ブリギッドに帰投したアムロ達を『主任』等クルーが出迎える。
「大尉、お疲れ様です。それにあなた達もご苦労様。見事な初陣だったわよ」
『主任』はウォーターボトルを手渡しながらアムロ、そしてソキウス等の生還を喜んだ。
彼らの実力を信じていない訳ではなかったがMk-Ⅱもソキウスも初の実戦投入だったのだ。
相応に不安に思うところもあったのだろう。
「はい、ありがとうございます」
イレブン達もソキウスとしての存在意義を示せた事に戦闘の疲労感以上の高揚を覚えていた。
彼らにとってナチュラルのために働ける事は生きる事の全てであり喜びなのだ。
「だが、これで戦いを甘く見ちゃあ困るぞ。本当に器量が問われるのはこれからだ」
アムロは先達として一応の釘を刺すのを忘れない。
今回、アムロの予想を上回る働きを彼らは見せたが、それで敵を、戦争を侮るような事があってはならないのだ。
特に基礎能力の高いコーディネイターにはその傾向が強い事もあった。
それをイレブン達も承知しているのだろう。彼らは頷き、アムロの言葉を受け止めた。
「大尉、Mk-Ⅱはどうでしたか?」
「良く仕上がっているとは思うよ。だが、反応がどうにもな・・・」
Mk-Ⅱはモビルスーツとして基本性能が高くトータルバランスに優れた機体を目指し製造され、その目的は、半年近くに及ぶ研究と試験の成果もありほぼ達成されたといってよいがアムロにとっては全力の出し切れない、物足りない機体でもあるのも事実だった。
もっとも、今の時点ではこれ以上は高望みというものではあったが。
「実戦データを採る事が出来ましたから、これからまた手を加えますよ」
「ああ、俺も基地に戻ったらチェックシートを出しておく」
アークエンジェルから得たデータ、そして今回の戦いで得られたものを含めて色々と見えてきたものは多い。
これはMk-ⅡのOSのアップデートに加え、パナマの量産機開発にもフィードバックされる事になる。
今の連合にとってモビルスーツという新兵器の運用にはデータの蓄積が最も重要なのだ。
「第8艦隊は、かなりやられたな」
「艦艇損傷率は七割を越え旗艦メネラオス撃沈。ハルバートン提督、ホフマン大佐は戦死されました」
「そうか、ホフマン大佐は・・・他になにかあったのか?」
アムロは『主任』の様子からこの悲報に続きがある事を察した。
「はい、ヘリオポリスからの避難民を乗せたシャトルが降下中ザフトに撃墜されました」
「・・・訂正の余地は無いのか?」
「ええ、シグナルの途絶・撃墜を多数の艦艇が確認しています」
「チッ・・・」
その事実はアムロの心に暗い影を投げかけた。
互いの生命を奪い合う戦争においてその様な悲劇は往々にしてあるのは経験も承知もしている。
だが、少なくともそれをありがちな事象と流せるほどアムロの感情は磨耗してはいない。
「――アークエンジェルは無事に降下出来たんだろう」
それでも、アムロは自らの感情を押し殺し次の報告を促す。
ザフトに対する憤りは禁じ得なかったが現状を把握する事を優先したのだ。
「降下は成功したようです。無事とは言い難いですが・・・」
『主任』はアークエンジェルの経緯をアムロに説明した。
降下を開始した直後、デュエル、バスターが先陣隊列を突破し迎撃のためにストライク、メビウス・ゼロが発進。
戦闘の最中、ストライクは避難民のシャトルの爆発にまき込まれ機体を大きく弾き出されてしまい独力でアークエンジェルに帰艦することが不可能となった。
結局は、アークエンジェルが艦を寄せる事でストライクを無事着艦させたものの当初の予定と異なりザフトの勢力圏に降りてしまったという事を。
「ストライクが発進した?パイロットは――いや・・・」
アムロは投げかけようとした質問を途中で封じ込めた。
現状、ストライクを乗りこなせる人物で該当するのは唯一人。
ヘリオポリスの少年、キラ・ヤマトだけなのだから。
――彼はアークエンジェルを降りなかったのか。
コロニー襲撃からなる逃避行、大気圏突入、敵勢力圏での孤立。
そして、新型モビルスーツと民間人パイロットという状況にアムロはかつてのホワイトベース時代の自分を重ねずにはおれなかった。
