第二話『喉元のやいば』
先日の防空戦以来、エルジアとは何の小競り合いもなく過ごしていた俺たちだが、
何もないことが逆に不安をあおる。
いきなりの反撃を受けたのに面食らったのか、より強力な攻撃の準備をしているのか。
破壊された早期警戒レーダーの穴はAWACSを飛ばせることで埋めているが、
幸いにも燃料の無駄使いに終わっていた。
俺たちは先ほどの考えが後者であるとふんで、訓練を続けていた。
そして、2004年10月3日、俺たちの予測は見事に的中した。
エルジア軍がリグリー飛行場の爆撃機を増強したという情報がもたらされたのだ。
もしこれらの爆撃機が飛んだら最後、ISAFの敗北が決定されてしまう。
これらを防ぐためには――
「飛ぶ前に叩くことだよな」
「やっぱそうだよな、ハイネ」
――ということになる。そして上層部も同じ考えをしていて、俺たちに攻撃命令が出されたのだ。
「総司令部からの命令を伝達する。内容は『敵飛行場を攻撃し、爆撃機隊を殲滅せよ』。
作戦名は『ハーヴェスト』、つまり収穫期だ。上は俺たちに爆撃機の収穫に行けといいたいらしいな。
決行日時は10月5日1329時。質問はあるか?」
隊長が命令を俺たちに伝える。内容は大体把握できたが――
「ハイ、隊長」
「なんだ、シン」
「俺たちの装備はどうなるんですか?」
「俺たちは前回と同じく攻撃隊の護衛になる。オメガやメビウスは爆弾を満載しているだろうから、
戦闘機の相手は俺たちになる。だから前回と同じだろう」
「了解です」
「敵部隊の規模は?」
ハイネが質問する
「おそらく1個飛行隊ぐらいだという見通しだ。
俺たちだけじゃなくレイピアもいるから多すぎるということはない」
「分かりました」
「それに加えて俺たちにとって幸いだったことは対空火器が少ないことだ。
対空砲が少量配備されてるだけらしい。これはオメガが潰す手筈になっている」
こうして事前の打ち合わせを終了し、当日は各部隊や指令と入念にブリーフィング。
俺たちは攻撃隊のF-4と共にアレンフォートを飛び立った。
「スカイアイより各機へ。目標まであと10マイル。送電線に沿って飛べ。間もなく見えるはずだ」
スカイアイより連絡が入る。隊長からも通信が入る。
「もうすぐ来る頃だ。基地から上がってくるやつよりもCAPに注意しろ」
「ヴァイパー2、了解」
「ヴァイパー3、了解」
他にも了解のコール。攻撃隊と共に高度を上げる。
これで敵も気付くはずだ。
「スカイアイよりレイピアへ。方位345、高度4500、速度450で向かってくる敵機を確認。
ただちにこれらを迎撃せよ」
レイピア隊は増速、増槽を切り離し、敵機に向かっていく。
俺たちは攻撃隊と共に飛行する。
「スカイアイよりヴァイパー。基地方向より向かってくる敵機を確認。高度3500、速度380。
数は4。基地から上がったやつだ。迎撃しろ」
「ヴァイパー1、了解」
俺たちも増槽を切り離し、敵機に向かう。
敵機を視認した。
「ヴァイパー3、タリホー。1時の方向、敵機です!」
「了解。ヴァイパー1、エンゲージ。・・・フォックス2」
「ヴァイパー6、エンゲージ!」
敵の編隊とドッグファイトに入る。その隙に攻撃隊も増速、上がる前の機体と対空砲火を担当する機が先発する。
「オメガ11、投下!」
「オメガ4、投下!」
地上で爆発が起こる。うまく破壊できたようだ。
うまく滑走路にたどりつけた機体も、離陸途中に撃墜された。
「メビウス1、スプラッシュ!」
「ヴァイパー7、フォックス2!・・・スプラッシュ!」
残り2機。俺は敵機の真後ろについた。機銃を発射する。
エンジンに命中した機体は爆散した。
「ヴァイパー3、スプラッシュ!」
「ヴァイパー6、フォックス2!」
ハイネの放ったミサイルは敵の左翼に命中。
きりもみしながら落下していく。
この間に攻撃隊は爆撃機の攻撃に移っていた。
すでに半分以上が壊滅している。
一段落した――そう思ったとき、
「敵機だ!ヴァイパー3、シン、後ろだ!」
ハイネの声を聞いた瞬間、俺はすぐにラダーを蹴飛ばした。
機銃を撃ちながら敵機が横を抜けていく。
A-10だ。その機首に備えられた30ミリ機関砲はタイガーⅡの装甲など濡れたティッシュのように
引き裂いてしまうだろう。
さらによく見ると、情報によるエルジア軍正式カラーとは違っていた。
どうやら手練れらしい。
俺はアフターバーナーに点火し、追尾に入る。
「ヴァイパー3、こちらヴァイパー1。バックアップは任せろ」
「了解。頼みます」
隊長がバックアップとは心強い。
A-10は攻撃機だが低空での旋回能力は馬鹿にならない。
敵は俺たちを低空に引き込もうとしていた。その手には乗らない。
「ヴァイパー3、フォックス2!」
ミサイルを発射。敵は今まで旋回していた方向と逆に急旋回。
ミサイルを避ける。しかし隙ができた。今だ!
「フォックス2!」
今度のミサイルは左のエンジンに直撃。
パイロットは脱出した。
「よくやった、ヴァイパー3」
隊長からお褒めの言葉。
この戦いの間に敵爆撃機は全滅していた。
「こちらオメガ1。任務完了、帰還する」
帰還した後はいつものドンちゃん騒ぎ。
その間に隊長に声をかけられた。左頬をはしる傷痕、少し凄みがある顔を優しくゆがめながら今日の評価をしてくれた。
「あそこで敵の誘いに乗らなかったのはいい判断だ。だが最初のミサイルは角度が急すぎた。
もう少し隙を探せば、一発で落とせたはずだ。戦場では一回のミスが命取りになる。 今後は気をつけろ」
「ハイ、隊長!」
そんな中、酔っ払った人間――レイピア1が割り込んできた。
「よう、スカーフェイス。今日は3機やったんだって?お前もこっちきて飲めや」
「スカーフェイス?」
「俺の愛称だ。まったく・・・・」
悪態をつきながらも苦笑い、酔っ払っている仲間に入る。
今度はハイネがこっちに来た。
「シン、少し話をしないか?」
「いいけど・・・・」
外に出た俺たち。ハイネが話し始める。
「今日、ごめんな?俺がバックアップにつけてやればよかったんだが・・・」
「平気だよ。ハイネがあそこで声かけてくれなきゃ、俺、きっと死んでた」
俺は正直な感想を話す。
「俺も隊長にまだまだ甘いっていわれてさ。お互いに反省点があるわけだ」
「ああ、これからもっと強くなってやろうぜ!」
「あたりまえだ!」
俺たちはもっと強くなる約束をした。