Sin-Jule-IF_101氏_第20話

Last-modified: 2007-12-26 (水) 20:41:37

 DSSDの白いパイロットスーツに身を包み、シンはスターゲイザーのコクピットに
乗り込んだ。真っ先に目に付いたのは複座型のシートだった。ザフトのMSにも無い訳
ではなかったが、実装されている機体は少ない。そろそろ骨董品になりつつある廃れゆ
くある機構を目にし、シンは目を丸くした。
 そういえば、とセレーネの言葉を思い出す。防衛戦力はオーブの機体を譲り受け、改
良したものだと彼女は言っていた。MSからしてそうなのだから、内蔵するものに古臭
ささえ漂っているのは仕方がないのかもしれない。

 

「どうしました?」
「あ、複座って珍しいなって」

 

 背後からかかった声はソルのものだった。彼もまた同じパイロットスーツを身に着け
ていた。シンの疑問に対し、ソルは簡単に説明をする。スターゲイザーにはメイン操縦
者だけではなく、AIとのコミュニケーションやサポートに回る役が必要になる。シン
がメイン操縦を果たし、その中からソルが必要なデータを取捨しAIに学ばせるという
形式になるとのことだ。

 

「俺はあまり気にしなくていいってことかな」
「それでも、いいデータは出してもらわないと困りますけどね」

 

 シンがほっとした口調で言うと、ソルが苦笑しながら釘を刺す。戦闘に実用的な荒っ
ぽさはあまり求められていない。あくまでも丁寧な操縦をしてもらわねば、学習させる
内容がなくなってしまう。
 シンも軽く笑みを浮かべると、複座の前の席につく。搭載されているOSはコーディ
ネーター用のそれと全く変わりはないようだ。遅れてソルも後部座席に座る。

 

「了解。あと、もう一つ」

 

 全身の黒いラインにプリズムが灯る。NJCを積んだ核エンジンを動かすのは初めて
のことだった。起動音が徐々に大きくなる。純白の鼓動にかき消されぬよう、シンは腹
に力をこめて声を絞り出す。

 

「年もあまり変わらないみたいだし、なるべく普通の話し方で頼む!」
「――わかった!」

 

 ソルもまた、シンに負けないように声を張り上げた。満足したように、シンはペダル
を踏み込む。
 応えるように、スターゲイザーは一歩一歩を踏みしめる。

 

 テストは何日かに渡って少しずつ進められた。
 指の一本一本の可動を細かく調べ、出力を上げては下げ、一つ活動をするたびに全身
に渡るエネルギーが阻害されていないかをチェックする。インパルスの時とは全く様子
が違い大人しい。シンもさすがに欠伸を漏らしそうになった。
 本日もまた、のんびりとしたテストが行われる。穏やかな時間を求めていた割に、慣
れてくるとありがたみなどどこ吹く風だ。自分の事ながら勝手なものだとシンは思う。

 

「退屈そうだね」
「ザフトの時とは全然違うからな」
「へえ、ザフトでもテストパイロットを?」
「ああ、あれはあれで身体にきたけど」

 

 シンはインパルスのテストのことを簡単に話す。パワーのチェックのために、量産機
を相手に立ち回った。稼働時間を測るため、ギリギリまで飛び回った。最高速を測る時
などは、過剰とも言えるのではないかというほどのGがのしかかった。慣れない内など
はベッドとシートの往復だった、と笑いながら語る。
 ソルはシンの話に耳を傾けながら、同時にデータの入力を行っていた。

 

「今日は他のMSのテストがあったりとかするのか?」
「いや、そんなものは無いはずだけど」

 

 前の座席のシンが突然言い出したことに、ソルは怪訝そうな声で答える。何故、と聞
くよりも先に疑問への解が目に付いた。

 

「MS反応がある。それも――」

 

 言葉が切れるよりも先に、上空から光が降り注いだ。周りを囲っていたシビリアンア
ストレイの何機かが被弾し、爆発を起こす。

 

「あれは、ダガー? でも何か違う!」

 

 黒い装甲のMSが次々と降下する。105ダガー、おぼろげな記憶の中から、シンは
機体の名前を引っ張り出す。教本の写真くらいでしか見たことはなかったが、少数しか
配備されなかったはずのMSだ。
 シビリアンアストレイが105ダガーの出現に身構える。それを牽制するように、機
体の足元に別の射撃が見舞われた。上空の機影が、さらに三つ。

 

『その機体、我々が頂く』

 
 

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