SSA_400氏_第12話

Last-modified: 2008-03-04 (火) 00:27:48

「あの二機は追わなくていい。態勢を整えろ、次が来るぞ!!」

 

 アムロはイージス・ブリッツの追撃を断念し迫り来る光の群れに意識を飛ばす。
 そうする事で敵部隊の『気』の強弱から戦力や動きを推量するのだ。

 

「距離・・・よし、放てっ!!」

 

 アムロ達を目視出来るやいなやザフト部隊は脚部に取り付けられた三連装ミサイルポッドで一斉攻撃する。

 

 ――この群れは・・・ザフトの精鋭か!!
「各機、散らばれ!!――そこだっ!!」

 

 アムロはビーム・ライフル、腕部ガトリングを撃ちながら敵に向かい突撃。
 ソキウス等のジン、メビウスも回避運動をとりつつ各々の火器でミサイルを迎撃する。
 それでも、攻撃の激しさに何機かのメビウスは撃墜を余儀なくされる。

 

「前に出る!?させるかっ!!」

 

 その勢いのまま突入せんとするザフト部隊にアムロは流れ込む。反撃し、一機のジンを大破させる。

 

「撃てぇ!!」

 

 己に向かい一斉射される火線を全て縫うように避けながら
 Mk-Ⅱは近い位置にあったジンに組み付きコクピットに向かい腕部ガトリングを容赦なく叩き込む。
 さらにそのジンを盾にしながらアムロは間断なく他の敵に攻撃を加える。

 

「クソッ、バケモノがッ!!かまわん、撃てっ!!」

 

 それまで味方の背に躊躇していたザフト部隊の射撃が加えられパイロットを失ったジンはMk-Ⅱが離脱した直後に跡形も無く爆散する。

 

「勢いは殺した!!各機、横手から――クッ!?」

 

 Mk-Ⅱに迫るビーム攻撃をアムロは機体を上昇させ回避する。
 直後、クルーゼのシグーの接近を感知する。

 

「コイツには近付くな!!被害をいたずらに増やすだけだ!!」
「この思念は!?この機体がプレッシャーの!!」
「コレは私が対処する!!敵が来るぞ・・・迎撃しろ!!」

 

 味方に指示を送りながらクルーゼはシグーに特火重粒子砲を撃たせる。
 それを避けながらアムロのMk-Ⅱもビーム・ライフルを放つ。
 両軍の互いの生命を飲み込まんとする凶暴な火線が宇宙を貫いていった。

 
 

 比較的損傷の少なかったニコルのブリッツと護衛の部隊に連れられながらアスランは手足を片方ずつ失ったイージスからその光芒を見ていた。

 

「助かった・・・のか・・・クッ・・・!!」
≪イージス、損傷が酷い。直ぐに退避するぞ!!≫
≪アスラン、怪我はありませんか?≫
「・・・大丈夫だ、ニコル」

 

 アスランは生命が助かったという喜びなど感じぬままに言葉少なく返事をするとディスプレイにMk-Ⅱとの戦闘映像を幾つものウィンドウに表示させる。

 

「尋常な相手じゃない・・・だが、何か・・・」

 

 紛れも無い完敗である。
 しかし、何も得られずに敗北しただけでは余りにも己が惨め過ぎる。
 せめて、少しでも味方にプラスとなる材料を見つけねばならないという想いがアムロとの極限状態での戦闘により憔悴しきったアスランの意識を繋ぎ止めていた。

 

 ――連合のエース・・・『白き流星』アムロ・レイ。

 

 映し出されるMk-Ⅱの動きからモビルスーツの機動の使い方が自分より遥かに上手だと気付かされる。
 それがナチュラルによるものだというのはアスランにとっても信じ難い事だったが実際に体験したのならば認めなければならない。
 連合によって喧伝されザフトにも伝わっていた『白き流星』の実力は誇張はあれど偽りではなかったのだと。

 

 ――ヘリオポリスのOSは欺瞞だった。・・・ナチュラルはもうここまで進めている。

 

 そのアスランの予測は半分は正解であったが正確ではなかった。
 ヘリオポリスのOSが未完成だったのは、あくまで連合内での様々な思惑が絡み合った結果でありMk-ⅡのOSもアムロならまだ動かせるといった程度であり真の意味での完成には程遠い。
 だが、今はそんな事を考えている時ではないとアスランは逸れかけた思考を修正する。

 

 ――ビーム兵装の威力、・・・俺と戦って今は隊長と・・・?何かが・・・

 

 アスランの戦士としての部分が違和感を訴えていた。
 そして、映像の一つにビーム・サーベルの衝突が映し出された時、

 

 ――これはっ!?そういう事か!!距離・・・クソッ、届いてくれっ!!

