Seed-NANOHA_342氏_第04話_中編

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:23:44

「早いッ!!」
フェイトは後ろに跳躍し、クスィフィアスを避ける。地に着弾し、爆破、砂塵を巻き上げた。
このまま距離をとられるのはまずいと判断し、バルディッシュを構え、キラへと向かっていく。
プラズマランサーからの追撃を受けているキラはフェイトをそのまま迎撃すべく、加速して行く。
バチバチ!
バルディッシュによる縦一閃を二刀のサーベルで受け、互いに力で押し合った。金色と蒼色の魔力が反応を起こす。キラの背後からはプラズマランサーが追尾してきている。
もちろん、気が付いてないわけではない。
競り合い中にも関わらずキラは腕の力を抜いた。フェイトはその隙を逃さない。力を込めて弾き飛ばした。上半身がのけぞるようになってしまったキラはそのまま宙返りをする。
キラの体で隠れていたプラズマランサーがフェイトの視界に入った。、ターゲットの突然の回避行動に対応できず、術者であるフェイトへと突っ込んでいく。
「ターン!!」
すんでのところで、プラズマランサーを制止、再び制御し、キラへと放つ。
しかし、プラズマランサーのターン動作中に、通常射撃とクスィフィアスによって四発が破壊された。
キラのカートリッジが尽きる。
「ぐっ、弾がっ!?」
フリーダムに装填できるカートリッジは左右合計二十発。最大二十二発で恐ろしく燃費が悪い。今回は自分で作ってきたマガジンを後一組持ってきている。
総弾数残り二十発。
プラズマランサーが目前まで迫ってきている。
キラはサーベルを駆使して四発を払い除けるが、それらは反転し、再びキラを襲う。
「もらった!!」
「くっ!」
通常射撃魔法で残りの四発を撃ち落としている間に、フェイトに接近されていた。既にバルディッシュを構え、後は一閃するだけだ。刹那の間にキラは判断し、右のフリーダムを左のフリーダムに連結させて右手を空け、ラウンドシールドを展開した。
バルディッシュの刃が突き刺さる。だが、キラは防御力が高いわけではない。
バルディッシュとフェイトの集中力と精神力によって研ぎ澄まされた刃がシールドをメキメキ音を立てて、貫通し始める。
まだ、マガジンを装填していないフリーダムを左手に焦り始めるキラ。
(くそっ!!まずい。)
額に汗が滲んでくる。
それを感じながらキラは何とか回避する手段を考えようと、必死にシールドに魔力を集中しつつ、思考にも集中する。
「この!」
フェイトもここで相手に一撃を入れ、状況を自分に有利にしたかった。
「バルディッシュ!!」
カートリッジが一発消費され、リボルバーが回転する。
『ハーケンフォーム』
途端にバルディッシュの魔力刃に魔力が集中し、シールドに食い込んだ刃が、まがまがしく形を変化させ、無理矢理にシールドに亀裂を作っていく。
「くっそぉぉおお!」
『シールドバースト』
キラが駄目かと諦めかけたとき、フリーダムが自動でシールドを爆散させ、フェイトを数メートル吹き飛ばした。
その間にフリーダムにマガジンを装填する。
『Please, call me cartridge load.』
「フリーダム、カートリッジロード。」
ガシャンと音がし、フリーダムにカートリッジが正常にロードされる。
『プラズマスマッシャー』カートリッジを二発消費し、フェイトが砲撃魔法の体制に入った。リングを三つ展開。最大射程を犠牲に、威力と発射速度を高める。『カリドゥス』
一方キラも左のフリーダムから一発だけカートリッジを消費し、リングを三つ展開する。
「プラズマ…スマッシャー!!」
「これでぇ!!」
放たれるは同時。
雷を伴った金色の魔力と紫電を伴った蒼色の魔力がぶつかり、爆ぜ、反応し、砂塵を巻き上げる。
「はぁぁ!!」
「このぉ!!」
砂塵を掻き分け、キラとフェイトが交差した。

