Seed-NANOHA_547氏_第24話

Last-modified: 2008-10-18 (土) 18:13:52

 ミネルバとデュナメイスが並んで部隊の前へと出る。二隻合わせて計三門の陽電子砲による一斉射を行う為だ。目標は敵基地から出撃してきた、向こう側の上空を覆いつくしているダガーLの大部隊。三条もの白い閃光が渓谷に迸る。通常ならば、敵部隊を一気に殲滅し得る無情の大砲火。
 しかし、それらは敵部隊の最前列に展開した四機のMAによって遮られてしまう。巻き起こる凄まじい爆発が、ミネルバやデュナメイスの巨体さえも大きく揺るがした。叩きつけられた爆風が砂嵐を巻き起こす。
 その光景をセイバーのコクピットで見つめていたアスランは、晴れていく砂嵐の中に、無傷で滞空する敵MA隊の姿を確認し戦慄した。予め、陽電子リフレクターの性能を聞かされていたにも関わらず。
 だが、あのように化け物じみたMA隊を含む敵部隊を引きつける事が、自分達が担う役割なのだ。アスランは、改めて事の艱難さを認識する。
「行くぞ! 敵部隊をできるだけ誘い出すんだ!」
 僚機に乗るレイとルナマリアから『了解!』と声が返ってくる。
 ミネルバ隊の三機を筆頭に、ザフト軍は牽制目的でビームと実弾をばら撒いた。もちろん、可能ならばそのまま撃ち堕としもする。その状態を保ちつつ、前進と後退を繰り返した。
 何度目かになる後退から前進への切り替えの時、敵MS隊の動きに変化が起こる。いっせいに左右へと分かれたのだ。
 アスランは息をのみ、岩山の上に見える砲台に目を向けた。陽電子砲は上空のミネルバに狙いをつけているようである。
(くっ! こちらには盾が無いっていうのに……くそっ!)
 彼にできるのは、ミネルバが敵の陽電子砲を何とか回避してくれる事を祈るぐらいしかなかった。
 砲台のローエングリンから白い光が迸る。
 ミネルバは失速したかと思うほど急下降し、その火線から寸でのところで逃れる。だが、逃げ遅れた二機のディンが、閃光に飲まれてしまう。陽電子砲の凄まじいまでの威力に、ザフト軍全体が萎縮してしまう。その勢いに乗じた連合のダガーL部隊が、次々とミサイルをばら撒き、ビームライフルを浴びせるように撃ち放つ。完全に守勢へと追い込まれるザフト軍。
「不味い……このままでは――!!」
 見ると、例のMA隊が後退しようとしている。こちら側の意図を気づかれたかまでは分からないが、あのMA隊は陽電子砲の防衛を最優先任務としているのは、間違いなさそうであった。
 アスランはダガーLの砲撃をかわしながら叫んだ。
「あいつらが下がる! ルナマリア! レイ!」
 だが、二機のザクも目の前の敵機の相手で精一杯のようだった。
 アスラン自身もダガーLの部隊に阻まれて、敵MA隊のところまで行けずにいた。
 しかし――焦り出すアスランの前方に展開していたダガーLの小隊は、次々とビームで撃ち抜かれていく。彼のセイバーよりもやや後方の上空には、デュナメイスのムラサメ隊が展開していた。

 