 

 "その事"を護衛のジンに伝えクルーゼの元に向かわせる。
 さらにアスランはイージスの通信を開き出力を最大にする。
 距離が離れているため届くかどうかはギリギリの線だったがMk-Ⅱに相対するクルーゼには一刻も早く伝えねばならない情報なのだ。

 

「クルーゼ隊長!!その機体は――!!」

 
 

 アムロ、クルーゼ双方共に戦場に存在する他の機体とは一線を画する機動で互いの攻撃を凌いでいた。
 だが、Mk-Ⅱに比べカスタムを施しているとはいえ性能が劣るシグー。
 さらに大型で取り回しの悪い特火重粒子砲を使わざるを得ないというクルーゼにとっては悪条件の多い戦闘である。

 

「フッ・・・コレばっかりは如何ともし難いか!!」
「コイツは・・・!?」

 

 幾度も心胆を寒からしめるビーム光を紙一重で避けながらもクルーゼは顔に笑みを張り付かせていた。
 アムロの攻撃と共に発せられる意思、Mk-Ⅱの機動がクルーゼに新しい感覚――
 ニュータイプ能力の使い方を感得させていく。
 頭で理解しているのではない。己の感覚がソレを把握し研ぎ澄まされていくのをクルーゼは実感していた。

 

「俺の力が吸われている!?」

 

 アムロは自分の力を切欠に覚醒していくクルーゼをそう表現した。
 徐々にプレッシャーを増していく気配、そしてそれにアムロは覚えがあった。
 何もかもを喰らい尽くしかねない程の漆黒の絶望に。

 

「お前は、新星の時のっ!!」
「フッ・・・モビルスーツの操縦が随分板についているじゃないか、アムロ・レイ!!」

 

 アムロのビームを回避する刹那の際にクルーゼは感覚を開放する。

 

 ――右、圧迫感が・・・上に!!

 

 クルーゼが機体を急上昇させた直後、シグーの右脚をビーム・ライフルの光が掠め装甲の一部を削り取る。
 クルーゼの回避を更に上回る予測でアムロが狙いを修正したのだ。
 反応が一瞬でも遅れていれば胴体部を貫かれていたであろう。

 

「何、誤っただと!?違うな・・・読まれたのか!!」
「避けられた!?だが、今ならまだ!!」

 

 アムロはMk-Ⅱのスラスターを全開にし一気に肉薄せんとする。
 クルーゼはアムロを墜としに掛かる戦いをしていない。
 目覚めたニュータイプ能力をアムロを通して確立させていたのだ。

 
 

 ――ここで倒さねばならない敵だ。どうなるか知れたものじゃない!!

 

 ここで取り逃がせば多くの厄災を生み出す。
 クルーゼがそういう存在であるとアムロは肌で理解していた。

 

「墜ちろっ!!」
「クッ・・・流石に!!」

 

 接近するMk-Ⅱから放たれるビーム・ライフルをクルーゼは装甲を削られながらも細かく機体を動かしてビームの奔流から機体を外す。
 そして、アムロの攻勢を止めようと、

 

『クルーゼ隊長!!その機体はPS装甲じゃありません!!粒子砲は――』

 

 その時、アスランの声がクルーゼに届いた。
 イージスの通信こそ距離が遠すぎて殆どノイズに掻き消されていたがアスランのクルーゼに向けられた意思の声はハッキリと伝わってきたのだ。

 
 

 アスランはMk-Ⅱの左腕が映し出された時に若干の歪みと傷が生じている事に気付いた。
 イージスとの格闘戦の時のものであるがダメージと呼べる代物ではない。

 

 ――だが、絶対的な硬度を有するはずのPS装甲にしてはっ!!

