Seed-NANOHA_342氏_第04話_後編

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:25:00

「キラ君?」
リンディの呼び掛けにハッと我に帰るキラ。
「あ…、えっと、それでなんでしたっけ?」
キラの表情をみて、はぁっと溜め息をつくリンディ。「どうも事情が深そうね…。いいわ、今は取り合えずゆっくり体を休めなさい。」
リンディはキラをベッドに寝かせ、布団をかけてやった。

「くそ!」
シンは、転送ポートで先に帰宅し、宛てもなく街をさまよっていた。
ぶつぶつ文句を一人呟きながら歩いているので、道行く人々はそんなシンを振り返り見る。
気が付けば、以前に自分が家出まがいなことをしたときに偶然たどり着いた公園に来ていた。
あの時と同じように、ブランコに腰を下ろす。
海鳴市は今日も夜には雪が降るとのこと。
そう思った側から、雪がはらはらと舞い降ってきた。「俺の居場所は、この世界にはないのかよ…。いつから、こんな…」
最初は…この世界に来た最初の頃は、馴染んでいたと思う。全てが、狂いだしたのはあの男が現れてからだ。
そう、自分のせいじゃない。悪いのはフリーダムのパイロットだ。自分じゃない。自分のせいじゃない。
あいつが…悪いんだ。
「あれぇ?シン君?」
突然、自分のことを呼ぶ声に顔をあげてみれば、それはなのはだった。リンディに言われて来たのだろうか。
「何?なのはの知り合い?」眼鏡をかけ、黄色いリボンをした少女と一緒だった。買い物袋を両手に下げている。
公園の入り口から、シンの座っているブランコまでやってくる少女となのは。
「シン君どうしたの?もう七時だし、リンディさん達、心配するよ。」
と、声をかけながらも、じつはなのは、リンディにシンを探すよう頼まれていたりする。ちなみに、リンディから話を聞いて、事情も大体さっしているつもりだ。
「あっ、こちら、私がお世話になっているシン・アスカさん、それでこちらが私のお姉さんで、高町美由希さん。」
どもっと頭を下げるシン。「妹がお世話になってます」ペコリと一礼する美由希。「あ…世話になってるのはこっちの方で…。」

キラは個室に移され、幽閉されていた。格子の様なものが監獄を思わせるが、受ける扱いもそう酷くなく、設備も悪くなかった。
その部屋の隅で膝を抱えて座っているキラ。
「君は、闇の書の主を知っているな?」
声の持ち主は全身を紺色でまとめた少年。クロノ・ハラオウンだった。

「ッ!?」
ビクッと肩を揺らすキラ。「君は、彼らのもとで暮らしていたんだろ?違うのか?」
「そ、それは…その…。」
ふぅっと溜め息をつき、クロノはキラに背を向けた。「問い詰めるようなことをして…すまない、その、こっちも色々と八方塞がりなんだ。」
「……。」
「君が、話す気になってからでもいいから、話してくれ。じゃあ、僕は…これで…。」
クロノは部屋からでると、ドアが閉まるのを確認してから、背中を預けた。
「何やってんだ僕は…。私情を仕事に挟むなんて…。さて…と。」
クロノは歩き出した。
調べなければならないことがある。なのはの新型バスターを防御、そして、遠距離からのバインド。
そこからかなり離れた世界に転移し、フェイトのリンカーコアを奪った、あの仮面の男ことを。
(もし…、万が一僕の勘があたっていれば…。)

