Seed-NANOHA_342氏_第03話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:21:50

「う…ん。」
なのはが目を開けると、医務室にいた。
視界がややぼやけているが、アースラの医務室であることに間違いはないだろう。
「おっ、目が覚めた?」
ちょうど医務室の扉を開けて、少年が入ってきた。
黒髪に赤い瞳が印象的な男の子。
(お兄ちゃんと同い年ぐらいかな?)
「えっと、ごめんなさい。ちょっと記憶が混乱してて、どなたですか?」
「えっ?あ、よく考えたら、俺、まだ君になのってないな。」
コホンっと咳払いして
「俺は、シン・アスカ。C.E.ってとこからこっちの世界に来たんだ。アースラ?だったっけ?局員の服は着てるけど、借りてるだけ。高町なのは?だっけ、よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
すると、再びドアが開き、今度は、リンディがやって来た。
「なのはさん、大丈夫?」
「はい、リンディさん。」
「艦長、自分はこれで…。」ザフトの敬礼をし、シンは医務室から出ていった。

部屋から出ると、何かにぶつかった。
「いてッ!」
「ご、ごめんなさい。急いでたもので。」
「あぁ、大丈夫。気にすんな。」
フェイトはペコリと一礼すると、医務室の中へと入っていった。
入れ違いに、リンディが出てくる。
「シン君、ちょっとお話しましょう。」
「えっ?あっ、はい。」
二人は食堂へと向かった。
「協力…ですか?」
「えぇ、今回の件は相当厄介な事になりそうなの。
できれば戦力が多い方が、こちらとしては都合がいいのよ。」
「艦長、お茶が入りました。」
エイミィがトレーにお茶を三人分運んできてくれた。「ありがとう、エイミィ。」「ありがとうございます。」「いえいえ、シン君は砂糖いくつ?ミルクは?」
みるとリンディは自分で砂糖とミルクをカップに入れている。
カップの中身は…緑茶。
「…いや、俺はこのままでいいです。」
シンはカップを受け取り、そのまま口に運んだ。
「それで、協力してくれるのかしら?」
「協力ったって何すりゃい…何をしたらいいんでありますか?」
「もちろん、戦闘面で協力してもらうわ。
住居も提供します。
毎日、三食つくわ。そして、何より、時空管理局が責任を持って、あなたのいた世界を探してあげる。」
最高にいい条件だった。
(なんてサービス精神何だよ。こいつは…。)

「今日から、俺、ここに住むんですか?」
みるからに高級そうなマンションを見上げながらシンが言った。
「まっ、住むのは君だけじゃないがな。
母さんとフェイト、アルフそれから僕もだ。」
クロノは物資をシンの隣まで運び、降ろす。
「シン、上がるついでにこれを部屋に運んでくれないか?」
「あぁ。わかった。」

部屋に入ると、フェイトとリンディ、なのはがいた。(あれ?アルフは?)
などと考えていると、
「あっ、シン君。こんにちわぁ」
となのは。
「おっ、なのは、手伝いに来てくれたんだってな。
体の調子はもういいのか?」
「はい、体の方はもう何とも…。ただ、まだ魔法はほとんど使えないですけど…。」
声の調子を落とすなのは。「あ、シン、それは何?」
「テーブル。どこに置けばいいんだ?」
フェイトが丁度となりの部屋から出てきたところだった。
「それは…どこかな?リンディてい…、リンディさん?」

なんとか、家具の配置を終え、一同は一息つくことにして、みんなでお茶を飲んでいた。
「そろそろ時間ね。」
リンディが呟くと、ほぼ同時にリビング中央に魔法陣が形成され、そこから、子犬とフェレットが現れた。「新形態、子犬フォーム!」「う、うわぁぁ、犬が…喋った!?」
「わぁー、アルフちっちゃい、どうしたの?」
「ユーノ君もその姿、久しぶりだね。」
「う、うん。」
なのはとフェイトがそれぞれフェレットと子犬に話しかけている。
しかも、フェレットと子犬はちゃんと受け答えをしていた。
「フェレットも…!?って、ユーノとアルフ?これがぁ?」
「使い魔って、言わなかったっけ?」
アルフがシンの方へトタトタと小走りにやって来た。「えぇ、そー言えば、言ってましたね。」
シンがアルフの顎を撫でる。アルフは目を細めつつ、眠たげな声で簡単な説明をしてくれた。
「へ~、じゃあ、あのフェレット、ユーノはなのはの使い魔なのか?」
「いんや、あれは使い魔じゃない。」
「じゃあ、なんなんだよ?」「ユーノは元が人間、アタシは元が犬。
ユーノはただ変身魔法を使って動物に変身してるだけなんだよ。」
「へ~。」
アルフはごろんっと仰向けになる。
「へぇ~、アルフがもうなついてる。珍しいな。」
「こいつ、シンだっけか?撫でるのうまいんだよ。」
アルフはでっかいあくびを漏らした。

