Sin-Meer_PHASE04―火急―

Last-modified: 2007-12-17 (月) 15:47:57

PHASE04―火急―

 

#1
『ごめんねぇ?強くてさぁ!!』

『チッ…!?敵ながら…やる!』

 レイのザクのシールドが吹き飛ばされる。しかし、レイも負けてはいない。
 ビームアックスを投げ、アビスの肩に食い込ませ…

『貰った……!!』
『何ィィィィ!?』

 食い込んだビームアックスに踵落としを見舞い、アビスの腕を斬り落とす。

 そして、アスランとカオスの戦いも全て紙一重で攻撃を回避するアスランと、徐々に追い詰められていくカオス。コレばかりは相手が悪いんだよ。

『クソったれ!!何故だ!!戦闘力で負けてる…だと!?』
『何だ…この感じ…?…いや、あの時のパイロット達は…そんな訳は無いか。』

 迫るガンポッドを撃ち落とし、炸裂弾を思い切り投げつける。

『ぐわぁぁ……!!?』

 ザクでカオスと…対等以上に…強いな…アスラン・ザラ。

 と、俺もガイアの相手をしなきゃいけないな。翼に内蔵されたビームサーベルでビームランスを斬り落とされ、状況はやや不利に傾いている。その上ガイアは細かく動き回り、下手に撃てばその隙に俺は叩き斬られる。
 ルナも援護してくれてはいるが、散らばるデブリのせいで、狙撃が難しくなっている。

「くそ……!!こうなったら!!」

 インパルスを分離させ、コアスプレンダーで立ち回る事にした。機動力には機動力だ。

『何だ!!分離出来るのか!?』
「このっ……!!喰らえっ!!」

 デブリの間をかい潜り、バルカンでチマチマとダメージを蓄積させていく。PS装甲に無意味だと思われがちだが、バッテリーを削るには有効だ。

『ちょこまかと………!?』

 再びMS形態に戻ったガイアが、ビームライフルで俺を執拗に狙ってくる。相手はある程度平気だろうが、こっちは一撃でも受ければ即、天国行き。ハッキリ言って弱い者いじめ此処に極まれりである。

『ちょっとシン!?大丈夫なの!?』
「大丈夫な訳あるか!!至急援護頼む!!!!」

 

#2

「メイリン!!フォースシルエットは出せるか!?」
『フォースシルエットだね?分かった。少し待ってね?』

 フォースシルエットが来るまで逃げ切れるかな?俺…。いや、後ろ向きに考えるな俺。
 ルナが頑張ってくれてるし、まだ何とか余裕が有る。

『このっ!このっ!!』

 ビームライフルを乱射してくるガイアに、ルナのザクがタックルする。ガイアはバランスを崩しはしたものの、転倒はしなかった。
 とはいえ、今まで乱射していたのが効いたのか、バッテリー切れを起こした様だ。

「よし!!今だ!!!!」

 バルカンで蜂の巣にしようと思った瞬間、遠くの方で信号が発光した。すると、三機は一斉に撤退を始める。
 帰投の合図なのか?

『な…なんだったのアレ?』

 ルナがぶつくさと独り言を言っているが、俺は全身からくる安堵感に身を委ねた。
 生きている…良い事だな。

 ミネルバに帰投すると、ハンガーにはミーアが居た。俺の姿を見るや否や、いきなり掛け寄って来て、

「シン、お疲れ様。怪我とかはしてない?」
「見ての通りさ。ていうか、一応みんな居るんだし、口調気をつけろって。」

 小声で注意すると、「しまった!?」とでも言わんばかりの表情になり、

「あ…あら私とした事が。」
「まぁ、誰も気付いてないみたいだから良かったな。」

 ミーアと共に、ハンガーから出ようとすると…ヴィーノが寄って来た。

「シン、お疲れ様。いやーびっくりしたよ。いきなりコアスプレンダーで戦いだすんだから。」
「あぁ、あのままだと身長を半分にされてたしな。それで…何か用か?」
「あぁ、ごめんごめん。いや、議長からお話があってさ?フォースシルエットより、ブラストシルエットの整備を頼むって言われちゃって…多分、暫くはフォースを使えないと思うから。
 一応それだけ伝えておこうと思ってね。」
「やっぱ、ユニウスの事でか?」
「うん、最悪の場合はブラストで細かい破片を吹っ飛ばして欲しいって。」

 まいったな…フォースが使えないのか…。まぁ、なんとかするしかない…か。

「どうしたのです?シン」
「や…やれやれって事ですよ。」

 疑問符を浮かべるミーアに、内心溜め息をつきながらそう答えた。

 

#3

 とりあえずは状況を確認しないとな。俺達はブリッジに向かう事にした。

「グラディス艦長。ジュール隊の状況はどうですか?
 というより、後何分で辿り着けそうですか?」
「状況は良くないわね。正直、押され気味みたい。
 着くには…そうね、大体十分から…最悪二十分は掛かるわ。間に合うかしら?」

 深々と溜め息をつきながら、状況を嘆いている。まぁ、そりゃそうなんだよな。
 あんなものが地球に墜ちた日には…ぞっとしないな。
 でも、艦長…溜め息ばっかついてると老けますよ?

