Sin-Jule-IF_101氏_第27話

Last-modified: 2007-12-26 (水) 20:43:26

 パトリックよりジャスティスが飛び立ち、四機のジンがそれに続く。迎え撃つオレン
ジのグフはテンペストを抜き、刃を発光させた。
 想像していた通りの戦力にハイネは唇を吊り上げる。ジャスティス相手には太刀打ち
できないかもしれないが、ジン相手ならば四対一でも勝ち目はある。背後にはオルトロ
スを構えたザクも控えている。唸る鞭で敵を打ち、複数の相手と順に切り結びながらハ
イネはセイバーとジャスティスの様子を垣間見た。
 ジャスティスの相手という大役を任されたレイだったが、セイバーの動きには精彩が
ない。何事かとハイネは通信を繋ぐ。

 

「どうしたレイ! 腹でも痛いのか!」
「……いえ、戦闘に問題はありません」

 

 通信に答えつつ、ちらりとミネルバに視線をやる。ミネルバには既に報告したが、外
から見る限りでは異常は無い。レイはアウルの逃亡を告げるべきか躊躇った。言ってし
まえばハイネを動揺させることになる。相手のMSがジンとはいえ、パイロットは熟練
の腕を持った猛者たちだ。集中を乱すような真似をするべきではない。
 ミネルバのクルーがアウルを捕まえて上手くなだめてくれるのを期待するしかない。
そう決め、レイは銃口を迫るジャスティスに向けた。

 

「アビスは出撃してないのかよ」

 

 隠れ潜むアウルはMSドッグに仕舞い込まれた愛機の姿を見、驚きと呆れの混じった
声を上げた。
 アウルは渡りに船とアビスに近寄っていった。既にドッグまで侵入しているとは思わ
れていなかったらしく、そこに捜索者の姿はない。
 コーディネーターは案外見る目がないのかもしれない。強力な火力を持ち、PS装甲
と水中のビームを通さない性質を最大に生かせるアビスは大気圏内では猛威を振るえる
存在だ。ルナマリアに回されるはずだったその機体の調整は既に済んでいたが、ここ一
番では乗り慣れたザクウォーリアの方が安定する。そんな意図など知らないアウルは侮
蔑の意思だけを投げかけ、アビスに搭乗した。

 

「……げっ、趣味悪っ!」

 

 静かに、かつ速やかにアビスを自分用に調整していたアウルは思わず声を上げた。ア
ビスのPS装甲の色は赤に設定されている。そもそも水の中が主戦場のアビスは防御に
力を裂く必要はあまりない。高い防御性能と引き換えに電力を大きく消耗する赤色を選
択するということは、次の乗り手とやらは相当のチキンなのだろう。想像し、笑みを漏
らしながらアビスの装甲を青に戻す。
 一通り調整を終え、次にミネルバのデッキへと通信を繋げた。

 

「ここ開けてくれない? さもなきゃ、ぶっ壊すよ!」

 

 宣言なしで砲撃を加えたほうが効果的なのは解っていた。しかし、それはレイに指摘
されたばかりのことだ。
 彼の言うとおりにするのは、何故か癪だった。

 

「アビス? まだパイロットがいたのか?」

 

 ミネルバから飛び出した新たな機影を見、アスランは眉をひそめた。セイバーのパイ
ロットの技術は初対面の頃より確実に上がっている。ダーダネルスの戦いの時は我を忘
れたような突進をしていたが、眼前の敵機は別人が動かしているように速く鋭い。セカ
ンドステージのMSが二機も相手となっては不利に陥る可能性が高い。遅れての出撃は
不可解でもあったが、警戒をするに越したことはない。
 生じ始めたアスランの焦りとは裏腹に、アビスは早々に眼下に広がる海中に潜って姿
を消した。地球軍がやっていたような必勝の型に入るのかと思ったが、反応はどんどん
遠ざかり、弱くなっていく。

 

「もらったッ!」

 

