SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第30話

Last-modified: 2009-12-26 (土) 14:27:31
 

ディバインSEED DESTINY
第三十話 傾く天秤

 
 

 スペースノア級一番艦タマハガネを守る様にして、その船首の前方に圧縮したGN粒子を展開し、盾となっている機影が一つある。
 大雑把に形を整えたブロックを組み合わせてかろうじて人型に整えた様なそのフォルムは、ネルガル工業の開発した対艦・要塞攻撃用MSガンダムヴァーチェだ。
 タマハガネに群がろうとする量産型ガルムレイドが放つ血の色の光線――ブラッデ・レイを、機体を保護するGNフィールドで防ぎきるや、すぐさまティエリアはフィールドを解除してGNバズーカを構えた。
 GNフィールドを展開しつつGNバズーカに粒子をチャージするのは、どうしても時間がかかるが、ティエリアはこれを擬似太陽炉内部に秘匿してあるプロトン・ドライヴを稼働させる事で補った。
 特機級機動兵器の動力源に匹敵するプロトン・ドライヴのエネルギーは、堤を破った濁流の如くヴァーチェの内部を流れめぐり、内側から装甲を弾き飛ばしかねない勢いだ。
 たちまちのうちに高圧縮GN粒子とプロトン・ドライヴの混合エネルギーが、GNバズーカの砲身内で荒れ狂う無数の竜となって解放の時を今か今かと待ち望む。
 同時にヴァーチェの背のGNドライヴの露出部分から放出されるオレンジのGN粒子の量が、通常よりも密度を濃くし、きらめきを強いモノに変えていた。
 本来秘匿すべきプロトン・ドライヴを看破される可能性がわずかなりともある状況ながら、ティエリアが限定解放に踏み切ったのにはもちろんそれなりの理由がある。
 ザ・データベースの首魁であるクリティックは、まだ地球圏に武力介入を行う段階ではないと判断しているようで、各勢力に潜り込ませたイノベイターとネルガルを介して地球圏の騒乱を煽っている。
 地球圏三大勢力の一角であるDCの切り札クライ・ウルブズを壊滅させるのに、今回の戦闘は絶好の機会であったが、ティエリアにクライ・ウルブズ離反の指示が下されることは無かった。
 地球連合の精鋭を大量に動員した地球連合艦隊と衝突させ、DCと地球連合の人材と戦力を磨り潰すつもりなのだろう。
 今後もある程度、地球圏の騒乱のバランスを保つためには、今回の戦いでクライ・ウルブズにも連合艦隊にも完全に壊滅してもらっては、まだ困る段階ということか。
 ティエリアも同胞たるイノベイターと、ティスやラリアー以外とは全力での戦闘を許可されている。
 そう判断が下された以上、ティエリアにはその判断に従う以外の選択肢は無い。心の内に忸怩たる思いが、うっすらと積もりつつあってもだ。
 ティエリアは納得のいかない思い故にか、腹腔に鉛を飲んだ様な気持ちのまま、先日のエクシア・デュナメス強奪戦の時と同様に自分自身とヴァーチェの力を最大限に発揮して戦っている。
 だがそれでもヴァーチェに秘匿されたもう一つのガンダムと、その機体が持つある特殊能力と同等の秘匿性を持つプロトン・ドライヴの使用にまで追い込まれたのは、ティエリアの誤算であった。
 ヴァーチェと自分の能力、それに信頼しているわけではないが――その実力に関しては認めているクライ・ウルブズの戦闘能力であれば、この大軍を相手にしても……そう考えていたのだ。
 それが、こうまで苦境に追い込まれている。母艦はいくつもの被弾に晒されて船体の各所から火を噴き、味方のMSは一機また一機と櫛の歯が抜ける様にして撃墜されているではないか。
 冷徹な仮面を被っているように見えて、その実、熱しやすい所のあるティエリアは、自身の予想がひどく甘いものであった事と、リボンズが言う所の下等種であるニンゲンに追い込まれている現実に苛立ちを禁じ得ない。
 だから、ティエリアはその苛立ちをティエリアらしくない咆哮と共に吐き出した。

 

「躱せるものではあるまい。GNバズーカ、プロトン・バーストモード!!」

 