 ムラサメのコクピットの中で、キラは目を閉じる。反芻するのはマユから訴えられた言葉。
 ――〝……逃げたりなんかしないでよ〟
 その言葉はマユが意図した以上の意味をもって、キラの胸に突き刺さっていた。キラは、マユやシン達だけの事だけではなく、あらゆる事から逃げてばかりいる自分へと行き着いていた。ヘリオポリスでストライクに乗ったあの日から、現在に至るまでを一気に思い返す。撃って、撃たれて。たしかに手にしたもの。二度と戻らない、失ったもの。後悔と苦悩の日々の果てに、それでも誓ったはずだった。銃を手にしたはずだった。
(なのに……僕は……)
 用意された建前に守られて、再び同じ事を繰り返している。
(……認めよう)
 どれだけ己の正義を掲げようと、戦争という名目に法的保護を受けようと、やっている事は──ただの人殺しだ。
(……覚悟はある)
 すべての想いを救う事など不可能なのだから、せめて背負おう──その業を。
(僕は戦う!)
 この手を血に染めてでも――守りたいものと、望む未来の為に。
 キラが眼を見開くと同時に、彼の中に存在する種子が弾ける。それは、心の底から望んだ力。今まで嫌悪さえしていた、彼に内在する力の真の解放だった。
 視界が鮮明になり、集中力が極限まで高まった世界が訪れる。そして、その瞳は──色を失う事なく、明確な意志を宿していた。
 ダガーLに向けて放ったライフルのビームは、コクピットに寸分違わず吸い込まれていき、爆散させる。さらに、そこから最も近くにいた二機目のダガーLを、ビームサーベルを横薙ぎにして胴を両断した。

 

「キラ……?」
 獅子奮迅の動きを見せる青いムラサメの姿に、アスランはかすかに戸惑う。彼の目には、キラの動きが二年前のピーク時かそれ以上のものに映ったからだ。キラが乗っているのは前回と同じムラサメのはずなのに、その動きは明らかに違っていた。
「――今だ! 態勢を立て直し、攻勢に出るぞ!」
 アスランはザフトのMS隊を鼓舞すると、キラに続いてダガーLを撃ち堕としていく。ルナマリアのガナーザクウォーリアが放ったオルトロスの光条が、二機のダガーLをまとめて撃ち堕とす。レイのザクファントムが背中から撃ち出したファイヤビー誘導ミサイルが、敵のミサイルを薙ぎ払う。他の艦のMS隊も、ダガーLの部隊を徐々に押し返し始めた。
 青いムラサメのすぐ傍へと寄っていくセイバー。
「キラ!」
『うん! いくよ、アスラン!』
 アスランはキラと共にMA隊へと突っ込んでいく。

 

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「ええっ!? 何だよこりゃ!」
 シンは真っ暗闇の坑道内部で毒づいていた。
「くそっ! マジ、データだけが頼りかよ!?」
 彼は手元のモニターに表示されている3D画像に目を落とす。坑道内を細部まで正確に計測したこのデータこそ、コニールから託されたデータディスクの中身だった。MSが通るだけのスペースが無いこの狭い坑道は、一見利用価値が無さそうである。
 シンは何でもない事のような顔で言ったアスランの言葉を思い起こす。
 ――〝MSでは無理でもインパルスなら抜けられる。データ通りに飛べばいい〟
「――って、そんな問題じゃないだろ、これはっ! くっそー!」
 岩壁に翼端が擦れる度に、シンの背中に冷たい汗が流れる。
 ――〝俺達が正面で敵砲台を引き付け、MAを引き離すから、お前はこの坑道を抜けてきて直接砲台を攻撃するんだ〟
 ブリーフィングで説明を聞いた時は、理にかなった作戦だと思った。だが――
「何が『お前になら出来ると思った』だ、あの野郎っ! 自分でやりたくなかっただけじゃないのかあっ!?」
 岩盤の割れ目から滝となって流れ落ちる中を突っ切りながら、シンはひたすらアスランを罵る。
 ――〝お前が遅過ぎれば、こちらは追い込まれる。早すぎても駄目だ。引き離しきれないんだ。……いいな?〟
 そう言ったアスランの眼差しが思い起こされた時、彼への罵声を途切れさせてしまう。あの眼には、シンに対する信頼が込められていた。考えてみれば、自分の力を認めて全てを任せてくれた上官は、アスランが初めてだった。
 そんな彼の信頼に応えたいという想い。そして、それだけではない。この作戦には、コニール達――ガルハナンの町の人々の命運が懸かっているのだ。
「やってやるさ! 絶対にっ!」
 誰かを救う為の戦い。それこそが、シンの望むところだった。
 シンは集中力を研ぎ澄ませていく。コアスプレンダーの機動に繊細さが加わる。狭い坑道内を縫うように飛び抜けていく様は、鮮やかでさえあった。

