンを配布するなどのプロモーションまで行ったのであるが、その目論見は幸か不幸か、レイがその店にやってきたことにより崩されてしまうこととなる。

 

それというのも、この数日後、レイが開設しているブログに、バルトフェルドの店のことが書かれてしまったからである。
そのレイはこの新西暦の世界では一応俳優のようなことをしている立場にあるため、
あまりシャレにならないタイトルのブログ「時空を超えて俺、参上!」の閲覧者は少なくない。
気付けばそのブログの中で絶賛されていたバルトフェルドのコーヒーを目当てに、レイのファン達が押し寄せ始め、次いで店の周辺に住む地元住民達がやってくるようになった。
そして間もなく、当初のターゲットである基地スタッフや関係者とは縁遠い、多くの一般人で店は連日大繁盛になってしまったことは言うまでもない。
他方であまりの盛況ぶりに当初のターゲット達はほとんど来ることがないという、予想外かつ、あまりといえばあまりな事態が巻き起こっているのだが、
当事者であるバルトフェルドにとっては個人的には嬉しい誤算であったことも言うまでもない。
アースクレイドルに引き篭もっているよりは遥かにマシであることも理由となり、本人も不可抗力だと店の経営に精を出す始末である。

 

だが、この日は違っていた。この日というのは正にアーチボルド達が超機人強奪を目的とした古代遺跡襲撃をしてアインストとシンやブリット達の妨害にあった日のことである。
度重なるハガネ・ヒリュウ改の妨害を受けていたアーチボルドは、超機人の眠る遺跡に攻撃を仕掛ければ、伊豆基地に停泊しているヒリュウ改が作戦行動を妨害しに来ることを予想していた。
そのアーチボルドであるが、彼はリクセント公国を奪還されたことだけでなく、没落のきっかけを作った先祖の因縁もあるために、なんとしても超機人を手に入れたかった。
そのため、確実を期すために遺跡襲撃に先立って極東地区周辺の攻略を担当する部隊に増援を要請し、ヒリュウ改が動いたら何としても日本に足止めするように依頼していたのであった。

 

結果だけ言うのであれば、超機人は手に入れられず、タスク・シングウジと機体クラッシャーシン・アスカがブリット達の手助けに来てしまうという事態は起こったものの、
当初にアーチボルドが達成しようとした、ヒリュウ改を遺跡に来させなくすることだけは成功していたといえる。

 

その日、この作戦のためにバルトフェルドは基地に停泊しているヒリュウ改が動いたらすぐに連絡をするように指示がされていた。
そのためその日ばかりは可能な範囲で窓に映る伊豆基地のヒリュウ改に目をやっていた。
そして、その時も客からのオーダーが一時的に途絶えた隙に、洗い終えたカップを乾いた布で拭きつつであるがバルトフェルドは窓の外に目を向けた。
この時、そこに映っていたのはヒリュウ改まさに飛び立とうとしている雄姿であった。するとバルトフェルドはすぐさま電話機を手に取ると、指定されていた番号へ発信を行う。
少しして、付近に潜伏していた強襲用潜水艦キラーホエールによる、ヒリュウ改を呼び戻すための攻撃が始まった。

 
 

一方その頃、基地からやや離れた海岸ではたまたまレイの出演している特撮ヒーロー番組最終回の撮影が行われていた。
国内の報道機関に某国から潜り込み、その国の特殊貨物船千魚峰号の運航にも関与していたスパイを主人公であるレイが日本海沿岸にまで追い詰める、という「場面」だったのだが、
撮影はノイエDCの攻撃が始まったことにより中断し、演者、スタッフ、その他関係者らは退避をし始めている。
多くの人間が我先にと避難シェルターへの道を、半ばパニックになりながら駆け抜けていく。
だが対照的に、付近で戦闘が始まったにもかかわらず、それによる焦りや恐怖があまり生まれないレイは、そんなおかしさを認識してやや冷静になってしまっていた。
それは彼にもペルゼイン・リヒカイトという力があって安心だから、とか自殺願望などがあるからという訳ではない。
理屈はわからないが、戦闘が自分にとっては非日常的なものではない、そんな感覚だけがレイの中にあった。

 

迎撃部隊も出ているものの、同時に伊豆基地自体にも攻撃を仕掛ける部隊が別途準備されていたために、基地以外の場所への攻撃をするノイエDCの部隊に対しての増援派遣は遅々として進まない。
その間にもリオンとバレリオンを中心とした連邦軍の部隊は苦戦を続けていた。
連邦に対するノイエDCはリオン、ランドグリーズ、シーリオンに加えて少数ながらエルアインスまで混ざった陸海空のバランスが取れた部隊編成となっている。
つまり連邦は戦力の量のみならず質の面でも連邦は劣っていたのである。

 

遠方に着弾したミサイルが爆発したのであろう。大地が震え、爆発音がレイの耳にも伝わってくる。
また爆発がするたびに、大地が震えるたびに上がるスタッフなどの仲間達の悲鳴や叫びをレイの聴覚が捕捉する。
そのため、仲間をそんな目に合わせる存在への怒り、またも撮影を邪魔されたことへの怒りがレイの中に徐々にこみ上げてきた。

 

「アイツら…ふざけたことしやがって……!」

 

そう言ってからのレイの行動は早かった。退避のために慌てふためく人達の中からこっそりと抜け出すと、一気に人気のない所まで走りぬける。
そしてビルとビルの間にある細い路地まで来ると、すぐさまレイは上下左右を見渡した。左右に見える通りにはもう避難がだいぶ進んだせいもあって人影はない。
上を見上げても誰もおらず、下にマンホールなどもなく、突然下からから誰かが出てくるようなこともありえないことを確認する。

 

「変身!」

 