 通常のGNバズーカのバースト・モードでも一撃で戦艦や空母を沈める破壊力を有する。それに(GN粒子のチャージが不十分でも)プロトン・ドライヴのエネルギーが加われば、その数値は一挙に跳ねあがる。
 砲身を展開したGNバズーカから直径が五〇メートルにも届く極めて大きな光が、降り注ぐ太陽の光が蝋燭の明かりの如く見える輝きで放たれる。
 その反動を抑え込むためにヴァーチェは空中でその巨躯を静止しなければならないが、プロトン・ドライヴのエネルギーを動員した砲撃中は、機体周囲に余剰エネルギーが放出され一種の防御圏が形成される。
 並の出力のビームライフルのみならずリニアライフルやミサイルなどの実弾の類もシャットし、近づけばヴァーチェを取り巻く莫大なエネルギーに機体を灼かれる凶悪な牙を潜めた防御圏である。
 MSクラスの装甲ではPS装甲やTP、VPS装甲装備機、あるいは特機級の重装甲でもなければ接近する事さえ叶わない。
 ヴァーチェの放った途方もない威力の砲撃は、レオナとエウレカの活躍で防衛線に穴のあいた連合艦隊と、その前方を固めていたMS群を丸ごと飲み込む。
 あたかも満たされる事を知らぬ飢えに襲われた獣が、暗黒の胃の腑へと連合艦隊を飲み込んだ様だ。
 MSにとって骨格に相当するフレームや、心臓であるエンジン、脳にあたるコクピットを噛み砕く音一つなく、大気を灼熱させ、装甲を融解させ、果てに生じた爆発の音が連続する。
 プロトン・バーストモードの砲撃は、ビームの範囲のみならずその周囲二〇〇メートルに至るまで莫大なエネルギーの余波を放ち、海面を蒸発させ、大気を焦がし、機体を消滅させてゆく。
 DCの代名詞的な特機であるヴァルシオンの武装クロスマッシャーの最大出力と同等か、あるいはそれ以上の破壊力だ。クロスマッシャーは機動空母を一撃で沈める威力を秘めるが、プロトン・バーストも肩を並べるだろう。
 チャージしていたGN粒子のほとんどを用い、プロトン・ドライヴから供給されるエネルギーの多くを消費した一撃は、八機のMSと二機のガルムレイド、三隻の駆逐艦を戦場から文字通りに消滅させる結果を残した。
 砲身の冷却を急ぐティエリアは、撃たれた味方の仇を討つべく一気呵成に攻め立ててくるジェットウィンダムに向け、両肩の四門のGNキャノンの砲身を向ける。
 左右の肩側部に位置していたGNキャノンがスライドし、肩の真上に動くと旋回して砲身を向ける。ティエリアは広く角度を取って集束率を低く設定し、GNキャノンの射線を拡散した状態にする。
 さあっと水を撒くように放たれるGNキャノンは、ジェットウィンダムを貫く事もなく、幾筋化は無為に空へと消えて行くか掲げられたシールドに防がれ、あるいは軽やかに回避され、敵機に明確なダメージを与える事が出来ずに終わる。
ばらけた射線を取ったために並のビームライフル程度に威力が落ちてしまい、MSを撃墜するには威力が足りず戦果を残す事が出来なかったのである。
 三機のジェットウィンダムが浴びせ掛けてくるビームライフルがヴァーチェの左肩、腹部に着弾し、機体を衝撃と熱量が襲う。揺れるコクピットの中で険しく眉根を寄せながらも、ティエリアは瞼を閉じる事無く迫る敵を睨み据え続けた。
 複数の装甲内にGN粒子を循環させて強度を持たせるのが、太陽炉駆動機の特徴だが、とりわけヴァーチェは外見通りの重装甲機だ。元から装甲それ自体の硬度と厚みが違う。
 今回はそれが幸いして立て続けの着弾にも、ヴァーチェは表面装甲を約二十パーセント劣化させるだけで済んだ。
 操縦桿を強く握りしめて衝撃に耐えるティエリアが、ヴァーチェを取り囲む三機のジェットウィンダムを親の敵の如く睨み据えたまま、珊瑚細工かと見紛う唇を開いて叫ぶ。

 

