コズミック・イラ7X年。
この世界に、一つのロストロギア(=古代遺物)と三人の魔導師が紛れ込む。
同時に、この世界から『常識』が失われてしまった。
その影響は三人の魔導師たちにもおよび、各々の精神に影響を受けてしまう。
本来ならあり得ないはずの介入。本来ならあり得ないはずの出来事。
これは、そんな『if』な話。
そう。例えば――
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その宙域に現れたピンク色の戦艦。
そこから発進してくる二機のMS――新型のフリーダムとジャスティス。
ザフトの兵士達に映ったのは、前大戦の英雄機。そして、それらを率いる歌姫の艦。
『こちらはエターナル。ラクス・クラインです』
全周波の回線で、ラクス・クラインの声が響き渡る。
『〝アレ〟を護衛するザフト軍兵士に通告いたします。わたくし達はこれより、その無用な破壊兵器の排除を開始します――』
『ラクス様!?』
『いや……だが、しかし――』
ザフト兵達は戸惑いの声を上げる。
『〝アレ〟は人が守らねばならないものでも、戦う為に必要なものでもありません! 平和の為にと、その軍服を纏った誇りがまだその身にあるのなら――道を空けなさい!』
ラクスの打ち据えるような言葉に、ザフト軍は一瞬動きを止めるが──
それは動揺などではなく、唖然としてしまっただけだった。
そして、ラクスの言葉の意味合いを理解した彼らは──
『必要ないだと!? ふざけるな!』
『〝アレ〟の良さが分からんとは……哀れな奴らめ』
『俺なんか、週に一発は直撃を受けないと落ち着かない身体に──』
『全軍、ザフトの誇りに懸けて〝アレ〟を守れ!』
怒声を上げて一致団結するザフト軍。
が──
『ん? 待て!〝アレ〟が発射体勢に入った。全軍、射線上より退避!!』
慌てて散開し始めるザフト軍。取り残されるフリーダムとジャスティス。
そして──
桜色の光の奔流が一直線にエターナルへとむかっていき、そのメインスラスターを撃ち抜き破壊する。
『ちょ……直撃です! メインスラスター損傷! 姿勢制御不能!』
『くっ……このような事が──』
オペレーターの報告に、信じられないといった表情のラクス。
さらに追い打ちをかけるように、桜色の高速弾が迫る。その数、十六発。
それぞれが意志を持つかのようにフリーダムとジャスティス、エターナルへと撃ちかかる。
桜色の弾丸は、目標を打ち抜いては旋回し、再び襲いかかる。
頭部や四肢、追加武装であるミーティアを破壊され──文字通り──達磨姿へと変貌するフリーダムとジャスティス。
残ったサブスラスターや武装を破壊されるエターナル。
──〝アレ〟の撃墜数。MS二機、戦艦一隻。
そして、〝アレ〟は──自立航行能力を失ったエターナルのブリッジ前に現われた。
「テロリストなんかに、不必要な破壊兵器扱いされたくないの!」
憤りながらも、ブリッジに照準を合わせる〝アレ〟。
「これ以上抵抗しなければ、命だけは助けてあげるの」
エターナル側もここまでズタボロにされてしまっては、さすがにどうしようもない。
ザフトのMSが次々とエターナルに取りつき、その艦内に乗り込んだ兵士達が内部を制圧していく。
『しかし、圧倒的ではないか〝アレ〟は』
『ええ。さすがは〝アレ〟ですね』
あるザフト艦での艦長と副艦長の会話。
通信回線は閉じられていて、本人には聞こえていないはずなのに――
〝アレ〟の耳と左右に結んだ髪がピクピクと反応する。
「ていうか……いつまでも人の事を〝アレ〟呼ばわりするななの!」
キレた〝アレ〟が砲撃を乱射する。
──〝アレ〟の撃墜数。MS二十機、戦艦四隻。
撃墜数、なおも増加中。
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とある移動要塞の最奥部。そこに座する長い黒髪の男。
「……〝アレ〟が『破壊兵器』であるという点だけは、ラクス・クラインに同意だな」
モニターに映る〝アレ〟の暴れっぷりを見て、思わずそう呟いてしまった。
と同時に――
〝アレ〟の左右に結んだ髪が、やはりピクっと反応した事など、彼は知るよしもなかった。
『ぎ……議長! 今度は〝アレ〟がこちらを向いて――』
報告によると、彼のいる移動要塞に〝アレ〟が照準を合わせているらしい。
(……私ともあろうものが、迂闊だったか? だが――)
普通はあり得ない事だった。
「何故、聞こえたんだ!?」
あまりの理不尽さに声を上げてしまう。
彼が意識を失う直前に目にしたのは――やはり、桜色の光であった。
これ程の惨事が繰り広げられようと、死人や重度の後遺症が残る者が出てこないこの非常識な世界は――それなりに平和なのかもしれない。