厳密に言うまでもなくペルゼインの召喚はレイの姿が変わるのではない。残念ながら電車が発車するときのような電子音もならないし、下着のような仮面も出て来ない。
アルフィミィから託され、普段はレイの中に眠っている異形の魔人ペルゼイン・リヒカイトを呼び出すだけである。
だがそんなことをレイは気にしない。ついでに言えばベルトやセタッチするパスもなく、気分を出すために類似品の製作を美術スタッフに頼みはしたが、それはまだ完成に至っていない。
そのためレイは何となしに拳を握り締めて胸の前に突き出す。その拳の中から小さな光が生まれると、その光は淡くサンライトイエローに輝き始め、音もなく静かに膨らみ始める。
膨らみ続ける光はやがてレイの全身を包み込み、さらに光は大きさを増していく。そして光の大きさが周囲を囲むビルよりも大きくなると、
一転して空中へと舞い上がり、戦闘が行われている方向へ向かい真っ直ぐに飛んでいった。

海岸から市街地に続く道の途中では連邦軍のリオン・バレリオンがノイエDCのAMと相対していた。
両軍から放たれる砲弾が行き交い、一進一退の攻防が続けられているものの、両軍とも決め手を書いていた。
だがDC側に動きが出る。レールガンを撃っていたリオンが一斉に散開すると、そこへツインビームカノンのチャージを終えたエルアインスが飛び出してきた。
そして連邦のリオン・バレリオンに向けてビームが放たれると、広範囲に向けて放たれた圧倒的な熱量はリオン2機とバレリオン1機をかすめてその動きを鈍くする。
続いてそこへ追い討ちをかけるようにDC側のリオンが突撃して行った。切り込み隊長としての役割を果たすべく突っ込んでいくリオンは、
今の攻撃で浮き足立ったリオンやバレリオンのラインを抜けるとそのまま一気に市街地へと進んでいく。止める者のいなくなったリオンはみるみるうちに市街地との距離を詰めていく。
そして攻撃範囲に入ったレールガンを手に取ると、その矛先をリオンは躊躇することなく市街地に向けた。
その時、別の方向から飛来してきたサンライトイエローの光の球体がまっすぐリオンに突っ込んでくると、そのままリオンにぶつかって機体を大きく吹き飛ばした。
そして光は動きを止めると、硬度を下げて大地へと降り立つ。同時に光が静かに消えていき、中から1体の巨大な物体が姿を現した。
日本に古来より伝わる伝説上の生き物「赤鬼」を見る者に連想させる顔、全身を覆う真紅の外装、手にした巨大な剣。
正体不明のアンノウンの1つとして「アカオニ」と呼ばれるその機体は、レイ・ザ・バレルに託された新しい力、そしてもう1つのペルゼイン・リヒカイトであり、
ノイエDCにとってはインフィニットジャスティスというエース格の機体を退けた強力な敵機。
ペルゼイン・リヒカイトは大剣をいったん地面に置くと、握った右の拳を自分の顔の前へ突き出す。

 

「俺、参上!!」

 

その拳の中で唯一立てられた親指はペルゼインの鬼のような顔を指しており、続いて両腕を顔の前で交差させ、今度は左腕を思いっきり前に突き出した。
だがノイエDCの部隊は既にインフィニットジャスティスとの交戦以来、ペルゼイン・リヒカイトを敵機であると認識しており、すぐさまペルゼイン・リヒカイトに銃口を向ける。
まず地上に展開しているランドリオンがレールガンの引鉄を一斉に引き、数十発の弾丸がペルゼイン・リヒカイトを襲いかかった。
それに対してペルゼイン・リヒカイトは咄嗟に地面に置いた大剣を拾い、刀身を盾にして防御行動を取る。
そして発砲が止み、ノイエDCのパイロット達が立ち上った土煙の中に見たものは、こちらを睨みつけるような顔をしたペルゼイン・リヒカイトと、その盾となりながら傷一つ見当たらない大剣。

 

「てめえらご挨拶じゃねえか!上等だぁ!!俺を見た奴はみんな死んじまうぞぉっ!!!」

 

握った大剣を構えてペルゼイン・リヒカイトが向かったのは最も近くにいたランドリオン。大地を踏みしめる一歩一歩が軽い振動を起こしながら、ペルゼイン・リヒカイトは
大剣の間合いにランドリオンを入れると一気にその刃を振り下ろす。ランドリオンも棒立ちでいるようなことはなく、後退しながら腕部に接続されているレールガンを向けたが、
その砲身に帯電した瞬間、弾丸を発射する前にレールガンの砲身は根元から先がペルゼイン・リヒカイトの大剣によって切り落とされてしまった。
小さな爆発を起すランドリオンの隙を突き、今度は怯んでいるところをペルゼイン・リヒカイトは力一杯蹴り上げる。
小さい破片が砕けてランドリオンのボディからこぼれ落ちていく中、さらに、わずかに浮き上がったランドリオンの顔面をペルゼインの拳が殴りつけると、それにより潰されたランドリオンは吹き飛ばされ動きを止めた。
だが次なる獲物を探し始めようとしたペルゼイン・リヒカイトであったが、獲物を見つける前に今度は大量のミサイルが降り注いできていた。

 

「げえっ!?」

 

襲ってくるミサイルの数に驚いたレイであったが、立ちすくんでいるわけにもいかず、ペルゼイン・リヒカイトを走らせる。
咄嗟のことであったため、ペルゼイン・リヒカイトは全力で地面を駆け抜けながらミサイルから逃げ惑う。だがその途中で自機の飛び道具の存在を思い出したレイは両肩にある黒い突起を切り離した。
切り離された4つの黒い突起はレイの思念を受信して四方に散らばっていく。
次いでペルゼイン・リヒカイトに近付いてくるミサイルを追尾し、その先端から放たれるビームがミサイルを撃ち落してゆき、爆発が連鎖して起こる。