「デスピニス!」
「は、はい。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 大型MSほどのサイズながら標準的な特機を凌駕するパワーと装甲を有するデスピニスのエレオスが、打撃用の杖を振り上げた姿勢でヴァーチェの周囲のジェットウィンダムへと襲いかかる。
 コクピットの中で、いつもの民族衣装風のロングスカート姿のデスピニスは、ティエリアにかあるいはこれから自分が攻撃するパイロットにか、悲しげに謝罪の言葉を呟いている。
 おもわず目を見張る異形な外見のエレオスが自らに襲い掛かってくる光景は、ジェットウィンダムのパイロット達の思考を一瞬だけではあるが麻痺させた。
 もしデスピニスの謝罪の言葉が聞こえていたなら、彼らは幼い少女の声に更なる困惑に襲われて、思考が正常な判断力を取り戻す前にエレオスに叩き落とされていただろう。
 ぶん、と猛獣の唸り声に似た音と共に振り下ろされた杖がジェットウィンダムの頭部を直撃し、頭部は首まで埋没して紫電を散らすや、すぐさま爆発へと変わる。パイロットは痛みを感じる暇もなかっただろう。
 この味方の犠牲によって残る二機が正気にかえって、奇怪な外見のエレオスめがけてビームライフルの照準を向ける。エレオスは杖を回転させて即席の盾にしながら、後方に下がって距離を取る。
 イナクトやフラッグの防御装置であるディフェンスロッドと同じように回転するエレオスの杖は、放たれたビームを見事に散らして光の粒へと変えてみせる。
 見た目からは全くその性能の推察もできないエレオスであるが、創造主たるデュミナスが宇宙の各所で手に入れた技術によって作り出されたその機体性能は、決して馬鹿に出来たものではない。
 場合によっては、超電磁マシーンやガンダムファイターとも互角に渡り合う事が出来るだけの性能があるのだから。
 エレオスに注意を惹かれたジェットウィンダム二機は、再びGNバズーカを構えたヴァーチェに気づいて回避行動に移るが――気付いた視野の広さと回避行動へ移るまでの速さは見事だった――光が放たれる方が早かった。
 放たれれば当然光の速さであるGNバズーカの砲撃の方が早い。ABCシールドを掲げる暇もなく、二機のジェットウィンダムは光の奔流の中へと飲み込まれる。
 容赦も慈悲もない光の中で、ジェットウィンダムは糸の切れた人形のように手足をあらぬ方へと折り曲げ、数秒とかからず原形を失った。
 ゆっくりと息を吐くティエリアの目に、モニターに映し出されたデスピニスの顔が映る。いつもどこか儚げで、その小さな体に薄い影を背負っている雰囲気は戦場であっても変わらない。
 あと十年も経てば道行く誰もが足を止めずにはいられない美貌が花を咲かせることを予感させる顔立ちには、薄衣の様な薄倖の雰囲気が不思議と似合う。
 もっともティエリアは、普通の人間だったら、なんとか笑顔にしてあげられないかと気を揉むデスピニスに対してこれといった感傷を抱く様な事は無かった。
 気遣うどころかデスピニスはイノベイターでこそないものの自分同様にデュミナスに生み出された存在、すなわち優越種であるから、そのような弱気な態度を取るべきではないと内心では思っている。
 そのデスピニスは、やや伏し目がちにティエリアの身を案ずる言葉を口にした。相手を思いやる真心の籠った言葉は、聞いた者が自分を心から案じてくれるものがいる事を気付かせてくれる。
 デスピニスを実の妹のように可愛がっているシンやセツコがいたら思わず微笑み返すか、頭の一つも撫でようとしただろう。心を許した相手への愛情表現が直接的なステラなら、躊躇せずに抱きしめるに違いない。

 

「ティエリアさん、無事ですか?」
「ヴァーチェに問題はない。君はどうだ」
「私も大丈夫です。エレオスも」
「なら構わない。それよりも手を休める暇は無いぞ。敵はまだまだ多い」
「はい。でも、もうずいぶん倒しているのに、まだ撤退しないなんて」
「確かにな。連合艦隊のMS、すでに三割以上を撃墜している。損傷した機体を含めれば全体の損害はもっと多い。普通ならとっくに撤退していて然るべきだ」

 

 通常、三割の損害が出れば全滅の判定が下され、軍の部隊としての機能を維持できないものと言われる。この観点から見れば地球連合艦隊の損害は、常識的な軍隊からすれば許容範囲を超えている。
 艦隊を構成する連合兵各員はもちろん常識をわきまえ、分別のある軍人ではあったが、この艦隊の組織と運用を命じたとある人物が非常識であったため、このような本土決戦じみた戦いの様相を呈する事になっている。
 そんな事は露知らぬデスピニスは――姉妹的存在であるティスは知っていたしその人物を嫌っていたが――小さな小首を可愛らしく傾げて、疑問を口にする。
 子供のいない夫婦が見たら、自分達にもこんな娘が欲しいな、と心から思う様ななんとも愛らしい仕草である。

 

「背水の陣、でしょうか?」
「そこまでではないだろうが、それなりに覚悟はあるという事だろう。なら向かってくる敵をすべて倒せばいい。いけるな、デスピニス?」
「は、はい」

 

 GN粒子のチャージはいま開始しだしたがプロトン・ドライヴの稼働率には何ら問題はない。
 ティエリアはタマハガネの艦前方の空域で、迫りくる敵機の迎撃及び後方の艦隊へと長距離砲撃を続行する。
 赤熱仕掛ける感情とは別に、戦闘に対するティエリアの思考はあくまで冷静――冷徹と言っていい。
 同タイプのイノベイターであるリジェネもそうなのだが、ティエリアは割と感情をにじませた態度を取る人間臭い所があるが、いまは感情の激発が許される事態でないと理性で押し留めているのだ。
 ティエリアの繰るヴァーチェは、パイロットの冷徹な思考を反映し、GNフィールドによる強固な防御壁を展開しながら、一方的な砲撃を加えて着実に戦果を重ねていった。
 ティエリア、デスピニス、スティング、アウル、グローリー・スターの活躍によって空からの敵の多くを防げてはいるものの、海上を行く敵には迎撃の網の目をくぐり抜けられてしまっている。
 ティエリアがプロトン・バーストを使用した時には、すでにシロッコのジ・OⅡがタマハガネの船体下部に潜り込んで痛打を浴びせていた。
 かろうじてアルベロが抑えに回っているが、先程からタマハガネに取り付く敵機の数が徐々に増えてきている。
 こちらもMAを相当数落とし、当初二十五隻あった地球連合艦隊の艦影も、いまは二十隻を下回っている。
 単純に戦闘開始から海の藻屑へと変えたMSや艦艇の数で言えば、クライ・ウルブズの方がはるかに上回るが、蓄積したダメージが表出すれば即座に瓦解する危険を秘めているのはクライ・ウルズの方だ。
 多少はクライ・ウルブズの空気に染まっていたのか、ティエリアはこれ以上クライ・ウルブズの隊員を傷つけさせまいと、心のどこかで焦っている自分に気づいてはいなかった。
 眉間のしわを深いモノにしたままのティエリアにデスピニスから声が掛けられた。

