シンは今かなり苛立っている。
ただでさえアスランに負けて精神が不安定なのにさっきからへんなことばかり起きて、挙句の果てには空飛ぶ人間が現れてこっちの話を聞く耳持たずに一方的に攻撃してくる。
普通はこれでキレて当たり前である。
だがこれでは事態は進展しないと思い何とか気持ちを落ち着かせるシン。
そしてもう一度モニターを見てみると、なにやら先ほどのメンバーで話し合いをしている。
そこで、あることに気付く。
(あれ、確か犬もいたような気が・・・それに人が増えてる)
向こうのメンバーの中で確かに犬が二匹いた気がした。それに人の数も6人のはずなのに8人に増えている。
(いつの間にか入れ替わったのか?)
そう考えているうちにいつの間にかデスティニーの顔面の目の前に茶色い髪をした少女がたっていた。
そしてデスティニーに対して何か・・・・話しかけているように見える。
「何がしたいんだ?・・・・・・まさか・・・・・」
いや、さっきの妙な敵もいたしあながち間違ってないかもしれない。
(まさかこいつら、デスティニーが自動で動いて、更にしゃべるとでも思ってるのか?)
「あのー、聞こえてますーーー?」
さっきの怒声にも近い声が聞こえてからしばらく話し合い、おそらくあれは意思を持ってるだろうということを仮定し、さっきからなのはがあのロボットの顔の前に立ってしゃべっているが、全然反応がない。
「私は高町なのはーー!!あなたはーーーー!?」
思いっきりいがっても、少し手足をばたつかせながらしゃべっても、何も反応がない。
ため息をつきながら、なのはは後ろへ向く。
「やっぱり違うみたいだよーー!」
仕方なく皆のところへ戻ろうとしたとき
「おい、」
と急に声が上がり、びっくりして再度デスティニーのほうへ振り向くなのは。
「話がしたいんだったらここへ来い。」
そういい指図されたのは人間で言うちょうど腹部の部分。
恐る恐るそこへいくなのは。
そしてその後、腹部がゆっくりと開かれる。
「え・・・・えーーー!?」
何が起こっているのかさっぱりわからないなのは。
そしてその中には、赤い宇宙服みたいなものを着ている少年がいた
しばらく目が点になるなのは。
ただ呆然と見つけるシン。
しばし訪れる沈黙。
そしてその沈黙を破ったのは、なのはだった。
「えーーーーーーーーーーーー!?ひ・・・人が乗ってるーー!!?」
「シン君だったわね。つまりあなたはプラントのザフトって言う軍に入っていて戦いの最中にあなたの機体・・・デスティニーだったわよね。それごとこっちの世界に飛ばされてきたってことよね。」
ここは戦艦アースラ内の食堂。シンはあのあと詳しい話を聞くためここに来ていて、今はこの船の艦長であるリンディと話をしている。
ちなみにシンと戦っていたなのはたちは、時間帯ということもあり皆でここで昼食をとっていた。
「ええ。大体合ってます。」
シンは意外だと周りを少しきょろきょろ見渡す。
最初は転移とか使って驚いて中身はどんな艦なのだろうと思ったら、意外とミネルバと共通しているところが多々あり意外だと思った。
(もっとSF映画っぽいものだと思ったけど・・・・ワープもしたし)
まあよくよく考えてみれば自分たちがいた世界はこの世界にしてみたらSFっぽい物なのかもしれない。
「ところで、私たちの世界について分かってくれましたか?」
リンディに聞かれ、悩むシン。
確かに今でも信じられないでいる。
魔法、ファンタジー物に出てくるものが実在することを信じろといわれてもいきなり言われると困るが・・・
「・・・正直認めざるを得ないというか・・・そんな感じです。実際魔法って言うのも見ましたし。」
シンは、なのはという少女の放ったMSのビーム兵器に匹敵するかそれ以上あると思われる光を思い出した。
だが、それよりも気がかりになることがある。
「あの、これから俺どうなるんですか?」
現在自分は右も左も分からない状態にある。その中で自分はいったいどうなるのだろうか。
リンディは少し難しい顔になりながら応えた。
「とりあえずあなたがいた世界の座標を確認してるんだけど・・・・まあそれが分かるまでは、しばらくここでいるといいわ。」
そうですか、と残念そうにするシン。
結局あれからオーブ侵攻戦はどうなったのか気になるが、まずか自分の問題をどうにかしたほうがいい。
「それで、ちょっとお願いがるんだけど・・・」
なにやらリンディが言いにくそうなことを言おうとしているのかなかなか言葉を切り出せないでいる。
「言いにくいけど、あなたががここに転移された直後に戦った相手、こっちの世界では傀儡兵と呼ばれているけど、それと戦ったよね。」
ああ、あいつらか。とシンは思い出す。
「実はあれが各地で出没してこっちは対応で困ってるのよ。それで、悪いけどあなたの戦いをみせてもらってたの。」
いつの間に・・・とシンが心の中でささやいた。
「正直驚いてるわ。あの大きさであれだけの機動性を誇るなんて。それも魔力もないなんて。」
「そういうならこっちも同じさ。人間がMSの火力を上回る攻撃をするなんて、それもあんな女の子が。」
そういいながらシンはなのはを指差す。
「魔法ってああいうものいなのか?」
「彼女は特別なのよ。まあ、一種の才能かしら。」
ふーん、とシンはまじまじとなのはを見つめる。
仲間たちと話をしている彼女の姿は、どうみても普通の小学生にしか見えない。
「まあそれで相談なんだがだけど、あなたの世界が分かるまでこの事件に協力してほしいの。」
