Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第12話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:41:18

夕刻、聖王教会の医寮施設の一室でキラは目を醒ました。
「………。」
ぼんやりと眺める天井は始めて見みるものだったので六課ではないとキラには判った。
あの爆発のあと、シグナムに抱えられ、六課の医務室に連れていかれたキラ。
そこで応急処置を受け、シャマルが保護した少女の治療設備設置の為に寄った医療施設に転送された。
出血も多く、傷自体もかなり深かったので、医療分野に詳しいシャマルに見せる必要があっからだ。
そこで、止血などが行われ、キラはそのまま聖王教会で休養となった。
キラの上半身と頭に包帯が巻かれている。
体を起こすとあちこちが悲鳴を上げ、ただ座る体勢をとるだけの動作に呼吸が乱れ、額に汗が滲んだ。
隣にはリンゴを食べながら雑誌を読んでいるシンがいた。
「あれ、あんた、起きて大丈夫なんですか?」
いるなら起きるの手伝ってくれればいいのに…と思いながら、キラは現状を訪ねる。
「…ここは…どこ?」
恐らく誰か六課に所属する人物からもってこられた見舞い品、フルーツの盛りあわせのリンゴをかじっているシンに聞いた。
「聖王教会って…なのはさんが言ってたな。
今日はここで休養しろって…フリーダムもクスィフィアスも破損がかなり酷い。
直すのに数日は必要だから、しばらくはゆっくりしてろってさ…。」
シャクっと水気を帯た音をたて、リンゴを丸かじりするシン。
「…そう……。」
「あんた…レイとアスランと戦ったんだろ?」
無言のまま頷くキラ。
沈黙が続く、そもそもシンはキラの見舞い、ではなく、そのことについて聞こうと思っていたのだ。
しかし
「…じゃあ、俺、戻るから…。」
シンはそう言って部屋を出ていった。その後ろ姿を黙ったまま見送るキラ。一人きりなった部屋でキラは肩を落とし呟いた。
思い出される先の戦闘。
「…何で…また、こんな…。」

廊下を歩くシン。
「アスランも、レイも何をやってるんだ…。」
自然と拳に力が入る。何がどうなっているのか、あえてシンはキラに聞かなかった。
自分で確かめよう、そう思ったからだ。
「…今度は俺が…。」
「シン?」
一人ぶつぶつ呟いているシンにかけられる声。
振り替えるとなのはだった。
「あ、なのはさん…。」
「キラはどうだった?」
「体のほうは大丈夫そうでしたよ?」
安堵の表情を浮かべるなのは。
「じゃあ、ご飯食べて帰ろっか?」
シンとなのは、二人は聖王教会から出た。

数日後。
まだ午前中だが遅い時間帯に、キラは目を醒ました。
取り合えず、体を起こしてみると昨日よりは大分マシになっていた。
まだ腹筋に力を入れると痛みが走るので力を入れすぎないよう注意する。
とにかく、顔を洗いに行くためにキラはベッドを出て、部屋を出た。
窓の外を見ながら歩く。中庭には花が咲いており、緑が真っ先に目についた。
天気は晴れ、少し散歩でもしようか等と思いながらトイレへと入った。
洗面台で顔を洗い、タオルで顔を拭く。
それから、また自室に戻るため廊下にでると、挙動不審な少女を見つけた。
キョロキョロと何かを探すようにふらふらとおぼつかない足取りで通路を歩いていた。
金髪に、左右で色が違うくりっとした双眸。胸元にはしっかりと抱き締められた兎の人形があった。
キラと少女の目が合うと、とたんに少女の表情が不安気になって行く。
キラはそんな少女に優しく微笑みかけた。すると、警戒して不安げだった表情を元に戻す少女。
しかし、何だか悲しそうな表情をしているのでキラはゆっくりと歩み寄って行く。
怖がらせないように。
近くまで行くと、同じ目線になるようにしゃがんだ。
「君も…、何処か怪我してるの?」
外傷はないようだが、服が患者が着る服なのでキラは聞いてみた。
頭をふるふるとふり、少女は否定した。
「じゃあ…病気?」
また、頭をふるふるとさせる。キラは少し考えるようにしてから言った。
「何か探してたみたいだけど…落し物?」
ジワッと少女の目に溜って行く涙。
「ママがね…、いないの…。」
ぐしゅっと鼻水をすする音。今にも泣き出しそうだった。
「そっか、それは…困ったね、じゃあ一緒に探そうか?」
こくっと頷く少女。
「君の名前は?」
「……ヴィヴィオ…ぐしゅっ…。」
「そっか…、僕はキラ・ヤマト…よろしくね?」
微笑み手を差し出すキラ。ヴィヴィオはしばらく戸惑い、なかなか手をとろうとしなかったが、やがてキラの手を取り、二人で母親を探すため歩き出した。