 

「へへっ!腕は錆びちゃいねえな!…ん、錆びる?………!?」

 

襲ってくるミサイルの迎撃を首尾よく終えたレイの脳裏にまず1つの違和感が生まれた。
なぜ、遠隔操作の兵器を自分がこんなにも上手く使えたのか。続けて腕が錆びる、ということはかつて自分が似たような兵器を使っていたのではないかという疑問が浮かび上がる。
しかしそんなことを考える暇はなく、自分を突き刺すような視線、俗にいう殺気にレイは背筋を伸ばした。
それが向けられた方向に目を向けると、そこにはリニアカノンの起動を始めるランドグリーズが1機。これに対してはレイが考えるより先にペルゼイン・リヒカイトの足が動き出していた。
だが詰まっていく距離と砲身の展開のレースは後者の方がわずかに有利だということもレイは直感で感じている。
そしてランドグリーズが砲身に手をかけた直後、レイは理屈を考える前にペルゼイン・リヒカイトを前方に向けてジャンプさせていた。
飛び上がったペルゼイン・リヒカイトの足のすぐ下を弾丸が通り過ぎ、レイは足の先の血の気が引いていくのを理解していた。

 

「うおっ!危ねえな!」

 

そしてペルゼイン・リヒカイトはリニアカノンの内側―ランドグリーズの真正面に降り立つ。
そして、零距離状態でいるために手にしている大剣を振り回すべきでないと判断したレイのペルゼイン・リヒカイトは、
丸見えとなっているランドグリーズのコックピットを見るとそのまま一気に自分の頭を振り下ろした。
他方のランドグリーズのパイロットは、まさかリニアカノンがジャンプによって回避されるとは夢にも思っていなかった。
そのため、自機のすぐ前にペルゼインが降り立ったときに彼の身体は本能的にコックピットの中にある脱出装置に手をかけていた。
そのすぐ後にコックピットブロックが後方に向けて射出されて飛び出すと、直後、コックピットがあった場所へ赤鬼の頭部が力任せに叩きつけられる。
鋼鉄が圧倒的な力によって歪められてゆく音が響き渡り、さらに続けて蹴り飛ばされたランドグリーズは頭のあった部分から胴体の上部にかけてまでが綺麗にめり込んでいる状態となっていた。

 

「オラァ!次はどいつだ!?」

 

ランドグリーズを蹴り飛ばしたペルゼイン・リヒカイトは振り向いて再び新たな獲物を探し始める。
ペルゼイン・リヒカイトは首を左右に振って相対するランドリオンやランドグリーズを見渡すが、その中の1機のランドグリーズが既にリニアカノンの砲身の先をペルゼインに向けていた。
これにはペルゼイン・リヒカイトも回避行動を取る暇がなく、DCのパイロットも防御すると考えていた。だがそのペルゼイン・リヒカイトは腰を捻り、両手で握った大剣を構える。
次いで砲身から放たれた弾丸がペルゼイン・リヒカイトに向かっていくと、それに対するペルゼイン・リヒカイトは野球のボールを打つように大剣を思いっきり振り抜いた。
振りぬかれた刃が纏った銀の輝きが横一線に煌くと、弾丸は上下真っ二つに斬り裂かれて上半分がペルゼイン・リヒカイトの頭上へ、下半分が力なくペルゼインの足元に落下する。

 

「おっしゃあ!」

 

ペルゼイン・リヒカイトが剣から片腕を離してガッツポーズをするが、ノイエDCの部隊も黙ってはいない。レイが地上の敵に目を奪われている隙にペルゼインの頭上付近に
リオンやエルアインスが集まってきていた。足元の影を見て頭上の敵機の存在をしったレイであったが、今度はDC側の方が動きは早かった。回避行動や迎撃行動に移る前に引鉄が引かれ、
携行されたレールガンやミサイル、肩部キャノン砲からのビームがペルゼイン・リヒカイトに向かっていく。
咄嗟にペルゼインも大剣を構えて防御体勢を取るものの、その姿は再び土煙の中に飲み込まれた。
先ほどのレールガン主体の一斉攻撃と異なり、今の攻撃にはレールガンだけでなくミサイルやツインビームキャノンもが入っていたため、DCの側としてもダメージを与えられたのだと考えていた。
ぶつけられたエネルギー量の大きさと幾分か比例しているのであろうか、先ほどのときよりも広く、濃密に土煙が上がっている。
その外周を旋回するリオンやエルアインスのパイロット達はわずかに安堵しつつも、チンピラのような戦い方と馬鹿力を振り回した赤鬼を飲み込んだ土煙の中を凝視し続けていた。

 

「や、やったか…?」
「わかりません!こうも煙が濃くては…!」
「…け、煙の中から熱源反応あり!」
「何だと!?」
「なおもエネルギー増大中!『アカオニ』は健在です!!」

 

データを収集していたパイロットの悲鳴混じりの報告が各機へ伝わるのとほぼ同時に、土煙の中心から収束していくエネルギーが迸り始めていた。
一点に集中していく高エネルギーはみるみるうちに大きくなり、間もなくペルゼイン・リヒカイトの大剣ペルゼインスォードの刀身全体を覆いつくす。

 

「いくぜ!俺の必殺技…パート2!でりゃあ!!」

 

上空へ向けて振り抜かれた大剣がペルゼインの周囲を覆っていた土煙を切り裂き、大剣の刀身が纏っていたエネルギーは一直線に上空にいるノイエDCの部隊へ襲いかかっていく。

 