 

「ティエリアさん、すごい速さで近づいてくる反応が」
「エクシアとデュナメスか、だが、この速度は? それに、あの光……」

 

 エレオスのレーダーがとらえた反応は、紛れもなくネオ・ドライヴの超加速で戦域へと迫るエクシアとデュナメスであった。
 そしてデュナメスの超長距離狙撃が、コーラサワーの乗るイナクトを撃墜した瞬間、ティエリアはエクシアとデュナメスの姿を見つけたのである。
 はるか彼方に瞬く翡翠色のGN粒子の煌めきを。擬似太陽炉にはあり得ぬその輝きを。

 

 

 重力制御能力の応用による超加速ネオ・ドライヴによる負担は、慣性制御機能を有するGNドライヴとテスラ・ドライヴによって大きく軽減されていた。
 そのために、ネオ・ドライヴの超加速の渦中にあってなお刹那とロックオンの肉体に掛かった負荷は、実に軽微なものであった。
 本来大西洋連邦へと引き渡される筈であったエクシアとデュナメスの今の装備は、セブンソードやフルシールドを持たないノーマル状態だ。
 時間があればサキガケやアヘッドSCの装備を流用する事も出来たろうが、今回ばかりは擬似太陽炉からオリジナル太陽炉への換装作業のみで時間が追われてしまい、輸送機から強奪したままの状態に留まっている。
 戦域への接近と到着に合わせてネオ・ドライヴを停止し、通常の戦闘速度に切り替えてさらに接近したところで、ロックオンはガンダムデュナメスを大きく減速させる。
 目に見えて分かるわけではないが、ロックオンは全身が、髪の毛の一本一本に至るまで戦場の張り詰めた緊張の中に浸るのを感じる。撃って撃たれて、殺して殺されてを繰り返す世界に戻ってきたのだ。
 短いが深く息を吸い込み、集中力を針の先のように細く細く、鋭く変える。集中力の針で貫いた相手を撃ち、無価値な存在に変える仕事を始めなくては。
 刹那のエクシアがGN粒子で光の尾を曳きながら前進し続けるのに対し、デュナメスは額に隠されているスコープを露出し、GNスナイパーライフルを構えて狙撃形態への移行を終えた。
 ネルガル製(ザ・データベース)のデュナメスにはハロを収納する為のスペースが無かったように、オリジナルデュナメスのコクピットにあったガンカメラが存在せず、ヘルメットのバイザーに小型のスコープが接続する形式だった。
 その勝手の違いに、いま自分が乗っている機体がかつて搭乗したオリジナルデュナメスではないことを、改めてロックオンは理解したが、かといって狙撃の精度に支障をきたす様な事は無かった。
 ロックオンは利き目である右目の向こうに、ビルトシュバインへと襲いかかる指揮官機仕様のイナクトを捉える。不可視の蜘蛛の巣に絡め取られたも同然のイナクトへ、ロックオンは引き金を引く。
 アヘッドスナイパーカスタムはロックオンの望みを完璧に応えてくれた機体であったが、はたしてこのデュナメスはどうなのか。ロックオンはどこか試す様な気持ちが自分の中にある事を自覚していた。
 青空を切り裂く圧縮GN粒子の光の槍が、見事、グリーンカラーのイナクトを撃ち抜いてみせる。
 大気や散布されたアンチビーム爆雷の影響を受けつつも、MSを撃墜するだけの威力を維持したビームによって、イナクトは黒煙を噴き出しながら海面へと落下し、そこを横合いから現われた友軍のイナクトに拾われた。
 ロックオンは息つく暇もなく次の敵機を照準内に捉えて、羽毛を扱う繊細さで、しかし大胆に引き金を引く。
 独特の風切り音をたてながら放たれるビームは、さらにウィンダムやフラッグ、ティエレンの翼や機体本体の一部を撃ち抜いて戦闘能力を奪い、脅威を減らす事に成功する。
 戦闘機動を取っている機動兵器が無数に飛び交う状況で、精密と称する以外ない狙撃の精度を維持するロックオンの技量は一流のものだ。
 ハロによる補助制御が無い分、デュナメスの回避行動に不安が残るため、ロックオンは常よりも広く狙撃の距離を取っていたが、その狙いの正確さに問題が無い事は、次々と撃ち落とされてゆくMSの姿が証明している。
 通常時はアンテナに隠されている狙撃用スコープの精度も、ロックオンの意図どおりに動いて応えるデュナメスも、どちらも満足のゆくものだ。
 ロックオンは、七つ、と心中で数えてからエクシアを駆る相棒へと通信を繋ぐ。こちらの世界に来てからと、前の世界での付き合いから、刹那とのコンビネーションは阿吽の呼吸だ。

