「みんな、準備はいいね?」
ストームレイダーの中で、なのははフォワード陣を見渡しは、何か不備は無いか見渡す。
今日は、かねてより予定されている地上本部での意見陳列会。
今日は、その警備が主な任務となっている。
既に、はやて、フェイト、シグナム、ヴィータの4名は先に現地へ向かっている。
フェイトたちは護衛のため、ハヤテは六株隊長として陳列会に参加するため。
しかし、それには一人足りなかった。
「それでは、六課隊舎の護衛、よろしくお願いします。ジュール隊長」
「了解した」
ストームレイダーの外にはレイ、そして本来ならばザフトに所属しているジュール隊隊長、イザーク・ジュールが立っていた。
プラント議長、ギルバート・デュランダルは、レイのつてにより、六課と地上本部にザフトを派遣を行ったのだ。
その事を本局の方は快く承諾したが、地上の方は一時はそれを拒んだ。
しかし、陳列会の重要性。
そして、確実にジェイル・スカリエッティが動くとしつこくザフト、本局が追求したため地上の方もしぶしぶその案を受け入れることとなった。
「それじゃあ、私たちもそろそろ…『なのはママ』……え?」
今にもストームレイダーが飛び立とうする瞬間、ヴィヴィオの姿が見えたなのはは、「ちょとまってて」といいつけ、すぐさまヴィヴィオの方へと向かう。
ヴィヴィオはいつものウサギのぬいぐるみを持って、心配そうになのはを見ていた。
「ごめんなさい、どうしても最後にママに会いたいってきかなくて」
アイナから事情を聞き、しょうがないなあ、となのははヴィヴィオの頬に触れる。
「ママ……」
「心配ないよ。仕事が終わればすぐに戻って来るから、ヴィヴィオはちゃんとお留守番しててね」
「本当?」
「うん。ちゃんとお留守番できたら、大好きなキャラメルミルクを作ってあげる」
そういうと、なのははヴィヴィオの頭を優しくなで、言ってくるね、と最後に行ってストームレイダーへと戻っていく。
しかし、ヴィヴィオはまだ不安な表情を浮かべたまま、ただそれを見送る事しか出来なかった。
「お前たち、準備は出来ているか?」
スカリエッティのラボで、今この場にいる中では一番上にあたる三女、トーレは妹達を見る。
「問題ありません、トーレ」
「いつでもいいっすよ~~」
「こちらも問題ありません、トーレお姉さま」
「・・・こっちもです」
今日の任務は、あと3時間ほどで管理局地上本部で行われる意見陳列会を急襲し、自分達の存在をアピールすること。
そして、ある特定の人物の拉致が目的だ。
独自任務を行っている2番目を除けば、全てのナンバーズが参戦し、ガジェットもこれまでに見ない大群を用意。
さらには、ゼスト、アズラエル達も協力するというかなり大規模な作戦になる。
そのためか、妹達も俄然気合が入っているように見える。
だが……
「だけど、あいつを信用して本当にいいんッスかぁ?あたし、あいつ嫌いなんッスけど……」
ウェンディは、珍しく不快な表情を浮かべながら、ライディングボードを見る。
あいつとは、おそらくムルタ・アズラエルのことだろう。
ナンバーズの中でも飛びぬけて明るい彼女がこのような顔をするのだ。
よほど彼のことが嫌いなんだろう。
「しかたあるまい、彼は私たちに協力してくれているし、資金面でも助けられている。あまりその事を言うな」
「そりゃあ、そうッスけど……」
確かに、彼の資金面での協力が無ければ、ここまで順調に準備は出来なかっただろう。
そういう面では、確かに彼には助けられているといえる。
ただし、腑に落ちない点もいくつかある。
別に、彼はドクターとの昔からの知り合いではない。
なのに、なぜ彼はこれほど協力してくれるのか。
おそらくはガジェットや自分達戦闘機人の技術あたりが思いつく大体の理由だが、どうもそれだけでは無いようにも思える。
しかし、今はそんな事を考えているときでは無い。
「今はそんなことは忘れておけ。それが出来なければ、そのうやむやとノーヴェを倒された怒りをまとめてを管理局にぶつけてやればいい」
「八つ当たりっすか……了解ッス」
トーレの言葉に納得したのか、ウェンディは元気を取りもどしたかのように、ライディングボードの整備をおこなっている。
とりあえず、彼女はあれでいいだろう。
(まったく、こういうのは苦手なんだがな……)
意外といい加減なところがある彼女は、周囲全体に気を配るなどといった細かいことが苦手である。