ハラオウン家のマンションに再び警報がなり響き、今度はなのはが出動する。
「エイミィさん、俺をフェイトのところに転送してください。」
モニターをしっかりと監視しながらキーを叩いているエイミィにシンが言った。「どうして?フェイトちゃんならちゃんとやってくれるよ。」
違う、フェイトが勝つ、負けるを言っているわけではない。
「二人の方が、捕まえるのは早いじゃないですか。」
「まぁねぇ…、だけど、フェイトちゃんと連携取るのは難しいと思うよ?
スピードも早いし…。」
「……くっ。」
両方の拳を握り、下唇を噛む。
フリーダムを撃つのは俺なんだ。俺でなきゃいけないんだ。
あいつは…、あいつだけは…!!俺が…!!!

灼熱の光がフェイトとキラの体力を削りとっていく。(この人、急所を狙って来ない。)
フェイトはキラと一旦距離をとり、そんなことを考えていた。
(なんでだろう?スピードではあの人が上だから、当てるチャンスは何度もあったはず…。なのに…)
と自分のダメージを確認する。バリアジャケットの胴の部分が少しだけ破れている。
後は足と腕にちょっとした切り傷がある程度。
(砲撃も殆んどが魔力ダメージ中心。私に勝つと言うよりは、負けないために戦ってるみたいだ。
けど…、勝つつもりで挑んでるこっちの攻撃がなかなか当てられない。
あの魔力で出来た翼が四枚になってから、スピードが増した上に、高速戦での体の安定性が高くなってる。)
フゥッと息を吐き、深く息を吸い込むフェイト。
生暖かい、空気が肺を満たした。
(やるしかないかな…ソニックフォーム。)

(反応速度が思っていた以上に早い…。)
フェイトを視界に捕えながら、キラも思考していた。(スピードは僕の方が上だ。だけど、うまいところで射撃魔法を混ぜて、補ってる。
それに…、魔力ダメージを警戒してか、ヒットアンドウェイを基本に戦ってるみたいだ。戦闘技術では彼女の方が上だ。油断すれば僕がやられる。)
ゴクリっと唾を飲み込み、相手を、つまりはフェイトを見据える。
(少しずつダメージを与えたんじゃ意味がない。
当てられるか?ハイマットフルバースト。)
熱波が吹き、キラの、フェイトの髪がなびく。
二人の頬を汗が伝い、そして砂地に落ちる。
それを合図に同時に踏み込んだ。
(初撃をかわして、ソニックフォーム。これで行く!)
(初撃で怯ませて、ドラグーンで牽制、それからフルバースト、これで行く!)キィィィン
何かの音が耳に入る。
その音は魔法陣を展開する音。キラの注意がそれ、フェイトはその隙を逃さない。
チャンスとばかりに、バルディッシュで横薙一閃を見舞おうと構えるが、それが振り切られることはなく、フェイトは自分の体の異常に、キラはフェイトの体の異常に目を奪われていた。

「頼む!!行かせてくれ!!いや、行かせてください!」エイミィの背後でシンは土下座していた。
「シン君…。」
エイミィはモニタをみていない、シンも額を床に押し付けているためモニタをみていなかった。
「わかったわ。だけど、非殺傷設定は解除してはダメ。いい?」
条件つきではあるが許可されたのだ。シンは顔を上げ「ありが…」
固まった。
「じゃあ、転送の準備するから…、ポートへ向かって!」
キラがぐったりしたフェイトを抱きかかえている。
「フェイトちゃんが…!!シン君、早く!!」

