トールへ
「う…トール…く…あぁ…」
またトールの夢を見た。目覚めた私は頬が涙で濡れていることに気づく。こんな日は決まってテンションが低い。
トールが死んで随分たつ。キラ達のお陰もあって私はだいぶ元気を取り戻した。
それでも…写真の中のトールは笑ってくれない…私は今も前に進めずにいるのだろうか。
私は公園へ出かけた。何となく家にはいたくなかった。しかし、どうやら公園も間違いだったようだ。
仲のよいカップルが楽しそうにしている。私は最近あんな顔できているだろうか。
やっぱり…帰ろう…。そう思っていると後ろから声をかけられた。
「ほっほーい、ミリィお姉さ~ん!」
近所のしんのすけ君だった。
「どしたの?そんなミンチな顔して。お元気ないぞぉ~」
「それは私が太ったっていいたのかな? それともセンチのことかな~?」
「おー、センチ。そうとも言う~ …オラね、今からご飯ご馳走してもらいに行くんだぞ。お姉さんもどう~?」
「え…??でも、私が行ってもしょうがないんじゃ?」
「だいじょぶだいじょぶ!さ、行くぞぉ~!」
結局、私はしんちゃんに手を引かれるままお店に連れてかれた。
そこは…『あいつ』の店だった…
「いらっしゃい!お、来たかしんのすけ!…と、ミリアリア…」
「よ!新作炒飯もらいに来たぞぉ~ お姉さんの分もいいよね?」
「……ああ!もちろんだ。待ってろ、すぐに食わせてやるからよ!」
なんでもしんちゃんはあいつの新作ができる度に試食しているらしい。
別にあいつは嫌いではないけど…今日はみたいな日は会いたくなかった…
やっぱり私は子供なんだろうか…
「お待ち!!さぁ、食え!食いまくってグレイト!と言ってくれよ?」
「ほ~い、いただきま~す!…おお~、美味いゾ!また腕を上げたね!」
「おお、そうか!…ミリアリアも…食べてみてくれないか?」
催促され、いただきますと言ってスプーンを口に持っていった。
それはトールが死んだとき、こいつなりの慰めで作ってくれた炒飯と同じ味に感じた。
やっぱり…そうそう変われる物じゃないのだろうか。
でも…何かどこか違う…そんな感じがした。
「この前より少しだけど、美味くなってるぞぉ~。でも、一気においしくできないのぉ~?」
「はは、しんのすけ。焦る事はないんだ。少しずつ、少しずつ前に進んでいけばいいんだぜ? 一気に変わる必要はないんだ…そうだよな?ミリアリア…」
あいつはきっと自分の炒飯のことではなく、私のことを言っているのだろう…生意気だ、ディアッカの癖に。
でも…でも…私は涙を流していた。
「お姉さんどうしたの? 炒飯美味しくて感動してるの~?」
「違うよ…塩やらコショウやらがききすぎてしょっぱいのよ…」
「そう?お姉さんは子供だなぁ~。この辛さが大人の味なんだぞぉ~?」
子供…やっぱり私は子供だったんだ。
トールの死を受け入れられなくて、前に進めないで…
でも私は前に進む。少しずつ、少しずつ…
「ディアッカ…」
「な…なんだよ?」
私は笑った。昔のように…
「炒飯おかわり!」
「おお~。オラもおかわり~!」
………
……
…
あの日からしばらくたった。
私は今、春日部にいるプロのカメラマンのもとで勉強している。
元々好きだったし、それに私は世界の美しさを撮ってみたかった。
あの日からトールの夢は見ない。
それでも私は春日部を、この世界を自分の足で歩いて、カメラにおさめていく。そして改めて思う。
私はこの世界が…みんなが好きだ。
いちおう…みんなの中にディアッカも入れといてあげよう…
今日も私はカメラを持って世界を見に行く。
ふとトールの写真を見る。
「トール…私は元気でやってるよ!!」
写真の中のトールが久しぶりに笑ってくれた気がした。
―FIN―
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