PHASE05―世界の変わる日―
#1
「くっ…!?コイツ等…っ」
『大丈夫か!?シン!!』
「はい、何とか……」
ユニウスは地獄と化していた。あちこちに、テロリストのものとザフトの機体の残骸が落ちている。
くそっ…向こうはブラストインパルスの弱点を的確に突いてくる。レイとアスランが俺を援護していてくれるが、数で圧されているこの状況ではやはり厳しい。
『我等の邪魔はさせぬぞ!!』
『こちらも…こんなものを落とさせる訳にはいかない!!』
テロリストの機体…黒いジンの斬機刀を、ビームアックスで受け止め、その隙にミサイルポッドの中身を一気にぶちまける。
これでまた一機撃墜。
『大丈夫か?シン…』
「あぁ…。それにしても…随分な数だな…。」
『そうだな…。それにしても、メテオブレイカーとインパルスは連中に大人気みたいだしな…。』
「嬉しくない限りだよ!!……っと。」
ケルベロスを展開させ、薙払う様にビームを放つ。当たれば恩の字だが、当たらなくても構わない。奴等に恐怖さえ植え付けれれば良いんだ。
『ミネルバも大人気よ?群がって来て…うざったいのなんのって!!』
『ミネルバは大丈夫そうか?』
『数が数だもの、キツイに決まってるでしょ?でも、ジュール隊の人達が援護してくれてるから大丈夫よ。』
『分かった。健闘を祈る。』
『アレックスさん…シンの援護は俺一人で十分です。あなたは、メテオブレイカーをお願いします。』
『了解。そうしよう。シン…死ぬんじゃないぞ?』
「誰に言ってるんです?これでも、まだまだいけますよ。」
『ふっ…たくましい事だ…』
アスランのザクが飛び去る様を見やり、俺はテロリスト達に視線を戻した。
#2
それにしても…次から次へと!!うっとうしい限りだな!!
『シン、無闇やたらに撃つな。エネルギーが持たないぞ!!』
「それでも、撃たなきゃ撃たれるだけだろうが!!いざとなったら、ソードで戦う!!」
次々と押し寄せるジンの群れを撃ち墜としながら、俺はメテオブレイカーを守っている。
キリが無いが、それでもやるしかない。
「それにしても…あの人達…凄いな。あれが…ヤキン戦を生き抜いた人達の力か…」
『あぁ…凄まじいな…。』
アスランとイザーク隊長が前衛を務め、後衛のディアッカさんが的確に狙撃している。
『イザーク!!ディアッカ!!遅れるなよ!!』
『俺に指図するな!!一般人が!!』
『やれやれ…ま、そう突っ掛かるなよ。イザーク。
グゥレイト♪また一機墜としたぜ。』
『黙ってやらんか!!ディアッカ』
『おー恐い恐い。そんなカッカすんなよイザーク。調子崩すとどうにも上手くいかないんだよ。俺の狙撃って。』
本当に…化物だな。あの人達。
俺も確りと守らないとな…
「くそっ…!?」
『どうした?シン』
「ミサイルが切れた…エネルギーも半分切ってるし…ちょっとまずいな。」
『仕方ない…シルエットを変えて来い。少しの間なら、俺が受け持っておこう。』
「悪い…すぐ戻る!!」
実際、シルエットを飛ばして貰えば楽なのだが、ブラストシルエットのスペアが今は無いから、わざわざ艦に戻る必要が有る。
「メイリン!!ソードシルエットを頼む!!」
『うん、わかった。待ってて』
#3
「インパルス、着艦します!!」
『急いで、時間もあまり無いのだから。』
「分かってます。ブラストシルエットに補給をお願いします。」
補給を頼み、今度はソードインパルスで出撃する。正直…厳しくなるが、この際は贅沢は言えないな。
レイのところに戻る途中、メテオブレイカーを守っているルナを見つけた。ジュール隊の人が増援に来てはいるが、数で圧されている。
…行かなきゃまずいな。
「レイ、まだ耐えれるか?」
『厳しいところだが、少しくらいならな。どうかしたか?』
「ルナの方が圧されてるんだ。これから援護に回ろうと思ってな…すぐに行くから待っててくれ。」
『分かった。出来るだけ早めに頼む。』
ザクに斬り掛かっていたジンを両断し、着地する。
『インパルス…?』
「大丈夫か、ルナ?これから援護に入る。」
『本当?助かったわー。しんどかったのよねー…。ま、インパルスが来ればこっちのもんよ!!』
俺はフラッシュエッジとエクスカリバーで、次々とジンを墜として行く。ルナは、遠くのジンを狙撃している。
『ぬ…!?小癪なっ!!』
「遅い!!」
『何!?ぐわあぁぁぁあ―――』
一機撃墜…まだまだウヨウヨしてるな…。暫くすると、青いザクが此方に来る。
『そこの小僧、大丈夫か?』
「イザーク隊長…?は、はい…大丈夫です。」
『よし、なら良い。此処は俺達が引き受けた。貴様は持ち場に戻れ。』
「分かりました。お願いします」
よし…ルナも何とかなりそうだな。早くレイの方に戻らないといけないな。
「レイ、待たせた。大丈夫か?」
『何とかな…。そこそこ被弾はしたが、まだまだだ。』
「よし、守り抜くぞ!!」
『ふっ…言われなくても、最初からそのつもりだ。』
今度は数機のジンが此方に向かって来る。だが、やらせる訳にはいかない。
#4
「来たな…。レイ、援護射撃…頼んだぞ?」
『あぁ、突っ込むんだな?』
「斬った方が早いからな。この装備だと。」
迫り来るジン達の先頭に居る奴を両断しようとエクスカリバーを走らせる。しかし、潜り抜ける様に避けられた。
「何っ…!?」
『ふんっ…遅いわ!!」
体当たりされ、吹き飛んだところにビームライフルで追撃して来るジン。一、二発かすめたがまだいける。
「コイツ…動きが違う!?コイツが隊長機か!」
『MSの性能だけで勝てると思うなよ!!」
『シン…!!その敵は手強いぞ!!』
レイの忠告が耳に入る頃には、既に懐まで入り込まれていた。握られた刀の柄で打たれ、体制を崩される。
更に最悪な事に、エクスカリバーを一本奪われた。
「うわっ…!?しまった!!エクスカリバーが…」
『勝負有りだ新型!!』
振り被り、一気にインパルスを叩き斬ろうと刃を走らせる。
武器は…武器は無いのか!?
