Seed-NANOHA_547氏_第四話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 18:24:54

 コズミック・イラ7X年。
 この世界に、一つのロストロギア(=古代遺物)と三人の魔導師が紛れ込む。
 同時に、この世界から『常識』が失われてしまった。
 その影響は三人の魔導師たちにもおよび、各々の精神に影響を受けてしまう。
 本来ならあり得ないはずの介入。本来ならあり得ないはずの出来事。
 これは、そんな『if』な話。

 

 そう。例えば――

 

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 張り巡らされた謀略。戦果の贄とされた者達。
 アラスカ基地を巡る攻防は、黒幕達の画策した喜劇でしかなかった。
 そんな思惑を知る少数の者達は、この戦域を離脱しようと死に物狂いだった。
 その中には、白亜の戦艦の姿もあった。

 

「リューリク、自走不能!」
「ロロ、撃沈!」
「六十四から七十二ブロック、閉鎖! 艦稼働率、四十三パーセントに低下!」
「十時の方向にMS群! ジン、接近!」
 アークエンジェルのブリッジでは絶望的な報告が矢継ぎ早に響き、艦全体が被弾の衝撃で激しく揺れる。
「ウォンバット、てぇー! 機関最大! 振り切れー!!」
 マリューは力の限り叫ぶが、気合などで状況が好転するはずもなかった。
 ノイマンが悲鳴に近い声を上げる。
「推力低下……艦の姿勢、維持できません!」
 アークエンジェルのブリッジ正面に、対空砲火を掻い潜って来たジンが肉迫する。
 ブリッジクルー全員の顔が恐怖で凍りつく。
「くっ!」
 ジンがブリッジへ向ける銃口をマリューは睨みつけた。

 

 その時だった――
 一筋の閃光が、発射直前だったジンの機銃を撃ち抜く。
 何が起こったのか分からず、ジンのパイロットがモノアイを頭上に向けると、迫り来る何かがモニターを覆い尽くさんとしていた。
 その何かがジンの脇を凄まじい速度で駆け降りる。数瞬後、ジンの頭部だけが爆散した。
 それが斬撃による破壊だと、誰も気づかない──その一撃を放った者以外は。
 メインカメラを失ったジンはグゥルを操り後退する。

 

 アークエンジェルに銃口を向けていたジンを退けた事を確認した彼女は、ゆっくりとアークエンジェルのブリッジ付近の高さまで上昇すると、手に待った戦斧を構えた。ブリッジを背にして、アークエンジェルを守るかのように。
『こちら、フェイト・T・ハラオウン。アークエンジェル、聞こえますか?』
 それは、もう二度と聞く事のできないはずの声。二度と目にする事のできないはずの姿。
「……フェイト?」
 ミリアリアが呆然と呟く。
「フェイトだよ!」
 サイが歓喜の入り混じった声を上げる。
「フェイト……さん?」
 マリューにも信じられなかった。自分達が助かった事も、死んだとものと思っていたフェイトが目の前にいる事も。
 そうしている間にも、アークエンジェルに迫る数機のジン。
 フェイトはバルディッシュにカードリッジを一発ロードさせると、ジン達に向かって緩やかに前進する。
「ランサー、セット!」
 フェイトの周囲に、電光を伴った光球が複数発生する。
《Plasma Lancer》
 バルディッシュの雷光色の水晶が輝くと、射撃魔法の発射体が形成されていく。
「ファイア!」
 放たれたランサーが、ジンの頭部や四肢や武装のみを破壊し、戦闘継続力を奪っていく。
 ただし、帰艦ができるように、飛行能力は奪わない。

「ラミアス艦長! 早く退艦を!」
『あ……いえ……あ……』
 フェイトに促されて、ようやくマリューは我に返る。
『本部の地下に……サイクロプスがあって……私達は囮に――』
 混乱と焦りの中で、マリューはなんとかフェイトに状況を伝えようとする。
 なおも向かってくる敵MSの攻撃に対して、フェイトは後のアークエンジェルを守る為に、回避ではなく防御を選ぶ。
 迎撃の為のランサーを放ちながら、フェイトはマリューの悲痛な叫びを耳にした。
『作戦なの! 知らなかったのよ!』
「ええっ!?」
『だから、ここでは退艦できないわ……もっと基地から離れなくてわ!』
 悩んだ時間はほんの一瞬。フェイトは自分が取るべき行動を決める。
「――分かりました」
『えっ?』

 

 アークエンジェル周辺のザフト機を退け前進しながら、フェイトは周囲へ呼び掛ける。
『ザフト、連合、両軍に伝えます! アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!』
 イザークはデュエルの中で、突如現れた少女の言葉を聞き、耳を疑った。
『両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい! 繰り返します!――』
 アークエンジェルを守って戦う以上、あの少女は地球軍の味方に違いないと、イザークは考えた。
 ならば――

 