え?とシンが意外そうな顔をする。
驚いているのはシンの後ろにいる、いつの間にか話に参加している少女たちも同じだ。
「もちろん協力するのはこの件だけだし、報酬も出すわ。悪くない条件だと思うんだけど。」
「ちょっと待ってください、そんなこと急に言われても・・・」
いきなり協力しろと言われて戸惑うシン。
「もちろん強制はしないわ。それに協力をしなくてもちゃんと君をもとの世界に帰してあげるわ。」
そういわれてシンは考え出す。
まあ確かに言われて見ればここまでしてくれるのだから別段悪い条件ではない。
「わかった。協力しよう。」
ありがとう、と笑顔で答えるリンディ
けど、とシンは一言付け加える。
「デスティニーのバッテリーが持つ間だけだからそこまで期待はしないでください。しばらくは大丈夫だと思いますけど。」
わかったわ、と返事をするリンディ。
それと、ともうひとつ何か言いたげなリンディ。
「そのかわり、こちらの指示にはしたがってもらうからね。」
わかった、とぶっきらぼうに答えるシン。
「それと、あなたの住まいのことなんだけど・・・」
リンディはハヤテのほうを見る。
はやてがうなづきシンのほうを向く。
「シンさん、もしよかったらうちにけえへん?」
え?とシンは目を天にする
「心配ないで、ヴォルケンの皆も賛成ゆうてるし。」
「いや、そういう問題じゃ・・」
「ほなシンさんはずっとアースラでおる気なん?」
まあ一応はそうしようかなとシンは思っていた。艦内での生活は自分の世界ではふつうに何日もいたから。
「まあせっかく誘われたんだからそうしたほうがいいんじゃない?」
リンディにもそういわれるが、どうしようか迷うシン。
それをみたリンディは軍人に最も効果的な一言を放つ。
「はやてさんの言ったとおりにしなさい。これは艦長命令です。」
こういわれては了解、としか言えないシン。
さきほど、艦長の支持には従ってもらうといわれているし、彼の胸についているフェイスも、ここでは全く役に立たない。
こうして異世界に来て新たな生活を送るシン。
だがこの世界にも、新たな波乱が待ち受けることになる。
「ほかの異世界にも影響が出てるの?・・・・まあどうでもいいことだわ。」
ここは地球でも、宇宙でもない次元空間。
そこには大きな岩の塊のようなものがあり、その部屋らしきものの一角に二人の女性が。
正確には、ひとりと、研究所などでよく見られる円柱の機材に少女が入っている。
「私はただあなたとここで静かに暮らしたいだけ。」
少女が入っている機材にすがりつくようになってしゃべる女性。
「あの出来損ないには感謝しないとね。ジュエルシードでこんなところに飛ばされたと思ったらこんないいものが手に入ったなんて。」
女性は機材の横にある人間と同じくらいの大きさの宝石のように輝いているものに目を向ける。
「これが家族愛ですか。麗しいですな。」
部屋の入り口で男が一人立っている。
だがその顔派は半分仮面で覆われていて、その表情をよく読み取れない。
「何の用?ラウ・ル・クルーゼ?」
その男、クルーゼは唯一見せている口をほころばせながら言う
「なあに、声がしたのでたまたまね。」
プレシアは眉をひそめる。
「それと、出来損ないという言葉がきになってね。」
その言葉が癇に障ったのか、少しヒステリックになる女性。
「そういうあなたもその出来底ないよ!忘れないでね!あなたを復活させたのもこの子を復活させるための実験台なのよ!!」
クルーゼは最終決戦の後、時空どころか次元まで超えてここにやってきた。
そこに偶然居合わせた彼女が実験材料として復活させたのだ。
「わかっていますよ。これでも以前の身体より馴染んで感謝しているのですよ。」
彼がいた世界。コズミック・イラでもクローン技術は使われていたらしい。
だがそれは失敗に終わり、どのクローンもテロメアが短く長くは生きられない出来損ない。
彼女はその技術者たちは馬鹿の無能だとしか思えなかった。
私が出来損ない呼ばわりしているクローンでさえ、身体的には問題がないのだ。
「あなたは私の命令に従えばいいのよ。分かっているの?」
彼女はクルーゼをにらむ。
「わかっております、それでは私はこれで。」
クルーゼは表情を変えないまま部屋を出て行く。
プレシアは少し落ち着き再度前を見た。
「フェイト、今でも私を母だと思うのなら私とアリシアに気付いてみなさい。」
この女性、それは以前なのはたちによって終結した事件「ジュエルシード事件」の張本人。プレシア・テスタロッサであった。
「もし気付いたのなら、あなたを本当の娘にしてあげるわ。そのほうがアリシアも喜ぶはず。」
生きているときにアリシアは妹か弟がほしいといったことを思い出す。
ならがあの子、フェイトを娘として出迎えればいい。
プレシアはそのことに最初は拒否したが、アリシアが喜ぶならなんだってすると決めた。
だが彼女は決定的な間違いを犯した。
それはクルーゼを生き返らせたこと。
そして彼女は知らない。クルーゼがどのような人物なのかを。
ここはクルーゼにあてがわれた部屋。
今クルーゼは笑っている。
「くくく、どの世界も結局は同じということか。」
笑うしかない。どの世界も結局は根本的には同じ。
「ならが私が変えるさ!!この私が!!すべてを消してな!!アーーッハッハッハッハ!!!」
彼は笑う。声の限り笑う。
「私の野望のためには、少しは役に立ってもらうぞ、プレシア・テスタロッサ。」