オリジナルのペルゼイン・リヒカイトとは異なり、レイのペルゼインは、ヨミジやライゴウエを使うことが出来ない。
レイのペルゼインはボディがオリジナルのように「がらんどう」になっている部分がなく、また遠隔操作する攻撃兵装の鬼面もオリジナルに比べて小さいという構造上の違いがあるからである。
だが、レイの機体もペルゼイン・リヒカイトであることに変わりはない。
そのため、剣に収束させたエネルギーで形成した刃による斬撃を飛ばすマブイタチに、ヨミジ・ライゴウエに用いられるエネルギーを合わせたより強力な斬撃を放つことができるようになっている。
そしてレイが「俺の必殺技」と名付けたこの攻撃は、オリジナルのペルゼインにレイのペルゼインが唯一勝る力を持ったものであり、名実ともに必殺技たる役割を果たしている。

打ち出された斬撃はリオンの胴体を横一文字に切り裂き、さらにペルゼインが大剣を斬撃の傍にいたエルアインスに向けて振りぬくと、
その斬撃は大剣という釣り竿の動きに呼応する釣り針のように、方向転換をしてエルアインスを左肩から右腰部分に掛けて斬り捨てた。
そしてペルゼイン・リヒカイトは続いて頭上で大剣を円状に振り回すと、斬撃も大剣の動きにトレースするかのように同じように暴れ回る。
斬撃に触れた機体は触れた部分がきれいに分断されてしまっており、運良く直撃を避け爆発を免れられた機体であっても手足やバックパック、スラスターを斬り落とされて地上へ落下していった。
さらに続けて追い撃ちをかけるべく、ペルゼインは膝を曲げて足に力を込めると一気に上空へと飛び上がる。

 

「な、何ぃ!?」

 

空中のリオンのパイロットの目に映ったペルゼイン・リヒカイトの大きさはみるみるうちに大きくなっていく。
まさか敵機がジャンプしてくるなど予想もしていなかったパイロットにはいきなりのことであった。鬼そっくりの顔はそれを見るパイロットに原始的な恐怖を植え付け、回避行動への以降を遅らせる。
パイロットが適切な行動を取る前に彼の機体はペルゼイン・リヒカイトの間合いの中に入ってしまっていた。両手に携えられ、肩に担がれた大剣が振り上げられてリオンの右腕と右足を捉えると、
バランスを失ったリオンは安定しない動きをしながら徐々に地上に向かって落下していった。

 

一方、リオンに斬撃を見舞い終えたペルゼイン・リヒカイトは、重力に引かれて地上に落下をし始めていた。
飛行能力がないわけではないのだが、レイのペルゼイン・リヒカイトはオリジナルのペルゼイン・リヒカイトの力の一部を分け与えられたものにすぎず、オリジナルが持つほどの能力はない。
そして当然ながら地上に落下している最中のペルゼイン・リヒカイトは十分な機動性がなく、それは隙となってノイエDCの部隊にとっての好機となる。
まず一機のリオンが後方やや下からペルゼインの両足に組み付き、それを落とすべく大剣を振り回そうとした腕にさらに別のリオンがしがみついた。
そしてしがみついたリオンを振り払おうとしたもう片方の腕にもリオンが組み付いてしまう。

 

「何しやがる、この野郎!離しやがれ!!」

 

3機のリオンのテスラ・ドライブで宙に浮いたまま、手足をばたつかせるペルゼインであったが、両手足の自由を奪われている状態ではそれもままならない。
そしてペルゼインの正面にビームソードを構えたエルアインスが現れた。先ほどまでの戦闘を踏まえて、この文字通りの化け物を確実に仕留めるというのがノイエDC側の算段である。
そのためには、コックピットを貫きパイロットごと潰すのが最も効果的であり、エルアインスのパイロットはビームソードの出力を上昇させてより大きな刃を形成させている。
その先がペルゼイン・リヒカイトの胸部へ向けられるとエルアインスは真っ直ぐにペルゼインに向かっていく。

 

「チクショウ!てめえら離せ!こんの野郎!!」

 

なおももがき続けるペルゼイン・リヒカイトであったが、決死の思いで押さえつけにかかってきているリオンは思ったよりもしぶとい。そしてエルアインスはなおもペルゼインに迫ってくる。
だがビームの刃の先端がペルゼイン・リヒカイトに触れる直前にペルゼインとエルアインスの間を一陣の風が超高速度で吹き抜けていった。
そして次にエルアインスの機体が上半身と下半身に分離し、それらの間の距離が広がりきる前に起こった爆発がエルアインスを爆散させた。
命拾いする結果になったレイは声もなく風の吹き抜けていった方へと目をむける。そこにいたのは背部に展開した巨大なウイングからエメラルドに煌く粒子を放ち、烈風・暗雲を切り裂く熱き疾風。
地底世界ラ・ギアスの滅びの予言を防ぐべく科学技術と魔法、そして錬金術の粋を集めて作られ、その攻撃によって真紅の魔王こと究極ロボヴァルシオンすらも屠ったノイエDCにとっては最も恐れるべき相手の1つである魔装機神サイバスターが戦場に現れた。

 

「よお!危なかったな、『アカオニ』さんよ!」

 

サイバスターの外部スピーカーを通してレイの耳に聞こえてきたのは若い男の声。

 

「てめえはあの鼻垂れ小僧達といたロボット!なんでここにいやがる!?基地の辺りにはいなかったろうが!」
「う、うっせえ!助けてやったんだから細かいことゴチャゴチャ気にしてんじゃねえ!」

 