 

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 岩山に設置されたローエングリンが大火を放つ。狙われたデュナメイスは、その巨体を滑らせながら回避行動をとる。陽電子砲の白い奔流が、艦体の側をかすめていく。
 紙一重ではありながらも、ザフトの優勢で展開されていた戦況は、連合側に傾きつつあった。
 キラとアスランがザムザザーを二機まで堕としたあたりで、ガルハナン基地の方からウィンダム中隊が連合側の増援として加わってきた為だ。陽電子砲に睨みをきかされ、部隊の展開を制限されているザフト軍は、数の差もあって、再び押し込まれ始めていた。
 アスランが指示を叫ぶ。
「回り込め! あのMA達を戻らせるな!!」
 だが、アスランとキラを軸としているミネルバ隊とデュナメイス隊も、ダガーLやウィンダムを振り払いながら、敵MAの二機をなんとか足止めするのが精一杯だ。
(シンはまだか? これ以上消耗しては――)

 

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 坑道のデータが入ったナビゲーションシステムから、電子音が発せられる。
「ゴール!?……ここか!?」
 シンは坑道の出口を塞いでいるはずの岩をロックオンする。
「距離は五〇〇……行けよーっ!」
 コアスプレンダーから放たれたミサイルが、暗闇の中で爆発する。次の瞬間、坑道内に光がなだれ込んだ。
 シンは迷わず、光の中へコアスプレンダーを飛び込ませる。彼の視界が次弾のチャージ中の陽電子砲を捉える。コアスプレンダーを急上昇させると、シンは素早く合体シークエンスを進めた。翼を持った鮮やかなトリコロールカラーのMS――フォースインパルスが、その場に出現する。
「あれがローエングリン……あの砲台さえつぶせば!」
 シンは防衛部隊のダガーLをライフルで撃ち抜きながら、砲台へと迫る。
「いっけぇぇーっ!!」
 狙いすました一条のビームが、陽電子砲を撃ち貫く。砲身にエネルギーを集めていた陽電子砲が、派手な爆発を起こした。

 

 連合兵達にとっては、信じられない光景だった。同じ光景を見て、ザフト兵達は歓喜する。両軍の誰もが、爆炎を上げる破壊された陽電子砲に気を取られる中で、アスランは動いた。
 セイバーの両手に持たせた二本のビームサーベルをゲルズゲーに突き立てる。ゲルズゲーの複座式コクピットの中で、パイロット達は自分達の敗北を認識する間もなかった。その奇怪な外観の巨体が爆散する。
「残りは……アイツだけだ!」
 陽電子リフレクターを備えた敵MAは、残すところあと一機のみだった。アスランは機体をそのMAの方へ向ける。

 

 迫るザフト機から逃れようとするザムザザーだが、その先からはインパルスが向かってきていた。前後を挟撃される形となったザムザザーは、陽電子リフレクターを展開しながら、インパルスへと特攻していく。
「――なっ!? 突っ込んでくる!?」
 ザムザザーが取った捨て身の戦法にシンは驚きつつも、インパルスの右手に持たせていたビームライフルをビームサーベルに持ち替えさせる。
 シンはオーブ沖で戦った事のあるこの敵MAの弱点に気づいていた。懐に飛び込んで、近接兵装のクローにさえ注意しておけば、存外あっさりと堕とせるのである。
 インパルスはシールドを前方に掲げて、回り込みながらザムザザーとの距離を詰めていく。周囲のダガーLやウィンダムがライフルを撃ってくるが、それらに対しては回避に専念し、反撃はしない。シンはザムザザーの撃墜を優先していた。
 その時、別の方向からビームが飛来する。セイバーのM106アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲だ。ザムザザーはリフレクターを張って防御するが、その所為で動きが止まってしまう。
 それはシンにとって好機だった。迷わず一直線にインパルスを突っ込ませる。
「はあぁぁっ!!」
 インパルスの方に振り返ったザムザザーの頭部に、ビームサーベルを突き刺し、CIWSを打ち込みながら後退する。数瞬の後、ザムザザーの巨体が爆散した。
 要の陽電子砲とMA隊を失った連合軍は、ガルハナン基地を放棄して撤退していく。

