STSCE_第01話

Last-modified: 2008-02-29 (金) 23:09:03

街は、いつもと変わらない様子を持っている。
それこそが、街と言う単位がそれである所以であるのだ。
そんな、宇宙に浮かんだ小さな人工の星の上にある街に変化が訪れるとき、ここに住む何人もの人間が宇宙に、そして地球に、その歩みを進める。
ゆっくり、ゆっくりと……。

 

「さっきの、そんなに好みだったのか?」
シンは隣歩く少年に聞かれ、戸惑った。
「いきなり何言ってるんだよ?」
「だって、あそこまで動揺するなんて珍しいだろ?お前さ」
「そうか?」
「そうだよ。
 で、どうなんだよ?」
「どうって言われても、確かに結構綺麗だったけど……。」
目の前の人間が何を意図して言っているかは分かったが、正直‘そういう’考えに及ぶ事はなかった。
「うっわ、つまんねぇ反応」
「悪かったな」

シンは少々俗な話題が苦手ではあるが、会話だけなら歳相応な二人。
しかし、職業は‘軍人’と、あまり良い響きのものではない。
そんな二人は買出しを終え、居るべき場所に戻っている途中少女にぶつかった。
正確にはぶつかったのはシンで、悪友からは見事『ラッキースケベ』なんて称号を頂いた。
やがて『運命の再会』とも言える出会いを果たす二人の第一接触は、そんな程度のものだった。

 

その運命の片割れの少女も、軍人だった。
彼女は仲間達と合流しその目的の達成のために動き始めた。
言うなればそれは、『ガンダム強奪』。

行動はちょうどシンが持ち場に戻ったときに起こる。
聞こえてきたのは、戦いの鐘。
目に見えるは、戦禍の炎。
感じるは、争いの風。
そしてシンは、軍人としての出撃を余儀無くされる。

緑のMS、青いMS、そして漆黒のMS。
立ち上がった瞬間に灰色だった3機にそれぞれの色が付く。
それらが、ザフトを襲う。
「ステラ、お前は左」
「わかった」
少年2人とステラと呼ばれた少女1人が動かしているそれは、ザフトのもので、もっと言えば、その場にあった機体である。
順調に事を、お世辞にも穏便とは言えないが、進ませた彼らの前に、周りとは一画をなすパイロットがあらわれる。

「ねぇ、あれ。
 さすがに演習じゃないよね?」
それを見ていた女が、隣で事を見ていた、同じく女に問いかける。
「ミネルバに戻る?
 あそこなら、あたしたちの機体もあるんだし」
「そうだね。
 せめて、非難の手伝いはしなくちゃ」
二人の女性は、彼女らの旗艦であり所属艦であるミネルバに戻る事にする。
とはいえ、今日付けで編入されたばかりなので、認識的には『自分の機体が搬送されている』程度のものであったが。
少女等の名はスバルとティアナ。
彼女らもまた、翻弄されるべき運命を持っていた。

 

「こんな所で、君を死なせるわけにいくか!!」
奮闘のアスラン・ザラ。 基、もしくは注意書きとしてアレックス・ディノと呼ばれてはいるが。
最新鋭の機体相手だが、慣れてないのはお互い様とばかりに、たまたま落ちてた次世代量産型MSに乗り込んだのだ。
(イージスと同じくらいの出力がある。
 こんな機体を量産する気なのか?)
制動をかけつつ体当たりで、黒いMSを怯ませ、そのまま縦から斧状の武器を出し、青い機体を圧倒する。
もともとMSの操縦に自信があったアスランだが、ここまでやれたのは、単にMSの性能のお陰だっただろう。
(そうでなければ、いや、あっても、3対1は辛すぎる)
ビームライフルを縦で防ぎ、再度青い機体に向かおうとしたアスランだが、ついにその右腕を焼かれてしまう。
「カガリ!!」
衝撃で吹き飛ばされ、結局オーブの姫で同乗していたカガリ・ユラ・アスハに怪我を負わせてしまう。
なおも迫り来る敵影。
しかし、その接近は突如の爆撃に阻まれる。
「何だ?戦闘機!?」
アスランに迫っていた緑の機体のパイロットは、その機体に驚きを隠せない。
「変形?
 合体するのか!?」
空中を旋回しながら、遅れてやってきた足や胴体と接合した。
「何でこんな事……。
 また戦争がしたいのか、あんた達は!!」
怒りの咆哮は、新たなる戦いの狼煙となる。
その皮肉を背負い、少年と『ガンダム』は地を踏みしめた。
大剣を二本接合させ、緑の機体に向けながら。