迎撃に出ていた連邦軍の中にサイバスターがいなかったことはレイにもわかっていた。特徴的な機体フォルムのため、迎撃部隊の中にいたか否かの判断はある程度簡単だからである。
そのレイのペルゼインは腕にしがみついたリオンを、もはや得意技の一つになりつつあるヘッドバットを喰らわせて引き剥がす。
さらに足にしがみついたリオンに大剣を突き刺して機体の自由を取り戻すとサイバスターへと近付いていく。
他方のマサキとしては「なぜここにいるのか」という質問に少し後ろめたさを覚える。
というのも、ブリット達がノイエDCの部隊の攻撃を受けていると聞いたサイバスターはヒリュウ改から単独で飛び出して単身中国を目指していたはずが、
他に並ぶ者がいないほどの方向音痴のせいで、到着したのはなぜか伊豆基地の近くだったからである。要は、照れ隠しのために攻撃的な口調になっているのである。

 

「ま、まあそうだな!…とりあえず礼だけは言っとくぜ」
「それよりノイエDCの連中と戦ってるんだろ、手ぇ貸すぜ?悪人っぽいのはそのツラだけみてえだしな」
「んだとぉ!?てめえだって自分の機体直すために人の機体の部品パクったりする悪の組織のボスみたいな声しやがって!」
「てめえも未来からやってきたチンピラまがいの死神みたいな声してやがるだろうが!」
「ちょっとマサキ!話題がずれてきてるニャ」
「そうだニャ!二人ともそんなこと言ってる場合じゃないニャ」
「別の声…てめえの機体も数人乗りか?」
「ん~まあそんな感じだ。それより今はノイエDCをどうにかする方が先だろ!?」
「たしかにそりゃそうだ」
「なら上空は俺とサイバスターがやってやる!だから残りは任したぜ?」
「助かるぜ!実は空飛ぶのあんま得意じゃねえんだ!」

 

根が割と単純な今のレイとマサキであったため、互いの素性もよくわからぬままに戦う相手を分担してしまう。とはいえ、ノイエDCを放置できないという点における共通認識は形成されている。
レイも地上へ降り立つとすぐに敵機がやってくる元凶である母艦を叩くべく、展開している部隊を蹴散らしながら道なりに海のある方向へとペルゼインを向かわせ始めた。

 

「行け!カロリックミサイル!」

 

アクアグリーンに輝く2つの光弾がサイバスターの出現により浮き足立ったエルアインスに向かっていく。エルアインスは機体を横に振って1発目は回避できたのだが、
残った一発がエルアインスの右足を吹き飛ばす。それにより怯んだところへディスカッターを虚空より呼び出したサイバスターが追い討ちをかける。
それに対してエルアインスもG・リボルバーを連続して発射するのだが、平常心を失った状態でいたずらに放たれる攻撃では風の魔装機神を捉えるには不十分であった。
ウイングから煌く粒子を放って大空を翔けるサイバスターに弾丸はかすりもしない。
広い攻撃範囲を確保するために背部のツインビームカノンがエネルギーのチャージを始めたが、それが完了する前に銀色に輝く刃がエルアインスの眼前に迫ってきていた。
サイバスターがエルアインスの横を通り過ぎようとすると同時に、一転の曇りもない刀身が光を反射させるとともにエルアインスのボディを横一線に切り裂いた。
背後で起こったエルアインスの爆発を余所に地上にマサキが目をやると、敵機を捻じ伏せていながらDCの部隊が上陸した海岸へと進んでいく赤鬼の姿がある。

 

「あの鬼みてえな奴…なかなかやるじゃねえか!」
「ちょっとマサキ…突っ込みどころはそこじゃニャイでしょ…?」
「でも、今日もDCと戦ってるから敵じゃニャイのかも」
「そうだな…でも何で中国に向かったのに伊豆に戻って来たんだ…?」
「それは今に始まったことじゃニャイでしょ…」

 

一方、向かってくる敵機を力づくで蹴散らして海岸付近まで辿り着いたペルゼイン・リヒカイトはシーリオンの部隊との戦いを開始していた。
肩から射出した黒色の突起が姿を変えた鬼面が1機のシーリオンに喰らいつき、その装甲を削り始めるとそこにペルゼインも向かっていく。
戦闘不能に追い込むのに大剣による斬撃は不可欠ではないと判断したペルゼインは剣を地面に突き刺して、動きの鈍くなったシーリオンに組み付く。

 

「うおりゃあああ!!!」

 

そしてペルゼインは腕をバタバタと動かして暴れ回るシーリオンを馬鹿力で持ち上げると、砂浜の上に放り投げてしまった。
機体が重力に引かれて地面に叩きつけられると、機体だけでなく中にいたパイロットの全身も強度の衝撃に見舞われる。
そして、立ち直ったパイロットが、陸地に打ち上げられた魚のようにシーリオン両腕をバタつかせるのだが、間もなくシーリオンはピクリとも動かなくなった。
機体と海との間にペルゼインがいることから突破を諦め、パイロットが機体を破棄したのである。

 

シーリオンを放り投げて別のシーリオンを次の標的にしたペルゼイン・リヒカイトはその方向へ海水を飛び跳ねさせながら走っていくのだが、
次の瞬間に巨大な水しぶきが上がるとともにうつ伏せに倒れ込んでしまった。さらにペルゼインは足から沖へと引き込まれていく。
レイがペルゼインの足元に目を向けると、また別のシーリオンがペルゼイン・リヒカイトの片足にしがみついていたのである。

 

「てめっ!この野郎!」

 

ペルゼインは咄嗟に蹴りを繰り出し、3発目の蹴りでシーリオンの腕を弾き飛ばすと、なんとか砂浜へと這って戻ることに成功したのだが、そこに先ほどのシーリオンからミサイルが放たれてきた。
立ち上がる間もなく寝転がった状態で大剣を手にとり、ペルゼインはミサイルを防ぐのだが、
付近に着弾したミサイルにより起こった爆発で吹き飛ばされ、頭部の角から地面に突き刺さってしまった。
両腕に力を込めて頭部を引き抜いたペルゼインは辺りを見回して状況を確認すると、海中から飛び出してきたシーリオンから次のミサイルが放たれる。
向かってくるミサイルを手元の大剣で切り落とすペルゼインであったが、一方でミサイルを放ったシーリオンは残りの弾が心もとなくなったのか、海中へと逃亡を開始した。