 

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 連合基地の陥落の報せに、ガルハナンの町は騒然としていた。怯え潜んでいた町の人々が家を飛び出し、勝利の歓声を上げている。連合の旗が引きずり降ろされて踏みつけられていた。
 喜びに沸く人々の中心では、一人の少女が担ぎ上げられている。町の命運を背負い、見事に今回の大役を果たしたコニールだ。
 シンはインパルスのコクピットから地上へと降りながら、その光景を見て嬉しくなる。
 解放の喜びに熱狂している町の様子に、彼は達成感を噛み締めていた。自分が何かを守ったという証のように、人々の熱を帯びた声が身体に染み込んでいくようだった。
 密かな満足感に浸っていた彼の所へ、セイバーから降り立ったアスランが歩み寄って来た。彼に声を掛けようとしたシンは、相手が暗く沈み込んだ表情をしている事に気づいて訝る。
「どうしたんですか? どこかやられましたか――貴方ともあろう人が?」
 つい皮肉っぽくなってしまうが、言葉の最後の部分はシンの本心であった。
「あ……いや。――大成功だな。よくやった、シン。君の力だ」
 アスランは言われて初めて気づいたみたいに、慌てて笑みを浮かべると、シンを称えた。
「……そんな事ないですよ」
 シンは照れを隠すように俯いて答える。こみ上げてくる喜びに、身体がむず痒くなるのを感じていた。
 彼の信頼に応えられて、それを認められて――舞い上がりそうになる自分を誤魔化すかのように、シンは笑いながらアスランを睨む。
「あっ! でも、あれ酷いですよ! もう、マジ死ぬかと思いました。あんなに何も見えないなんて、言ってなかったじゃないですか!」 すると、アスランは何食わぬ顔で答えた。
「そうか? ちゃんと言ったぞ。データだけがたよりだ、って」
「いや、それはそうですけどね――」
 なおも文句を続けようとするシンに、アスランは柔和な眼差しを向ける。
「でも、お前はやりきったろ? できたじゃないか。……それも、俺は言ったぞ?」
「そ、それもそうですけど……」
 口ではつい言い返してしまうが、シンはアスランからの言葉に心が満たされていった。
「さ、戻るぞ。俺達の任務は終わりだ」
「……はい!」
 アスランに促され、インパルスへ戻ろうとするシンに、コニールが声を掛けてきた。
「あ……あの!」
 シンが振り返ると、少女は何かを言葉にしようとするが、まごついてしまって上手くいかない様子だった。そんな彼女を見て、シンは嫌味のない程度の得意げな顔で訊く。
「……見直したか?」
「うん! ありがとう!」
 笑顔で答える少女の頭を、シンは撫でてやった。
 だが――

 

