「あいつ、大丈夫なのか?」
ヴィータはスターライトブレイカーに飲み込まれたシンを見る。
なのはの持つ、おそらくなのは最強の魔法、スターライトブレイカー。
あの攻撃を喰らったのは暴走した闇の書、そしてフェイトの二人。
「なのは、本気で撃ってる……」
フェイトは、およそ1年前に受けたスターライトブレイカーを思い出す。
今回のそれは、カートリッジシステムのおかげで以前よりも威力は遥かに上回っていた。
「まあ、よくやったほうだな」
シグナムはそういって前を見ると……
「っつ……」
そこには、ところどころ騎士甲冑に傷があるが、何とかスターライトブレイカーに耐えているシンの姿があった。
『フルコールドプロテクション』
シンの前には、二重にはられたプロテクションがあった。
手にあるデバイスの手の甲からプロテクションを出現させるフルコールドプロテクション。
だがそれでは防ぎきれないと思い、シンは両手のプロテクションを発動させたが、まだ足りないので、カートリッジを使用して何とか耐え切ったのだ。
おかげてカートリッジは空っぽ。
シンがカートリッジを交換しているときに、シグナムは気付く。
「あいつ……」
シンの目は輝きはなく、あの時、美由希を助けたときのように赤黒く、雰囲気もあのときのようだった。
「うそ……」
なのはは唖然としてシンを見る。
確実に倒せたと思ったし、自身もあった。
シンはなのはが唖然としているうちにカートリッジの交換を済ませ、構える。
「ステラ、アロンダイト、それにミラージュコロイドも」
『わかった』
握られていたスラッシュエッジが光りだし、シンの身長を超えるほどの長さを持つ大剣になる。
それと同時に、カートリッジが射出され、シンの背中から輝くように魔力で出来た翼が形成される。
『ミラージュコロイド』
シンはなのはに向かって突撃する。
「え?」
なのはは、自分は夢でも見ているかのような錯覚に見舞われる。
戦いを見ているはやてたちも同様である。
ただ一人、レイだけが普通に見ていた。
シンが、残像みたいなものを残しながらなのはに接近する。
「ディバインバスター!」
なのはは攻撃するが、奇妙な分身のようなものが邪魔で、うまく照準が定まらない。
「はあぁぁぁーーーーー!」
そのままなのはに接近し、アロンダイトを振り下ろす。
だが、実際にこんな大剣なんて使ったことない。
修行のときもほとんどをファイティングアーツで戦ってきた。
ゆえにその振りは遅く、紙一重でかわされる。
なのははこのまま後退しようとするが、すぐに体勢を立て直したシンは再度攻撃を加えようとする。
だが、アロンダイトの攻撃は通じない。
そう思ったシンは……
「これでーーーーー!!」
シンは、アロンダイトを思いっきり投げつける。
「え!?」
予想外の行動になのはは驚き、反応が遅れてしまうが……
『プロテクション』
レイジングハートがそれを察し、とっさに防御する。
それを見たシンは突貫し、再度アロンダイトを持ち、力を入れる。
「うおーーーーーー!!」
少しずつだが、プロテクションにひびが入っていく。
その時、なのはは瞬時にレイジングハートをアクセルモードに戻す。
「アクセルシューター!」
シンの周囲にアクセルシューターが出現する。
シンを囲むように展開されたそれは、まっすぐに、逃げられないようにシンを襲う。
「くっそぉ!」
シンは、なのはへの攻撃を止め、防御に専念する。
『フルコールド』
展開されたプロテクションで攻撃を防ぎ、何とか堪えるシン。
なのはのプロテクションを張っていたせいか、そこまで多くの数はなかった。
防ぎきった後、なのはを見失ったシン。そこへ……
『フラッシュムーヴ』
気付くと、なのははシンに向かって上空から急降下で迫ってきた。
迎撃するためにシンはアロンダイトを持つが、既にアロンダイトはぼろぼろだった。
だが、それを気にせずシンもなのは似向かう。
「でやああぁぁーーーーーーーー!!」
「うぅおぉーーーーーーーーーー!!」
レイジングハートとアロンダイトが激突する。
ただでさえぼろぼろのアロンダイト。
そこへ、急降下時の重力を味方につけたレイジングハートはアロンダイトを粉砕する。
そのままフラッシュムーヴでシンにトドメを誘うとするのだが……
「え!?」
シンは意外な方法でそれを阻止する。
どうせアロンダイトが砕けることは承知していた。
だったらアロンダイトを捨て、相手の動きを逆に封じればいい。
そう思ったシンは二つの武器が交差した瞬間にアロンダイトを手から離し、レイジングハートの柄、ちょうどなのはの右手と左手の間を持つ。
「真剣白刃取りって、ちょっと違うか?」
一度掴んでしまえば片手でも十分両手のなのはを抑えることが出来る。
シンはカートリッジをロードする。
その数3発。
「これが、俺の切り札!」
『パルマフィオキーナ』
シンの右手がなのはの腹部を抑える。
「いけぇ!」
そのまま右手のたまった魔力を放出する。
零距離で放たれた砲撃は、なのはを吹き飛ばし、なのはは海面に衝突した。
「はぁ……はぁ……」
シンもほとんど魔力は残っていない。
(どうだ?)