同時刻 八神家

「あれ、キラ君は?キラく~ん?」
キラの姿が見当たらないので、はやては探しているのだが返事はなかった。
「どうしたんですか?はやてちゃん。」
リビングの掃除を終えたシャマルがパタパタとはやての元へやって来る。
「キラ君、みらんかった?いつまでもサイズの合わん服を着せとるわけにもいかんから、昨日、買い物行こうやって言ったんやけどなぁ…。」
「キラ君なら、さっきヴィータちゃんとシグナムがつれて行っちゃいましたよ?お昼には戻るって言ってました。」
「そーなん?」
三人で一体何をやっているのか気になったが、まぁシグナムがついているから、との事ではやてはあまり気にしないことにした。

偏狭の世界
「ここなら、大丈夫だろう。」
シグナムは周囲に結界をはった。
「うわっ、何これ?」
キラの目の前の景色が一変する。
「封鎖結界、んなことも知らねぇのか。」
ヴィータは苛立たしげに言った。
「うん、ごめん。こういうの初めてなんだ。」
素直に謝るキラ。
「いや、別にいいんだけどよ。それより、デバイスを起動させろよ。」
「あ、う、うん。」
着ている服が一瞬にして、白と紺をベースにした服になる。
そして、両の手には二丁の銃。
「キラ・ヤマト、それがお前の騎士服だ。そして、手に持っているのがデバイス。
お前の持っているデバイスは、私たちのとは違うみたいだがな。」
とシグナム。
「騎士…服…ね。」
「それがあんたの体を守ってくれるんだ。デバイスは相手を攻撃するためにある。」
ヴィータはいつのまにか、騎士服になり、手にはハンマーを持っていた。それをキラに向け構える。
ジャキっと音がした。
「こいつはグラーフアイゼン。あんたのは?」
「え、えっ…とぉ~、(フリーダム…やられちゃったからな。名前…名前。)ス…。」
「「ス?」」
シグナムとヴィータがハモる。
「ストライクフリーダム。」「なんかよく意味の分からん名だな。私のは炎の魔剣レヴァンティンだ。」
一通り紹介が終わったところで、キラは気になっていることを聞いた。

「シグナムさんたちは魔法の力を…この力を何に使おうっていうんですか?」
「主を御守りするためだ。」「そう…ですか。」
沈黙が流れた。
封鎖結界内では風も吹かない。まだ昼にも関わらず、明かりがない。
決して真っ暗というわけでもない。景色は一望できる。ただ、明るいとは思えない。そんな感じだ。
「とりあえず、それは置いといて、そろそろ始めるぞ、キラ・ヤマト。」
「はい。」
シグナムはレヴァンティンを構え、キラは二丁の銃、フリーダムを構える。
「始め!」
ヴィータが合図した。

「はやて、ただいま!!」
「おかえり、ヴィータ。シグナムとキラ君は?」
パスタを魚介類をふんだんに使ったクリームソース(昨日のシチューの残りを使用)に絡めながら、はやてがヴィータを迎える。
「一緒に帰ってきたよ。」
すると、シグナムの肩を借りたキラが姿を見せた。
「た、ただいま…はやてちゃん。」
「めっちゃ、辛そうやな。何してたん?」
「ちょっと、シグナムさんに稽古をつけてもらって…ね。」
「お昼から服買いに外でるけど、大丈夫?」
「うん、それは大丈夫。お昼を過ぎる頃には、疲れもとれるだろうから…たぶん。」
シグナムに椅子まで肩を借りて行って椅子に腰を下ろすキラ。
「まったく、あれだけドカドカ砲撃魔法を多用すれば直ぐに魔力がなくなるのも当たり前だ。」
向かい側の席に座り、シグナムは自分のグラスに水を注いだ。
「すみません。」
「まぁ、初めてだというならそれも仕方ないが…。」だが、その初めての相手に何度かひやりとさせられたのも事実だった。
キラのデバイスは独特だった。
デバイス自体のモードは二つ、ライフルモードとサーベルモード。しかし、気にかかるのは、背中にある魔力で出来た青い翼。
一体なんだというのだろう。
「シグナム、ボーッとしてどうかしたん?」
はやての言葉にハッとして我にかえると、テーブルにはザフィーラを除くみんなの分のクリームパスタが用意されていた。
ヴィータを除く、キラ、シャマル、はやてはフォークを止め、シグナムに視線を向けていた。