本来、このような役目は主にチンクやセインが担当していたが、二人は先行組なのでここにはいない。
さらにいえば、この場にいる者で自分が一番の年長者。
一応は年長者らしく振舞うことも必要ではある。
さて、次の問題は……
「オットー、少しいいか?」
「え?」
さっきから、少々ボーっとしているオットーを呼び出す。
この作戦で、一番の不安要素は彼女だ。
とりあえずは、彼女の決意というものを聞かなければいけない。
「チンクから話は聞いている……オットー、お前は戦えるのか?」
「え?」
一瞬、オットーは彼女の言っていることが理解できなかったが、少し考えて、それが彼のことだと気付く。
あの時、見捨ててもおかしくないのに、敵である自分を助けてくれた管理局員。
おそらく、あの機動六課も陳列会の警備に参加しているはず。
という事は、彼とも一戦交えるということにある。
「もう一度言う。お前は、自分を助けた、あの局員と戦えることが出来るのか?」
「それは……」
正直に言ってしまえば、今でも迷っている状態だ。
いくら助けてくれても彼は局員で、戦うべき敵なのだ。
自分を助けたのも、あわよくば自分を捕虜とするためなのだと自分に言い聞かせる。
向こうもそう思っていたはずだ。
だけど、心の奥では本当に闘っていいのか、と考えてしまう。
そんな二つの思いが、今のオットーを悩ませていた。
「問題ありません、トーレお姉さま」
そこに、以外な人物がこの言葉を返した。
その人物、ディードは相変わらず表情を変えないまま、二人を見る。
「どういうことだ?ディード」
「あの局員は、私が相手をします」
「え?」
ディードの予想外の言葉に、珍しく驚きの表所を浮かべて彼女を見るオットー。
自分とディードは常にツーマンセルで行動している。
今回も二人での行動だ。
オットーが彼と戦うという事は、彼女もまた彼と戦うということだ。
「オットー」
「え……」
「あなたの敵は、私の敵だから」
そういうと、ディードはすたすたとその場から離れる。
それには、少し暗いものが含まれているような気がした。
オットーは、ただ黙って彼女を見る。
「ディード、一体どうしたんッスか?」
「さあ」
ウェンディたちも、どこか怒っているようなディードに、少し唖然となる。
そんなディードを、トーレは黙って見つめている。
(やれやれ、どうしたものか……)
ディードは、つかつかと少々不機嫌そうに通路を歩いている。
どうも、数日前から不機嫌になっていることを、ディードは自覚している。
それはオットーの様子がおかしくなってからだ。
最初はおかしいと思うたびにどうしたの?と心配していたが、それすらも聞いていないということも多い。
最近は、ただ上の空のオットーを見ているだけだった。
それからは、ただ不安になるばかりだったディード。
そして、ついにその理由を知ってしまった……
余りにもオットーの様子がおかしいので、丁度休憩しているドクターを尋ねた所、全く予想外の答えが返ってきたのだ。
「オットーが、管理局員に助けてもらった?」
「チンクから聞いたが、そのようだね」
それから、すぐにチンクの元へ向かい詳細を聞いた。
数日前の洞窟でのレリック捜索で不祥事が発生したらしく、そのときにオットーはある男性局員に助けられた。
それからオットーは、その局員の事を考えるようになったということらしい。
上の空になり、自分の言葉が届かない程にその男の事を考えている……
彼女が自分達よりも気になる存在がいるということに、ディードはショックを、
さらには、その局員に対して憎悪にも似た怒りというものも覚えた。
「よくも……よくもオットーを……」
これは敵の策略だ……
少なくとも、ディードはそう感じた。
オットーをたぶらかし、その戦力を下げ戦えなくする……
そう考えたとき、ディードからなにか黒いものが芽生えた。
「許さない……」
よくも……よくも自分の大切なオットーをそのような目的で……
それに、オットーもオットーだ。
自分よりも、ちょっと助けてもらっただけの奴のことばかり考えている。
それは、ディードにとってショックでたまらない。
自分は、いつもオットーと共にいる。
食事はもちろん、洗浄時や寝る時だっていつでも一緒。
自分とオットーは二つで一つ。
なのに、オットーはアイツのことばかり……
だから、自分は心に決めた。
奴は絶対にこの手で叩き潰す。
そして、オットーの目を覚まさせるのだ。
オットーにとって、本当に大切な人は誰なのかを思い出してもらうためにも。