シンはなのはが落ちた海面を見る。
すると……
「何!?」
シンはまたバインドで拘束される。
流石に、ここまで魔力を消費するとなかなか引きちぎるという荒業は出来ない。
「シン君。びっくりしたよ」
ゆっくりと海面から姿を現すなのは。
「まさかあんな攻撃をしてくるなんて」
そう言ってなのはは再度レイジングハートをエクセリオンモードにチェンジし、シンへ向ける。
「今度はこっちの版だよ!」
そういって、魔方陣が展開される。
この大きさはなのはの十八番、ディバインバスター。
ただ違うのは、エクセリオンモードのはずが、そこまで大きな魔方陣ではない。
「フェイトちゃんの魔法をちょっと真似してみた新必殺魔法!!」
そういって、カートリッジをロードする。
その数、4発。
なのはの周りに、ディバインバスターの魔方陣が複数、少なくても10発以上はある。
「私の魔法?……!!」
フェイトは、一つだけ思い当たる節があった。
思い出したと同時に、フェイトは呆れ、同時に心配する。
「なのは……あれするならせめてアクセルシューターにしたほうが……」
はたして、今のなのはに耐えれるかどうか……
フェイトはなのはを、そしてそれを受けるシンを心配する。
「フェイトちゃん。なのはちゃん何する気なん?」
全然なのはの言っていることがわからないはやては、フェイトに聞く。
「あ、えっと…実は、まだはやてやシグナムに見せていない、あんまり使ったことがない魔法があるんだ」
そんなフェイトの言葉に、シグナムは反応する。
けど、と付け加えるフェイト。
「隙が多いから、シグナムにつかったらその場で倒されるから使わないけど」
苦笑いを浮かべるフェイト。
「いくよ!新必殺!!ディバインバスターEX、ファランクスシフト……シューーーーート!!!」
なのはの指示と同時に、複数の魔力の塊がシンを襲う。
もうシンに抗う意思はなく、ただそのあまりにも激しい衝撃に、シンは意識を失った。
「ん……」
シンはアースラのベッドで目が覚めた。
あれからアースラに運ばれたらしい。
「あ、目が覚めましたね」
横を見ると、そこにはシャマルがいた。
ふと気になったことは……
「で、今度はどれぐらい気を失ってたんだ?」
そんなシンの言葉に、シャマルは笑いながら答える。
「半日くらいかな?地球じゃ、今は夕方くらいよ」
シンも笑いながら、起き上がろうとするが、まだ体の節々が少し痛い。
「にしても、最後はびびったな……」
シンがそう思っていると、いつもの3人組が入ってきた。
「あ、シン君、大丈夫?」
どうやらなのはも少しやりすぎたと自覚しているらしい。
「ごめんなさい、やっぱりまだ制御がうまくいかないみたいなの」
そりゃああれだけの物を制御するにはかなりの集中力と魔力が必要なのはわかる。
なのはも、あれだけの魔術を使って、かなり眠そうである。
「大丈夫だよ」
シンは笑いながら言う。
そこへ、もう一人医務室へやってきた男が一人。
「お、目が覚めてるな」
その男、ムゥをみて、シンは少し顔をしかめる。
ふと、戦う前のなのはの話を思い出す。
(私が勝ったら、ムゥさんと仲直りしてもらうからね!)
チラッとなのはを見ると、その顔は笑っていた。
「ちゃんと約束は守ってもらうからね」
そんななのはを見て少しため息を付くシン。
「じゃあ、仲直りの印に、二人で握手ね」
なのはにいわれて、いやいやながら手を差し出すシン。
(やれやれ、素直なのかそうなんだか)
そう思いながら、ムゥも手を差し出す。
あ、となのはは大事なことを思い出す。
「あと、お互いの名前も呼ばなきゃね」
なのはの言葉に、はぁ、と疑問を浮かべるシン。
「だって、シン君はムゥさんのことをお前、とか、アンタ、とか。ムゥさんも坊主、とか名前で全然呼ばないでしょ?」
でしょ、って言われても……
「ほとんどクセだしなあ……向こうでもそうだったし…」
シンの言葉に、ムゥも頷く。
そんな二人に、なのはは少し呆れる。
「お友達になるんだったらちゃんと名前で呼ばないと!シン君だってレイ君のことはちゃんと名前で呼んでるのに」
むしろ、シンにとっては名前で呼ぶほうが少ないかもしれない。
そういわれると、確かに反論が出来ない。
「まあしょうがない、これからよろしくな、シン」
ムゥの言葉に、少し違和感を感じながらシンもいう。
「わかったよ。ここにいる間だけだからな、ムゥ・ラ・フラガ」
素直じゃないねぇ、とムゥは笑う。
だが、こうして仲直りは完了した。
ふと、はやては思い出す。
「シン、明日からシグナムがシンを鍛えてくれるって」
はやての言葉に、やっぱり、と少し予測していたシン。
「どうせこの世界にいるときにしか使わないから別にいいのに……」
「そういうわけにはいかない」
ふと前を見ると、シグナムが立っていた。
「見ていて思ったが、あまりにも剣の扱いがひど過ぎる。あれでは宝の持ち腐れだ」
はあ、としか言い返せないシン。
「ナイフしか使ったことがないのなら、習っておいて損はないと思うが。どうせ暇なのだろう?」
確かに暇だけど……もとの世界へ帰ったら多分いらないだろうし……
「それに、魔法のほうも教えなければな、使い方が荒すぎるからな……」
こうして、剣と魔法、両方の訓練をシグナム、ヴィータ、そして素手での戦いをザフィーラ(たまにアルフ)に教えてもらうことになった。
(訓練校時代を思い出すなあ……)
シンはそう思い、上を見上げるのだった。
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