「これなんかどうやろ?」
はやてが、いくつか見繕い、キラにその服を手渡した。
「うん、いいんじゃないかな。」
「いいんじゃないかな、やない。試着、試着。」
「あ…う、うん。」
「うちはその間にもう何着か持ってくるから、はよしてな。」
「素直に従った方がいいぞ。こういうことに関してははやてはうるさいからな。」
ボソッとヴィータ。
キラは苦笑して試着室内へと姿を消した。

「たくさん買うたなぁ。」
「本当に、ありがとう。はやてちゃん。」
両手を買い物袋に塞がれたキラがお礼を言った。ちなみに、はやての車椅子を押しているのはヴィータだ。「これからしばらく、うちに住むんならこれくらいしてやらんとな。
あっ、でも、手伝いとかはお願いするかも…。」
「僕に出来ることなら何でも言って。」
「そやなぁ~、じゃあ、家事全般やってもらおうかな。」
「あと、はやての病院の送り向かえもな。」
「えっ?あ…うん。」
「あはっ、冗談やて。」
「冗談だよ、バァカ。」
はやてとヴィータにからかわれつつ、とりあえず買い物は終わったのだった。

「あれ?艦長は?」
午後三時過ぎ、マンションの一室のリビングのソファでゴロゴロしていたシンは、リンディの姿がないことに気付いた。
「リンディさんならさっき本局へ行くって出ていきましたけど…。」
テーブルの上に雑誌を広げ、絨毯に座っているフェイトが答えた。
「そっか。で、フェイトは何の雑誌を見てるんだ?」
「携帯電話のです。リンディさんが買ってくれるって言ってくれたんで…、シンは、携帯電話、持ってないの?」
「…持ってたよ。」
「向こうの世界に置いて来たの?」
「ん、戦闘中にこっちに来たからな。携帯は戦艦の自分の部屋に置きっぱなしなんだよ。」
ペラッと雑誌のページをめくる音が二人きりの静かな空間に響いた。
「今頃、シンのことを心配してるだろうね。ご両親や友達が…。」
シンの返事が返ってこなかった。
「シン?どうしたの?」
雑誌から顔をあげるフェイト。
「あ、いや。何でもない。そうだな。みんな心配してるだろうな。」
フェイトは雑誌に視線を戻し、シンはソファの上に仰向けになり、頭の上で腕を組んだ。
(ミネルバのみんなは…どうしてるんだろう…。)

日が沈み、民家に明かりがともり始めたころ。
「シン、夕飯どうする?」
フェイトが開いていた雑誌を閉じ、立ち上がった。
「え、艦長は?」
「リンディさん遅くなるんだって…、クロノも…。だから何か適当に食べててって言われて、お金も預かってるんだけど…。」
う~ん、と考え込むシン。「どうするったって…、何か買うか作るしかないだろ…。」
「…だよね。」
「フェイトはこの辺の地理には詳しいのか?」
床で寝ているアルフを抱き上げていたフェイトはちょっと困ったような顔になった。
「うん、まぁ一応は…それで何食べたい?」
「フェイトは何か食べたいものはないのかよ?」
「じゃあ、お店に行ってから決めようか。」
そうだな、とフェイトの提案にシンは賛成し、二人は外出の準備に取り掛かった。ちなみに、シンの洋服は、アースラの男性局員から借りているものだ。
リンディがそのうちに買いにいくから、との事で部下から拝借してきたものだが、そのうち、と言うのがいつになるかはわからないらしい。
何でも、第一級捜索指定失物に含まれるロストロギア、闇の書を先の戦いの時にシグナム達が所有していることがわかったことで、本局が慌ただしくなっているそうだ。
部屋着から外出用の服に着替え、コートを着用し、シンは玄関へと向かった。
フェイトも丁度着替が終わったらしく、コートを着用しながらこちらへとやって来る。
「アルフ、留守番お願いね。」
「は~いよ。」
絨毯の上でまどろみながらアルフは返事をした。