「ディード♪ どうしたッスか?そんな難しい顔をして」
そこに、やけに明るいウェンディの声が聞こえてきた。
ディードは平常を装って、姉妹関係無く明るく接してくる一つ上の姉を見る。
「どうしたんですか?ウェンディ」
「いや……なんか様子がおかしかったから、どうしたんっすかねぇ、と」
ウェンディの言葉に、そこまで露骨な表情をしていたのかと思ったディードだが、ふと思い出す。
「ウェンディ、一つ尋ねたいのですがいいでしょうか?」
「ん?なんッスか?アタシが答えられる範囲でならいいッスよ」
「確か、ウェンディも洞窟でオットーと一緒につかまっていたって聞いたのですが」
「ま、まあそのとおりっす」
洞窟での出来事を聞かれて、ちょっと顔を引きつらせているウェンディ。
おそらく、あのルーテシアの表情を思い出しているのだろう。
しかし、そんなウェンディを無視して、ディードは質問を続ける。
「そこで、オットーを助けたっていう局員の顔を覚えてますか?」
「え、オットーを助けた?ああ、あのツンデレ男っすか」
やはり知っていた、とディードは、心で静かにほくそ笑んだ。
ちょっとウェンディでは覚えているか心配だったが、どうやら覚えていたようだ。
「って、ディードも見てるはずッスよ?」
「え?」
「ほら、あの赤目と黒髪の奴っすよ」
ウェンディに言われて、ディードは、ああ……と思い出した。
あの時にいた、黒い髪と赤い目をしている男……
ディードは、自分は馬鹿だと苦笑する。
よくよく考えれば簡単なことではないか……
あの時いた局員は増援を除けば4人。
そのうち男は二人で、一人はまだ子供。
そうなれば、自然とあいつしかいないということになる。
それを聞いて、ディードはうっすらと笑みを浮かべる。
そうか……奴か……奴がオットーをたぶらかし、あんな目に合わせたのか……
(あいつは……あの男は……私が討つ)
「フ、ふふふ……」
ならば、奴からオットーを取り戻し、さらには大切な姉妹をたぶらかした罪を受けてもらおう。
どのような方法で、どうやって苦しめようか。
相手が苦しむ様を想像すると、彼女は珍しく笑みを浮かべる。
しかし、その笑みは薄ら笑いで、逆に怖さが際立ってしまう。
「ディ、ディード?ダイジョウブデスカ?」
突然薄ら笑いを浮かべたディードに少々引きながらも、唯一の妹を心配そうな目で見るウェンディ。
もしかしたら、彼女も調子が悪いのでは?と思ってしまう。
「いえ、何も問題ありません。もうすぐ出撃ですので、ウェンディもしっかり準備をしてください」
そう淡々と言うと、ディードはすたすたと歩いていく。
その表情は、特にたいした変化は無い。
しかし、ウェンディには見えた。
なにか、彼女の周りにドス黒いオーラが漂っているのを……
(ヤバイッス!なんか、ディードが非常に危ないッス!!まっくろくろすけな嫉妬オーラが全開ッス!!!)
彼女の心の中で何かが危ない、と訴えかけてくる。
これは、至急ドクターかトーレに相談しなければいけない……
そう思うと、ウェンディはすぐさま走り出した。
その心で、{今回の作戦、うまくいくの?}とウェンディですら心配してしまうほどであった……
「ここが地上本部か……」
シンは首都クラナガンに悠然と聳え立つ、時空管理局地上本部を見上げる。
ここが地上部隊の本拠地となる所である。
本部についた後、あらかたのは説明を聞いて玄関に入っていく隊長二人を見送りながら、シンたちも担当場所へと向かう。
副隊長であるシグナムたちは、既に別の場所を巡回中
当たり前だが、今のところは何の異変もない。
「けど、スバルもエリオも、責任重大だよな」
シンは、スバルとエリオが手に持っているそれを見る。
それは、隊長二人のデバイス、レイジングハートエクセリオンとバルディッシュアサルト。
二人が巡回するところは、重要機密場所であり、デバイスの使用が硬く禁じられているような場所。
その間は、スバルとエリオが、各々の隊長のデバイスを預かっている。
本来ならヴィータやシグナムなど、副隊長が持つのがベストのようにも思えるが、ようやく信頼されていたということだろうか。
「それで、今は何時ごろだ?」
「今は……夜の9時ごろですね」
「まだそんな時間か……」
シンは、既に暗くなっている空を見る。
可能性は限りなく低いが、この陳列会が終わるまで何も無ければそれでよし。
しかし隊長陣、そしてレイもこの陳列会にジェイル・スカリエッティが襲ってくると確信めいた自信を持っていた。