 

「刹那、狙撃は任せろ。構わず突っ込め!」
「分かった。背中は預ける」

 

 淡々とはしているがロックオンへの信頼をかすかに滲ませて、刹那はエクシアの右腕に装着されたGNソードをライフルモードにセットし、ミンが指揮を執る頂武のティエレン部隊へと狙いを定める。
 DCの新たな敵影に気付いたティエレン部隊が、三機一個小隊の編成を組んでビームライフルの交差射撃を撃ってくる。
 エクシアはGNドライヴ+テスラ・ドライヴがもたらす圧倒的な運動性を活かし、重力や慣性の鎖に囚われぬ動きでかわし、ライフルの数射でティエレンを小隊単位で散らす。
 戦闘開始当初三十機を数えた頂武のティエレンも、今はその数を二十三機にまで減らしている。セルゲイ・アレルヤ・ハレルヤがシンに拘束されているために、本来の連携や戦闘能力を発揮できていないせいだろう。
 エクシアの介入まで追い込まれていたエルアインス二機も、ロックオンの狙撃によるサポートによって態勢を立て直し、ティエレン部隊から距離を取ってレクタングルランチャーやブーステッドライフルを構え直す。
 刹那はGNソードをソードモードに切り替え、もっとも近い距離にあるティエレン三機へと斬り掛かる。エクシアが直接敵機を落とせずとも、こちらに気を取られた敵機を友軍が落とすチャンスは生まれる。
 そう割り切り刹那は猫科の動物を思わせる目を細めてティエレンを見つめた。GNソードの刀身にGN粒子によるコーティングがなされ、その切れ味はティエレンの重装甲をものともしないものへと変わる。
 モニターの向こうでぐんぐんと近くなるティエレンが、こちらに照準を合わせてビームライフルを撃つタイミングに合わせ、刹那はフットペダルを一気に踏み込んだ。
 錯覚かもしれないが、刹那には敵機のパイロットの呼吸や心臓の鼓動が聞こえ、殺気が感じられたように思えた。
 シンならば錯覚ではなく明確に知覚する所だが、経験値で劣る刹那にはまだ微弱に感じられるのみである。長く戦場に身を浸すか凄絶な体験をした者が体得する一種の危機回避能力の発露だ。
 爆発的にエクシアの背から溢れるGN粒子が渦潮の如く放出され、ティエレンのビームはエクシアの残像を虚しく貫き、刹那は装甲に触れたビームの微細な粒子が立てる灼熱の音を聞く。

 

「はああ!!」

 

 刹那の喉から迸る気合一閃! 
 銀の軌跡を描いたGNソードがティエレンの左胸部からそのまままっすぐ縦一文字に振り下ろされて、水を斬るかの様にして左足の爪先から刃が抜ける。
 厚い装甲にも何の抵抗もなく降り抜かれたGNソードは、飛燕と化してひるがえり、エクシアが独楽のよう旋回するのに合わせて、陽光を反射して眩く輝きながら、右方向に居たティエレンの腰を薙ぐ。
 ギン、とわずかに金属同士の触れる音が大気に響く間に、残る三機目のティエレンにエルアインス二機の射線が集中して火の玉に変える。
 連合艦隊のパイロット達も精鋭であったが、DC側のパイロット達も精鋭だ。自ら窮地にあっても、敵に生まれた隙を見逃す様な真似はしない。
 瞬く間に一個小隊を屠ったエクシアに周囲に展開していたティエレン部隊が、仇討ちとばかりに銃口を向けるが、ロックオンの絶妙な狙撃が割って入り、ティエレン各機の動きを鈍らせる。
 狙撃者がいるという事は、単にその事実だけでも戦場にある敵にとって大きな重圧となる。こちらの手が届かぬ位置から一方的に命を狙われる事のプレッシャーたるや想像を絶するものだ。
 しかも明らかに接近戦特化型の敵機が誤射などあり得ないと確信しているに違いない勢いで、斬り掛かってくるために、どうしてもフォーメーションを崩されてしまう。
 敵機を自分の距離に捉えたロックオンと刹那の戦闘能力は、これ以上なく噛み合う機体との相性と、絶対の信頼と共に背を預けられる味方の存在によって、二倍にも三倍にもなり精鋭部隊を圧倒してゆく。
 カーボンブレイドやビームサーベルを振り上げて、懐に飛び込んできたエクシアを切り裂かんとするティエレンの胸を突き、半身を切り裂き、エクシアは獣の俊敏さと人間の技術を組み合わせてティエレンを海面にばら撒く。
 エクシアとデュナメスの参戦と活躍によって、ごく短時間でタマハガネほかカイゼルオーン、ジャピトスに群がっていたティエレンの数は激減したと言っていい。
 右手に白銀に輝くGNソードを、左手には光の刃を形成するGNビームサーベルを握り、圧倒的な切断力を持つ二刀流となったエクシアを操る刹那は、モニターに映し出される大熱量に気づく。
 連合艦隊の二隻のアークエンジェル級である。その快速を活かして大きく左右に分かれて弧を描き、タマハガネやカイゼルオーンを挟み込むつもりなのであろう。
 前大戦中の各アークエンジェル級の運用データから、新しく建造されたAA級は対空火器の更なる充実とラミネート装甲の改良などが行われており、さしずめ移動要塞と評すべき戦闘能力を持つ。
 被弾によって外殻装甲の劣化が著しく、Eフィールドの出力も低下しつつあるタマハガネでは、真っ向から撃ちあうのは何としても避けたい相手である。宣完クラスでは最強のローエングリンを持つAA級は脅威だ。
 AA級に自由に動かれるとこれは戦況が一気に傾きかねないと刹那が危惧するのと同時に、いつもよりわずかに厳めしく引き締められたエペソの麗貌も映し出される。

