なにかが吹っ飛んできた後、叫んでいた一人の男性。
銀色のおかっぱ頭で、そのままでいれば端正な顔をしているのだろうが、
今はその顔をまるで鬼のような顔にしてずこずこと会議室に入ってきて、血だるまになっている誰かを掴む。
「貴様!またザフトを裏切るとはどういうことだ!ええ!!?」
「い、イザーク……話すからちょっとまってくれ……」
そのやり取りの呆然としながら見るなのは達。
「イザーク。おまえ、アスラン殺す気か?」
その間へ褐色の肌をした男性が割りこんでくる。
イザークはばつが悪そうにアスランと呼ばれる30cmほどの血の塊をほうり捨てる。
「いい気味ですね」
その光景を見て、赤い目が特徴的な少年が見下すように笑う。
その横にいる金髪の少年もふっと笑っていた。
褐色の男性は血だるまの何かを持つ。
「で、こいつどうする?さっさと医療班呼んだほうがいいんじゃないか?」
ディアッカの言葉で我に返ったリンディ達は、やっとその血だるまが何かを判別する事ができた。
「「リィンフォース!!」」
「あ、アスランさん!」
はやてとヴィータは末っ子の豹変した姿を見て錯乱しながら持つ。
「シャマルさん、はやくリィンさんを医務室に」
「は、はい!」
リンディの指示で、シャマルとはやて、そしてヴィータはリィンフォースを持って急いで医務室へ向かう。
ついでにもう一人女性がついていっているのを気にせず。
あたりはまた混乱した空気になっていく。
「ところで、君達は誰なんだ?」
クロノは始めてみる集団に目を向けて答える。
「いや、僕達もいきなりこんなところに来て混乱してるんだけど……」
茶髪の少年は少々困ったようにいう。
はいはい、と手をパンパンと叩いてマリーは周囲を自分の目に向けさせる。
「みんなもいきなりで混乱すると思うけど、まずは自己紹介ね」
唯一状況が理解できるマリーを進行役にして話は進む。
「君達は言ったとおり、武器を召還できると思うからそれを出したあと自己紹介してね。
デバイス名くらいは覚えてるんでしょ?」
マーリーの言葉に、めんどくさいと思いながらも先に黒髪の少年が自己紹介をする。
少年の手には黒い斧のようなものを持つ。
「ば、バルディッシュ?」
フェイトは自分のデバイスを持つ少年に驚く。
「俺はシン・アスカ。デバイス名は……バルディッシュでいいのか?」
少年はバルディシュをくるくると回す。
シンもびっくりしているのだ。
いきなりへんてこな武器が出せるようになったのだが、それがやけにしっくりと馴染むのだ。
まるで自分が昔から使っていたように……
次に金髪の少年が杖を出す。
「やっぱり君がデュランダルか」
クロノの言葉に少し反応したが、少年は静かに言う。
「俺はレイ・ザ・バレル。デバイス名はデュランダル」
レイは静かに言ってさっさとデュランダルをしまう。
次は褐色の肌の男性。
男は見た目に似合わないステッキのようなものを出す。
「レ、レイジングハート?」
なのははあっけに撮られながらその人を見る。
「俺はディアッカ・エルスマン。デバイス名はレイジングハート」
そういいながら、ディアッカは少しため息を漏らす。
「で、このデザインどうにかならないわけ?ちょっと恥ずかしいんだけどさあ」
「そ、そんなこと私に言われても……」
まあ、ディアッカのいうこともわかるが、そこは我慢してもらおう。
「じゃあ、次はぼくで」
茶髪の少年はゲートボールス……もとい、ハンマーのようなものを取り出す。
「ぼくはキラ・ヤマト。デバイス名はクラーフアイゼン」
なるほど、これが現在のグラーフアイゼンか。
なんかヴィータと相性がよくないような気もする……
「最後は俺か……」
先ほどリィンフォースを血だるまにした張本人の一人のおかっぱ頭をした男は一本の剣を出す。
「お前がレヴァンテインか」
シグナムの言葉を無視して男は続ける。
「俺はイザーク・ジュール。デバイス名はレーヴァテインだ」
イザークはさっさといい終わろうとするが……
「違う、レヴァンテインだ」