「アスラン、もう大丈夫なのですか?」
「ああ、ニコル。すまないな、心配を掛けて」
休憩室に入ってきたアスランにニコルは顔を向ける。
クルーゼにMk-Ⅱの情報を伝えた後、アスランはそのまま気を失ってしまったのだ。
アムロを相手にして九死に一生を得たものの疲労の極みにあったからには当然の成り行きである。
もっとも、コーディネイターとして生まれ持った回復力もありアスランはすでに消耗からほぼ立ち直っていた。
兵士の疲労、負傷に対する回復力の違いも今大戦でザフトが優位に戦えている一因といえる。
「イザーク達は無事に地球に降りたようです。さっき連絡がありました」
「・・・無事だったのか、よかった」
ニコルから仲間の無事を聞きアスランは少しだけ気が休まる思いがした。
デュエル、バスター共に単独での大気圏突入能力を有しているのは分かっていたが所詮はスペックデータ上の事であり実際に行っても確実に無事だという保証にはならないのだ。
アスランはイザーク達とはそれほど仲が良いという訳ではなかったがアカデミーの同期であり同じ部隊の仲間でもある。彼なりに心配していたのだ。
「地球に降りたのなら帰投は無理そうか?」
「ええ、しばらくはジブラルタル基地に留まることになりそうです」
「しかし・・・結局俺達は足付きと――ストライクの奪取も破壊も出来なかったな」
「アスラン・・・」
ニコルはその様子からアスランがストライクにこだわり過ぎている事を感じ取ってはいた。
もっとも、その理由も事情もアスランは決して口にしようとしないのだが。
「それは確かに残念ですけど、今回の任務は敵艦隊の撃滅ですし僕達は充分役割を果たせたと思います。
だから、アスランが気に病む必要はありませんよ」
「ニコル・・・ああ、そうだな」
自分を案じてくれているニコルをアスランはありがたく思った。
最近は特に心配の掛けっぱなしでニコルには申し訳ないと思う。
しかし、同時に自分の仲間達をキラが傷つけているという事実が彼の心に圧し掛かっている。
次に相対する事になった時、より成長しているであろうキラを果たして討つ事が自分に出来るのか。
出来なければ自分がキラに討たれる事になりかねない。
説得には失敗し戦場で遭遇すればもう戦うしかないというのにも拘らず未だに覚悟を定められない自身に対しアスランは怒りを覚えていた。
「でも、あの部隊はなんだったんでしょうね?」
ニコルの言う部隊とはもちろんアムロ達の事である。
最終局面で彼らが現れなければより完全な形での勝利が得られたはずなのだ。
「僕が相手をしたジンもかなり手強かったですが、あの新型のモビルスーツは・・・」
「アムロ・レイか。記録はもう見ただろう?」
「ええ、ストライクのパイロット以上と考えてよさそうですね。OSの開発も進んでいるようです」
検証の結果、機動性、火力共に高水準ではあったが他のGを圧倒する訳ではないと確認された。
その場合、問題となるのはパイロットの実力、OSの性能という事になるのだがアスランは幾度も記録を確認していくうちに戦闘機動の妙はパイロットによるものが大だと考えていた。
同時にストライクのパイロットがキラ――コーディネイターだと知っていたアスランは、それ故に、ナチュラルに対する認識を改めねばならないとも実感していた。
「機体を完全に使いこなしているんだろうな。俺の攻撃はろくに通用しなかった」
「クルーゼ隊長でも危なかったんですから生き残れただけでもよかったですよ」
「ああ、とにかく運が良かった。少し合点がいかないが・・・」
「どういうことですか?」
ニコルの問いにアスランは少し自信なさげに、
「なんでいうのかな。俺自身確証はないけど相手はモビルスーツを俺たち以上に知り尽くしていたような、そんな印象があるんだ」
「それは流石に考えすぎじゃあないですか?」
ニコルはアスランの突拍子の無い発言を内心で若干呆れながら否定した。
モビルスーツはプラントが開発した新しい概念の兵器だ。
経験値で言うならば当然コーディネイターが先行しているというのが疑いのない事実である。
「ああ、変な事を言っているのは分かってる。確かモビルアーマー乗りだったか?