「あぁぁぁ…。」
悲鳴をあげるフェイト。
「あなたは…!?」
キラは驚愕する。仮面を着けた男が突然フェイトの背後に現れ、そして男の腕がフェイトの胸の辺りから突きでて、いや生えていたのだ。
「奪え…。」
男の低い声音が響く。
そして手にはフェイトのリンカーコアが輝いていた。「こ…こんな…。」
こんな形で手に入れることが許されるのか?
キラは戸惑う。
「奪え…。」
男から再度、言葉が発せられる。キラは迷った。
(どうする?いいのか?こんな…、こんな形で…。
だけど…。)
(近いうちに発作が起きると思います…。)
再び蘇る担当医の言葉。
(そうだ。今は…はやてちゃんを助けることだけを考えるんだ。)
「(ヴィータちゃん、闇の書を…)」
念話を使い、闇の書を転送してもらう。
「ごめんね。テスタロッサちゃん…蒐集開始…。」
闇の書が開き、フェイトの魔力を蒐集する。
蒐集が完了するのを確認すると仮面の男は転移し消えたさった。
砂地に倒れたフェイトを抱きかかえ、立ち尽くすキラ。罪悪感がつのる。
フェイトの頬に着いた砂を拭う。
「ごめん…ごめんね…。」
「フェイトォォォオオオ!!」アルフが声を張り上げやってきた。
「あんた!フェイトに何をした?」
「早く…治療してあげてください。」
「えっ?」
アルフは戸惑ってしまう。(何故?コイツがフェイトのリンカーコアを抜いたんじゃないの?)
取り合えず、主の危機には違いあるまい。どうやら、相手には今、争うつもりはないらしい。
ならば無理に争う必要はない。
キラとアルフがしばらくの間対峙していると、転送ゲートが開き、シンが現れた。
デバイスを起動させ、バリアジャケットを装着。アルフを見、そしてキラを見てから、その腕の中でぐったりしているフェイトに視線が止まった。
「はっ…ははは、また…かよ。」
シンの顔が憎悪に歪むのをアルフもキラもはっきりと確認できた。
「テスタロッサちゃんにごめんねって言っといてください。それから、早く治療を…。」
キラはなかば強引にアルフの腕の中にフェイトを押し付け、すぐさま飛翔を開始した。
「逃がすかよ!!」
『ケルベロスゲットセット』
シンの頭の中で何かが弾けた。

「アルフはフェイトを連れていけ!!
フリーダムは…俺が討つ!!」
シンは迷いなくケルベロスをキラに向け発射した。
「あんたって人はぁぁ!!」
「クッ!!やめろ!討ちたくないんだ!!」
回避行動をとりつつ、さらにシンから距離をとる。
『デスティニーフォーム』カートリッジが三発消費され、シンの背中に鮮血のように赤い翼が形成される。そして、飛翔した。
羽が開き、その羽の間から光が噴射される。
これがシンのデバイス、デスティニーの第3形態。
噴射される光は魔力で、これがスピードを爆発的にあげる。
瞬間的な加速力ならばフェイトを、ハイマットモード時のキラを遥かに凌駕する。
「殺してやる!今度こそ!!」「早いッ!?」
距離をとっていたはずがいつのまにか追い付かれている。ただ、最初のような加速力はない。
恐らく、瞬間的にスピードをあげるのだろう。キラは瞬時にそう判断する。
アロンダイトを大きく振りかぶり、キラ目がけて一閃。
『サーベルモード』
フリーダムで受けるが、あっさりと双剣を弾き飛ばされる。
「く、くっそぉぉおお!」
大きく後退しながらもシンに通常射撃魔法を連射する。しかし、当たらない。
デバイスがシン以外をロックしていて狙いが定まらないのだ。
ロックしているのはシンが動いたあとに微かに残る残像。
「こ、これは…。」
キラはデバイスのオートロックを解除する。
「家族がオノゴロで死んだとき…あんたがいた!!!」
『フラッシュエッジホーミングシフト』
キラはシンとフラッシュエッジから回避しつつ、射撃魔法をフラッシュエッジに当てる。しかし、その隙にすぐ目前にまでシンが迫って来ていた。
『シールド!!』
フリーダムによる自動防御『パルマ・フィオキーナ』「しまった…!」
「ハイネが死んだときも、ステラが死んだときも!
あんたがいたぁぁ!!」
シールドが破壊され、さらに後退させられるキラ。
「なのに…今更討ちたくないだって?」
カートリッジが一発、デスティニーから弾け跳ぶ。
「ふざけるなぁぁああ!!」
展開された翼の羽と羽の間から激しく光が噴射される。アロンダイトを対象に突き刺さるように構え、
『ハイスピード・スラスト』
一直線に怒れる猛獣のごとく突っ込んでいく。
「うおぉぉぉおおお!!!」