「何か言った?」
「何も言ってません。」

 エスパーかこの人!?今、俺の心を読んだよ!?つーか目がめっさ怖いです!!

「まぁ、コーヒーでも飲んで休憩してて頂戴。あなた達には、後で沢山働いて貰うから。」
「了解。」

 かくして、俺達は細やかな小休止へと向かった。

「シン…随分疲れてんな?大丈夫なのか?」

 げんなりしている俺に、ヨウランが話しかけて来る。正直、さっきの戦闘がキツかった。

「あぁ、大丈夫大丈夫。俺も一応赤だしな。」
「大丈夫じゃないでしょう?目の下がクマだらけですわ。」
「あぁ、ラクス様の相手が極端に疲れるのが原因ですかね。」
「どういう意味です?」

 ゴゴゴゴゴ…という効果音が聞こえて来る。やべ…遂、本音が出ちまった。
 ヨウランは既に遠く離れている。逃げ足早いな…。

「少しお話が有るので…向こうまで来て頂けますか?」
「いや、既に引っ張ってる!!またこれかよ!!」

 俺はズルズルと、耳を引かれて連れられる。疑問に思うんだが、護衛なんか要るのか?ミーアに…

「……ラクス様って…案外武闘派なんだね。お姉ちゃん。」
「そ…そうね……。」
「ラクスはあんなじゃない…ラクスはあんなじゃないぞ…。」

「どうしました?アレックスさん。」
「なんでもない……。」

 何故か、アスランの抗議する視線が突き刺さった。

それは筋違いだ…アスラン。
そして助けて…マジで。

 

#4

 ミーアに拉致されて数分、俺はようやく解放された。
 ミーアは不貞腐れて、部屋に戻ってしまった。とはいえ…口は災いの元だな…アスハの時といい、今回といい。

「シン…大丈夫?耳赤いよ?」
「うん…多分大丈夫。」

 メイリンが苦笑しながらコップを口に運ぶ。

「迂濶な発言だったな。流石に俺でもフォローは出来なかったぞ。シン」
「いや…俺が悪いのかよ。」
「そりゃシンが悪いでしょ♪」

 俺の味方はメイリンだけかよ!?

「まぁまぁ、彼にだって悪気が有る訳じゃないんだ。それくらいにしてやったらどうだ?」

 おぉ…アスラン…アンタもフォロー……って目が怖いんだけど!
 目は口程にものを語るって、本当の事なんだな…。

「そ、そんな事より、ユニウスの件って大丈夫なのかな?」
「どうかな…大分厳しくなると思うぞ?ジュール隊ですら苦戦する相手なんだ。良くてギリギリ…じゃないかな?」
「あぁ、テロリスト達は相当出来る奴等の様だからな。」
「でもさ?落ちても仕方ないんじゃないかな?それって不可抗力だろ?」

 ふと、ヨウランがそんな事を言った。本人は別に本気で言った訳でもないだろうが、今はタイミングがまず過ぎた。
 アスハがそこに居たからだ。

「よくそんな事が言えるな!?お前達は!!」

 魂でも抜けそうなくらい跳ね上がったヨウランが引きつった顔で振り返る。

「仕方ない…不可抗力だと!?
 自分達が助かれば……」
「カガリ!!」

 アスランが止めに入るも、アスハは止まる気配が無い。そして、俺の怒りもまた頂点に昇りつつある…でも、押し殺さないといけない。

「言葉が…過ぎたのは確かですが…ヨウランだって…別に…本気で言った訳では…ありませんよ…。」

 声が震えてるのが自分でも分かる。正直、このままアスハをぶん殴った方が数百倍楽だし、スッキリもする。
 でも、それは出来ない…。
 俺の今の形相はよっぽど酷いのだろうか?ルナもメイリンも、俺を見て放心状態になってる。

「シン…。ほら、カガリももうやめろ。」

 アスランが諭す様にアスハをなだめている。
 何だか疲れた…もう、此処に居る気はしない。
 飲みかけのコーヒーを飲み干し、食堂を出て行く事にした。

 

#5

 うーん……さっきはシンにやり過ぎちゃったかな?ううん、アレはシンが悪いのよ。でも、反省してるだろうし、そろそろ許してあげようかな?…なんて考えてると、シンが向こうから歩いて来た。でも、ちょっと様子が変だけど…どうしたのかな?