「なんだ、あれ?」
「あんな機体の情報はないぞ?」
青い機体と緑の機体、それぞれをアビスとカオスとシンたちは呼んでいたのだが、それらのパイロットは突然のことに驚く。
しかしもう一人、ガイアのパイロットであるステラは臆さず、怯まず。
「てやぁぁぁ!!」
二人の止めるまもなく、止めても無駄だろうが、突っ込んでいた。
ビームサーベルを引き抜き、そのまま切り上げようとする。
しかし、シン自身も勿論対応の出来る状態だったため、その剣戟は同じく剣に阻まれ、通らない。
大きな音が響き渡り、3人の男達を触発させる。
「おらぁッ!」
「てやぁッ!!」
奪われた機体、アビスとカオスが同じくシンに迫る。
量産機よりも先ずは危険度の高そうなインパルスを選んだのだろうが、それは全く無駄な行動となる。
新たに現れた機影とともに、強奪犯側の機体にビームライフルが数発飛んできたのだ。
「何だ、あれ!?」
驚くアビスのパイロット。
その目線の先に居るのは一機のザク。
それと同じく、シンも驚いていた。
(フライトユニットのザク?
 あんな機体、ここにあったのか?)

元々新型4機も秘密裏だったとはいえ、シンはだからこそアーモリーワンにあるMSの事ぐらい把握しているつもりだった。
しかし、フライトユニット自体まだ試験段階であるはずなので、このアーモリーワンにあるとは思わなかった。
そのザクは二丁拳銃を強奪犯の機体に向けて、シンに「援護します」と、通信をしてきた。
シンと同年代くらいの女の声だった。
(もしかして、今日ミネルバに来たって人か?)
シンも噂だけヨウランたちから聞いていたので、なんとなくそう思った。
「助かる。
 そこのザクはもう無理みたいだったから」
相手にとっては慣れぬ機体とはいえ、新型である以上3対1は避けたかった。
「こいつっ!
 取り敢えずお前だけでも!!」
「カオス!?」
剣を剣で弾くが、急なため制動が追いつかない。
そしてカオスの利点の一つである特殊な形状の接近武器で、連撃をかけられそうになった。
しかし、またもそれは阻まれる。
今度は、機影を確認するよりも早く眼前に現れた機体のパンチによって、だ。
「油断しすぎだよ?」
突如危地を打破した機体から、先ほどと同じように女の声がする。
その機体は、情報だけならシンも知ってきたが、先ほどのフライトユニット以上にシンを驚かせる事になる。
(Rキャリバー!?
 陸戦専用で高コストなのが祟って、開発中止になったんじゃなかったのか?)
そのように聞かされていた上に、ここは宇宙の一部分である。
ありがたいながらも違和感を禁じえない。
「遅いわよ、スバル」
「仕方ないじゃん。
 時間かかるの、ティアも知ってるでしょ?」
「だから手伝ったじゃない!!」
そのまま謎の機体を持ってきた二人は、仲間内に丸聞こえの通信で内輪もめを始めた。
その間に敵は作戦を変更したのか、目的を思い出したのか、戦場となったこの場所を去ろうとしていた。
(って、これはまずいだろ)と、思い直し、「あんたたち!!」と、通信を入れる。
「「何?」」見事なシンクロで返って来た。
「悪いけど手伝ってくれるか?
 あいつらをこのまま逃がしたら、面倒な事になりかねない」
正直シンは要請をする気は無かったが、口を挟んだ時点で片方の語気が少々荒かったため、多少下手に出た。
「わかったわ。
 あたしはティアナ・ランスター。 今日からミネルバの所属になったパイロットよ」
やっぱりか、と思いながら、軽く礼を言う。
「あたしも行く!!
 えっと、スバル・ナカジマ」
「あんたもミネルバに?」
「うん、よろしくね?」
「あ、あぁ、よろしく」
相手は撤退を始めているというのに、呑気に挨拶をして、自分も名乗った。
それくらいに、後発だった少女の空気は掴み辛く感じた。