特に、こういうときのレイの予言は嫌というほどよくあたるので、シンのほうも気を引き締めてはいる。
「だけど……ここって本当に地上本部よね?無駄にSFチックなんだけど」
「そ、そうだね……」
ティアナは、少々唖然としながら周囲を見る。
この地上本部にも、ザフトの部隊が駐留している。
既に、彼等はモビルジャケットを装着して周囲を見回っている。
中には局員を談笑する者までいる。
それは、余りにもシュールな光景だった。
「お前らなあ、前に同じような光景を見ただろ」
「あれは向こうでの話。こっちの方でそんな光景見たら誰だって不思議に思うわよ」
以前の作戦でも、見渡す限りのモビルジャケットの嵐にも驚いたが、あの時は向こうの世界にいたということでまだ理解はできた。
しかし自分達がよく知る場所でこのような光景を見ると、どうしても違和感というものを感じてしまう。
「えっと、俺達が任されてるところはどこだっけか?」
「えっと……A―4方面だから……あっちのほうね」
シュールな光景に呆れるのもいいが、自分達の持ち場に行かなければ行けない。
とりあえず、気持ちを切り替えて仕事を全うしなければいけない。
「確か、108部隊の人と合同で行うはずだから、ギンガさんもそこにいると思うんだけど」
なのはからもらったカードに、自分達がどの場所を警備するのかが書いてある。
そこには、共に警護に当たるものの名前を記されていて、その中にはスバルの姉、ギンガ・ナカジマの姿もあった。
「そういえば、ギン姉も既にこっちに来てたんだね」
ギンガは、一時的に軌道六課に派遣されたが、今回の警備にあたってシグナムたちと一足先にここにきていた。
とりあえずは、彼女と合流してことに当たらなければいけない。
合流ができればだが……
「え……」
異変に真っ先に気付いたのはキャロだった。
いや、キャロというよりは、彼女のデバイス、ケリュケイオンだった。
彼女が持つデバイスが左出すと同時に、他のものも構えた。
「も、もうきたの!?」
「は、はい、ケリュケイオンが反応してます!」
キャロの言葉とほぼ同時、周囲に複数の魔法陣が展開された。
その形式を見ると、召還に使われる術式のものだった。
その魔法陣からあわられたのは、複数のガジェット。
そして……
「あれは、あのときのモビルアーマー……」
そこに転移されたのは、ガジェットだけではなかった。
シンがホテルアグスタで、そしてアルカンシェルゲート突破作戦で見たモビルアーマーの姿があった。
これが存在しているという事は……
「やっぱり、あいつらも……ブルーコスモスが絡んでるのか!?」
モビルアーマーは本来、シンの出身世界、コズミック・イラにおいて、地球連合が使う魔道機械だ。
それがあるという事は、ブルーコスモスが絡んでいるという事である。
辺りを見ると、早くも所々に火が上がっている。
「司令部の方はどうなってるんだよ!!」
シンは愚痴を言いながら、エクスカリバーを構える。
とりあえずは、目の前の敵を倒さなくては話が始まらない。
「とりあえず、さっさと目の前の敵を殲滅して、隊長達と合流するわよ!」
「了解!」
ティアナの号令と共に、フォワード陣はガジェットとモビルアーマーの郡に向かっていった。
「一体何がどうしたというんだ!!」
「それが、ジャミングがひどくて状況が把握できないんです!」
その頃、シンが愚痴っていた司令部の方は、かなり混乱している状態だった。
突如の警報と敵襲。
まだこの程度ならあわてるほどではない。
司令部が何より驚いているのが、ジャミングにより周囲との連絡が全く取れないことだった。
この司令部には、確実に状況を連絡できるようにと、幾通りの連絡手段と対抗策がある。
それが、全て見抜かれているという事は……
「やはり、内部に内通者がいたのか……」
しかも、この地上本部の情報をほとんど知っているものが……
「至急、現状を中将に報告しろ!どんな手段を使ってもかまわん!!」
「は、はい!!」
最悪、会場まで走ってでもこの事を伝えなければいけない。
「ええ、その通りですね」
そのとき、ある局員が異例部の隊長に迫ったと思った瞬間、ブスリという嫌な感触が襲う。
恐る恐る下を見ると、何かつめのようなものが自分の左胸。丁度心臓を貫いていた。
「な……」
その感触と共に襲う激痛に、たまらず所長は後ろを見る。
そこには、先ほどまで通信を試みようとしていた女性局員だった。