その経験を活かしているとも考えたんだが、どうもそれで自分を納得させる事が出来ないんだ」
その辺の説明しづらい不整合がアスランの感じる違和感の原因であった。
実際にはこの一件に関してのアスランの洞察は真実に近いものだった。
良い様にペースに乗せられ仕舞いには恐怖に駆られてしまったという言い訳の入る余地のない敗北ではあったが、それは逆に正確な思考をアスランに与えていたのだ。
この後ザフトにおいてもアムロ・レイに対する様々な憶測が流れたものの結局は万人を納得させるだけの答えを見出せぬままに終わる事になる。
「ああ、分かったよ。それじゃあ細かい事はまた後で・・・」
アズラエルは低軌道会戦における一連のあらましを聞き終えるとディスプレイを切った。
情報というものは正確さと鮮度がモノをいう代物であり、そういう意味でアズラエルのもつ多くの肩書きは彼自身に有益に働いていた。
「いや、見事にやってくれたな・・・クククッ・・・ハハハハ」
アズラエルはこみ上げて来るものを抑えられず肩を震わせ笑みを漏らす。
――全てが都合にいいように転がった!!
彼にとって今回の"宇宙における戦い"の方は実に有意義な結果をもたらした。
アムロの活躍によるモビルスーツの有用性の証明。
ハルバートンの無様な失態、そして舞台からの退場。
これにより、軍、ロゴス双方の保守派によるモビルスーツ開発に対する雑音が消し去れる。
今まで以上にアスラエルも動きやすくなるだろう。
そして、反ブルーコスモスの命運も今となってはアズラエルの手中である。
この情勢ならば、対応次第で完全に瓦解にも追い込む事も可能なのだ。
もっとも、アズラエル自身はそれについては判断に迷うところではあったが。
――いや、本当にどうしたものかな・・やり様はいくらでもあるけど。
被害もかなり出ているし責任の所在を何処に持っていこうか・・・
アスラエルはディスプレイに反射する己の顔を見ながら今後の対応を模索する。
彼の認識において今回の戦いで失われた多くの人命はデータ上でマイナスとして扱われる数字でしかない。
意味を持つとすれば交渉や謀略の材料として扱う時くらいだ。
そもそも、戦争に対する視点がアムロとは決定的に異なるのである。
≪ウルサイゾ、ムルタ≫
「むっ・・・」
合成された機械的な声にアズラエルの思考は中断される。
横に目を向けるとこちらに向かい転がってくる緑の物体、ハロが見えた。
「君ね、良い事があったんだから少しは喜んでもバチは当たらないでしょう?」
≪調子ノルノハ、オマエの悪イクセ≫
図星を返されあっさりとアズラエルは言い負かされる。
今、部屋に自分しかいないのが幸いだった。
この様な光景、他人に見られては理事として、盟主としての沽券にかかわる。
――まあ、色々と助かってはいるんだけどね。
このアムロ手製のハロには健康管理など様々なモジュールが加えられており日常レベルの事柄に無頓着な所のあるアズラエルには中々に便利な存在だった。
若干、口が悪いのが玉に瑕なのだが。
「ハァ・・・全く、アムロ君もどんなプログラミングしたんだか・・・でも、確かに調子に乗るには早すぎたかな」
アスラエルは少し気分を覚ますとターミナルを起動させ現状を再確認する。
実のところ、アスラエルに都合が良い=戦況が優位というわけではなかった。
宇宙における戦いも現実としては敗北に終わっており、それ以上に深刻なのが地上の方だった。
低軌道会戦と前後してビクトリア基地陥落の報がもたらされたのでいたのである。
一ヶ月前のカオシュンに続きマスドライバーを有する拠点がまた一つ制圧されたのだ。
エイプリルフール・クライシスの未曾有の被害からも立ち直れないままに戦争の主導権を奪われ 、しかも、今の所ザフトに攻められっぱなしなのである。
連合内でもザフトにこのまま圧しきられるのではないかという懸念が徐々に信憑性を帯びてきていた。
――核施設、インフラをやられたのが大きかったな。
地上では今もなお深刻なエネルギー不足がよって経済・生産力が払底しており更にニュートロン・ジャマーの電波通信の阻害効果による被害も深刻である。