 ふとした拍子に、シンの視界にあるものが入った。 
「──なっ!?」
 彼は、熱狂の隅で行われている凄惨な光景を目にして衝撃を受ける。ただ呆然と立ち尽くしていると、右肩に手を置かれ、そちらの方に振り返った。シンのところまで、アスランが戻って来ていた。
「……アスランさん」
「惨いな……。惨いが、それだけ彼らも虐げられてきたんだろう。今まで我慢してきた連合への怒りや恨みが、一気に吹き出しているんだ」
 目の前の惨状を冷静に分析するような口調のアスラン。だが、その表情は先程と同じ暗く沈んだものだった。彼もまた、この凄惨な光景に気づいていたのだと、シンは察する。しかし、彼はアスランのように冷静ではいられなかった。
「それは……ですけど! こんな……」
 シンはやりきれない気持ちを言葉にしきれない。彼とて、ガルハナンの人々の心情も分からなくはないが──
 連合の施設は尽く破壊されていく。物陰に隠れている連合兵を引きずり出しては、集団で暴行し殴り殺す。他方では、両手を頭の後ろに組まされて横一列に並べられた連合兵達が、頭を撃ち抜かれて射殺されている。恐怖に顔を引きつらせて涙を浮かべる連合兵を、ガルハナンの住民達は一片の憐れみさえない嬉々とした表情で暴虐していく。その光景は、あまりに無残なものだった。
「……これも戦争の一面だ。一方が勝てば、負けたもう一方が苦しみを嘗める。戦いの向こうには、必ずこんな図式が待っているんだ」
 シンを諭すように言葉を吐くアスランも、苦々しい表情をしている。
 と――
 これまで、シンとアスランの間で黙ったままだったコニールが口を開いた。
「……これまで、私達だって酷い目に合わされてきたんだ。……同じ事をやり返したって、いいじゃないか」
 しかし、少女は言葉とは裏腹に、まるで許しを乞うような眼をシンに向けている。負の感情に染まりきるには、少女は周りの大人達に比べて、まだ幼すぎたのだ。

 

 彼らのいる場を気まずさが支配し始めた時、拡声器越しの声がガルハナンの町全体に届く。
『ザフト軍司令官のヨアヒム・ラドルである。ガルハナンの現地住民の皆様方に申し上げる。この地にいる地球連合兵は全て、我々ザフト軍の捕虜となる。よって、住民の方々には連合兵の身柄確保に尽力して頂きたい』
 ラドル司令官の発する言葉と共に、武装したザフト歩兵がガルハナンの町に散開していく。彼らは住民と連合兵の間に割って入る。
 ザフト――というより、プラントとしては、現在起こっている虐殺行為を許すわけにはいかなかった。これを見過ごしてしまう事は、プラントが連合兵に対するレジスタンスの蛮行を黙認した事に等しいからだ。
 ザフト兵が連合兵を連行していく様を、ガルハナンの住民達は不満そうな顔をしながらも、黙って見送った。ザフトの機嫌を損ねる事を――何より、たった今、連合軍を討ち破ったばかりのザフト軍の力を、彼らが恐れているからである。

 

 シン達もその様子を黙って見ていた。三人三様の複雑な表情をして。
 やがて、シンが気遣うようにコニールへ声を掛ける。
「コニール……」
 シンには、少女に対して何と言って良いのか分からなかった。
 しかし、少女は首を横に振る。
「……いいよ、別に。連合からは解放されたんだし……みんな、ザフトには感謝してる」
 コニールはシンの眼を縋るように見上げて尋ねる。
「ザフトは連合みたいな酷い事……しないんだよな?」
 成り行きとはいえ、住民が力で抑えつけられる様を見て、少女は不安になったのだ。
「あ、当たり前だろ? そんな事、絶対しないって」
 シンが慌てて答える。
「安心してください、ミス・コニール。ザフトはその様な事はしませんよ」
 アスランは優しげな表情でコニールに言う。
 二人の答えに少女も納得したのか、少しだけ笑って見せた。

 

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 それはデュナメイスから帰艦命令を受けた直後だった。
 戦闘の緊張を解いた途端、全身が疲労感に襲われた。視界は霞み、耳鳴りも酷い。なにより、頭痛が耐え難かった。
「うぅぅ……」
 朦朧としながらも、必死に機体をデュナメイスの右舷ハッチへと向かわせる。本来の彼の操縦技術を知る者が見れば、必ず訝るだろう乱暴さで着艦を果たす。それ程、現在の彼には余裕がなかった。
「はぁ……はぁ……」
 呼吸は荒く、動悸も激しい。頭痛はますます酷くなっている。
 コクピット内に微かな衝撃と音が響く。MA時の戦闘機形態である為、コクピット側にタラップが架けられたのだろう。
 機体から降りようとコクピットハッチの開閉スイッチに小刻みに震える手を伸ばしたところで――キラの意識は途切れた。