 

『遅くはあったがご苦労。刹那・F・セイエイ』
「艦長……アークエンジェルが動いている。指示は?」

 

 指示をしなくても自分の判断で動く、と刹那は含みを持たせた。
 余計な詮索をせずに必要な事だけを口にする刹那にエペソは、ふむ、と形の良い顎に細長い指を添えて悠長にも感心している。
 銀河中でメルトランディやゼントラーディ、宇宙怪獣他未開の文明を相手に戦っていたのは伊達ではないようで、大概の危機的状況には動揺のどの字も覚えないようだ。
 艦橋に居るクルーにしてみれば頼もしいことこの上ないが、時折状況が理解できていないのでは――つまり頭が足りないのでは? という具合に不安になる事もある。

 

『アークエンジェル級の機動性を活かして左右から挟み込むつもりのようだ。灰色のアークエンジェルは貴公に任せる。何としても落とせ』
「了解。しかしタマハガネだけで大丈夫か?」
『傷を負おうともむざむざ負ける様な無様な真似はせぬ。貴公は貴公の役目を果たせ』

 

 不敵なまでの自信ばかりは変わらぬエペソの発言に頷き返し、刹那はエペソとの通信を終えた。
 刹那とエクシアが首を巡らせて睨み据えたのは、灰色のアークエンジェル級九番艦ガルガリエルだ。ガルガリエルとは座天使の位階にある天使を管理する二つの存在の片方ガルガリンの語源となった天使の名である。
 九十六人の部下を持ち、対となるオファニエルが月を担当し、車輪を意味するのに対してガルガリエルは太陽を担当し、天球の意味を持つ。
 ミカエルがガヴリエルと言った最高位の天使の仕事の補佐を行う、いわば中間管理職的な地位にあった天使だ。連合軍上層部から見た場合、ただしく中間管理職にある艦隊の艦船としてはなかなか適したネーミングだろう。
 波風を立たせて右の弧月を描くガルガリエルに向かうエクシアを、ガルガリエルに続くイージス艦と、先程まで交戦していたティエレンの一部が銃口と砲口を向ける。
 背後から迫りくるティエレンはデュナメスの狙撃に任せて、刹那は放たれた対空溜弾やミサイル、単装砲、バリアントが構築する対空砲火の雨の中へと機体を飛びこませた。
 特に空戦能力を有するMSの台頭を考慮し、対空砲座であるイーゲルシュテルンを過剰なまでに装備したAA級の張り巡らすオレンジの火線は、その眩さで網膜に穴が空きそうな位に激しい。
 その中へと躊躇の欠片も見せずに飛び込む行為は、度胸がある、という言葉で一括りにするにはあまりに大胆で、無謀ともとられかねぬ突撃だ。いや見る者の十人に九人は無謀だと叫ぶだろう。
 海面に明確に機体の姿が映る位低く高度を落とし、着弾した砲弾が立てる水柱をかいくぐる中、刹那は事前にビアンに説明された精霊兵装というあまりにもファンタジーな兵器の使用を決意する。
 知らされた通りの性能であったならば、精霊兵装は極めて強大な効果を発揮する兵器だ。物理法則に乗っ取らない類の兵装である為、蓄積された実用データが全くなく、また実績もない為に信頼性がこれっぽっちもない事が欠点だ。
 見る見るうちに護衛艦群とガルガリエルとの距離が縮まる中、刹那は発動キーとなる文言を叫びながら、エクシアを回転しながら跳躍させた。
 登録された刹那の音声と固有のプラーナ反応を確認し、魔術専用補助AIが精霊兵装発動プログラムを起動させる。
 GNソードの刀身表面に青い魔術文字が数万単位で浮かび上がり、冷厳な光に輝く。欧州、南米、暗黒大陸と呼ばれていた頃の原始アフリカ魔術、南洋諸島の土着の呪術、中華の歴史が秘める仙道術などなど。
 血と闇と呪詛と年月が育んだ魔を行く道の技術の限りを尽くして統制され、力を束ねられた精霊の力が、不可視の奔流となってGNソードから溢れだす。
 検査の結果判明した刹那と最も相性の良い四大精霊は『水』。魔装機神の搭乗者となれるほどではないが、頭一つ飛び抜けた相性の良さから精霊兵装の属性もまた『水』となり、起こす現象もそれに由来したものとなる。
 GNソードの刃から噴き出る冷気に白く染められた霧が堰を破った様に溢れだし、霧に触れた海水が瞬く間に凍ってゆく。水の魔装機神ガッデスの持つ広域攻撃兵装ケルヴィンブリザードに類似した兵装なのであろう。
 事実、ヨーロッパで建造されたガッデスに装備されるはずだったテューディ版ケルヴィンブリザードの試作型に相当する武装なのである。