外は寒かった。
当たり前と言えば当たり前えだ。こっちの世界では12月。
まだC.E.にいたときは月なんて関係なかった。国を転々とし、その国々で気候が違っていたし、のんびりと外に出る暇なんてなかったし、連戦で季節を感じるなんて事ができなかった。
「あっ、家族がいたときは…」
そうではなかった。
オーブにいたときは、家族がいたときは、夏が終わり、木の葉に色がつくころ、家族皆で紅葉をみに行ったりしたものだ。
弁当を母親が作り、車を父親が運転し、マユとはからかい、からかわれたりしながらよく遊んだ。
「シン?」
隣を歩いているシンの表情が哀しげに見え、フェイトは声をかける。
「いいよな、こういうの。」哀しげに笑いながらシンが言う。
「えっ?」
「こうやって、誰かと外に出てさ、賑やかな通りを歩けるって…。」
「うん、私もそう思う。」
フェイトは頬を紅く染め、微かに微笑んだ。

ラーメン、とんかつ、蕎麦うどん、ファミレスetc...「どーするんだ?フェイト…何食べるんだよ?」
う~ん…とフェイト。どうやら興味を惹かれるお店が多くあるらしい。
(そういや、マユも携帯買うときこんな感じだったっけ?あの時は携帯を選ぶだけで三時間かかったんだよな。)
「どうしよう…。」
まだ迷っているフェイトにみかね、シンが提案する。「コンビニか、スーパーで惣菜か弁当買って帰るってのはどうだよ?アルフも家でまってるし…一緒に食べればいいんじゃないか?」
「…うん、そうだね。そうするよ。」
手近なスーパーへと入り、惣菜、弁当コーナーへ向かう。
「…、アルフって何食べるんだよ?」
「何でも食べるよ。お肉なんかは特に大好き。」
「じゃあ、唐揚げ弁当で…、俺は…おっ、これにしよ、海鳴デラックス弁当。」フェイトが持っている買い物籠に唐揚げ弁当と海鳴デラックス弁当をいれ、シンは右手を差し出した。
「籠、貸せよ。重いだろ?」「ううん、大丈夫だよ。」
「いいから、フェイトは弁当選べよ。」
半ば強引に籠を奪い取り、フェイトを促す。
「…ありがとう。」
それからフェイトが弁当を決めるまで三十分かかったと言う。

「ありがとうございました。」
店員の営業スマイルに見送られ、二人はスーパーをでた。
相変わらず外は寒い。
体の芯から熱をうばっていくような冷えかただ。
すれちがう人々の白い吐息が空気に溶けこんでいく。(ベルリンはもっと寒かったな。)
そんな事を考えながらシンは歩く。
(ステラも…こんな世界だったら、幸せになれただろうな。もちろん、魔法とは無関係で…。)
シンは隣を歩くフェイトを見る。
(フェイトもなのはも戦ってるんだよな。こんな、小さな子どもが…)
それは、自然にとった行動だった。シンは買い物袋を持っている手とは逆の手でフェイトの頭を撫でていた。
顔を真っ赤にするフェイト。
「…何?急に…。」
「あ、いや…ゴメン。いろいろ、考え事してたらつい…。気に触ったら、謝る。」
首を横に振るフェイト。
「ちょっと、びっくりしただけ。でも…、何で急に?」
冷たい空気を胸一杯に吸い込み、一気に吐き出す。
「似てるんだ、俺が…守ってあげられなかった子に…。」
「…守れなかった?」
「まぁ色々あってね。」
まだ幼い子にするような話ではない。そう思ったシンは笑って誤魔化した。けれど、その笑顔は何処か寂しげで、苦痛に歪んでいるようにフェイトには見えた。
「「ただいま~。」」
家に着くと、人型アルフがシンとフェイトを迎えてくれた。
「おかえり、フェイト、シン。ずいぶん遅かったじゃないか。」
「ごめんね、アルフ。」
「誰かさんが何を食べるかで随分深刻に長い時間悩んでたからな。」
家をでたのが六時前、帰って来たのが七時半過ぎだった。フェイトが困ったような笑みを浮かべる。
「まぁ…今更驚かないけどね。」
半ばあきれたようにアルフはフェイトを見ると、シンの買い物袋に目が止まる。「それ、アタシの分?」
「もある。はい、アルフにはコレ。」
シンは唐揚げ弁当をアルフに渡した。
「ちょっと待って、アンタたち、そとで食べてきたんじゃないの?」
「ううん、お弁当買ってきたの。暖めてくるからちょっと待ててね。アルフ。」皆の分の弁当を持って、フェイトは台所へ姿を消した。
「アタシャてっきり外で食べてきたもんだと思ってたよ。」
「結構店が多かったから迷ってたんだよ。」
「ふ~ん、まっ、そこがフェイトの可愛いとこなんだけどね。」
「俺の妹もそんな感じだったけどな。」
シンはアルフの横を通り抜け、コートを脱いでクローゼットにかけた。
(俺の妹もそんな感じだったけどな…。)何かが引っ掛かるもの言いだったがアルフは気にしない事にし、フェイトが暖めている弁当を食べにリビングに向かった。