 

「でも、どうやって出る気なのかな?」
上に向かうだけの3機を見て、スバルが呟いた。
「どうやってって、端っこから出る気なんじゃない?」
「ここ宇宙の真ん中だよ?
 非常時だし、外接部分も閉じてるよ」
相変わらず話を続ける二人だが、シンもそれは気になっていた。
よもや、考え無しにアーモリーワンの天井に触れようとしているわけではあるまいと。
そして2度ほどスバルたちが意見を交換した瞬間、シンはハッと気がついた。
「やられる」と。
そのままスバルたちが疑問符を浮かべてる間に、シンはミネルバへの回線を開いた。
「シン、どうしたの?」
メイリンの声が返ってくる。
その喋り方、直しとけよとも言いたかったが、今はそれどころじゃない。
「艦長!!外に戦艦は!?」
「ないわよ。それがどうかしたの?」
シンのあわてた様子に、艦長のタリアが直接返答を出した。
「なら、探してください。
 あいつらをここに運んだ奴らが居ないとしても、MSを持って帰るための艦はあると思います。
 それに……。」
「それに、なに?
 追いかけもせず地に足つけて上のMSを眺めてる理由が、それなんでしょ?」
普段なら嫌悪感さえ抱きかねない言い方だったが、予想を上司に進言する決心を付かせるには十分だった。
「あ、はい。
 多分あいつら、逃げるために外部から高出力の兵器で攻撃してくると思うんです」
シンの言葉に、ブリッジが一瞬静まった。
そして、タリアはその中で一番早く考えを纏めた。
「わかったわ。
 なら、スバルはその場で待機、シンとティアナはそのまま追ってもらえる?」
「分かりましたが、エネルギーだけ補給を」
インパルスはエネルギーだけなら座標をあわせれば一瞬で補給できるシステムがあるのだ。
だから、気兼ねなく補給を行えた。
「デュートリオンね?
 メイリン、頼んだわよ」
「あ、はい」
メイリンが返事をし、実戦では始めて使うシステムの起動を開始した。

その間に、タリアは詳しい命令をすることにした。
「それから、レイもそちらに向かわせるわ。
 先行しても良いけど、出過ぎないようにね?」
こちらはシンに向けられたもので、了解したし、そのつもりだった。
詳細な情報を引き出す事が出来ても、相手は新型。
それに、シンの考えは的中することとなる。
ちょうど補給を済ませた瞬間、爆発音とともに、アーモリーワンの天井が、宇宙になったのだ。
「シン、やっぱり……。」
「行きます」
メイリンがシンの予感が的中した事を言おうとした言葉を遮り、シンはスラスターを吹かせた。
ちょうどデュートリオンの照射が済んだところだった。
「シン、待ちなさい。
 宇宙にそのシルエットじゃ……。」
「出力だけなら補えます。
 今あいつらを逃がすわけには行きません」
接近戦重視といっても、ビームライフルも装備している。
見極めさえ足りれば、後れを取る事はないと踏んでいた。
「あたしも追います。
 フライトタイプでも、宇宙で活動できますから!!」
シンが天井まで半分ほど進んだところで、ティアナもザクを動かし始めた。
そして上昇を始めると、白いザクが追いついてきた。
先ほどティアナ達がロッカーで見かけた機体だ。
「レイ・ザ・バレルだ。 これより援護を開始する」
「ティアナ・ランスターです。 お願いします」
二人は合流後、強奪犯とシンを追って宇宙に出た。
それをスバルが視認すると、「あなたも戻って。 ミネルバを発進させるわ」と、タリアから通信が入った。
スバルは返事をし、一度だけ穴の開いた空を見上げ、これから何が起こるのか全くわからない現状を、それでも少しだけ、見据えていた。

 
 

次回予告

 

奪われた3機の新型。
シンは、それ以外に何か大切なものを奪われた気がしていた。

さらに、戦闘時に現れた、シンの記憶と齟齬のあるモビルスーツ。
その秘密を知るよりも先に、彼らは新たなる戦乱に巻き込まれる。

そして、帰艦を果たしたシンは、ある女性に出会うことになる。

 

NEXT 「さすが、奇麗事はアスハのお家芸だな!!」