 

「アイスグラウンド!」

 

 GNソードから吹き荒れる冷気の風はたちまちの内に海面を凍らせてゆき、数百メートルの範囲で凍りついた氷の中にガルガリエルと護衛艦も飲み込まれてゆく。
 飛行中であったガルガリエルにも氷柱もぐんぐんと伸びて行き、特徴的な馬蹄状の船首部分に突き刺さり、主翼や船艇の表面を凍らせて氷の中に閉じ込める。
 飛行しているガルガリエルでさえ氷山に船体下部を突っ込ませた様な状態になっているのだから、海上を行く護衛艦などひとたまりもない。
 船体の至る所が氷に覆われ尽して、繊細な電子機器が致命的なダメージを負う。艦橋までもが氷山の中に閉じ込められ、完璧に動きを封じられている。
 ケルヴィンブリザードは絶対零度の冷気によって分子の結合を崩壊させてほぼすべての物質を灰塵と化すが、エクシアのアイスグラウンドはそこまでの攻撃性は持たず効果範囲内の敵機を凍結させて動きを封じるものだ。
 だがMSの過剰火力によって容易く艦船が沈む昨今の戦争において、足を止められる事は致命傷に容易く繋がる。
 ガルガリエルの護衛に着いていたMSの半数ほどもアイスグラウンドの氷銀世界に飲み込まれ、腰から先だけを氷柱の外に出している者や、全身を飲み込まれている者、左半身を飲み込まれている者と様々だ。
 身動きが取れる取れない以前に突然赤道付近の海域に氷銀世界が生じた自体二、アイスグラウンドに囚われた者達は理解が追い付かずに咄嗟に思考が停止する。
 魔術に類する類の兵器はいまだDCしか運用していないから(直に目にしているものはDC内部でも少数だ)、他国の軍人に魔術的な攻撃に対する耐性や知識などあろうはずもないから、当然だろう。
 アークエンジェル級のラミネート装甲のビームに対する耐性は、従来のバッテリー機に対しては効果絶大、プラズマ・ジェネレーター搭載機のビームに対してもそれなりに有効だ。
 GNソードのライフルモードは標準のビームライフル並の威力はあるが、ラミネート装甲相手では多少時間が必要だろう。
 艦橋やエンジン部分、主砲を狙い撃ちにすれば轟沈も可能だが、早急に敵戦力を駆逐する必要があると判断した刹那は、精霊兵装に続いてオリジナル太陽炉に増設された新機能の使用に踏み切る。
 ヴァルシオンのものを小型高性能化したグラビコン・システム『盤古旛』とGNドライヴによって、ガンダムの形をしたヴァルシオンと言ってもよいほどの重力制御能力を得たエクシアの周囲に、重力異常が生じ始める。
 増大化し通常とは異なる方向に生じた重力によって、GNソードの刀身は陽炎の鞘に包まれ、可視光線が歪んでゆらゆらとたなびいているかのように映り出す。
 エクシアはGNソードを突き出した右腕に左腕を添えて、多大な負荷のかかる右腕をがっちりと支えた。

 

「すべてを斬り“潰す”」

 

 短い語句に秘められる必殺の意思。デュナメスに与えられたブラックホールキャノンに対し、エクシアが得た重力兵器は――

 

「グラビトンブレード!!」

 

 全長一キロメートルにおよぶ刃状の重力場グラビトンブレード! 
 最大展開した斬艦刀・星薙ぎの太刀には及ばぬものの、グランゾンのグラビトロンカノンを上回る三〇〇〇Gの加重力は、GNソードの刀身を基部として漆黒の刃に形を変えて、ガルガリエルの馬蹄部分をまとめて貫く。
 動きを止められたと――どのような手段によってかは不可解だが――驚きながらもその事実を認めていたガルガリエルの艦長は、乗艦の船首部分を斜めに貫く黒光に驚愕し、ついでそれが一気に振り下ろされた事に叫んだ。