シグナムに訂正を入れられるが、イザークはどっちでもいい、といってそっぽを向く。
ディアッカはそれを見てやれやれ、と苦笑いを浮かべるのであった。
その頃医務室。
「え、じゃああなたがクラールヴィント?」
シャマルはメイリン・ホークと言う女性から衝撃的な事実を聞かされる。
「はい、そういうことらしいです。よくわかんないんですけど……」
シャマルとメイリンはリィンフォースを安静にさせた後、こうやって話をしている。
その頃はやてとヴィータは、リィンフォースもといアスラン・ザラの看病をしていた。
アスランはしきりに「何で俺だけ……」という寝言がよく聞えてくる。
「あの、それで今リィンになっとるのがアスラン・ザラって言う人なんですか?」
「あの、それで今リィンになっとるのがアスラン・ザラっていう人なんですか?」
はやての言葉に、メイリンははいと頷く。
まあ、正直女の子の体に乗り移ったのはびっくりだが。
「それで、これから私達はどうなるんですか?」
メイリンの言葉に、さあ…とシャマルは苦笑いするしかなかった。
「今回、メイリンさんたちの事情はかなり特殊だから、私達にもよく分からないの。時空漂流者はたまにあるんだけど……
こうやってデバイスに乗り移った事なんて今までなかったから」
マリーの話でもこういうケースは初めてだったといっていた。
だから本当に初めてか、まれな事なのだろう。
現在、ユーノにも調べてもらっているが、望みは薄いだろう。
「リィン……あ、ごめんなさい、今はアスランさんでしたね。
アスランさんの落ち着いた事ですし、私達も会議室に戻りましょうか。
皆さんも待ってることですし」
シャマルの言葉に頷き、アスランを医務室にいる医師に任せて、一同は会議室へ戻っていく。
シャマルたちも戻ってきて、これからの事を説明するアースラチーム。
その前に、この世界は何なのかを詳しく説明する事になった。
「つまり、この世界は君達がいた世界じゃない。この世界は戦争なんかもしていない。
それ以前にこの地球はまだ月にしか行ったことがないからコロニーなんていうものもない」
さらに、この世界…いや次元には様々な次元から魔術に関する事を管理している時空管理局と言うものもあるらしい。
クロノとリンディの話を聞いて、一同は唖然とする。
そんな世界があるなんて思っても見なかったのだ。
「まあ、君達がデバイスに乗り移ったのも予想外の出来事なんだ。
時空漂流者はたまにいるけど、このケースは極めて珍しい。いや、初めてのことかもしれない」
だから、と今度はリンディが話す。
「あなた達の世界が見つかっても、この状態のまま返すのは無理なんです。ですから、しばらくはこの世界へ残ってもらう事になります」
それを聞いて、不満な表情に出すものはいるが、納得はしてくれたようだった。
ふと、ここでシンが思いつく。
「そういえば、ここに放り出されたのってコーディネーターばっかだな」
確かによく考えてみれば、ここにいる全員がコーディネーターであった。
しかし、レイが何かいいたそうであったが、すぐにいつもの表情に戻ったため、誰もレイに疑わなかった。
「それで、君達の住まいの事なんだが……」
これが一番の問題だ、といわんばかりにクロノはため息を付く。
「一番の問題は君だ」
そういって、クロノはディアッカを見る。
「俺?」
その顔には、なんでよ?といった表情をする。
「他のメンバーは、まあすべての家族が管理局に関する家族なんだが、君のマスター、なのはの家は違う。魔法が使えない普通の人だ」
クロノの説明に、ふむふむと答えるディアッカ。
「まあ、君がずっとデバイス形態でいてくれればいいのだが、流石にそれはつらいでしょ?ずっと動けない状態だし……」
リンディの説明を受けて、再度頷くディアッカ。
「けど、多少の事情は仕方ないといっても、女の子の部屋にあなたのような男性と生活させるのを、ご両親が快く納得できると思いますか?」
リンディの問いに、ディアッカしばし考えるようなしぐさをして、首を横に振る。