キラはまだ体勢を立て直していない。
「くっ…このままじゃ…。」(近いうちに発作が起きると思います。覚悟しておいてください。)
何度目か思い出される担当医の声。
(はやてちゃんの足が悪くなったのは私たちのせいなんです…だから……。)
(思っていたよりも浸蝕がはやいな…。)
(はやて……。)
「こんなところでやられてたまるかぁぁああ!!」
キラの頭の中で何かが弾けた。初めてではないこの感覚。疲労していた体がグンッと軽くなる。
目前にまでシンが迫ってきている。
超高速の突きが繰り出された。キラは体勢を立て直さず、そのまま体勢をわざと崩し、突きを避け、アロンダイトと平行に飛行する。シンがキラを見下ろし、キラがシンを見上げる形となった。
勢いが着いたシンは止まらず、突きを繰り出したそのままの体勢でキラと一緒に飛行する。
左右のフリーダムから薬筒が弾け跳び、
『クスィフィアス』
二発の魔力弾がほぼゼロ距離でシンに直撃した。
「うわぁぁ!!」
「君に守ってあげたい人がいるように、僕にだって守ってあげたい人がいるんだ。」
体勢を立て直し、キラが言放つ。シンはデスティニーの自動障壁のおかげでで十メートル程後退させらるだけで済んだ。
「何を!じゃあ、あんたは自分が守りたいものの為なら、何を犠牲にしてもいいってのかよ!!」
シンは再び羽を展開し飛び出した。瞬時に最高速度へと達する。
「それは君もだろ!!」
シンから距離を取りつつ射撃をするキラ。
「家族を殺したから、友人を、大切な人を奪ったから、だから殺す。殺されなくちゃならない。
君はそう言いたいのか!!」
キラの射撃を避け、切り払いしながら、シンは言い返す。
「あぁ、そうだ!!目の前で家族を失い、仲間を殺されて!…守りたかった人も守れずに…、その原因になった奴が目の前にいるのに、あんたは引くのかよ!!」
カリドゥスとケルベロス、蒼い閃光と緋い閃光がぶつかり会う。
「わかるけど…、君の言いたいこともわかるけど!君だけがそんな思いをしているわけじゃない!!!!」
キラとシンの両者が同時に斬撃をくりだす。
「何にも知らないくせにィ!!知ったような口を聞くなぁぁああ!!」
「何にも知らないのは、君だ!!僕だって、アスランだってカガリだって、守れなくて失ったものがあるんだぞ!!君だけが失って悲しい思いをしてるわけじゃない!!それがわからないのか!!」

「けど…、だけど…!!」
ガシャアンっと音を立て、互いに斬り、かわしあう。「君が苦しいのはわかるけど…、でも君が力を手にしたその時から、今度は君が他人の命を、大切な人を失わせる側になるんだぞ!!」
――――えっ!?―――――
それはいつかアスランからシンが聞いた言葉だった。『ディバインバスターエクステンション』
突然の砲撃に、シンもキラも間合いをとり、回避行動をとる。
その砲撃の主は一人の少女だった。