「なかなか頭が切れるようだけど、ちょっと遅かったみたいね」
その局員がクスリと笑い、苦しそうにしている局員をまるでごみのように見下している。
それと同じ頃、彼女の周囲から突如魔法陣が展開される。
そこから出てきたのは、数本のスティンガーナイフ。
そのナイフは、局員、又は通信機器などに襲い、突き刺さる。
「IS,ランブルデトネイター」
突如、そのナイフは爆発を起こし、機器や局員を無造作に吹き飛ばす。
これで、ここにいるのは先ほど所長をさした女性局員一人……のはずだった。
「お疲れ様、チンク、セイン」
「ども~~」
丁度、ドゥーエの真上から魔法陣が現れ、そこからひょっこりと二人の少女の上半身が現れた。
その二人は、トーレ達よりも先にこの地上本部に来ていたナンバーズ、チンクとセインの二人。
「外の方はどうなの?」
「すでにガジェットもいるし、ディエチが軽快にぶっぱなしてる最中」
ニコニコと話している6女、セインの顔を見て、作戦は順調に進んでいることが伺える。
得意そうな顔をしている彼女に、5女のチンクは少々厳しい意見を飛ばす。
「セイン、まだ作戦は始まったばかりなんだ。気を抜くなよ」
「解ってるって」
そんな家族のやり取りを見て、ドゥーエは不意に微笑んだ。
しばらく家族と別れてから、こういう光景を目にしなくなった自分にとって、これはとても目の保養になる。
しかし、そんな生活もあとわずかだ。
ドクターが全てを成功させれば、こういう光景を嫌でも見ることができる。
それまでの辛抱ということになる。
「ドゥーエ、私たちはまだ任務がある」
「そう、じゃあ全てが終わったらね」
「ああ。いくぞ、セイン」
「はあい。それじゃドゥーエ姉、また~~」
まだ大事な任務を残っている二人は、さきほどの穴から入っていき、その姿を消す。
二人を見送り、一息ついたドゥーエは周囲を見渡し、自分も次の仕事に移らなければいけない。
「今がチャンスね」
そうつぶやき、静かにこの部屋を後にするドゥーエ。
これも、ドクターに言われた任務の一つ。
「待ってることね、ムルタ・アズラエル」
「これで終わり?」
「どうやらそのようね」
破壊、あるいは両断されたガジェットとモビルアーマーの残骸を見て、シンは一息つく。
最初はかなりの数がいると思ったが、これまでの実践の経験もあり、ほぼ何の苦もなく撃退できた。
これも、これまでの訓練の賜物ということだろう。
「まずは隊長達と合流しないといけませんね。デバイスも渡さないといけませんし」
「そうですね」
今現在する事は、自分達が持っているデバイスを渡すために、隊長達との合流ポイントに向かうことだ。
デバイスが無いと、さすがの隊長達といってもほとんどの魔法が使うことができない。
しかし、スバルはある重要なことに気付く。
「あ、だけどギン姉は……」
本来なら、自分達と康応を共にするギンガ。
そのため、他の108部隊のメンバーは他の場所に回っている。
それが、ガジェットの遭遇で合流ができていない。
現在は彼女一人。
この状況下で単独行動は危険すぎる。
その上を乗り切るには……
「なら、悪いけどシンが向かってくれる?」
「え、俺?」
突然の指名に、シンはきょとんとなってティアナを見る。
「この中じゃ、アンタは一番単独行動に向いてるのよ。
それに、射撃や砲撃も使えるから接近戦に特化してるギンガさんとも息を合わせやすいしね」
「な、なるほどな」
もっともなティアナの言葉に、シンもただ頷くしかできない。
本当に周りをよく見ている。
だが、これで自分達が何をするかが決まった。
「それじゃあ、各自行動かい……」
「させない!」
これから行動を開始するというとき、突如頭上から何者かの声が聞こえてきた。
シンは真っ先に上を見ると、自分の方に、双剣を携えた一人の少女が襲ってきた。
「戦闘機人か!」
シンは考えるよりも先にサーベル「ヴァシュラ」を両手に持ち、今にも襲い掛かろうとしている少女の剣を受け止める。
魔力刃同士がぶつかり合い、バチバチと火花が舞いながらシンは自分を襲ってきた少女を見る。
その少女は、以前に洞窟で退治した戦闘機人。
少女は、まるで自分に恨みがあるかのようにシンを睨みつけていた。
その目もどす黒く、輝きを失っている。
一体、何か彼女をこうさせたのか。
「お前は……」
「ん?」
その少女の声は、まっすぐにシンに向けられる。
「お前は私が討つんだ……今日、ここで!!」