一方、大騒ぎのシスターシャッハ。
丁度、病院を訪れたなのはとシグナムにシャッハが駆け寄ってきた。
「すみません、こちらの不手際で、あの子がいなくなってしまいました。」
「状況はどうなんですか?」
シャッハに状況を聞いたのはなのはだ。
「はい、特別病棟と、その周辺の封鎖と避難は済んでいます。
今のところ、飛行や転移、侵入者の反応は見付かっていません。」

「外には出られないはずですよね?」
なのはがシャッハに確認をとる。
「では、手分けして探しましょう。」
シャッハとシグナムのペアと、なのはのふたてに別れ、『あの子』、つまりヴィヴィオを探し始めた。

人造生命体。
ヴィヴィオはそう呼ばれる存在だった。
検査上、危険は無いとのことだが、並の子よりも遥かに高い魔力を持っている。
そして、人造生命体であるが故に、ヴィヴィオにはどんな潜在的危険が眠っているか知れなかったため、注意が必要だった。

なのはが中庭を探していると、見慣れた姿が歩いているのを見つけた。
「あれ?キラくん?」
「…あ、なのはさん?」
ゆっくり、振り向くキラ。駆け寄ってくるなのは。
「すみません、心配かけちゃって…。あと、こんな格好で…。」
寝巻き姿のキラ。
「もう動いて大丈夫なの?」
「…いや、それはちょっと分からないんだけど…。
ただ、この子が……。」
キラが少しだけ体を動かすと、その背中に隠れるようにしてなのはの様子を窺うヴィヴィオの姿があった。
「あっ、その子…。」
「…迷子…みたいなんだ。それで、今、母親を探してるんだけど…見付からなくて…てか、人がいなくて…。」
それを聞いてなのはが笑い始めた。
「…はぁ…。」
そんななのはを不思議そうに見つめるキラとヴィヴィオだった。

フェイト車、内部。
「お前…、体は本当にいいのか?」
ミラーを使い、キラをみながら運転するシグナム。
「はい、歩くぐらいなら…もう何とも…。」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?」
なのはが心配そうに言う。
「無理はしてないです…。」
「しかし、あれだけの攻撃を受けて…。脅威的な回復力だな…。」
シグナムの言葉にキラは少しだけ考えてから肩に頭を預け寝ているヴィヴィオの頭を撫でる。
「…シャマルさんのお陰ですよ…。」
「そう思うなら礼を言っておけ…。」
カーブを終え、直線にさしかかる道路。
「そうだ…、シン君から聞いたんだけど……、シグナムさんと戦ってたアレックスって人…。
キラくんの…知人なんだって?」