ヴィータヘの投降呼びけに失敗したなのはは一旦ハラオウン家に戻っていた。
「すみません、エイミィさん…。」
「仕方ないよ、邪魔が入っちゃったし…。」
「ところでフェイトちゃんは?」
モニターしていたエイミィはアルフから聞いたことを話した。
「フェイトちゃん、大丈夫かな…。」
「今は、アースラ内の医務室で検査、治療中らしいよ。それよりも…。」
エイミィがモニターを指差す。
二人の少年が戦っていた。それぞれ、何かを叫んでいる。
「なのはちゃん…この戦闘…止められる?」
困ったように首を傾げるなのは。
「シン君…また艦長とクロノ君の指示を無視して非殺傷設定の解除をしてる…。このままじゃ…。
シン君を止めてあげられないかな?」
「出来るだけやってみます。」
と言うわけで今、シンを止めにここに来ている。
だが、
「あんたがぁ!あんたが殺したくせにぃぃいい!!」
『フラッシュ・エッジホーミングシフト』
再び、キラへの攻撃を再会するシン。
「もう、やめろ!!僕を行かせてくれ!!」
「誰がぁ…誰が行かすかよ!!」
フラッシュエッジがキラを誘導する。
「くっ…。」
「シン君、落ち着いて!!」
なのはの呼び掛けに、シンは止まらない。いや、止まれない。ここで、フリーダムを撃つ。今度こそ。絶対。確実に仕留める。
気持だけが先へ先へと走っていく。
もう、周りの雑音も、景色も視界に入ってはいない。見えているのはただ一人の少年。フリーダムのパイロットだけ。
デスティニーに新しいマガジンを装填する。
狙うのはフラッシュエッジの撃ち落とし動作にできる隙。
デスティニーから二発のカートリッジを消費した。

一方、キラはフラッシュエッジを撃ち落とすかどうかで迷っていた。撃ち落とすために狙いをつければ隙をつかれ、パルマ・フィオキーナでシールドを破壊されてしまう。
これはきつい。魔力が一気に持っていかれてしまう。(それに…)
厄介なことにもう一人、監理局からの魔導士がいる。八方塞がりのキラは、なんとかこの場を逃げ切りたい。
シグナムはもう逃げ切っただろう。もう、自分がここにいる理由はないのだ。
フェイト、それからあのMSのパイロットと連戦で疲れも出てきているし、カートリッジも残り少ない。
「(シグナムさん!次元転送の準備を…、今から向かいます。)」
「(大丈夫か?)」
「(スピードはたぶん、僕の方が早いんで、僕がついたらすぐに転移できるようにしておいてください。)」
「(承知した。)」
キラは一人で次元転移ができない。そのためヴィータとシグナム、またはザフィーラこの三人のうち一人が残ることになっていて、あらかじめ合流地点は決めてあり、そこに集合することになっている。
キラは、サーベルモードに切り替えた。

「シン君、私がサポートするから!!」
『ディバイン・シューター』
しかし、シンにその言葉が届いているのかは不明だ。「今がチャンスだよね?レイジングハート…。」
『Yes, my master!』
レイジングハートは答えた。なのははその答えに背中を押されレイジングハートを構え、そして
「ディバインシューター!シュート!!」
八つの光弾を放った。

キラはシンを警戒しつつ、フラッシュエッジへと自ら突っ込んで行く。そして、二つの光の刃の間をすり抜け様に切り裂き、爆散させた。爆煙が発生する。
「よし、これなら!」
相手の視界を奪った。今なら逃げ切れる!
キラは八枚の翼を展開し、シグナムの元へと向かう。空を駆け、風を切る。
『Caution!』
フリーダムがキラに警戒を促す。
爆煙を突抜け、8つの光弾がキラに向かってきていた。どれも不規則に軌道を変えながら向かってくる。
「こ…これは…ッ!?」
ドラグーンに似ている。全包囲、360度。キラを取り囲むようにして、迫り来ていた。

