まだ少し暗い早朝とも言える時間帯。
「ん・・・」
その時間にシンは目が覚めた。
まだ少し暗いので時計を見る。
「6時すぎか・・・」
少し早すぎる時間に起きて何をしようかと考えた。
もう一度寝るには微妙だし、おそらくほかの人はまだ寝ているだろうと思う。
(とりあえず・・・・トイレに行くか・・・)
そう思い部屋を出てトイレにいこうと思ったが、廊下の電気がついてることに気付く。
「消し忘れか?」
そう思いながらトイレを済ませると、部屋の灯りがついていて、何か音がした。
「誰だ・・・・」
そう思って部屋に入ると、そこにははやてがいて、朝食の準備をしていた。
「どしたんシャマル?きょうは早いなあ。」
「え?」
シンのほうを見ずにはやてはシンとシャマルを間違える。
「あ、シンやったん。今日は早いなあ。」
「ああ、っていうか今までが遅かったって言えばいいかな?向こうじゃ忙しくてあんまり寝れなかったし。」
戦場から離れてそういう生活を送って、身体が休みを求めているのかもしれない。
「暇だし、何か手伝おうか?」
早く起きて何もすることがないので、何か手伝うことがないか聞いてみる。
「シンって料理できる?」
「・・・・・・・・・・」
それを聞かれてシンは黙る。
はっきり言ってシンは料理は出来ない。
「無理せんでええよ・・・ほな、あの皿机に並べといて。」
言われて支持された皿を机に並べる。
そこに、今度はシグナムが降りてきた。
「おはようございます。主。」
変わってるところといえば、その手には竹で出来た刀が握られている。
「なんだそれ?」
「これか?竹刀っていうのだが。」
「竹刀?」
オーブにすんでいた頃にテレビかなんかでみたことはあるのだがよくわからない。
「竹で作られた刀だ。」
「へえ・・・」
ふとここでシンは思いつく。
「なあ、研ぎ器があったら貸してくれないか?」
「え?砥石やったらあるけど・・・」
そういいキッチンの下から砥石を出す。意外と本格的な砥石でいろいろある。
「ありがとう。」
そういい砥石をおいて自分の部屋に戻るシン。
戻ってきたときにはなにやら袋が合った。
「ちょくちょくやっとかないと・・・」
そういい取り出したのは・・・・
「ナイフ?」
見た目は地味だがそこそこ立派なナイフだった。
「ああ、軍人なんだから持ってて当たり前だろう。」
そういいナイフを研ぎ始めた。
しばらくするとシャマルが起きてきた。
「おはようはやてちゃ・・・・」
シャマルがちょっとした部屋の異変気づく。
はやては料理をつくり、シグナムは庭で素振りをしている。
そこまではいつもどおりだ。
いつもと違うところは、シンが居間でナイフを研いでいることであった。
「あ、シャマルおはよ。早速やけどお鍋みとって。」
そういい別の作業に取り掛かるはやて。
もう一度シンを見てみると、研ぎ終わってナイフを真剣に見つめるシン。
こう見ると、本当に軍人なんだなあと思える。
ヴィータもおきて、今日は少し早めの朝食を始めた。
「あ、そや。シン。」
「ん?」
何か思い出して、シンを呼ぶはやて。
「休日はともかく平日の朝と昼過ぎはあんまし外にであるかんといてくれる?」
「え?なんでだよ。」
「ふつうシンの年齢の人は学校いってるやん。」
「地球ではそうだな。」
「ほれで警察の人とかに見つかって質問されたらどないするん?」
ああ、とシンは話の内容を理解した。
もし質問されて「学校は?仕事は?」などと聞かれた場合を考えているのだ。
この世界の学校なんていってないから言えないし、「軍人です。」なんていっても信じてはもらえまい。
「なるほど・・・・わかった。出来るだけ努力する。」
「まあ、しょっちゅ出歩かんかったら大丈夫やと思うけど・・・シンの年齢やったら義務教育も終ってるし、そこまで追及されんとおもうし。」
おそらく出歩くなというのは念のためなのだろう。
「なあなあ。」
はやてとの話が終ると今度はヴィータが話しかけてきた。
「ん?」
「机にあるあのナイフってお前の?」
そういえばまだヴィータにはまだ話してなかったなとシンは説明する。
「ああ、軍用のナイフだ。ほかにもいろいろあるよ。」
「なんだよ?銃とかあるって言うのか?」
試しに言ってみて、流石にそれはないだろうとシグナムもシャマルが言う。
しかし・・・・
「ああ、入ってるよ。」
「「「「・・・・・・え?・・・・・・」」」」
その言葉に一同が沈黙する。