 

「逃がすかよ!」

 

ペルゼイン・リヒカイトが両手で握った大剣を、先端を上にして機体の正面で構える。機体の持つエネルギーが機体全体から溢れ出し、
真っ赤な頭部の先端に恐れる者なく天を衝く2本の角と腹部の桃型のバックルに集まり、そこからさらに、未だに刃こぼれ1つない銀色の刀身へと集まっていく。
アルフィミィの気まぐれにより、オリジナルのペルゼイン・リヒカイトの力を分け与えられて誕生したレイのペルゼインが唯一オリジナルに匹敵できる、彼の必殺技が発動する。

 

「俺の必殺技パート3!!!」

 

大剣が頭上へと振り上げられ、続けてそれが振り下ろされると、刀身を纏っていたエネルギーにより形成された刃が水しぶきを上げて海中へと逃げ込んだシーリオンを追って行く。
レイ自身とアインストのエネルギーから生み出された刃が、海中で威力を減退させながらも1回、2回とシーリオンにぶつかってその機体を揺らし、抵抗力を削っていく。
そしてエネルギーの刃がシーリオンの下へと潜り込み、地上のペルゼインが振り下ろしている大剣を再び力任せに振り上げた。
その動きに呼応してシーリオンを持ち上げながら上昇するエネルギーの刃は海中を飛び出して、シーリオンを空高く舞い上げると再びペルゼインの大剣へと戻ってくる。
そして、空中で身動きが取れなくなっているシーリオンに狙いを定めたペルゼイン・リヒカイトは、真紅に輝くエネルギーを纏わせた大剣を手に、シーリオン目がけて飛び上がった。

 

「…と見せかけてストレートど真ん中ぁ!!!」

 

そして自らの間合いに入ったシーリオン目掛け、ペルゼインは渾身の力を込めて大剣を振り下ろした。
単独でも十分な破壊力を持つエネルギーの刃を大剣の刀身に直接纏わせることにより、さらに破壊力を強化した斬撃はいとも簡単にシーリオンを胴体から真っ二つにする。
分断された上半身と下半身は斬撃による衝撃で数秒間空中に浮いていたが、大剣を構えたペルゼインが着地すると同時に双方が爆発を起こした。

 

「俺、最高!!」

 

シーリオンの僅かな破片が落下してくる中、立てた親指を自らに向けたペルゼインの中でレイが叫んだ。工夫をして編み出した必殺技が成功した喜びが大きかったからである。
しかし、そんな喜びも束の間。ペルゼインのかなり先の海中から対地ミサイルが飛び出してくる。
今回、基地周辺への攻撃を担当しているキラーホエールによる市街地への直接攻撃であった。

 

「クソ!まだいたのかよ!?」

 

さきほどのシーリオンのような「近場」からの攻撃ではなく、今の攻撃はレイのペルゼインでは到達できない沖の方向の、しかも水中の深くからのものである。
そのため、今のように斬撃を海中に放っても攻撃を到達させることはできないし、そもそもさすがのペルゼインであっても潜水艦を一隻まるごと地上に押し出すこともできないであろう。
その時、遠方で大きな爆発音がしてレイはその方向へと目を向けた。
拡大映像に映っていたのはさきほど空中の敵の迎撃を任せたサイバスターがミサイルをディスカッターで切り裂いた姿があり、レイもとりあえずの安心を感じる。
とはいえ、今のような攻撃が連続でされた場合に、サイバスターが全てを迎撃できるという保証はない。
どうにかしなければならない。レイは鼻から深く空気を吸い込み、脳に新鮮な酸素を供給することで、先ほどまでの戦闘でやや興奮していた頭をクールダウンさせていく。
今現在、海中にいる敵潜水艦をいかにして攻撃するか。レイのCE世界での、冷静な戦略家としての側面が無意識のうちに対応策を考えさせ始めていた。

 

「どうやら潜水艦からの攻撃のようでお困りのようですのね…」
「うおっ!おめえ、いたのかよ!?」
「ちょっと用事があって立て込んでましたの…」
「なんだ、便所かよ!ってなんかこの前よりも声が弱弱しくねえか?」
「男の子は細かいこと気にしちゃダメですのよ?」

 

失った記憶を取り戻すきっかけになるかもしれなかった冷静な思考がされているところに、間が悪くアルフィミィの思念がそこに介入し始めた。
超機人を巡る攻防戦の戦場から撤退し、アルフィミィにレイをサポートする余裕ができたのである。
だが虎龍王を始めとする強力な機体と多くの念動力者達とシン・アスカとの戦い終えたばかりのアルフィミィには少なからぬダメージと疲労が蓄積していることは否めない。
そのため、レイのペルゼインを通じて情報こそは得ていたものの、直接的に大きな力を貸したりすることはできないし、語りかける力も普段よりかなり弱くなってしまっていた。

 

「そんなことより潜水艦をどうすんだよ!俺、泳げねえぞ…?」
「ん~…じゃああちらの機体に泳げるようにしてもらうことにしましょう」

 

レイはアルフィミィがペルゼイン・リヒカイトを通じて指差した、パイロットが既に脱出済みで動かなくなったシーリオンへと目を向けた。
ゆっくりとそのシーリオンの下へとペルゼインは歩いていくが、中のレイとしてはアルフィミィが何をどうするつもりなのかはさっぱりわからない。

 

「こいつをどうするんだよ?」
「手を置いてくださいですの」
「こうか?」

 