「(弾速が速い!?)」
キラは最高速度を維持しつつ、状況を確認する。
じりじりとキラににじり寄ってくるディバインシューター。
そのディバインシューターが軌道を変え、円形にキラを取り囲んだまま内側へと入り込んでくる。
キラは急減速した。
8つのディバインシューターが互いにぶつかりあい、爆散、爆煙をあげる。
同時、フリーダムを連結、ディバインシューターの衝突地点に打ち込み、衝撃波を緩和する。
「逃がすかぁぁ!!」
「くっ!!」
思ったよりも引き離せていない。このままでは、振り切れない。
カートリッジ、残り四発。逃げ切れるのか?
『サーベルモード』
『ハイスピードスラスト』デスティニーのカートリッジを一発消費し、もうスピードで突功を仕掛けてくるシンを迎え撃つキラ。
「ディバインシューター!!シューート!!!」
なのはも、キラに追い付いてきていた。ディバインシューターでキラの自由を奪う。

一方、シグナムは転送の準備をし、キラが来るのを今か、今かと待ち構えていた。
「緑色の騎士服を着ている女を使って、あの男のコアを奪え…。」
気配もなくシグナムの背後に現れたのは、仮面の男。「シン・アスカのことか?」シグナムはレヴァンティン抜き仮面の男へと切っ先をつきつける。
「いや…、お前たちの仲間の方だ。」
「何だと?」
「あの男は逃げ切れない。敵を連れてくる。あいつのコアを奪って逃げろ。」
「し、しかし、それではキラ・ヤマトが…ッ。」
「闇の書を完成させろ。」
「だが…。」
「主を助けるのだろう?主の死が先か、闇の書の完成が先か、それとも異界の少年を助けるか?…お前たちはどれを選ぶ?
それにコアを奪ったところで、あの男が死ぬわけではないだろう?」
そう言い残し、仮面の男は姿を消した。

「くっそぉぉおお!!」
カートリッジはディバインシューターを破壊するためドラグーンを発動させ、使い果たした。
もう、大技は迂濶に撃てない。キラはシンとの距離をとった。
(考えろ!どうすればいい…カートリッジはもうない。砲撃でごり押しはできない。
けど…、捕まるわけにはいかない。はやてちゃんを…守るって、今度こそ守りたい人を守るって決めたんだ!!)

「(シャマル…、こっちへこられるか?)」
「(はい。でも、なんですか?)」
「(来てから説明する。早く来てくれ。)」

『バラエーナプラズマバスター』
高密度の魔力の砲撃がなのはとシンを襲う。
『ラウンドシールド』
なのはは防御し、シンはパルマ・フィオキーナの遅延を解除、右手をつきだしバラエーナを掴んだ。
「そ、そんな!?」
「そんなもんにぃぃいい!!」『バースト』
バラエーナに魔力を上乗せして、はねかえす。呆然とするキラは反応が遅れ、避けはしたものの、バランスを崩すことになった。キラがシグナムに助けを仰ごうと念話を繋ごうとしたとき、ちょうど念話が入る。
「(すまない、キラ・ヤマト…。)」
「(ごめんなさい。キラさん)」
シグナムとシャマルからだった。
「もらったぁぁああ!!!!」
『ケルベロスget set』
「しまっ……ッ!?…た?」キラの胸から腕が生え、青い光の塊がその腕の持ち主の手に握られていた。
青い光が少しずつ小さくなっていく。
「どういうことなの!?」
「なんなんだよ?これは!」やがて、手が引っ込み、キラは魔力低下のため、飛行魔法を維持出来なくなって、落下を開始した。
薄れ行く意識の中、キラはその手が誰の手かを思い出していた。
(緑…色の…?…シ、シャ…マル…さ…。そん…な…。)
同時にキラは理解した。さっきの二人の謝罪の意味を…。

「異常はないみたいね、なのはちゃんやフェイトちゃんと同じ、魔力が奪われただけ、しばらく魔法は使えないけど…一応、拘束しておきましょう。」
アースラ艦内、医務室。リンディはベッドに横たわる少年をみやると、医務室から出ていった。部屋に残ったのは、なのはとシンの二人だった。
少年は眠り続ける。
今なら、簡単に殺せる…。家族の、ハイネの、ステラの仇を今なら容易に撃てる。シンはそう思った。
そんなシンの考えを表情から見てとったなのは。
「駄目だよ。」
「……何が?」
何が駄目なのか、シンは分かっているのにも関わらずなのはに聞いた。その問いになのはは答えなかった。そして、ベッドに横たわる少年を心底心配そうな表情でなのはは見つめていた。