いくらディアッカ本人に少女趣味はないとはいっても、そのなのはの両親に疑われるのは目に見えている。
だから、シンもバルディッシュの待機状態のままクロノの部屋へ移る事になった。
キラとイザークに対しては、家にいるのはほとんど女性なのでそれは後で考える事になった。
何せ今、シン達はデバイスだから、マスターの下をあまりはなれることが出来ない。
だから今回の、現レイジングハートであるディアッカの処遇について困っているのだ。
だが……
「まあ、それはあんたらに任せるよ。俺にはどうにも出来ねえことだし」
そんな軽い漢字でいいのか?と一同は思う。
まあいろいろといちゃもんをつけてくるよりかははるかにいいが……
「それと、君達に対して言っておきたいことがある」
クロノは気を取り直して言葉を続ける。
今の君達はデバイスだ。勿論魔力もあるからある意味ではあまり魔術師とそう変わらない」
ただ、普通の人とは唯一にして違うものがある。
「君達は、別に食事を取らなくても生きていける体になった」
クロノの言っている意味に、一同は呆然とする。
何を言っているのだろうか。
「確かに体は人間そのものだ、ちゃんと食事をしての栄養の摂取できる。
けど、同時に君達がデバイスだ。デバイスは食事なんかするわけない。
検査したところ、別に食事をしなくても、君達が待機状態でさえいれば食事をしなくても生活行動や戦闘に問題はないそうだ。
……ぼくも不思議に思ってるよ」
クロノのやや呆れながらいう。
つまり、別に飯を食わなくても、何も呑まなくても、寝てれば生きていけるという奇妙な体になったという事だ。
その帰り道、一応それぞれの家に帰ることになった。
少し話し合った結果、ディアッカは八神家で預かる事になった。
もしものときは、シャマルが『旅の鏡』を使ってすぐさまなのはにお届けするということになった。
一応なのはのほうでも家族と掛け合っては見るという事になり、それぞれの家に着くことになった。
ハラオウン家
シンとレイはとりあえず世話になるハラオウン家に行く事になった。
クロノとリンディはまだ仕事が残っているといっていたので、家の案内はフェイトにしてもらっている。
「ここが私達が住んでる家。なのはの家とは近所なんだ」
フェイトの説明とともに、シンとレイは部屋に入る。
(っていうか、目が覚めたときには俺ってこの家にいたんだよな……)
などと思いながら二人は家に入る。
異世界の家と言うことでどのようなものなのだろうと思っていたが、中身はいたって普通の家であった。
その光景を見て、シンはかつて家族がいたときの生活を思い出す。
普通は楽しい記憶なのだが、それと同時に家族をなくした事を思い出してしまうので同時につらい記憶でもある。
「どうかしたんですか?」
ふと見ると、フェイトが自分を見ていた。
どうやら思いっきり顔に出ていたようだ。
シンはなんでもない、といってなんとなくバルディシュを持つ。
それを見て、フェイトハあっとあることに気付く。
「それと、二人ともむやみにデバイスを出さないでね」
フェイトは説明する。
もともとこの世界には魔法と言うものは存在しない。
だが、ある事件がきっかけで、なのはとはやてが魔法を使うようになり、違う世界の自分達もこの世界へ澄むことになった。
「だから、人前でデバイスを出したり、自分がバルディシュにならないように気をつけてね」
フェイトの言葉を聞いて、わかったよ、とシンは言った。
「つまり、外じゃあんたの指示がない限りは武器になったり出したりするなって事でいいんだな」
意外と物分りがいいらしく、フェイトもそうだよ、と頷いた。
「まあ、例外もあるときはあるんだけど……」
フェイトはそういいながら、グラーフアイゼンをゲートボールスティックの変わりに使っているヴィータを思い出す。
「そういえばレイ、さっきからやけに機嫌がよさそうだけど、どうしたんだ?」
シンはさっきからレイの表情が微妙に嬉しそうにしている事に気付く。
レイはなんでもない、といって、そうかとシンはいってソファーに腰掛ける。