「キラ、起きろ!」
「う…。」
ドスンと腹の上に何かが乗っかった。
「ヴィ…、ヴィータちゃん、どうしたの?」
「今回はお前も連れてくんだってよ。」
キラの腹の上であぐらをかく。
「今、何時?」
「22時だな。」
「二時間は寝たんだね。」
「つーか、早く起きろ!時間がねぇ。」
キラの上から飛び下りるヴィータ。
「う、うん。」

「遅かったな。二人とも」
あるビルの屋上にシグナム、シャマル、ザフィーラがいた。
「悪い、シグナム、こいつが起きんの遅くてさ。」
ヴィータに腕を引っ張られ、よたよたとついてくるキラ。よほど、今朝の魔法の訓練がこたえているらしい。
「キラ・ヤマト、デバイスをさっさと起動させろ。」
「はい…」
着ていた服が騎士服に変わる。よくよくみてみると、シャマル、シグナム、ヴィータも騎士服に変わっていた。
「あれ?ザフィーラは?」
さっきまでザフィーラ(犬)がいたのだが、見当たらない。いるのは犬耳に尻尾をつけた見知らぬ男…。
「この姿でお前と会うのは初めてだったな。キラ。」
「えっ、ひょっとして…ザフィーラ?」
「話は後だ、行くぞ。キラ・ヤマトはヴィータとザフィーラと共にいけ、私はシャマルと行く。」
シグナムとシャマルはその場から飛び立つと姿を消した。
「ったく、シグナムもよぉ、こんなやつ押し付けやがって…。ノロノロしてっと置いて行くからな!ちゃんとついてこいよ!」
ヴィータ、キラ、ザフィーラも飛び立ち、姿を消した。

翌日、AM7:00
「おはようございます。リンディさん。」
「あら、おはよう。フェイトさん。シンくんの魔法の訓練は終わったの?」
「はい、念話と基本的な事を少々…。」
フェイトは椅子に腰掛け、机にナプキンをひく。
「はい、フェイトさん。」
目玉焼きに、ベーコン。野菜サラダにパンののった皿をリンディが運んでくる。「シン君の分も用意したんだけど…帰ってきてないわね。」
「シンなら、アルフともう少し訓練してから帰るって言ってました。」
「そう。お弁当も作って置いたから忘れちゃ駄目よ?」
「はい、ありがとうございます。いただきます。」

ふぅーっと、息を全部吐き、目を閉じる。全神経を自分の右の掌に集中する。薄く赤い光がシンの掌に発生し、足元には深紅の魔法陣が形成された。赤い光は一つの丸い球となり、そして…
「そこだぁ!!」
放つ、赤い球は弾丸の如く真っ直ぐに目標である空き缶に向かい、飛んで行くが、空き缶を通りすぎて、地面にぶつかり、バシュッと音をたて霧散した。
「当たらないねぇ~。」
とアルフ(子犬フォーム)。「だ~、ちくしょう!なんで当たんないんだよ。」
「まぁまぁ、自分一人で魔法を使えるようになったんだから…。そろそろ戻んない?アタシ、お腹減ってさ…。」
シンは額に滲んだ汗をタオルで拭い、アルフが座っているベンチのとなりに腰掛ける。
時計をみると七時半だった。背持たれに体重を預け、空を眺める。薄い雲が筋の用に伸び、まだ半分しか姿を覗かせていない太陽の光を反射して茜色に輝いていた。
「すごいよな…。フェイトも…なのはも…。」
ポツリとシン。
「何だい、急に?」
「だって、まだ九歳だろ?俺が九歳の頃っていったら、ただの子供でしかなかった。」
「まぁね、色々あったんだよ。フェイトにも、なのはにも…。」
よっ、とベンチから立ち上がり、アルフと一緒に帰路に着いた。