「シグナム…キラは?」
八神家に帰宅したシャマルとシグナムをヴィータが出迎えた。二人の表情がいつもよりも暗いことにヴィータは気が付いた。
「あれ?シャマルが闇の書を持ってたんだ?」
二人がうんともすんとも言わないので、キラに何かあったと察し、口を開こうとしたとき
「ヴィータ…話がある。」
シグナムは重たい口を開いた。

複雑な気分だった。
自分が討つと誓った相手だった。強敵で、なかなか撃てなかったから今日まで仇、仇といいながらも自分の甘さで生きながらえさせてしまった相手だった。
その相手が、自分の目の前で容易く崩れ落ちてゆく姿を見たシン。
信じられなかった。
自分が討つはずだった。
なのに…、家族を、ハイネを、ステラを殺した憎むべき敵なのに…憎いはずなのに、手を伸ばして首を絞めれば今なら殺せるはずなのに…。
「こ…、ここは…。」
キラが目を醒まし、周囲を確認した。シンと、なのはと目が合う。
「君達は…。」
「気が付いたんだね…。ちょっと待っててね。リンディさん呼んで来るから…。」
シンとこの少年を二人きりにするのは不安だが…、なのははリンディを呼びにいくために、医務室をでた。
医務室はシンとキラの二人きり。先ほどから長い沈黙が続いている。一度だけ、船医が医務室に入ってきたが何枚か資料を持って再び出ていった。
「……あの…。」
キラの呼び掛けにシンは視線だけを向ける。
「…ここは…どこなのかなっ…て…。」
シンは目を伏せ、腕を組んで壁に寄りかかった。
「やっぱり…監理局の…」
「黙れよ!さっきから、気安くペラペラと…、あんた、自分が俺に何をしたか本当に分かってんのかよ!!」シンはキラの胸ぐらを掴み、怒声をあげる。
キラは顔を背け、そして…「…ごめん…。」
といってうなだれた。
「……かよ。謝って済むと思ってんのかよ!!あんたは!!」
「…思ってないよ。謝って済むなんて…。」
その言葉が、シンの理性の、辛うじて繋がっていた線を引き千切った。拳が振り上げられ、
「だったら…。…んなこと言うなぁあ!!」
それをおもいっきりキラの顔面に叩きこんだ。