その時、レイは自分がデュランダル。自分の大切な人の名前と同じ物になれたことに幸せを感じていたのだった。
その頃八神家では、リビングに混沌とした空気が漂っていた。
アスランを睨むイザーク。
その視線にそっぽを向くアスラン(リィンフォース)
その光景に困惑するメイリン。
何とかイザークを落ち着かせようとするキラ。
そして、キッチンでこの世界の雑誌を見ながらその光景を楽しそうに見るディアッカ。
今家にいるのはシャマルとヴィータのみ。
後のメンバーは少し遅れて帰ってくるらしい。
「あの……止めなくていいんですか?」
シャマルはついたえられなくなってディアッカに尋ねるが、ディアッカは意外そうな顔をしながらいう。
「面白いからそのままにしておこうぜ。しばらくたったら向こうもあきらめるだろうし」
まるで重石楼にテレビ番組を見るかのようにディアッカはいう。
ディアッカの言葉にうう……と涙目になるシャマル。
「ちょっとディアッカ。彼を何とかしないと……」
イザークを何とかなだめようとしているキラもディアッカを頼る。
キラもこの空気は何とかしないと、と思った。
「2年前じゃ揃ってるときは大体こんな空気だったぜ」
ずっとこんな空気だったのか……とキラは少々アスランに同情した。
「まあ、ストッパーはいたけどな」
そういいながら、ディアッカはかつての戦友を思い出す。
「じゃあ聞くけどよ、今この状況であいつを止めれるのはだれなんだよ?」
ヴィータは尋ね、ディアッカは考える。
今この状況でイザークを止めれるやつといえば……
「まあ、あいつのデバイスの主の……シグナムかな?もしくは俺」
なんだかんだで自分より立場が上の人物には一応は従うから自分より上に達人ならになら一応言う事を聞くだろう。
後はずっとつるんでる自分くらいだろうか……
笑うようにいってヴィータはわなわなと体を震わせる。
「じゃあさっさと止めろ!「ただいまーーー」」
ヴィータの叫ぶとともに、はやてと他の八神家が帰ってきた。
はやても何かヴィータの叫び声が聞えてきて、様子がおかしいと思い部屋へ足を運ぶ。
そして部屋の空気に唖然となる。
「どういう状況なんだ?」
シグナムがシャマルに尋ね、シャマルは事を話す。
まあ、話すといっても家に帰ってから少したったらいつの間にかこうなっているのだったが。
「まあ、とりあえずやめさせなあかんな」とはやてはいうがこれは時間がかかりそうであった。
そのとき、ぱんぱん、と手を叩く音が聞こえる。
「イザーク、今はそこまでにしとけ」
ディアッカの言葉に、イザークはちっと舌打ちしながら席を立つ。
「何故、二度もザフトを裏切ったんだ?」
最後にそう言い放って、イザークもキッチンのイスへと場所を移したのだった。
イザークの言葉に、アスランはただ俯くばかりだった。
「もしかして、ずっとこんな空気でおらなあかんの?」
はやては、これからの事を考え、ふらっと倒れそうになる感覚に襲われるのだった。
なんとか、何とかこの二人を仲直りさせなくては……そうはやては胸に誓った。
「へえ、そんなことが……」
高町家では今日起こった事をなのはは家族に話していた。
「それで今日なのははあのペンダントをしてなかったんだね」
美由紀はいつもなのはがしているペンダント(レイジングハートの事)をしていなかった理由がわかった。
なのはは頷き、今レイジングハート(ディアッカ)の事をどうするか決めるのに一応八神家で預かる事になった事を話す。
「けど、なのははその…レイジングハートっていってたっけ?まあ、それと一緒にいたんだね」
士郎の言葉に、うんとなのはは頷く。
確かに中が男の人になった事には驚きだが、レイジングハートが自分の相棒と言うことに変わりない。
それを聞いて、士郎は考える。
「まあ、一度会ってみてそれから考えてみようか。みんなもそれでいいね」
士郎の言葉に、みんなも頷く。
なのははそんな士郎に、ありがとうと言うのだった。
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