ミラーごしになのはが視線をキラに向けていた。
「知人って言うか…小さい頃からの…友達で…親友…ですよ。
本名はアスラン・ザラ。」
「…キラくんはアスランって子と戦って…その…大丈夫なの?」
なのはの言葉に黙ってしまうキラ。
「まぁ…、お前はしばらく訓練に参加出来ないからな。
今のうちにゆっくりして覚悟を決めておく方がいいんじゃないか?」
「…シグナムさん…。」
なのはが厳しいことを言うシグナムを見た。
「だが、任務で出動してしまえば、障害になるのは事実だ。気を抜けば、命を落としかねん。
現に大怪我を負っているだろう?」
「…そう…だね…。」
なのはが心配そうに後部座席を覗いてくる。
「…大丈夫です……。」
キラは答えた。
「…本当か?
アスランっ…と言ったか、あいつは強いぞ?接近戦では、特に…な。」
シグナムは先の戦闘を思い出しながら言った。
「はぃ…。」
キラが返事をしたところで、ウィンカーを出し、シグナムはハンドルをきった。

機動六課、部隊長室。
「査察?でも、何でまた急に?」
フェイトは顔をしかめた。
はやては頷き、テーブルの上の紅茶を手に取る。
「うん、何か、近いうちに査察があるみたいなんよ…。
ただでさえうちは突っ込みどころ満載の部隊やからな…。
キラくん、シンくん、二人の個人データとかでっちあげなあかんなぁ…。」
「それは……。そうだね…、今、人事移動なんかされたら致命的だよ?」
そうなんよ、とティーカップを置くはやて。
「ところで、これは査察対策とも関係があるんだけど…、そろそろ教えてくれないかな?機動六課設立の…本当の理由…。」
今度はフェイトがカップを手に取る。
「そうやね…、ここらがえぇタイミングかなぁ?
それやったら、今日、聖王教会でカリムとクロノくんと会う予定やから、フェイトちゃん、なのはちゃんにも話そうか…。
機動六課設立の本当の理由を…」
はやての表情が真剣なものになる。
「うん、わかった。そろそろ、なのはも戻ってる頃だよね?」
いそいそと空間モニターを展開し、なのはへと連絡を取るために回線を繋ぐ。
『いっちゃやぁだぁぁああ!!!ふぇぇぇぇぇぇ…!!』聞こえてきたのは、けたたましい泣き声と叫び声だった。

目が点になるはやてとフェイト。
モニターの向こうではなのはの足にまとわりつき、泣き叫ぶヴィヴィオの姿と、そんな状況におろおろしているフォワードメンバーの姿があった。

「ヴィヴィオ~…落ち着け~…なっ?」
シンが笑いかけながら手を伸ばすが、なのはにしがみついたまま離れない。
「やだぁ~…行っちゃやだ~ぁ…、うわぁ~~ん…。」
泣き止まないヴィヴィオ。
妹を持っていたシン的には子供の扱いに自信があったのだが、まぁ面倒を見たのはマユだけだ。
いろんなタイプの子供がいる。
だから仕方ないのは分かっているが、少しショック受け、シンが沈んでいると、シャマルに包帯を替えてもらったキラが入ってきた。
「ヴィヴィオ…どうしたんですか?」
騒ぞうしい泣き声の中、表情ひとつ替えずキラはなのはの元へやって来ると、途中に落ちている人形を拾う。
「これから…フェイト隊長たちと予定があるから…。フォワードメンバーと遊んでて貰おうと思ったんだけど…。」
すみません…と沈んだ表情で隅の方で小さくなっているスバル、ティアナ、シン、エリオ、キャロ。
下を見ると、ヴィヴィオと目が合い、キラが微笑むと、キラのズボンの裾を掴むヴィヴィオ。
「はい、ヴィヴィオ…。
これは、ヴィヴィオのだよね?」
両頬に涙の筋を残したままその人形を受けとるヴィヴィオ。
キラはポケットからハンカチを出すとヴィヴィオの目元を拭ってやる。
「なのはさん、これから大事な用事があるんだって…わかるよね?」
「…ぅん……」
「寂しいかもしれないけど…僕と一緒にお留守番しようか?
なのはさんが帰ってきて、ヴィヴィオがいい子にお留守番できたら、なのはさん、きっと嬉しいと思うんだ。
なのはさんが笑ってくれたら、ヴィヴィオも嬉しいでしょ?だから…ね?」
なのはのスカートの裾から手を離すヴィヴィオ。
「うん…、いい子だ。」
キラはヴィヴィオをだっこする。
「それじゃあ、ヴィヴィオは僕たちがみてますんで…。」
そんなキラを不思議そうに見つめるなのは。
「あの、なのは…さん?」
「あぁ…、うん。よろしくね。」
「ほら…、ヴィヴィオ…。行ってらっしゃいって…。」
「…行ってらっしゃい。」
キラに促され、なのはと離れるのを惜しみながらもヴィヴィオは手を振りながら言った。