八神家
「そっか、キラ君…無事に自分の世界に帰れたんやね…。」
「はい、キラ・ヤマトも、ちゃんとした別れを告げることも出来ずに帰ることを謝っておられました。」
夕食をとったあと、シグナムははやてを抱きかかえ、ベランダで話をしていた。「寂しいですか?主…。」
「ううん、そんなことないよ。シグナム達がおるし、全然、寂しいことない。」
「…雪が降ってきましたね…、中へ入りましょう。」キラがいないことは、シグナムによって八神家の皆に知らされていた。
本当のところははやてには知らされていない。
たまたま次元転移した世界がキラがいた世界だった。そういうことにしてある。はやてにはある程度、魔法に関して知らせてあるが、詳しい知識はない。
シグナムは主を欺いていることに胸が痛んだが、真実を語ってしまえば、はやてに全てがばれてしまう。
「戦いは駄目や。」
はやてが言っていた。
「ただそばにいてくれるだけでえぇ。」
だから、闇の書の完成ははやての意思ではなく、シグナム達の意思だった。
(すまない…。キラ・ヤマト。)

高町家
「外は冷えたでしょう?たくさん食べてね~、シン君。」
目の前にはグツグツと煮込まれている鍋。
「それじゃあ、みんな、席につけ、食べるぞ~。」
『いただきます。』
「すみません。突然、お邪魔して…。」
「あらぁ、いいのよ。なのはのお友達なんでしょう?母さん、うんと歓迎しちゃうわ!」
「はぁ…どうも。」
「うまいっ!母さん腕をあげたね。お前達も感謝しろよ。こんな、おいしい料理が食べられるのは母さんのお陰なんだからな。」
「もぅ…あなたったら。」
桃子、士郎の頬をつつく。二人の世界に入り込んで行く高町夫妻。
「こちら、私のお母さんとお父さん、高町桃子さんと高町士郎さん。」
二人の姿に呆れつつ紹介をするなのは。
「ほら、美由希、お椀貸せよ。よそってやるから。」
「ありがとう、じゃあ、わたしは~…」
ポツンと取り残されるシンとなのは。
「と、とりあえず、紹介しとくね。奥から、お兄ちゃんの高町恭也さんと、さっきも紹介したけどお姉ちゃんの高町美由希さん。」
「兄弟多いんだな。」
「うん、お母さんもお父さんも、お兄ちゃんとお姉ちゃんもとっても仲良しさん。」
「…まぁ、仲がいいのはわかるけど…、俺はいいとして。なのは、ちょっと浮いてないか?」
「あぅっ!!」
なのはにとって痛いところを疲れたのか、肩をおとして、そうなの、と肯定する。
「それはともかく、シン君は何が食べたい?
なのはがよそってあげるよ。」
「サンキュ、じゃあ…適当に…。」
そう言ってシンはなのはに自分のお椀を差し出した。

八神家
「…キラ…。」
なんとなく、ヴィータはキラの名前を呟いてみた。
シグナムとはやては一緒に入浴中で、リビングにはザフィーラ(大型犬)とシャマルがいて、シャマルはつけていたテレビの電源を切った。
「ヴィータちゃん…。キラさんのことは…その…もう何度も…。」
「わかってるよ。仕方なかったって…、キラが逃げ切れる保証はなかったってことも。だから、一番確実な方法を選んだってことも…。」
シャマルはヴィータから視線を反らした。