 

 そこに到れば後は自ずと答えを導き出せた。
 強力なビーム兵装を持ちながら未だに戦い続けられる継戦能力。
 ならば代償に何を犠牲にしている。その答えは一つしかない。
 ここに到りアスランはMk-Ⅱが他の"G"に装甲においては劣るものであると確信したのだ。

 
 

 よほど、強い意志で放たれた声だったのだろう。
 クルーゼが急速に覚醒しているとはいえアスランの声を捉える事が出来たのは正に僥倖といえた。

 

「外見に惑わされたか・・・確かに受け取ったぞアスラン!!」

 

 他の"G"に似通った外見から当然Mk-ⅡもPS装甲だと誤認していた事に気付きクルーゼは特火重粒子砲をMk-Ⅱに向かい放り投げる。
 PS装甲ではないと解かればただ機体の動きを阻害するに過ぎない物だ。
 くびきから脱したクルーゼはシグーの機動性を最大限に生かしMk-Ⅱに対していった。

 
 

 アムロとクルーゼの戦闘は危ういバランスで均衡していた。
 一瞬でもクルーゼの隙を見出す事が出来れば間違いなくアムロが勝つ。
 故にイレブン達はアムロを援護したかったのだが増援のザフト部隊がそれを許さなかった。

 

「ぐっ・・・やるっ!!」

 

 イレブンは振り下ろされる重斬刀を両手にジェイルハンドで構えたアーマーシュナイダーで受け止める。
 機銃は既に目の前のジン・ハイマニューバによって寸断されてしまっていた。

 

「あの『白い悪魔』はともかく、そのジン・・・貴様等――ナチュラルではあるまい!?」
「だったら何だという!?」

 

 イレブンは機体をそらしつつ胴体部を狙う。
 それを急速後退で避けながら再度イレブンに接近する。

 

「何故だ!?知っていよう血のバレンタインの悲劇を!!ナチュラル共の所業を!!」
「そんなもの!!」
「多くの武器を持たぬ無辜の人々が核の焔に焼かれた!!何故、そのような者達の味方をする!!」

 

 敵はイレブンの素性を知らないから言えるのだろう。
 戦闘用コーディネイター・ソキウスはナチュラルのために製造された兵器だ。
 他のコーディネイターの苦悶など正直なところ知った事ではない。だが、

 

「あなた達は・・・あなた達はその憎しみを既に地にぶつけておきながら――なおも被害者ぶるつもりかっ!!」
「なっ・・・」

 

 裂帛の気合を込めてアーマーシュナイダーで重斬刀を弾き飛ばす。
 イレブンは苛立っていたのだ。目の前の敵の一方的な物言いに。
 本来、ソキウスにその様な感情はあり得ないにも関わらずだ。
 ローレンツ・クレーター基地でアムロ達と出会い過ごすうちに自分の何かが変わってしまったのかもしれないとも思う。

 

「・・・この裏切り者がっ!!」
「―――!!」

 

 なおも二機のモビルスーツは剣撃を重ねる。
 その周囲ではメビウスが炎に飲まれ、あるいはジンが爆散する。

 

「イレブン!!アムロ大尉は・・・クッ・・・!!」
「セブン、僕達が離れれば被害が増す!!だから、今は・・・!!」

 

 セブンとエイトも必死に他のジンに立ち向かっていく。
 ソキウスの存在意義に従って。ナチュラルのため、その名の意味"戦友"のために。

 
 

「『新星の英雄』、『白き流星』と随分派手に宣伝されたものだな!!」
「何を言っている!?」

 

 クルーゼは特火重粒子砲を捨てて機動を如何なく発揮し戦っていたが機体性能の差。
 そして、パイロットとしてニュータイプとしての技量の差は徐々に彼を劣勢に追いやっていた。
 にも拘らずクルーゼはアムロ相手に未だ決定打を許してはいない。

 

「おかげで刻ませてもらったよ。アムロ・レイの名を!!
 君にも憶えていて貰おうか、私の名を。ラウ・ル・クルーゼを!!」
「お前はっ!!」

 

 Mk-Ⅱのビーム・サーベルの光刃がシグーの三銃身バルカン砲を切り裂く。
 クルーゼはそれに構わず左のマニュピレーターでMk-Ⅱを殴り飛ばす。
 両者に距離が開きMk-Ⅱは構えを取り直しシグーは重斬刀を手に持つ。