「なんだよ・・・・軍人なんだから持ってて当たり前だろう。銃ぐらい。」
そのシンのタイミングを計るかのようにニュースが流れる。
「続いては、○○市内でおきた、警官殺傷事件です。警官がナイフのようなもので数箇所刺され、携帯している銃が奪われる事件で・・・・近所の皆様は、十分お気をつけください・・・」
そのニュースを聞いて、全員がシンのほうを見る。
「え・・・・」
犯人と思われたらしく、あわてて誤解をとこうとする。
「あ・・あのなあ、軍人なんだから持って手当たり前だろう。それに・・・・ここに来てからずっとお前らと一緒だっただろう。」
懸命に誤解をとこうとするシン。
確かに・・・・とうなずくはやて。
それに、シンはどう見てもナイフで人をさして、拳銃を奪うということはしそうにない。
「それもそうやな。ほなけど、銃はリンディさんに預けとったほうがええで。ここでは一般人が銃を持つんはれっきとした犯罪やけん。」
はやてに注意され、ああ、と汗をかきながら言うシン。
(近々デスティニーに戻しておくか。)
見つかってこの世界で牢屋行きは流石に簡便するシン。
だが、ニュースはそれだけではなかった。
「なお、その現場の近くの公園で小学生くらいの子供のものと思われる右腕が見つかりました。警察は、ばらばら殺人として調査し、警官を殺害した犯人と同一人物の方向で調査を進めています。」
「ぶっそうねえ・・・・」
シャマルがニュースを見て嘆く。
部屋にいる皆もも同じきもちになる。
「主、これから遅くに出歩くときは、誰かついていたほうがいいでしょう。」
ニュースを見てシグナムが提案する。
「ほれもほうやな・・・・」
少し話して、帰りは出来るだけ誰かが迎えに行くことにした。
だが、シンも、この部屋にいる皆も、誰も気付くはずがない。
その右腕が、シンの妹、マユ・アスカのものであることに・・・・
もう昼過ぎになる時刻。
はやてはすでに学校で、シャマルはザフィーラの散歩ついでの買い物、、家にはシンとヴィータとシグナムの三人。
シンはパソコンを使って以前リンディに渡されたディスクを見ている。
そこにはオーブ戦での映像が流れていた。
その中で、フリーダムの戦いと、ジャスティス・・・アスラン・ザラとの戦いを見ていた。
「くそ・・・早い・・・」
シンはアスランとの戦いを見て、焦りを覚える。
この戦闘記録を見るだけでも分かる。明らかに反応が早い。特に格闘技術においては、フリーダムのパイロットよりも上かもしれない。
先にこっちが攻撃したのに、それなのにシンよりも先に攻撃を加えている。
(俺じゃ・・・・あいつには勝てないのか・・・・・)
敗北感がシンにのしかかる。
『おまえは、本当は何が欲しかったんだ!?』
画面の向こうでアスランが語りかけてくる。
「ロゴスを撃って、オーブを撃つ・・・お前はそれでいいのか!?」
次々と話しかけられるアスランの言葉。
そのときだった。
「おーい」
ヴィータが呼びかけながらドアを開ける。
急なことだったのであわててモニターを消すシン。
「な・・なんだよ・・・・」
「暇なんだろ?ゲームに付き合ってくれよ。」
そういいゲームソフトを持ちながら言うヴィータ。
シンは考えて、気晴らしになるだろうとOKを出した。
どうもさっきから気分が暗くなる一方であった。
「わかったよ。」
そういいながら席を立ち、そのまま部屋を出る。パソコンをつけっぱなしと気付かずに・・・
居間では3人がそろっている。
シグナムは新聞を見ながらコーヒーを飲んでいる。
数日前の話を気にしていて、こうして昼に新聞を読むことにしたシグナム。
「新聞でも話題になっているのか。」
今見ている記事は、朝放送していたニュースと同じものであった。
○×公園に幼児の右腕。警官殺害と関連は?と、大きく取り上げられていた。
噂では、その腕の写真が秘密にネットに流れているらしい。
「全く・・・何を考えていんだ・・・」
そこで、ふと前を見る。
「このままではおわらんぞーーー!」
いかつい男の叫びが部屋に聞こえる。
「やっぱ人間って・・・オモシロ!」
そのあと、妙な悪魔っぽい男の声が聞こえる。
前では、シンとヴィータがゲームをしていた。
「くっそーー!負けたーー!!」
ヴィータが悔しそうに叫ぶ。
「なんあんだよあのボス!!途中で変なノート出して40秒たったら負けって・・・反則だろ!!」