「けど…さ、普通なら、今頃管理局の連中がここに…はやての家に来ててもおかしくないのに…こうして、まだ、あいつらにかぎつけられてないってことはキラがまだ私達のことを言ってないからだろ?」
息が詰まるシャマル。
「ヴィータ。お前は主と一緒に居たいのではなかったのか?」
代わりにザフィーラが口を開いた。
「当たり前だろ!」
「キラ・ヤマトの騎士としての成長スピードは異常だ。それは、ヴィータ、お前も分かっているだろう?」頷くヴィータ。
確に、おかしいとは思っていた。シグナムからの指導をうけたのは数日、そして最初の管理局との戦闘では自分達を援護できるくらいまでになっていた。
さらに、カートリッジをシャマルと作るようになってからは圧縮技術を習得、それを魔法に応用するようにもなっていた。
言われてみればおかしい。学習スピードが異常だった。
「スピードも、我等の中では一番早い。つまり、いくら魔法に関して触れた期間が短いとは言え、簡単にやられるような奴ではないということだ。」
「何が…いいたいんだよ…。」
「つまりは…、キラ・ヤマト、スピード勝負ならほぼ負けるはずがない。だが、逃げ切れなかったということは、敵側にキラ・ヤマトと同等のスピードを持った者、または、いくらスピードが早くても、そのスピードを殺してしまうような連携、魔法を使える者がいたということだ。」
そう、実は、シャマルもシグナムもはやてを優先することはもちろん、それを警戒していたからキラのリンカーコアを奪うことを選択したのだ。
シグナムがキラと別れたときは、フェイトとキラの一対一だったはず。
キラはシグナムが逃げる時間さえ稼げば、ハイマットモードを使い、逃げきれたはずなのである。
「敵が複数いた…そういうことだ。」
ザフィーラの耳がピクッと反応し、廊下から居間にシグナムとはやての声が聞こえてくる。
「一対一ならばヴェルカの騎士に敗けはないと考えていい。だが…、あのとき戦えたのは魔力を消費したシグナムだけだ。シャマルは補助が専門だ。勝てると思うか?」
ザフィーラの言うことはもっともだったが、ヴィータは納得できないでいた。
他に方法はなかったのだろうか?
そんなことを考えながら、居間に入ってきたはやてに笑顔を向けた。

高町家
夕食を終えたなのはとシンは食器を洗っていた。さすがに、突然お邪魔して、飯を喰らって何もしないわけにはいかない。
桃子は気を使わなくていいといってくれたが、そこは強引に手伝う事にした。
なのはの携帯がなる。
「あとは、俺がやっとくから電話にでろよ。」
というので、なのはは言葉に甘えることにした。
着信は管理局からだった。「はい、なのはです。」
「なのはちゃん、エイミィだよ。」
「あは、エイミィさん。丁度電話しようと思って…」
「あっ、ちょっと待ってね。艦長と代わるから…。」
「もしもし、なのはさん?」「はい、なのはです。リンディさん、シン君今うちにいますよ?」
「うん、そのことなんだけどね…、ちょっと桃子さんと代わってくれるかしら?」はて、一体何なのだろう?と考えながらなのはは、桃子を呼んだ。
「お母さん、リンディさんから電話だよ。」
「はいはい。」
パタパタとスリッパをならし、やって来る。
「お電話、代わりました。桃子です。」

管理局、アースラ収容施設個室。
キラは、出された夕飯に手をつけることなく、布団にくるまったまま、考え事をしていた。部屋にはキラ以外に収容されているものはいない。
「僕は…利用されただけ…なのかな…。」
ふと呟いた疑問。答える者はいない。その静けさが余計にキラの孤独を煽る。
利用されただけ、そうではないと信じたかった。たった、数日間だったけれど…、それでも、笑ったり、からかわれたりされたことも嘘だとは思いたくなかった。しかし、それもやはり
「嘘だったのかな………。」結局は、異世界の人間…、そういうことなのだろか。もう眠ろう。
考えれば考えるほど胸の内が気持悪くなってくる。
キラは寝返りをうった。
考えていても、今の自分には何をすることもできない。フリーダムは管理局によって没収されたのだろう。自分の手元にはない。
頼れる仲間を失い、そして、友達を、知り合いを、この世界でキラは持っていなかった。