シーリオンの脇にしゃがみこんだペルゼインは、アルフィミィの言うとおりにシーリオンの機体の上に手を置く。
置いてすぐには何も起こらず、レイとしても自分の脳内に語りかけてくる声の持ち主に大きな疑問を抱き始めていた。
そしてカッコよく戦える上に、仲間を守ることもできるこの強大な力があるだけで満足する自分と、そんな力を与えた少女は一体何を企んでいるのか。
そして自分は後者のような考えをするほどに思慮深かったであろうか、という自分への疑問も生まれ始めていた。
だがそんな疑問を無視するかのように、シーリオンに手を置くペルゼイン・リヒカイトは、その全身がシーリオンとともに発光し始めた。
ペルゼイン・リヒカイトを呼び出したときのように、淡く輝くサンライトイエローの光は再びペルゼインを包み込み、中にいるペルゼイン、そしてシーリオンをさらに発光させていく。

 

「何ぃ!?こりゃ何なんだよ!?」
「ペルゼインがさっきの機体を取り込んで、自分の力に変えているんですの」
「そ、そんなことできんのかよ、こいつは!?」
「これとは逆に、身体の一部を欠いた機体に自分の力を継ぎ足して思うように動かすこともできますのよ?さっき私が失敗してしまいましたように」
「お前が失敗?」
「今のは気にしないで下さいですの。それよりもそろそろ終わりそうですのよ?」

 

今までペルゼイン・リヒカイトを包んでいた光が拡散して、その中からペルゼイン・リヒカイト1体だけが姿を現した。
今の今まで足元にいたシーリオンは姿が見当たらず、何かの部品や破片のような鉄くずが幾つか落ちているくらいである。
他方のペルゼイン・リヒカイトは両足の踵の部分に青いプロテクターのようなものがアタッチされ、両肘にある真紅の肘あてが青いものへと変わっている。

 

「おお!何か青くて泳げそうな感じになったじゃねえか!これなら海に落ちてもヘッチャラだな。それに海に落ちても助けてやれる…これで意地悪だなんて言わせねえぜ!…助けてやらない?意地悪?」

 

2つの単語がレイの頭の中のどこかに引っ掛かった感じがしていた。
オーブ領海付近での連合軍との戦闘が始まる前に、レイが同僚のルナマリアとした会話のやり取りが、レイの失われた記憶の中に残っている証拠である。
これはほんのわずかであるものの、レイにとっては自分の素性を解き明かす大きな鍵になる可能性があるものであった。だがレイがした連想はやや方向を逸れていってしまった。

 

「海に落ちても助けない?そんな俺は意地悪?ってことは俺…ライフセイバー?なのに溺れた女を助けなかったのかぁ!?それってライフセイバー失格じゃねえかぁ!?」

 

自分の素性と記憶へと続く道はまだ遠い。

 

「って、今は潜水艦だ!潜水艦!!よっしゃあ!行くぜ!!」

 

大剣を持ったままペルゼイン・リヒカイトは先ほどまではできるだけ近付かないようにしていた海へと思いっきり飛び込んでいった。
シーリオンに海に引きずりこまれそうになったときに比べ、海中での動きは遥かにスムーズかつスピーディーで操縦に支障は感じられない。
ミサイルの飛んできた方向へ向かった泳ぐこと数十秒、やがてレイの視界にDCの潜水艦キラー帆エールの姿が見えてきた。
先制攻撃とばかりに放たれた魚雷をレイは機体をもぐらせて回避しつつ、余裕があるものについては大剣で切り裂いていく。
海中での回避行動に違和感がないだけでなく、攻撃行動を取るにあたって生じるであろう水の抵抗も取り込んだシーリオンの海中性能のせいかあまり大きくない。

 

これに気をよくしたレイは魚雷を掻い潜りながらキラーホエールの正面に回りこむと、再び大剣を体の正面に構えさせた。
機体全身から溢れ出すペルゼインとレイ自身のエネルギーが、我こそが天であるとして天を衝く2本の角と腹部の桃型のバックルに集まっていく。
それらのエネルギーはさらに、ペルゼイン・リヒカイトの腕にはやや大き過ぎるようにも思える巨大な刀身へと集まっていき、ペルゼインは大剣を構えたまま腰を捻ってその大剣を左肩の前に据える。

 

「幻の!俺の必殺技、パート1!うおりゃあああぁぁ!!!!」

 

エネルギーの収束を終え、エネルギーを纏わせたメタリックレッドに輝く刀身を持つ大剣を手に、ペルゼイン・リヒカイトはキラーホエールへと突撃していく。
迎撃の魚雷を容易くかわし、キラーホエールとのすれ違いざまにペルゼイン・リヒカイトは艦の正面に刃を突き立てると、大剣を握ったまま横一文字にキラーホエールを切り裂いていく。
深海の圧力にも耐えうるほどの極めて高い強度を誇る装甲を、まるで豆腐を斬るかのように易々と斬り進めていく真紅の大剣はとうとうその船尾に到達しさらにそこをも突破した。
振り抜かれ正面を向いたペルゼイン・リヒカイトとその真紅の大剣の背景となったキラーホエールは斬り口から海水の浸入を許すとともに、機関の破壊に伴う爆発に飲み込まれていく。
そして間もなく爆発に包まれたキラーホエールは海上に高い水しぶきを上げて海の藻屑と消えていった。

 

「へっへー!やったぜ!でも地上はどうなったんだ?」
「たぶんそろそろ軍の増援が来ると思いますのよ…」
「そうか…ならここいらでズラかるとするか」
「今日は私も色々あって疲れましたの…」
「バカ野郎!俺だってまさかこんなに戦い続けるとは思ってなかったってんだ」
(でも…あなたの体は戦うことは忘れていない…想像以上の力ですの…私のペルゼインの状況次第で場合によっては…)

 