「ただいま~。」
「お帰りなさい。朝ごはん出来てるわよ。」
靴を脱ぎ、リビングへ入っていくと、リンディが資料に目を通しながらお茶をすすっていた。
「いただきます。」
五分程でたいらげ、食器を流しへ持っていく。魔法の特訓で疲れたのでシンは少し、仮眠をとることにした。
AM11:00八神家、廊下
「また、キラくんがおらへん。シャマル、キラくん知らん?」
「キラ君なら、ヴィータちゃんとザフィーラと一緒に出かけましたよ。」
「そーなん?」
「えぇ、まぁ出かけたと言うより連れていかれましたね。ヴィータちゃんに…。」
「主はキラ・ヤマトが気になるようですね。」
階段からシグナムが降りてきた。
「はやてちゃん、キラ君の事が好きなんですか?」
何故かシャマルが頬を染める。
「ち、ちゃうよ。ただ…。」「「ただ…?」」
「キラ君、異世界からきたんやろ?そうやったら、こっちの世界やと一人ぼっちやん…。
一人の辛さや寂しさは一応知ってるつもりやから…。できれば、不安にさせたくない。」
「………。」
「でも、私が心配せんでも、みんなキラ君と出かけたりしとるから、取り越し苦労やね。」
はやては笑った言った。

学校から帰ってきた、フェイトとなのははアースラにいた。
なのはのリンカーコアが正常に回復しているかどうかを調べる検診だ。もちろん、シンとアルフもアースラに来ている。
医務室からなのはとフェイトが出てきた。
「なのは、もうなおったのか?」
「うん、もう元通りだってさ。」
それはよかったと三人と一匹で喋っているとエイミィがやって来た。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、シン君、三人のデバイス、修理終ったよ。」レイジングハート、バルディッシュ、が手渡され、シンにもデバイスが渡される。
「いい?三人とも、修理の際…。」
エイミィの言葉を遮って艦内に警報がなり響いた。

「くそっ、監理局のやつらか…。」
ヴィータ、ザフィーラ、そしてキラは多数の監理局魔導士に囲まれていた。
(どういう…ことなんだ?)わけがわからない。
そもそもヴィータが言った監理局という組織が一体なんなのか、キラには分からなかった。
すると、包囲がとかれ、代わりに
「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!!」
声。
淡いブルーの光の剣が三人に向かって降り注いだ。

発光し爆発がおこる。
「ザフィーラさん!」
キラが声を上げた。
ザフィーラの腕に数本、剣が刺さっていたのだ。
「心配するな、これぐらいでどうにかなるほどヤワじゃない。」
ザフィーラが腕に力を入れると剣が抜け、落ちる。
ホッとするキラ。
「安心すんのはまだはぇーぜ、キラ。」
ヴィータが指す方をみると、新たに三人、転送されてきた。
うち一人は見覚えがある。オーブの慰霊碑の前でいくつか言葉を交した少年。
(誤魔化せないってことなのかも、いくら綺麗に花が咲いても人はまた…吹き飛ばす。)
その言葉が、少年の怒りの篭った瞳が脳裏に蘇った。あの時、キラは返す言葉が浮かばず、何も言えなかった。
「じゃあ、あのMSのパイロットは…。」
合点が行く。
あの時、僕を討ったのはあの少年だ…。と

バリアジャケットを装着した。なのは、フェイト、シン。何やら追加装備があったらしく、起動に手間がかかった。
「あいつは!」
シンもまた思い出す、オーブでの出来事を…。
青く光る魔力でつくられた翼。そのシルエットはまさにフリーダム。
腕に、アロンダイトを持つ手に力が入る。
(討ったのに…討ったはずなのに…また、どうして?ステラの仇をとったはずなのにィィィ!!!)
頭の中で自分の声が木霊した。
「シン君?」
「シン…?」
シンの異常に気付いたなのはとフェイトが声をかけるが次の瞬間には憎悪に満ち、人間の声量の限界を超えた様な、そんな怒声をあげていた。
「…くそぉぉぉおおお!!!」『ロードカートリッジ。
フラッシュ・エッジホーミングシフト』
鍔にあたる部分から薬筒が弾け跳び、勢いよく振り上げたアロンダイトを降り下ろす。
魔力刃の部分がアロンダイトの本体から外れ、2つに分割。ブーメランの用に目標であるキラへと、挟み打ちをするような形で向かってくる。
「くっ!!」
『ライフルモード』
キラの持つ二丁の銃の銃口の先端に環状魔法陣が発生し、さらに、魔力を増幅するための増幅リングと圧縮リングが展開される。
シンとは対照的な青い魔力がリングによって増幅され、さらに圧縮される。
そして、左右のフラッシュ・エッジに狙いを着け両トリガーを引いた。
ドゥッ、と魔力の奔流が勢いよく発射され、見事に命中、フラッシュ・エッジは相殺された。