現在、ザフトとの戦争を継続しながらの復旧という困難極まりない命題を地球は突きつけられている。
当然、アスラエルも通信網の回復や電力の確保に精力的に動いており、その甲斐もありエネルギーについては太陽光発電の研究が徐々にではあるが実を結んできていた。
もっとも、現状はエイプリルフール・クライシス以前とは比べるべくも無いのだが。
――太平楽を決め込めているのは"あの国"くらいか?気に入らないな。
この世界規模の混乱の中、殆ど被害を出さずこの世の春を謳歌している国。
耳障りの良い理想を振りまき中立を決め込む日和見主義の忌々しい国。
連合内でのオーブ連合首長国に対する心象は日に日に悪くなる一方である。
今の所は構う暇がない事に加え、サハクが裏で連合に協力している事もあり表面化こそしていないものの、それが何時までも続くと考えているならば相応の報いを受ける事になるだろう。
「宇宙はしばらくは如何にもならないから、呼び戻そうか・・・」
そう呟くとアズラエルはターミナルを起動し新たな指示を送った。
ローレンツ・クレーター基地では帰還後すぐにパーティーが催されていた。
空戦隊の面々の中で幾人かはすでに酔いつぶれ固い床と接吻を交わしている。
「そ、それは・・・一体、幾らすると思って・・・」
そこではアムロが密かに蓄えていた酒が公約どおりに遠慮なく振舞われていたのだが一気飲みや飲み比べなど扱いがそこらの安酒と同じにされているのは、その価値を知る者にとってはかなり恐々とした光景であったろう。
「幾らなんでも遠慮がなさすぎです。今、もし敵に攻められたら完全にアウトですよ」
「いや、コレはコレで良いんじゃないか?」
少し顔を赤くしている背の低い女性整備士の横でアムロはグラスを手に持ちながら前方を見る。
そこでは、イレブンがパイロット達と飲み比べをしているのだが元々、薬物に対する耐性も付加されているソキウスである。
案の定、対戦者の方が先に参り床に突っ伏す事になった。
「あ~くそ、いい大人が坊主に四連敗かよ。次は俺だ!!」
「すいません。何度も言っていすのですが僕にお酒は・・・」
「挑戦すると言っているんだ。拒否権は無いぞ!!」
そう言われればイレブンとしては選択肢が無い。
結局はナチュラルが望む事と解釈してしまい勝負を継続する事になる。
「彼らなりの死者への弔い方なんだろう。帰還までは結構粛然としたものだったからな」
「・・・・・・・・・」
「張り詰めていれば何時かは切れる。だからこそ緩める時を持つ事を忘れてはいけないのだろう」
「アムロ大尉・・・だとすると大尉は失格じゃないですか?いつも働きすぎです」
思わぬ反撃にアムロは少し目を伏せると苦笑を浮かべ、
「そう言われると・・・言葉が出ないな」
「そうですよ。・・・それでなのですが大尉・・・その、もし大尉がよければ・・・」
「――アムロ少佐」
パーティー会場と化していた部屋に『主任』が入りアムロを呼ぶ。
『主任』は振り向いたアムロの後ろで「また、ダメだった・・・」と呟きながら泣きそうな顔をする彼女を見て、
「もしかして、お邪魔でしたか・・・?」
「いや、別に・・・少佐だって?」
「はい、通達がありました。アムロ大尉は少佐に、あの子達も曹長に昇進しました」
「俺が佐官・・・か。なんだか慣れないな」
元の世界ではずっと大尉だったのだ。アムロの言葉は当然である。
戦闘にせよ、指揮にせよ、人殺しが上手いから評価されるというのもよくよく考えれば酷い話だが、だからといって、つき帰すほど無欲にもなれないのでここは素直に受け取っておく事にした。
「それに合わせて地球への召還命令が来ています。
ローレンツ・クレーター基地の人員、モビルスーツを含めた機材等もかなり動くみたいですね」
「宇宙は出詰まり、それに地球も厳しいのだろうな。・・・スケジュールは?」
「すでに組んでいます。なにやら今まで以上に忙しくなりそうですね」
そう言いながら『主任』は空のグラスを手に取る。