シールドで受けるが、紙の様に斬り裂き…更に左腕まで持って行った。
戦艦の装甲すら容易くブチ抜けるのがエクスカリバーだ。シールドで防げる訳は無い。
『ほう?凌いだか…。運動性に救われたという事か。』
「まだまだぁ!!」
腰のサイドアーマーにナイフが有った事を思い出した。
フラッシュエッジなんか投げる余裕は無いし、エクスカリバーはさっきの二の舞になるだろう。でも、これなら…!!
コックピットを狙って突きを繰り出すが、当たったのは右肩。くそっ…反らされた!!
『…ふん、少しばかり油断し過ぎた様だな。ともあれ、私に一撃を入れるとは大したものだ。
だが………』
「また来るか…!!」
今度は、“斬り”ではなく貫かんと“突き”を繰り出して来る。動作は丸見えなのに、何故か回避が追いつかない。
『幸運は二度も続かん!!』
「っ………!?」
『避けろシン!!』
#5
『もらったぁぁぁぁ!!』
ヤバい…死ぬ…ぞ?動け…動けよ!!こんなとこで…俺は死ねないんだよ!!!!
「……おおおぉぉぉお!!」
『何だ?急に…動きが…?』
急に、頭の中で“何か”が弾けた。ブチ切れたとか、そんな単純なものじゃなくて…頭の中が真っ白になる感覚。
頭の中がクリアに…感覚が研ぎ澄まされてシャープになって行く。
『動きが…変わった!?』
迫るエクスカリバーを、屈んで避けて懐まで迫り…タックルで体制を崩す。コイツは生かしておいてはいけない…。
消えちまえ………………。
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!!!
「うおおおぉぉぉぉお!!」
『シン!!どうしたんだ!?』
通信が入るが、今は知った事じゃない。構っていられるもんか。 今すぐにでも…コイツは倒さなきゃいけない。
落ちたエクスカリバーを広い、でたらめに投げる。当たる事なんて期待しちゃいない。
『くっ…だが…まだ甘い!!』
「………………」
胴を狙って蹴りを放って来たが、みすみす当たる訳にもいかない。咄嗟に分離してやり過ごし、フラッシュエッジを投げる。
『ククク…成る程な、これ程までの実力を隠していたか。だが、私は此処で撃たれる訳には行かぬ。
者共、退却するぞ!!いずれユニウスは墜ちる!!我等が手を出す必要など、もう有りはしない!!』
『シン!!テロリストが逃げるぞ!!みすみす逃がすな!!』
「分かってる…。」
先程の隊長機らしき機体だけでも墜とさないと…。しかし、速度が早く追い付けない。
フォースシルエットが使えれば違ったのだろうが、今は使えない。追撃は無意味だ。
ユニウスを砕く事だけを優先しよう。
#6
メテオブレイカーで、大体は砕けたのだが…それでも大きな破片が幾つも残っている。
………こうなったら…。
「メイリン!!ブラストシルエットはどうなってる?」
『エネルギーの方は殆どフルだよ。でも…もう時間が無いよ!?シン。』
『そう、早く脱出しなさい。タンホイザーで、大きな破片を砕くわ。』
「いえ、それでも…一個でも多く墜とさないと…地上が大変な事になってしまいますよ。
だから…お願いします。」
グラディス艦長が、呆れた表情で溜め息をつく。
『シン、あなたね?それで離脱出来ずに落ちれば、死ぬわよ?