「キラさん…年、いくつでしたっけ?」
ティアナがヴィヴィオをあやすキラに聞く。
「年のこと?18だけど…?」
何やら隅の方に集まり、五人でひそひそ会話するキラを除いたフォワードメンバー。
「キラさんて…子持ち?」
ティアナがシンに聞く。
「知るか!でも、可能性がないとは言い切れないけど…。」
「でも、何だか手慣れた感じですよね。」
キャロの言葉に、頷くエリオ。フォワードメンバーがキラの新たな一面を知った瞬間だった。

ストームレイダー。
これから、聖王教会へ向かう途中のなのは、フェイト、はやての三人。
「ごめんね、お騒がせして…。」
ばつの悪そうな顔のなのはが、フェイトとはやてに言う。
「いえいえ、いいもん見せてもらいました。
…にしても、あの子はどうしよか?」
はやては少し考えるように腕を組む。
「なんなら教会で保護でもいいけど…。」
しかし、なのはは首を振る。
「ううん…大丈夫…。帰ったら私がもう少し話してみて、何とかするよ。」
一旦言葉を切るなのは。
「今は…頼れる人がいなくて不安なだけだと思うから…。」
ストームレイダーはプロペラの音を起て、聖王教会へと向かった。

待合い部屋。
そこに、ヴィヴィオとライトニング分隊の三人がいた。
「キラさん、子どもの扱いうまいですね…。」
ヴィヴィオと一緒にブロックで遊んでいるキラにエリオが言った。
「まぁ…一応、子どもたちと二年間暮らしてたからね…。」
「そうなんですか。」
キャロがブロックをヴィヴィオに渡してやる。
「でも、ヴィヴィオがおとなしくて助かったよ。
もし今、飛びつかれたら堪らないからね…。」
包帯を指差すキラに、エリオとキャロは笑う。
ヴィヴィオがキラの袖を引っ張り、自分がブロックで作った家を指差す。
「うん、上手にできたね。次はもっと大きい家を作ってみようか?」
キラが微笑むとヴィヴィオがうなずいた。