敵戦艦の撃墜で少々気分が良くなっているレイを冷静に、そして同時にどこか悲しげにアルフィミィは見ていた。
そしてこのアルフィミィの目論見がやがてレイを戦いの真っ只中へと導いていくことになることはまだ誰も知らない。

 
 

「何ぃ!?日本に『アカオニ』が現れたぁ!?」

 

ヒリュウ改に帰還したシンの素っ頓狂な声が格納庫に響き渡った。これに驚いた周囲の人間の視線が一身に集まってきたのに気付いたシンは少し顔を赤らめるが、
一緒にいたブリット、タスクに軽く頭をはたかれると、背を丸めて軽く身を隠し、脇に立っているマサキに目を向ける。

 

「おう、いつの間にかトンズラしやがったみたいだけどな。それがどうしたんだ?」
「俺達は中国でノイエDCとアインストの襲撃を受けたんだ。もちろん、その中にレッドオーガもいた。虎龍王や龍虎王のおかげでなんとか撃退できたんだけどな」
「ああ、あの青いドラゴンみたいな奴か」
「まさかブリットが超機人のパイロットになるとは思わなかったぜ~しかもクスハの龍王機と合体なんて。まあ中のパイロットは…」
「もうそんなこといいだろ、タスク!そんなことより今はアカオニのことを…」
「また話をそらしやがったな」
「いや、今回はタスクが話逸らしただろ」
「あれ、バレバレや~」
「まあいいや。んで、アカオニはサイバスターに攻撃してきたのか?」
「いや、DCにだけ攻撃してたぜ?パイロットの奴が中々面白い野郎だったしな」
「野郎ってことは男だったのか?」
「ツラを見たわけじゃねえけど、ありゃ女の声じゃねえと思うぜ?」
「そうか…レッドオーガのパイロットは女だったし、結局正体はわからずじまいだな…」

 

ここで災いしたのが、マサキが地上の情勢にやや疎くなっていたことである。
仮にマサキがラ・ギアスに召喚される前であったのならば、戦闘中に聞いた声からペルゼイン・リヒカイトのパイロットの正体を探るきっかけくらいは掴めたかも知れない。
何せ、この世界でのレイは、本人の意思に関係なく、それなりに有名な存在になってしまっているのだから。
シン達が超機人の力を手に入れ、レイが新たな力を手にいれ、ラクシズも本格的な動きを開始する中、シンやレイを取り囲む状況はさらなる混沌へと変わっていくのであった。

 

                                                つづく

 

モモゼインの地形適応が陸S空B海S宇Aとなった
モモゼインが、俺の必殺技パート3と見せかけてストレートど真ん中、幻の俺の必殺技パート1を使えるようになった(コラ)
ブリット、リョウト、タスク、ユウキがファイナルダイナミックスペシャルならぬファイナル元祖アルファミックスペシャルを使えるようになった(ヲイ)

 
 

  

 

 

次回予告風なもの

 

シン「俺の出番これだけかよおおおおおお!!!!」
ブリット「それより俺は一体いつまでクスハとの中でイジられるんだぁぁぁ!!?」
シン「それは…」
ユウキ「タスクみたいにやることをしっかりやるまでだろうな」
ブリット「お前だってそんな話ないだろうがぁぁ!?」
ユウキ「フッ…イメージというものだな。というか話はシン・アスカの出番じゃなかったか?」
シン「そうだよ…ラッキースケベなんて言うけど、女性陣からの視線がたまにものすっごく痛いんだぞ!なのに気付けば今回もレイばっかりじゃないかぁぁぁ!!」
レイ「まあ、落ち着け、シン。今回は仕方あるまい。撃墜数とPPを稼いどかないと合流したときに即2軍落ちになっちまうからな」
メイリン「そんな大人の事情ぶちまけんなあぁぁぁぁぁ!!!!」
シン「あ、久しぶりじゃん。こんな所で何やってんだよ、メイリン」
レイ「それにお前がツッコミ役なのは別のスレだろうが」
タスク「大方、本編で出番がないからこっちで目立とうってことじゃね?」
レイ「なるほどな。そっちじゃカルト教団の信者その4くらいだからな」
メイリン「うるせええええ!ってかレイ!あんたのは一体どんな『虚喰(グロトネリア)』だあぁぁぁ!」
レイ「気にするな。俺は気にしてない」
メイリン「あたしが気にするんだぁぁぁ!!海燕殿の心は私のところに置いていかれたんだあああ!」
レイ「しょうがねえだろ。なんせTXの実況板では『喋りがモモタロスww』『テラモモタロスwwww』『電王キター』『クライマックスwww』『俺、参上wwww』という書き込みばっかだったんだ」
メイリン「ちくしょおおおお!こうなったら私は剣に生きてやるぅぅぅ!」
シン「早まるなメイリン!ツインテールに眼帯は似合わ………案外似合うかもな」
ブリット「あーあ…結局カオスな上にグダグダになってしまったな」
ユウキ「たまにはこんなのも蝶サイコー…ゴホン、なんでもない。では次回の予告をそろそろするか」
シン「なんでアンタがするんだああぁぁぁ!?」
ユウキ「命令でシロガネに赴いた俺とカーラはレモン・ブロウニング博士からラーズの新しい力を与えられることとなった。

 

他方、ペルゼイン・リヒカイトの先頭記録を見たシン・アスカは…
そして覇王の使いでシロガネにやってくるキラ・ヤマトとアスラン・ザラ。アクセル・アルマーも姿を現してノイエDCの役者も揃い始める。
次回、スーパーロボット大戦OGSD『黒死の蝶』

 
 

カーラ「ねえ、ユウ。その『D』って今回はDestinyのDじゃなくてDen-OのDじゃない?」
シン「アンタって人はぁぁぁぁぁ!?それは言わないお約束だろうがぁぁぁぁ!」