さっきまでシンがやっていたのだが、どうやら隠しステージを出したようで、それをやりたくてヴィータがやっている最中だった。
だが・・結果は見事敗北。それでヴィータは苛立っていた。
そこで時計を見る。
「もうこんな時間か。」
確か今日は近くの剣道場で稽古があったはず。
シグナムは自室へいって道具を取ろうとして、シンの部屋のパソコンがつけっぱなしであることに気付く。
電気代の無駄だと思って消そうとして、モニターを起動させたが、そこにはひとつの映像が流れていた。
「これは・・・・シンの乗っていた・・・デスティニーだったか・・・」
映像には、デスティニーと、もうひとつ、赤い機体が接近戦で勝負をしていた。
「シン!お前が欲しかったのは何なんだ!?」
あの赤い機体に乗っている奴だろうか、シンとは別の男の声が聞こえる。
「オーブを撃つ!お前は本当にそれでいいのか!?」
そのあと、デスティニーはその機体にやられていた。
先ほどの会話でオーブ・・・・確かシンが住んでいた国だったか、その名前が挙がる。
「何故アスカは自分の国を・・・・」
そこまで考えたときだった。
「おい・・・・」
暗い声がして、はっと気付いて横を向くシグナム。
そこには、はっきり怒っているシンの姿があった。
ゲームをしている最中に、パソコンを消し忘れたことに気付いたシンは、消しにいこうと思ったら、シグナムが部屋にいて、戦闘記録と通信記録を見ていた。
「わ・・悪かった。」
はっきりと謝るシグナム。
確かにさっきのは勝手に部屋に入って、人のパソコンを見たシグナムが悪い。
一方シンは、怒ってるというより、恥ずかしがってるという感じだった。
まあ、他人に自分がやられているところを見られたら、誰だって恥ずかしがるものなのだが。
「・・・まあ、俺もちゃんと消してなかったのが悪かったけど・・・・」
そこで、シンの顔が暗くなる。
そこでためしに聞いてみることにした。
「あの機体に乗っている奴を知っているのか?」
それにシンが反応して、ゆっくりと答える。
「あいつは・・・・裏切り者だ。」
そしてシンの顔が少しづつ怒りへと変わる。
「俺たちがいた軍を抜けた時に、俺が一度殺したはずだった・・・」
シンの顔が今度は悔しさへと変わる。
「けど・・・・生きていて・・・・・わけわかんない事いってきて・・・・・今度こそ息根のをとめようとして・・・・」
「それでああなったのか・・・」
シグナムは記録の一部を思い出す。
急に動き出して、振りかぶったデスティニーの一撃は、難なく相手に返され、逆にデスティニーの武器を破壊した。
それを聞いてしばしシグナムは考えた・・・・
「アスカ・・・お前、血が上ったら周りが見えなくなるだろう?」
それを聞かれて言葉につまるシン。
実際、それが原因でアカデミーにいたときでも少々問題児扱いされていた。
「いくら上手にあれを扱えるからといっても、あのままではとっさのことに反応できないぞ。」
ぐさり、と痛いところを疲れるシン。
実際、今まで急な展開に対処できず、苦戦していることが多い、オーブ沖でのMA戦、ダーダネルスでのアークエンジェルの乱入などがいい例だ。
だが、それも仕方がないのかもしれない。
シンは家族を失った後、プラントという国に渡ったと聞いた。
身寄りの者もおらず、見知らぬ地で一人で生きているのだ。こうなっても別に不思議ではない。
「なんなら、私が鍛えるのを手伝ってやろうか。ちょうど心身ともに鍛えれるところを知っている。」
いきなりのシグナムの言葉に前をむくシン。
「いいのか?・・・・」
「ああ。あのときの、強くなりたい。力が欲しいという言葉に、嘘偽りはないのだろう?」
みんなの前で言った、二度と失いたくない・・・守りたいものを守る力・・・・
「ああ・・・」
「ならそれでいい。お互いより高みを望むということはいいことだ。」
そういい立ち上がった。
「ちょうどいい、今日、その稽古があるところだ。一緒に来るといい。」
そういってヴィータに向かってしゃべる。
「ヴィータ、これから私はアスカと出かける。遅くなるかもしれないからそのときはシャマルに主の迎えを頼むよう言っておいてくれ。」
わかった、と腕を上げながら返事をするヴィータ。
そのあと準備を終らせたシグナムとシンは家を出て目的地へ向かった。
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