カタカタカタとキーを叩く音が無数に響く中に、スバル、ティアナ、シンはいた。
最初は戸惑ったシンだったが、ティアナやスバルに教えてもらったかいもあり、今は指が猛スピードで動いている。
展開されるサブモニターを開いては閉じ、数度それを繰り返したころ。
「終わったぞ、ティア。確認頼んでいいか?」
「もう、終わったの?あんた、いい加減にやったんじゃないでしょうね?」
疑いの眼差しがシンへむけられる。
「ちゃんとやったさ、見れば分かることだろ?」
そんな二人をよそに一生懸命モニターと睨めっこしているスバル。
「へぇ~、ちゃんと出来てるじゃない。」
「だから言っただろ?ちゃんとやったって…。
スバルはまだ終わらないのか?」
「…うん。」
スバルが頷き、それを見て呆れたティアナが溜め息をついた。
「ほら、手伝ってあげるから少し分けなさいよ。」
「俺も手伝うよ…。」
スバルはシンとティアナにお礼を言って、データを振り分けた。
「書類仕事にがてなんだよねぇ~。」
助かったと言わんばかり、スバルは再び作業に取り掛かる。
「今日はライトニングの分もあるからね。まぁ引き受けちゃったし…」
ティアナも作業に取り掛かった。
「………。」
シンは手を動かしていなかった。モニターに写るナンバーズ数名の姿とアレックスとラウの姿を見つめていた。
「それ…この前の…」
「アルトが記録した各種の詳細データつき…。
あれだけの事をしでかして、使っていたのは魔力じゃなくて…別系統のエネルギー。」
スバルが言葉を切り、一時の沈黙。
「そんなのを体に内包してるってことは…やっぱりこいつら…。」
真剣な顔付きでモニターを見つめるスバル。
突然のティアナによるデコピンが、スバルに炸裂した。
「あいつらがなんなのかを考えるのなんて、あたしらの仕事じゃないでしょ?
判断するのはロングアーチスタッフと隊長たち…、あたしらが作ってるのは、その判断材料になる報告書。
わかったらさっさと作業!」
そう促すティアナ。
「けど、あいつらも、実際のところは分かんないけど…。
あんな体になりたくて産まれたわけじゃないんじゃないか…。」
そうシンが呟いた。

「えっ?」
と聞き返すティアナとスバル。
「前にも話したろ?
俺も、キラって人もコーディネイターだって…。」
手を動かしながら、シンは二人に話した。
コーディネイターとナチュラルの確執。それによって起こった二度に渡る戦争。
コーディネイターに対抗するためにエクステンデットが産み出されたこと。
ステラという少女のこと。
そして、友達であり戦友のレイのこと。
「言われたんだ、レイに…。
『俺はクローンだ。
キラ・ヤマトと言う夢のたった一人のために作られた。
その資金の為に…。
恐らくはただ出来ると言う理由だけで…。
だがその結果の俺は…どうすればいいんだ?
父も母もない、俺は俺を造ったやつの夢など知らない…。人より早く老化し、もう、そう遠くない未来に死に至るこの身が、科学の進歩による素晴らしき結果だとは思えない。』って…。
あの戦闘で出てきた奴らもそんなこと思ってんのかな。
あんな力を体の中に抱えて、誰かの命令の元で戦ってるのかなって…。」
流れる沈黙。
室内にはパネルを叩く音だけが響く。
「…あいつらがなんであっても、あんたたちが悩むことじゃないでしょう?」
ティアナが沈黙を破る。
仕事に戻る三人。
「なぁ、ティア、スバル…。」
なぁに?
と生返事を返すティアナとスバル。忙しく手が動いている。
「…いや、なんでもない。」
仲間同士で戦うことになったら、お前らならどうする?
そう聞こうと思ったがやめ、アレックスとラウが写るモニターを閉じ、シンは作業に戻った。

聖王教会。
カリムの部屋をノックする音が響き、その部屋の主であるカリムは
「どうぞ」
と入ってくるように促した。
ドアが開かれ、入って来たのはカリムがよく知るはやてと、カリムにとって今回が初対面となるなのはとフェイトだ。
初対面の二人は部屋の中に入り、敬礼。
「高町なのは、一等空尉であります。」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官であります。」
カリムは二人に挨拶する。
「初めまして、聖王教会、教会騎士団、騎士、カリム・グラシアともうします。
こちらへどうぞ」
座るよう促された場所にはすでにクロノがいた。
顔見せ、そして挨拶もそこそこに本題へと入る、はやて、カリム、クロノ、なのは、フェイト。
今回この五人が、ここに集まったのは、ナンバーズたちとの遭遇、そして、機動六課設立についての裏表、今後について話すためだ。