 セイバーの収束ビーム砲がジャスティスを捉える。反応が遅れ、攻撃に向けた盾は弾
き飛ばされた。レイは驚くとともに舌を打つ。確実に落とせると思われたが、被害が盾
だけとは予想外のことだった。
 対するアスランは大きく息を吐いた。レイの攻撃はコクピットを正確に捉えていた。
咄嗟の防御こそはできたが、左腕ごと奪われてもおかしくはなかった。
 もはやレイは手玉に取れるルーキーではない。認識を改め、意識をセイバーに集中す
る。遠ざかっていくアビスは気になったが、その位置はジャスティスの射程外だ。
 二本のラケルタ・ビームサーベルを携え、セイバーに向かう。ジャスティスは近接戦
闘に特化したMSだ。単純な速度ではセイバーには及ばないが、距離が近付けばジャス
ティスに分がある。機関銃、リフター、あらゆる武装を駆使しセイバーの航空を阻み、
アスランはレイとの距離を詰めていった。

 

「なにやってんだよアイツ……!」

 

 ある程度逃げたところで、アウルは自分の後方で行われている戦闘に目を向けた。グ
フとザクは統率の取れたジンの連携に戸惑っており、セイバーはジャスティスに翻弄さ
れるように回避に専念していた。
 見ながら、アウルは唇を噛む。これはザフト同士が決裂した戦いだ。連合の人間とし
ては関与すべきことではない。それは理解していたが、

 

「面白くないんだよね! あんな奴にやられちゃさあ!」

 

 自分を叩きのめした相手が別の人間にやられるなど言語道断だ。叫び、アビスは海中
より身を乗り出した。ジャスティスを狙い、バインダーと胸部からの一斉砲火を放つ。
距離をとっていたために命中はしなかったが、それはアスランを混乱させた。
 上空で戦っていた二機の赤いMSは同時に動きを乱したが、態勢を立て直したのはセ
イバーの方が先だった。アビスに、セイバーからの通信が入る。

 

「まさかお前に助けられるとはな」
「お前を倒すのは僕だ! こんな奴にやられるなんて許さないからな!」

 

「サトー、すまないが旗色が悪い」

 

 逃げたと思われたアビスは敵に回ったらしい。うってかわって防戦一方のアスランは、
ジン部隊の隊長へと通信を繋いだ。

 

「了解だ。すぐに我らもそちらに加勢しよう」

 

 自由に飛行できるグフと強化されたブースターによるホバリングとでは差がある。動
きを止めればザクのオルトロスが見舞われる。数の上では有利と言えど、実質的に不利
であるはずのサトーだったが、その声は至って冷静だった。
 グフのテンペストを盾で受け、ジンはスラスターに火を灯す。直線的な動きは敵の思
う壺だったが、ジンの部隊は急に速度を上げ、ミネルバへと突進した。

 

「もらったあッ!」

 

 オルトロスの極大の一撃がジンの部隊に見舞われる。薙ぎ払う一撃がジンを飲み込み、
そこで大勢がつくはずだった。
 ジンの黒い装甲が赤く発光し、光の奔流をものともせずに突進する。

 

「や、やだっ、ちょっと……ッ!」

 

 驚愕するルナマリアの機体が瞬く間にズタズタにされ、次に斬機刀がハイネの翼を襲
う。スレイヤーウィップで応戦するも、ザクを討った彼らの脚は、既にミネルバに取り
付いていた。下手な攻撃もできず、ハイネも防戦に回らざるを得ない。
 スクリーミングニンバス。ドムトルーパーに搭載されるはずだったビームを無効化す
る機構を彼らのジンHM2型は搭載していた。

 

「沈めぇッ!」

 

 ハイネが構えた盾を、サトーの剣が吹っ飛ばす。旧型であるジンに最新式の装備を置
くには、大幅なカスタマイズを必要とする。サトーらの機体は、ジンの姿をした全く別
のMSと呼ぶべき性能を持っていた。

 

 <タイプ・インサージェント>という名はどうだろうか、と提案したのは他でもない
ユウナだった。本人を前に反逆者とはずいぶん大胆なものだとサトーは思ったが、悪い
名前でもないとも感じていた。全てを敵に回してでも戦わんとする自分らこそ、まさに
世界への反逆者であろう。
 斬機刀が、グフイグナイテッドへと振り下ろされた。

 
 

前へ 戻る 次へ