この辺の機微を心得ているところは流石と言うべきだろう。
「ああ、全くだな。精々休めるうちに休んでおく事にしようか」
アムロはボトルを持つと琥珀色の液体をグラスに注いだ。
整備班主任コジロー・マードックが毒づきながらストライクのコクピットから空のウェット・カードンやら容器やらを投げ捨てているのをムウとマリューは複雑な心情を交えながら見ていた。
「坊主、コクピットで寝泊り・・・か。大分重症だな」
「でも、何時からそんな・・・」
「地球に降りてから・・・だろうな。それまでは変な様子は無かったしな」
地球降下後のキラの戦いはムウが見ても今までとは違っていた。
抜き身の刃の様な鋭さとそして危うさを感じさせるものだった。
今にして思えばあれは歪み始めたキラの心象そのものだったとムウは認識している。
「赤毛のお嬢様ともなんだかややこしい事になっているし・・・何がどうなってこうなっちまったのやら」
ムウはそう言うと一息を吐いた。
ただでさえ良くない状況だというのに加えてコレだ。溜め息の一つも吐きたくなる。
「少佐、それでキラ君とは大丈夫なんですか?」
「ああ、それは――」
タシルの街が焼かれた夜の事である。
一旦マリュー達から離れ夜風に当たりながら辺りを散策していたムウの目端にアークエンジェルの方に向かう金髪の少女の姿が目に入った。
――あれは確か・・・カガリ・ユラだったか?勝利の女神様とやらの。
少し考えるとムウはカガリの後を付ける事にした。
彼女はアークエンジェルやストライクについて知りすぎている風であり正体が不明である事も気になっていたのだ。
もっとも、ボロボロと断片的な情報を零してくれるうえにお目付け役までいることからかなりの立場の人間であるのだろうと当たりをつけてはいるが。
そうして歩いていくうちにアークエンジェルの傍に着いたがカガリはじっとアークエンジェルの巨体を仰ぐばかりだ。
――別にどうという事も無いか?やれやれ・・・
と、ムウがカガリに声をかけようとした時、急に別の声が前方から聞こえてきた。
「――係無くないわよ」
――これは、赤毛のお嬢ちゃんの声か・・・?
「なっ、おまっムグッ・・・!!」
後ろから近付いてきたムウに気付き怒鳴ろうとしたカガリを口に手を立てて封じる。
何を聞いたのかは知らないがカガリの顔は若干赤くなっていた。
非難がましい視線を無視し、前方を見るとキラ、フレイ、サイがなにやら揉めているのが見てとれた。
――普通じゃない感じだな。何だ?
剣呑な雰囲気を察したムウがそのまま仲裁に出ようとした時、
「グ・・・キラァ!!」
サイが突如激昂しそのままキラに掴みかかろうとしする。
しかし、キラはすぐさま振り向くとその腕を容易く捻り上げてしまう。
互いに訓練は受けてはいないにしても元々の基礎能力がまるで違うのだ。
この結果は当然のものといえる。
「やめてよね・・・本気で喧嘩したらサイが僕にかなうはずないだろう」
傲慢な言葉を告げるとキラはそのままサイを地面に投げ捨てる。
キラはそれを一瞥するとサイに背を向けて、
「フレイは・・・優しかったんだ・・・」
続けて発せられたキラの言葉でムウにも大体の事情が飲み込めた。
情事のもつれより更に性質の悪い事が起きている事も含めてだ。
――そういう・・・事かよ!!
ムウはそのままゆっくりとした足取りで前に出る。
「僕がどんな思いで戦ってきたか・・・誰も気にもしないくせにっ!!」
「いや~、参った、参った」
「えっ・・・!?」
「フラガ・・・少佐?」
突然の闖入者の登場にその場にいた全員の視線が向けられるが当のムウはそれを気にする風でもなく徐々にその場に近付いてくる。
「最近、ろくでもない事が続いてな・・・アークエンジェルの状況はこんなだし、俺自身、見たくもないモノを見ちまうは、聞いちまうは・・・だがな・・・」
そこで、ムウの纏う雰囲気が一変する。いつもの気さくで軽い男の姿はそこには無かった。
「今日のは――極め付けだぜ!!」
「ぐぁ・・・っ!!」
ムウの拳が正確にキラの顔面に突き刺さり、キラはそのまま砂の地面に叩きつけられた。