なのはとフェイトの部屋にライトニング分隊三人はいた。丁度、ヴィヴィオを寝かしつけたところだ。
ヴィヴィオの寝顔を見て微笑みがこぼれる三人。
「何か、ホントに普通の子どもだよね…。」
「…うん」
キャロの言葉に頷くエリオ。キラはと言えば、窓の外を見たまま、何事か深く考え込んでいる。
そして、それは、エリオも同じだった。
「エリオくんもキラさんも…どうかしたんですか?」
「あっ…ゴメン。なんでもないよ、キャロ。」
慌てて取り繕うエリオ。
そして尚も考え込んでいるキラを心配そうに見つめるキャロだった。

六課の表向きの設立はロストロギアの対策、独立性の高い少数部隊の実験例とするためである。
尚、六課の後見人はカリム、クロノ、そしてフェイトとクロノの母親であるリンディの三人。
さらに、後ろ立てとして、彼の有名な三提督も六課に非公式ではあるが協力する約束をしているとのことで、新設部隊と言えど、これほどにバックアップされている部隊はそうそう存在しないだろう。
そしてここまでに後ろ立てがしっかりしているのにはカリムの能力と関係があった。

プロフェーティン・シュリフティ。
最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出した予言書の作成を可能とするカリムの魔法だ。
無論、レアスキルである。
ちなみに、年に一度しか予言書の作成はできない。
また、的中率はさほど高くもなければ低くもないもので、信憑性の度合いはわりとよく当たる占い程度、という。
信用するかは別とし、聖王教会はもちろん次元航行部隊のトップは情報の一つとして、この予言に目を通すらしい。
しかし、地上部隊は別だとか、なんでも、トップに位を構えるお方が、レアスキルなどが大嫌いだという。
そのお方、レジアス・ゲイヅ中将その人である。
しかし、なぜ、その予言書が機動六課設立に関係してくるのか、と言えば疑問だが、数年前から、ある事件についての予言が少しずつ書き出されているとのことだ。
『古い結晶と無限の欲望が集い、交わる地。
死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。
死者たちが踊り、中都大地の砲の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船も焼け落ちる。

つまりは、ロストロギアをきっかけに始まる管理局、地上本部の壊滅。
管理局システムの崩壊といったとこだろう。
設立の裏の理由はこの予言を懸念したためだった。

「…キラ…なのはママ…帰ってこないの?」
不安気な面持ちで聞いてくるヴィヴィオにそんなことはないと首を振って答えるキラ。
「きっともうすぐ帰ってくるよ。今日一日、ヴィヴィオ、いい子だったから…。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
キラはヴィヴィオを膝の上に乗せ、絵本を読んでやる。
キャロとエリオはキラがあとは引く受けるといったので、一足先に晩御飯を食べに行っている。
ヴィヴィオに絵本を読み始めてから十分程たった頃だろうか。
ドアが開き、なのはとフェイトが帰ってきた。
二人の帰宅の声に素早く反応したヴィヴィオはキラの膝を飛び下り、一目散になのはへと駆けていく。
なのはに抱き抱えられ、目に涙をためたまま、力一杯なのはにしがみつくヴィヴィオ。
フェイトはそんなヴィヴィオの頭を優しく撫でてキラに向き直り言った。
「ありがとう、キラ。エリオとキャロは?」
「二人は、早朝訓練の疲れも考えて、僕が勝手に帰しました。僕は早朝訓練にも参加してなかったんで、疲れてる二人にまかせるのも悪かったんで…。
すみません。」

「ううん、ありがとう、キラ。」
お礼を言うフェイトに首を振るキラ。
「今の僕は…訓練も、戦うことも出来ませんから…。
それじゃぁ…、僕はこれで」
なのはの隣をすれちがおうとするキラの襟首を掴むヴィヴィオ。
「…行っちゃうの?」
襟首を掴むヴィヴィオの手をほどき、キラは振り向き、微笑んで言った。
「うん…でも明日…また来るから…。
おやすみ…ヴィヴィオ。」
そう言ってキラは部屋を出た。