自分の役目…忘れてるんじゃない?』
『シン…艦長の言う通りだ…。俺達は、止める事が出来なかったんだ。それに、お前には役目が有る…ラクス様をお守りするという役目が…。』
「…了解、これより帰投します………。」
結局、ユニウスの破片は地上に落ちた。そして…数多の被害が出た。後に、“ブレイク・ザ・ワールド”と呼ばれる様になったこの日…俺達は………。
ベッドで寝そべっていると、部屋に誰かが入って来る。
「シン…。」
「ミーアか…俺、守れなかったよ。くそっ……。」
「そうね…。地上の被害…酷いみたいよ。」
苦しそうな表情で、ミーアがそれだけを言う。下手な慰めよりはマシだけど、それでも結構キツイ。
「あのテロリストの人達…どうしてユニウスを墜とそうだなんて考えたのかしら…?」
「分からない…。でも…どんな理由が有ったって…許される事じゃない…許しちゃいけない。」
「そうね…。」
でも…止められなかった。
いつまでも悔いたところで何も変わりはしない。それは分かっている…だから、少し気分を変えに行かなきゃな…。
#7
気分転換する前に、議長に呼び出された。何かあったのだろうか?
「ミーア。先に食堂に行っててくれないか?俺は、議長に呼び出しされてるから。」
「うん、分かった。早く来ないとシンの奢りにしちゃうから♪」
「いや待てよ。何でそうなるんだよ。」
ミーアが微笑みながら食堂に向かって行く。切り替えが早い…と思ったら、そうでもないみたいだ。
少し距離が離れると、重い足取りに変わった。気を遣わせてた…のかな?俺。
議長の部屋の前、ノックしようとすると、何かが聞こえる。
「話し声?」
「あら?シンじゃない。」
「あれ?…ルナ?どうしたんだよこんなところで。それに、レイも。」
「議長に呼ばれてな…。なんでも、今後について話したい事が有るそうだ。」
「今後?でも…今入って大丈夫なのかな?」
「何かあったのか?」
「いや、話し声がするからさ?」
「スキャンダルの匂いね♪」
「何処のマスコミだ。お前は」
と、いきなり扉が開いて、出てきたのはアスランだった。
「アレックスさん?」
「シン?それにみんな…そうか、議長に呼ばれたんだな。議長がお待ちだぞ?早く入った方が良いんじゃないか?」
アスランは、何処か追い詰められた様な表情だった。何かあったんだろうか?
まぁ、余計なお世話だな。ルナじゃあるまいし。
議長をあまり待たせるのは良くない、早く入るか…。
「いきなり呼び出してすまないね?諸君」
「いえ…。何かありましたか?」
「あぁ、実はね………レイ、君にはジュール隊に転属してもらいたいのだよ。」
「自分がジュール隊に…ですか?」
「強奪された新型を追ってもらいたいのだよ。奴等は、まだこの辺りの宙域に居るからね。」
おいおい、それじゃあこっちはどうなるんだ?ルナと俺だけだと、流石にミネルバの守りが薄くなるぞ?
#8
「あの…議長?今の状況でレイが欠けてしまうと、ミネルバの守りが薄く……」
「シン…私も考え無しに言っている訳ではないのだがね?」
「し…失礼しました!?」
議長が笑いながら答える。しかし、議長オーラに圧されてつい謝ってしまった。
「確かに、パイロットが二人だけなんていう状況は放置出来ない問題だ。そこで…だ。まだ到着はしていないが、地球降下後のミネルバには…とっておきのエースを隊長として迎えてもらいたい。」
「とっておきのエース…ですか?」
「うむ。フェイスだ。」
「なっ……!?」
フェイス…話には聞いた事が有る。ザフトのエース中のエースで構成され、議長の切り札とまで言われている特務隊だ。
「それなら安心だろう?シン」
「はっ…はい!!」
「よし、そろそろ時間だ。レイ…我々はエターナルで一度プラントに戻る。早めに準備を頼む。」
一応補足…二年前のヤキン戦以降、エターナルとフリーダムはザフトに返却されている。フリーダムは二度と使われる事の無い様に破棄され、エターナルはジュール隊の物として運用されている。
「了解。」
「議長はプラントに戻られるのですか?」
「先程、アレックス君から気になる事を聞いたものでね?それに、プラントを束ねる者としてあまり長く席を外すのも良くないからね。
さて…長話になってしまって済まないね?歳は取りたくないものだよ…全く。それでは諸君、軍務に戻ってくれたまえ。」
「ハッ!!」
議長の部屋を出て、俺達は食堂へ戻る事にした。
「えー?レイ…ジュール隊に行っちゃうの?」
すっとんきょうな声を上げ、メイリンが驚いている。ヨウラン達も同様だ。
「仕方ないだろ?あの三機については、俺やルナよりレイの方が詳しいんだ。それに、新しい隊長も来るっていうしさ?」
「シンの言う通りだ。それに、二度と会えなくなる訳でもないからな。……そろそろ時間か。それでは…また会おう。みんな」
正直、レイが居なくなるのは寂しいさ。でも、レイならあの三機をどうにかしてくれるさ。
かくして、レイはジュール隊へと向かったのだった。
PHASH05―END