 

「ハッ!!周囲の意思が、感覚がクリアになったのが分かるぞ!!
 これが、貴様の見ている世界かアムロ!!」

 

 クルーゼの資質は己を確立されるため高めるための糧を欲していた。アムロとの戦いを求めた。
 幾多の戦闘を経て洗練されたアムロのニュータイプ能力との死を賭した戦い。
 それが、どれ程の養分となったかは想像に難くない。

 

「しかし、この"力"――本質的には戦うためのモノではあるまい」
「お前はそれを己のエゴのために使おうとしている!!」
「やはり解かるか、君には!!」

 

 攻撃を予測し、修正し、それをまた予測しモビルスーツの動きにフィードバックさせる。
 機体をどのように動かせばどのような機動が行えるかを理解できるか完全に把握する。
 ニュータイプの適応力による理解はそのままモビルスーツの性能となる。
 互いに嵐のような斬撃を掻い潜りながら反撃を繰り出す。

 

「君とて、その力・・・随分と歪ませたみたいじゃないかっ!!」
「だからこそ、貴様はここで俺が・・・!!」

 

 Mk-Ⅱのビーム・サーベルの一撃がシグーの右腕を重斬刀ごと引き裂く。
 同時にクルーゼは後方の気配を感知しつつ機体を後退させて発光弾を射出する。

 

「・・・・・アデス、間に合ったか!!」
「逃がすかよっ――なっ!!」

 
 

 アムロが追撃をかけようとした瞬間、艦とジンによる滝のようなビームとミサイルの攻撃がMk-Ⅱに向かい加えられる。
 クルーゼが艦隊を集結させこの空域を砲火点に設定させていたのだ。
 先程の発光弾は部隊の後退命令も兼ねていたのだろう。
 この空域にいたザフトのモビルスーツ部隊が左右に展開しつつ一斉に後退する。

 

≪アムロ大尉、これ以上はこっちがヤバい!!≫
「チッ・・・!!分かった、各員後退するぞ!!」

 

 第8艦隊も秩序を回復させておりここまでザフト艦隊の布陣を崩せば追撃はまず無い。
 弾薬・エネルギー共に底が見え始めている。タイムアップだ。
 アムロの声と共に部隊は一挙に空域を脱出する。

 

「いい、引き際だ。フッ・・・次が楽しみだな」
≪隊長、追撃なさいますか?≫
「無理だな、敵がバラバラに逃げていたのならそれも出来ただろうが」
≪それでは・・・≫
「ああ、これで幕だ。完全にとはいかなかったが我等の勝利でな。ザラ国防委員長も不満は言うまい」

 

 ――己のエゴのため・・・か。フッ、確かに使わせてもらうぞ、アムロ。

 

 クルーゼはボロボロになったシグーのコクピットで一人暗い笑みを浮かべ続けた。
 自らの望みの先を夢想しながら。

 
 

「ラウ・ル・クルーゼか・・・」

 

 あの状況ではクルーゼを討つのは困難であり退いたのは懸命な選択だったかもしれない。
 しかし、無理をしてでもここで倒すべき存在だったかもしれないとアムロは感じていた。

 

「昏い思念だった・・・何が奴を駆り立てているんだろうか」

 

 予感がある、再び相見えるであろうという予感が。
 そして、その時は死力を尽くさねばならぬほどに強靭になっているだろうと。

 

≪大尉、大丈夫ですか?≫
「ああ、問題ない。皆、よく頑張ったな」

 

 暗い影が過ぎる未来への不安は確かに存在する。
 だが、せめて今だけは生き残った喜びを仲間達と分かち合ってもいいだろう。
 アムロはそう思いながら帰艦していった。

 
 

 低軌道会戦において連合宇宙軍第8艦隊は致命的な打撃を受け敗退。
 これによって、宇宙における主導権はザフトがほぼ完全な形で確立。
 この勝利にプラント中が沸きかえり更なる勝利を貪欲に求めるようになっていった。
 そして、ナチュラルとコーディネイター、互いが互いの血を啜る戦いのステージは次の段階へと移行する。