「ちっ!」
「ちょっ、シン君、まずは話を…。」
なのはが止めようとするが、静止を無視してシンは飛びだし、キラへと向かっていく。
しかし、突如、紫雷がシンを襲った。
「お前の相手は私だ。シン・アスカ。」
監理局の戦闘局員のはる結界をレヴァンティンで強引に破り、結界内に侵入してきたシグナムだった。
こうなってしまったら話し合いどころではない。
そう判断したクロノは指示を出した。
「(なのはは、赤い服の子と、フェイトとユーノはあの青い子を捕えて、力が未知数だから油断するなよ。アルフは…。)」
「(わかってるよ。丁度、アタシもあいつに用がある。)」
ザフィーラを睨んだ。
クロノからの指示を受け、なのは、フェイト、ユーノ、アルフはそれに従う。
「(僕は彼等のマスターを探す。皆、頼んだぞ。)」
それぞれ、了解の声を上げ、散開した。

「この!」
自分の視界にフリーダムのパイロットを捕えながらも、シグナムに邪魔されて討ちに行くことができず、シンはイライラしていた。
かと言ってシグナムを無視するわけにも行かなかった。前回よりも武器が強化され、レヴァンティンと打ち合う度にヒビが入りはしないが、剣の修行を、実戦で行っていなかったシンにとっては、シグナムの攻撃一つ一つを見切り、防ぐのがやっとだった。
(気を散らせば負ける。)
今は、悔しいがフリーダムのことを出来るだけ頭から切り放し、戦闘に集中することにした。

「サポートは僕にまかせて、フェイトは前へ。」
「うん。」
ヒュッと音を立て、キラへ向かっていくフェイト。
「一体、何だって言うんだ…。」
キラはこの突然の状況を理解できず、呆然としていた。
「チェーンバインド!」
その隙をついたユーノのバインド。相手の捕縛を目的とした魔法だ。
声にハッとし、慌てて回避するキラ。
三本のチェーンバインドを一本、二本と回避していく。
『Warning!サーベルモード』
フリーダムの警告。キラは振り向き、背後からのフェイトの一撃を辛うじて二刀のサーベルで受ける。
「ぐっ!!どうして、こんな…。」
競り合っている間に、シグナムや、ヴィータ、ザフィーラの状況を確認する。
(駄目だ、シグナムさんもヴィータちゃんも、手が空いてない。やれるのか?
やるしかないのか?)
サーベルに力を込め、一旦相手、つまりフェイトとの間合いをとった。

『プラズマランサー』
フェイトの足元に魔法陣が展開され、周囲にも八つの環状魔法陣が展開される。
「プラズマランサー、ファイア!!」
「チェーンバインド!!」
ユーノが操るチェーンバインドがキラを誘導し、避けたところへフェイトがプラズマランサー放った。
「くっ。」
サーベルでプラズマランサーを弾き飛ばすが、一旦、弾き飛ばされたそれらは、空中で制止し反転して再びキラへと向かって発射される。
「これは…。」
『ライフルモード。』
キラはさらに上空へと回避行動をとり、魔法陣を展開、左右のライフルを前後で連結させ、追尾してくるプラズマランサーに狙いをつけた。
連結した銃の前後から薬筒が弾け跳び、リングが複数とりまく。
キラはトリガーを引いた。フラッシュ・エッジを相殺したときとは比べ物にならない太さの魔力の奔流がプラズマランサーを飲み込み、消滅させる。
しかし、息をつくまもなく、フェイトの追い撃ちが続く。
「はぁぁぁ!!」
振り上げたバルディッシュのリボルバーが撃ち出す圧縮魔力を刃へと変化させ、サイズフォームへと変化する。
「くっ!!」
後ろへと回避行動をとりながらトリガーを引き、通常射撃魔法を連射し威嚇するが、フェイトは放たれた魔法をバルディッシュで切り裂き、加速。
キラとの間合いを一気につめる。
さらに横から再びユーノのバインドがキラへと向かってきていた。
それを視界の隅に確認する。
(ここで、捕まるわけにはいかないんだ。何でこんなことになってるのか皆に聞くまでは…当てられるか?)
キラは意を決し、魔法陣を展開。カートリッジを両銃から二発ずつ、計四発消費する。
『ハイマットモード・スタンバイ』
自分を追ってきている少女とチェーン状の魔法が三本、そしてその術者の少年が一人。
さらにターゲットを加える。
オーブで出会った少年にヴィータと戦闘中の少女。それからザフィーラと戦闘中の相手をも加える。
「ターゲット、マルチロック!!」
『オールライト』
最後に左右一発ずつカートリッジを消費する。
だがすぐには魔法を発動させない。全てに遅延をかける。
なぜなら、フェイトがすぐ目の前にまで迫って来ていたからだ。
キラの全身に汗が吹き出した。