『下手な脅しを!』
 フェイトの後方からMSがビームライフルを撃ってくる。
 彼女は振り返ると同時に、左手で発動させたシールドでビームを遮る。
「──デュエル!?」
『はあぁぁっ!』
 その間に接近してきたデュエルが右手に持ったビームサーベルを振り下ろしてくる。
 フェイトはそれをバルディッシュで受け止める。
「止めて、って言ってるでしょ!死にたいの!?」
『何をーっ!』
 デュエルの右肩に搭載されたレールガンがフェイトに向けられる。
 その砲撃をフェイトはかわすが、デュエルは頭部を振り下ろしてきた。
 直接的な物理ダメージは障壁で防ぐものの、MSの質量が生み出した衝撃に弾かれてしまう。
 その隙をついて、デュエルがビームサーベルを縦に振り下ろす。
 フェイトはその斬撃を後方宙返りをしながらかわすと、デュエルへと斬り掛かった。その一連の動作は、流水の如く華麗でさえある。
 コクピットに迫る斬撃を目にし、イザークは死の恐怖に背筋を凍らせた。
「……くっ!」
 だが、フェイトは機動を強引に変え、デュエルの両足を薙斬る。

 

「ぐわぁぁぁっ!――え?」
『早く脱出して! もう止めなさい!』
 イザークが唖然としている間に、デュエルはフェイトに叩き落とされる。
 海面付近にいた僚機のディンが、両足を失ったデュエルを咄嗟に受け止め、そのまま帰艦していく。
「あいつ……なぜ?」
 イザークにはフェイトの言動も行動も理解できなかった。

 

 呼びかけてはみたものの、一部の連合所属部隊を除いて、両軍とも戦闘を停止して撤退するような素振りは見えない。
「駄目だ……このままじゃ!」
 焦るフェイトに、聞き覚えのある声が念話で届く。
『フェイトちゃん、そんなんじゃあかんって』
「はやて!?」
 戦闘空域にはやてが転移して来る。彼女は既に戦闘態勢だった。

 

「手っ取り早く戦闘を止める為にも、ここは一つ――」
 はやての傍らに浮かぶ蒼天の書が開き、発光する。
《Photon Lancer Genocide Shift》
 はやての周囲に五十個近くもの雷球が発生する。
「みんなには大人しくなってもらおか!」
 はやてがシュベルトクロイツを振るうと、彼女を中心にして、槍のような形をした魔力弾が全方位に連射される。
「なっ!? ば、バルディッシュ!!」
《Defensor Plus Wide Area Shift》
 フェイトは慌てて、カードリッジを三発消費し、広域防御を張る。
 はやての全方位一斉射撃が終わると、フェイトが咄嗟に庇ったアークエンジェル以外は、ほぼ全てのMSや母艦が撃墜されていた。
「ちょ……ちょっと、はやて! いくらなんでもやり過ぎだよ!」
 しかも、あえてフェイトの魔法のバリエーションを使うあたり、はやての確信犯な気がしてしょうがない。
「一応、コクピットは外してあるから、大丈夫や」
「あれじゃあ、身動き取れないまま、海面に叩きつけられちゃうじゃない!」
 空戦高度にいる状況で、四肢と航空能力を失い海面へと落下するMS。機体も中のパイロットも無事ですむはずがなかった。
「戦場に出てきてる以上、撃たれる覚悟ぐらいはできてるはずや。コクピット直撃で即死コースやないだけ幸せやと思てもらわんと」
 はやての言う事も一理あるのだが――
「でも……この状況でサイクロプスが作動したら、みんな逃げるに逃げられないよ!」
「ああ、それやったら――」
 突如、響き渡る轟音に、フェイトは振り返る。
 アラスカ基地の中心部に当たる場所に巨大なきのこ雲が立ち昇っていた。
 フェイトがその光景に呆然としていると、なのはからの念話が届く。
『サイクロプスの破壊、終わったよー』
 圧倒的な破壊の原因たる少女は、成し遂げた行為に合わない能天気な声で報告してきた。
「――な。これで問題なしや」
 どうやら、手筈を知らなかったのはフェイトだけらしかった。
「だ……だったら、あんな強引に戦闘を止めなくても良かったんじゃ――」
「フェイトちゃん」
「な、何?」
「あれは、なんちゅーか……その場のノリや」
「もう、いい」
 フェイトは半眼で嘆息した。

 

 この後、フェイトは渋るなのはとはやてを引き連れて、救助活動に勤しんだ。
 不幸中の幸いか、はやてに撃墜された者の中に死人は出ていないようだった。

 

 要救助者収容後のアークエンジェル内。
「なあなあ、なのはちゃん」
「ん?」
「そろそろ、フェイトちゃんにもあの事、教えてあげたら?」
「んー、面白いから、まだ当分は黙ってようよ?」
「まあ、たしかに」
 なぜか、なのはやはやてが洒落でぶっ放した魔法攻撃が起因して、死人が出る事はなかった。
 深刻な後遺症が残ったり、身体の一部が欠落したりする者も出てこないのである。
 なのはやはやては、その事実に気づいているものの、フェイトには教えていなかった。
 もっとも――この事実が、彼女達とともにこの世界に現れたロストロギアの影響であることは、なのはとはやても知らないが。
「せやけど、フェイトちゃんも、ええ加減気づいたらええのに」
「ほら、フェイトちゃんって、あれで結構うっかりやさんなトコがあるから」
「あはは、言えてるー」
「でしょー」

 

 こんな彼女達三人ではあるが、これでもれっきとした親友なのだ。たぶん。