「くそっ………!!」

 びっくりした…いきなり壁を殴るなんて…。

「シン?どうかしたの?」

 恐る恐る声を掛けてみると、

「別に…どうもしない。」
「嘘…顔に出てる。」
「うるさいな…何でも無いって言ってるだろ?」

 何でもないのに何で怒ってるのよ?全く、最近の子ってわからないわね。

「もしかして…またアスハ代表と何かあったり?」
「ちーがーう。しつこいぞ?」

 絶対に図星だわ。コレ。本当に…シンもアスハ代表も血の気が濃いっていうか何ていうか…。

「此処に居たのか、シン。」

 問い詰めようとした時、アスランが後ろから現れた。とことん心臓に悪い現れ方ね…。

「あ、アスラン…またシンが何か粗相を?」
「いや、今回は何も…ただ、カガリが迷惑を掛けてしまってね?」「え…?シンは何も?」
「シンは、むしろフォローしてくれたよ。済まないな…シン」
「別に…アスハのフォローなんてしてませんよ。俺はただ、ミーアにまた耳引っ張られるのが嫌だっただけです。」

 そう言って、ズカズカと歩いて行ってしまった。
 アスランはそれを見て、苦笑しながら、

「不器用な奴だな…彼は。」
「そうですね…事の経緯は分かりませんけど…。」
「君…随分根に持ってるな…」

 

#6

「………という事が有ったんだ。これで満足か?」
「そんな事が有ったんだ?
 それと、何故か引っ掛かる言い方なんだけど…。」
「気のせいじゃないか?」

 いや、目を反らして言われても…説得力無いし。何だか、シンもアスランも私を邪険にしてない?

「まぁ、彼のお陰で正直助かったよ。………ハァ。」
「どうしたの?」
「いや…色々ありすぎて、流石に疲れたよ。……と、そろそろ時間だな。」

 そう言って、アスランは準備に行った。そっか、アスランもこの作戦に協力するんだっけ?
 シンも…行くのよね?
 ………それなら、

「…何しに来たんだよ?」
「これから戦いに行くんでしょ?少しでも役に立てればな…って思って。…でも、私は戦う事なんて出来ないから…せめて、勇気付けれればなぁって。」

 パイロットスーツを着たシンが、半眼で私を見てる。

「まぁ…気持ちは有り難く受け取っておくけど、俺なら大丈夫だよ。いくらテロリストが手強い連中だとしても、こっちにはアスランにジュール隊の人達が居るんだ。負けやしない。」
「買い被り過ぎだよ、シン。俺はそんな大層なものじゃない。」
「ゲッ……!?アスラン!!」
「ゲッ…って…君なぁ……。」
「ふふ…何だか、これから戦いに行く人達とは思えない。」

 苦笑しながらアスランが、

「気負い過ぎてどうなる…というものでも無いしな。やるからには全力で行くが、無理に自分を追い込むのは正しくない。」
「でも…アイツ等は許しちゃいけないんだ。ユニウスを…あんな事に使おうとするなんて。」

 シンの顔が険しくなる。手にもかなり力が入ってるみたい。

 

#7

 私がブリッジに戻ると同時に、シン達が出撃した。どうやら、墜落を止める事は最早不可能みたい。
 だから、被害を最小限に抑える事しか出来ないんだって…。

「ラクス様…。」
「あ…はい。なんでしょうか?グラディス艦長。」
「議長が御呼びです。ラクス様も要人ですので、念の為に救命ポッドの辺りに来る様に…と。」
「…分かりました。では…」

 そうね、私が此処に居ても、艦長やみんなの邪魔になってしまうだけだものね。
 議長が御呼びになってるし、早く行かなきゃ。

「やぁ、遅かったじゃないか…ラクス。」
「はい、少しばかり用事が…」

 議長とアスハ代表、そして私が救命ポッドの有るフロアに居る。いざとなれば、私達は逃げないといけないから。

「浮かない表情だね?まぁ、それも無理は無いか…。」
「い…いえ、その様な事は…」
「君の気持ちも分かるさ…だが、我々に戦う力は、残念ながら無いのだ。彼等を信じる以外に道は無い。」
「そうだな。アスラン達ならきっとやってくれるさ。」
「アスハ代表…。」

 そうは言ってるけど、アスハ代表も苦い表情…。そうよね、オーブの命運も掛かってるのだものね…。
 シン……それにみんな…頑張って。

「ユウナの奴…ちゃんと避難勧告を出してるかな?オーブ軍の皆は、民を避難させているだろうか?」

 ブツブツと、頭を抱えながら何かを呟いているアスハ代表を見ながら、議長は渋い表情をつくる。

 

PHASH04―END