失敗は許されない。
魔法を維持し、今からやろうとしていることに全神経を集中する。
振り上げられたバルディッシュを目の前にしてキラは両手のフリーダムを空中に投げた。
「ッ!?」
えっ!?フェイトはキラの行動を疑問に思いながらもバルディッシュで縦一閃を見舞う。
一方、キラはフリーダムを手放した両の掌に自分の掌より一周り大きい防御障壁を発生させ、バルディッシュの魔力刃を両手の障壁で挟み、受けとめる。
「そんなッ!?」
目を見開くフェイト。
「ごめんね…。」
キラの左右の腰辺りに待機させていた射撃魔法が発動する。
「バルディッシュ!!」
『ディフェンサープラス』キラの狙いに気付いたフェイトは直ぐ様障壁を展開し、直撃をさけた、五メートルほど後退する。
キラは直後に手元に落ちてきたフリーダムを構え、遅延を解除し、魔法を発動させた。
『ハイマットモード』
キラの背中にある、魔力でつくられた翼が展開される。左右合計八枚。
「間に合え!!」
ユーノはなんとかバインドを間に合わせたかった。
嫌な予感がするのだ。その魔法を撃たすな。
直感がそう告げていた。
『ハイマットフルバースト』
「当たれぇぇぇえええ!!!!」ズドォォッ!!!
魔力の奔流がチェーンバインドを飲み込み砕く。
中距離だったユーノはともかく、至近距離でしかも、魔力の量が一番多い、キラの腹部から放たれた奔流を障壁で受けていた。
「うぅぅぅ…。」
フェイトの魔力を障壁の上からえぐっていく。
ユーノはフェイトを援護してやりたいが、こちらも防御で手一杯になっていた。

ディバインシューターのコントロールに集中していたなのはにレイジングハートが警告する。
『Caution!!』
「えっ!?」
『プロテクション!』
レイジングハートが自動で全包囲バリアを展開した直後に激しい衝撃がなのはを襲った。
「いったい何!?」

「ぐぅぅうう!!」
シンも必死に防御障壁を展開していた。
「くっそぉぉおお!!」
ふと視界の隅に人影が写る。人影はただ降下を続けるだけだった。
眩しい魔力の光だけにはっきりしないが、シンは確にそれを確認していた。
金髪のツインテール、フェイト・テスタロッサ。
「フェイト!!」
障壁の角度をずらし、射線軸から離脱し、落下中のフェイトを抱きとめた。
「フェイト!大丈夫か!?」「う、うん。大丈夫…。ちょっと受けきれなかっただけ…。」
顔を真っ赤に染めながら、言った。着地し、シンはフェイトをそっと地面に寝かせる。
「ありがとう、シン…。でも、大丈夫。立てるから…。」
黒い髪でシンの表情が隠れ、確認することはできなかった。
シンは立ち上がり、空を見上げ、キラを睨む。
オノゴロで家族を失ったとき…フリーダムがいた。
ハイネのときも、ステラのときもフリーダムがいた。討ったのに…、討ったはずなのに…、今度もまた俺の前に現れ、大切な繋がりを奪おうというのだろうか?砲撃が終わったようで、辺りが静かになった。
「…いつだってそうだ。あんたはそうやって俺の前に現れて、大切な人や家族や友人や仲間を奪っていく。」
(殺してやる!今度こそ…)頭の中で何かが弾け思考がクリアになり、憎悪がシンを支配する。
シンは地を蹴り、飛翔した。
「あんたって人はぁぁぁああああ!!」
一気に加速、キラへとフラッシュエッジを連射しながら向かっていった。

「はぁ…はぁ…。」
疲労感覚がキラを襲った。『Warning』
フリーダムによる警告。
「えっ?」
4つの光の刃がキラを狙う。そのうち三つを撃ち落とし、ひとつを避ける。
『シールド』
フリーダムが自動で防御結界を発動させた。
避けたそこには、シンが待ち構えていた。アロンダイトからカートリッジを二発消費する。
右手をフリーダムの張った結界に当てがい、そして…『パルマ・フィオキーナ』「あんたは、俺が殺す!!」『バースト』
シールドが破壊され、キラはその衝撃で吹き飛び、近くのビルに激突し、粉塵をあげた。