 

「さ、サーベルだとお!?」

 

 瞬間的に加えられた三千倍の重力によって瞬く間に圧壊したラミネート装甲は、斜めに振り下ろされたグラビトンブレードに抵抗する事叶わず、あえなく斜めに切断されてゆく。

 

「うおおおおおお!!」

 

 グラビトンブレードの刃はガルガリエルの船体を斜めに両断するのみに留まらず、さらにその下で氷の世界に閉じ込められている護衛艦群にも襲い掛かり、超重力の刃は次々と新たな犠牲者を生みだして行く。
 GNソードから伸びるグラビトンブレードの刃は黒い災いとなって氷に囚われる艦艇群の鋼の装甲を紙の様に容易く貫き、氷山ごと斬るのと押し潰すのを同時に行う。
 ついに最後の艦を斬り潰し、グラビトンブレードの刃が漆黒の雪の様な粒子に変わって消えた時、砕け散る氷と共にアークエンジェル級九番艦ガルガリエルは、行動を共にした護衛艦と海の底へと沈み始めていた。
 自らの得た力の強大さに、刹那は呆然と仕掛けるが、いまだ自分は戦場にあるのだと気を引き締め、再びGNソードを構え直して残る敵MS部隊をモニターに映した。

 

「エクシア、残る目標を駆逐する」

 

   *

 

 既存のMSにはありえぬ超高速度で接近してきたDCの機体によって、急激に数を減らし、ただでさえ常識の範囲では目も当てられない損害が加速度的に増して行く状況に、艦隊の指揮官は思わず天を仰いだ。
 黒く染められた地球連合の軍服と、顔の上半分を覆う金属の仮面とそこから零れる波撃った金色の髪――ファントムペインに属するネオ・ロアノーク大佐だ。
艦隊旗艦の艦橋に設えられたオブザーバー用のシートに腰かけた姿勢のまま、予想を上回る損害に対して数秒間、現実から目を逸らしたが、溜息一つを吐いて気を取り直し、顔色が優れない空母のスタッフの顔を見渡す。

 

(無理もないか。構成国の各地から引っ張ってきた精鋭で揃えた部隊がこの様だ。今後の軍全体の作戦にどんな支障が起きるか分かったものじゃない。盟主殿のご意向に逆らえないとはいえ、これはひどい)

 

 ロアノーク艦隊の指揮官としての立場上、ネオは表情にこそ出さなかったが(仮面を被っているのでもともと分かりにくいけれども)心中ではさっさと基地に帰って、安酒でも煽って眠りたい気分だった。
 引き連れている将兵たちを無事に帰してやりたいという思いだって、人並みにはある。確かにDCの息の根を止めるのに、クライ・ウルブズの撃破欠かせぬ要因であるが、それにしたって被害が大きすぎる。
 虎の子のアークエンジェル級の内ガルガリエルは、増援の機体によって轟沈させられ、残る一隻も手負いのタマハガネの猛烈な火砲と神がかった回避機動を相手にして、さんざんに撃たれている。
 小型のMSらしき白い機体とタマハガネ前方空域に陣取っている砲戦機であるデカブツガンダムの所為で、艦艇の損失も馬鹿にならない。駆逐艦、空母、イージス艦と艦種を問わずに大小のダメージを負っている。
 ネオが乗艦している機動空母は幸いにしていまだ無傷ではあったが、至近弾が増え始めいつ被弾するか分かったものではなかった。
 ネオを裏から糸で操るロード・ジブリールは、「なにがなんでもクライ・ウルブズを斃せ」と息巻いて告げてきたが、その命令に従うのもそろそろ限度ではあるまいか? ネオは退き際を捜しつつある自分に気が付いていた。
 そして、その退き際を見定める切っ掛けとなる事態は、さほど時を置かずしてネオにもたらされた。ただし、それは吉報とは到底言えず凶報に類するものではあったが。

 

「レーダーに感! ガルカシュ後方二五に熱源反応――これは、ザフトのミネルバ級です!」。
「青森湾でさんざん追っかけて来た新型艦か。オトモダチの危機に颯爽と登場ってわけか。ミネルバ単独で動くとは考えにくい。
ソナー手、海の下にもザフトの潜水艦が居る筈だ。見逃すなよ。シャニのアビスにも警戒するよう通達しておけ」

 

 DCに奪われたネルガルの新型二機とザフトの精鋭ミネルバの登場と、被害はともかくとして勝ちの目が見えていた今回の戦いの状況がひっくり返りつつあることを、ネオは明敏に悟っていた。

 

(どこで勝利の女神の機嫌を損ねる様な真似をしちまったのか。ともかくこのままだと天秤が向こうに傾くな)

 
 

――つづく。

 
 

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