「ぐぁっ!」
キラはベッドから落ち、背中を床に打ち付け、後頭部をしこたま打ち付けた。
舌に鉄の味が…、鼻から鉄の匂いが抜ける。どうやら口の中を切ったようだ。
キラがそんなことを確認している間に、シンはマウントポジションをとり、拳を大きく振り上げ、キラの顔面に向かって振り降ろす。歯をへし折ってやるつもりで垂直に振り降ろした拳が床を捕える。
キラが首を振って避けたのだ。拳に激痛が走る。
その怯んだ隙をついて、シンを突き飛ばし、尻餅をついたところに蹴りを放った。シンは受け身をとり、よろよろと立ち上がりかけているキラを睨む。
一方、キラは膝が笑っていてしっかりと立てないでいた。体もだるい。
さっき放った蹴りで力を使い果たしたようだ。
(あぁ…、殺されるなぁ。)キラは諦めた。打つ手がない。相手は軍で訓練をうけた人間。自分はリンカーコアを抜かれたせいか、体が異常にだるい上、護身程度にしか体術はできない。
だから、諦めた。
シンがこちらヘ向かって突進してくる。
それがスローモーションの様にゆっくりに見えた。キラの膝がガクンっと折れ、床に膝をつき、目を閉じてラクスのことを思う。
小さく、自分にしか聞こえないようにそっと呟いた。「…ラクス……ごめんね。」刹那、医務室の扉が開き、声が響きわたる。
「シン君!!何やってるの!!誰か!!来て!」
リンディのただならぬ様子に艦内警備員が駆け付け、シンを羽交い締めにする。何人かをシンが打ち倒し、四人がかりでようやく押さえ付けることが出来た。
フゥッ!!フゥッ!!
と息を荒げるシンをリンディがひっぱたいた。
「落ち着きなさい!!」
「…ひっぱたきたきゃ、そうしても構いませんけどね。俺は間違ったことはしてませんよ!!
俺がいた世界ではこいつは敵で、戦場を混乱させて、そのせいで、ハイネも、ステラも…!!」
一瞬、シンは呼吸のために言葉を切り、リンディを睨みつけて、声をはりあげた。
「あんたは関係ない癖に!!なんにも知らないくせにぃ!!」
「関係ないなんて言わせないわ!!あなたの勝手な行動のせいで闇の書の手掛りを、情報を失うところだったのよ!あなた、軍の人間ならそれぐらい判断できるでしょう!!
それに、一人で悩みを抱えてるみたいだけど、そんな私情を挟まないで頂戴。それとも、あなたがいた軍では勝手な行動が許されてたのかしら?お遊びで協力するのなら、これ以上あなたが、こちらの事情に関わらないで!」

「遊び!?遊びなんて言わせるか!
オノゴロ島で家族が殺された!仲間のハイネも、ステラもこいつに殺された!!
俺は命の駆け引きをしてる。非殺傷設定?
戦闘にまだ十代に満たない子どもを使って、闇の書を奪えなかった。リンカーコアを抜かれただけだから…、失敗しても次があるこっちの方がよっぽど遊びじゃないか!!ふざけるなよ!!」バシンッ!!!!
一際、大きい音が響きわたった。警備員が手を緩める。シンはリンディをにらみつけ、警備の手を振りほどき医務室から出ていった。警備が慌てて、シンの後を追おうとするがリンディが静止した。
「しばらく一人にさせてあげなさい。それより…、あなたは大丈夫?
あら、口を切ってるわね…あなたたち、先生を呼んで来てちょうだい。」
リンディはそう指示を出して、キラを抱きおこし、肩を貸して、ベッドに座らせた。ガーゼを使って、顎を伝うキラの血を拭う。
「あなた…名前は?」
「…キラです。キラ・ヤマト」
「そう…。私はこの艦の艦長を務めるリンディ・ハラオウンよ。ところで、キラ君はシン君とは…知り合い?」
「知り合いと言うか…、同じ世界の人間…だとおもいます。」
「そう…。それで、よかったらでいいんだけど…、あなたたちの世界のことをはなしてくれるかしら?」
「別に…いいですけど…。」

「そう…、シン君の話と大体は同じね。視点が違うだけで…。C.E.73に戦争が再開、シン君の操るモビルなんとかと戦闘し、あなたのその…モビルなんとかが爆発、気が付いたらこの世界に来たと…。」
「たぶん…、そんなところです。」
「私たちの知らない世界がまだまだあるってこと…ね。それで…、あなたは闇の書のことについてどこまで知ってるのかしら?」
キラの表情が凍りつく。
もちろん、捕まった以上、尋問されることは覚悟していた。
「そ、その…詳しいことは…知りません。ただ僕が知ってるのは、魔力を蒐集することで完成するということぐらいです。」
「そう…。それで…、あなたの主さんは?
よかったら住所、氏名、それから、その他四人について教えてもらえるかしら?」
キラは目を伏せた。
言えば楽になるのだろう。だが、言ってしまったら…それによってはやてが捕まるようなことになれば…万が一、そのショックで発作が闇の書の完成前に起きてしまったら…。
(僕は…どうすればいいのかな、アスラン…。)
親友に問掛けてみた。
だが、その問掛けに対しての返答がくることはなかった。