翌日
シンは高町家の居間で起床し、朝食をとり、今はなのはがシュートコントロールの練習をする公園に来ていた。ベンチに座って、練習する様を見学しているところだ。
どうやら昨日、なのはの携帯に連絡をいれたのはリンディで、一日だけ預かってくれるよう頼んだらしい。俺はペットじゃない!
と言いたいところだが、シンにとっては好都合だった。昨日、あれだけのこと言ってしまった後なので、リンディと顔を合わせるのは気まずい。いっそ、このまま、リンディとは会いたくないが、しかし、いつまでもなのはの家に居座るわけにもいかない。
「はぁ…っ。」
思わず溜め息が漏れた。
「何で俺がこんな世界に来なきゃいけないんだよ。」シンの独り言に集中力を切らしたなのはは、シュートコントロールの練習をやめた。
「もう、練習はいいのかよ?」
そんなこととは知らないシンがなのはへと視線を向ける。
「うん、ちょっと今日は、調子悪いみたい。」
「具合いでも悪いのか?」
ううん、と左右に首を振るなのは。
「それに、ちょっとシン君とお話してみたかったしね。」
シンの隣に腰かけるなのは。
「シン君…さ、その…。えっと…。」
「んっ?何だよ?そんなに真面目な話なのか?」
言い淀むなのはをシンが促す。
「昨日、捕まえたよね。キラ・ヤマトさんって男の子。」
ブラックコーヒーの缶を握る手に力が入る。
「あぁ。」
「すっごい、怒ってたよね?」
「…そうだな。」
スチール缶がペコと形を変形させる。
「なぁ、なのは、その話はや…。」
「なんでなのかなって?」
なのはは核心に触れた。
この質問をするのが怖かった。シンの戦闘記録をみる限り、キラ・ヤマトとの戦闘の際、非殺傷設定を解除しているし、間近で怒声を上げるシンを見たことがある。明らかに、異常だ。
その豹変ぶりは、子どもである自分にでも、二人の間に何かがあったと推測できる。
聞けば、キラという人も異世界から、シンと同じ世界から来たと言うではないか。
「シン君、おかしいよ…。あの人のことになると、周りが見えなくなってる…。」
飲み終わったコーヒーの缶をゴミ箱に投げ捨てる。
「俺がもといた世界に…オーブって国があったんだ。そこに、両親、妹、兄の四人の家族が暮らしてた。」子どもにするような話ではないが、もう、そんなことはどうでもよかった。
シンはゴミ箱を眺めながら語り始めた。

ナチュラルとコーディネイターの違い。それによって産まれたいさかい。血のバレンタインから始まった戦争のこと。オーブ、連合、ザフトのこと。
オーブの理念、それによって家族が犠牲になったこと。その際にフリーダムというMSが関係していること。自分はプラントに行き、ザフトのアカデミーを二年で卒業。
ザフト兵のトップガンとして軍に入隊したこと。アーモリーワンのMS強奪事件。ユニウスセブンの落下。
仲間のハイネの死、その戦闘の際に介入したフリーダム。
ベルリン市街でのこと、ステラのこと。
そして、フリーダムと自分が戦ったこと。

シンは自分の話せるだけのことを全て話した。
「それでも…仇を討っちゃ駄目なのかよ!?」
最後に吐き出すように言う。
「でもやっぱり…命を…。」「…あぁ、わかってるさ。けど、もう何人も…、数えきれないほどの命を奪ってきたんだ。
今更、一人ぐらい…なんてことないさ。」
ベンチから立ち上がるシン。
「俺…リンディさんとこ帰るから…。なのはの母さんと父さん、兄さん、姉さんによろしく言っといてくれ。」

シンの姿を見送ってから、なのはは一人、公園に残っていた。
難しい話で理解できない部分もあったが、それでも多くの人が亡くなったこと。シンの大切な人の命が、その戦争によって奪われたことだけはわかった。
そしてまた、シンも大勢の命を奪ったということも。今更ながらに、聞かなければよかったと後悔していた。

「フェイトさん、大丈夫?」「はい、もう大丈夫です。魔法が使えるようになるまでもうちょっとかかりそうですが…なんとか。」
一日休養したフェイトはリンディと一緒に朝早くに管理局からマンションへと戻ってきていた。リンディはフェイトの昼食のお弁当の準備を、フェイトは学校へ行く準備をしていた。
朝食は管理局の食堂ですませてある。
「じゃあ、いってきます。」そう言って、フェイトはバス停へと向かった。
「気を付けてねぇ~。」
と見送り、いつもの緑茶にいつもと同じように砂糖とミルクをいれ、リンディはソファに腰をかける。
テレビをつけて、連続テレビドラマ小説にチャンネルを合わせた。
フェイトに作ったお弁当が、まだキッチンに置きっぱなしになっていることに彼女は気付いていなかった。