Sin-Meer_PHASE14―鉄壁―

Last-modified: 2008-03-19 (水) 10:29:04

PHASE14―鉄壁―

#1

 ガルナハン周域のザフト軍基地。連合の追跡が無かった為、思いの他楽に辿り着いた。
 着いてから早速、艦長、アーサー、ハイネ、ルナ、そして俺の五人は、ブリーフィングルームに呼ばれる羽目になった。
 基地の指令官の話によると、事態はかなり切迫したものになっているらしい。

「いやはや…名高いミネルバ隊にお越し頂けるとは…。おっと失礼…正直に申し上げると、現状での勝率は無きに等しい…。」

 そこで、ハイネが口を挟む。

「そこで例の作戦を…そういう事ですね?」
「はい……。」

 いつになく真剣な表情で、ハイネが考え込む様に顎に手を当てる。あぁ、作戦って、この前言ってた炭鉱抜けの事かな?
 でも、あの炭鉱のサイズからしてコアスプレンダーしか通れそうにないんだが…。コアスプレンダーだと、ローエングリンを吹っ飛ばせる装備なんて皆無だ。
 どうしたもんかと頭を悩ませていると、肩を叩かれた。視線を向けると、ハイネが俺を見ている。

「見て分かる通りだ。俺達が相手の守りを揺さぶる。んで、お前がローエングリンを墜とせ。シンプルだが、それが今回の作戦だ。出来るだろ?」

 真剣な面持ちで…多分、本気で言ってるんだろう。でも…

「ちょっと待って下さい。コアスプレンダーの装備だと、傷一つつきませんよ?かといって、ミネルバがローエングリンに近付くのは危険ですし。」

 その言葉を待っていた。とでも言わんばかりに、指令官とハイネが不敵な笑みを浮かべる。
 何か策でもあるのか?八方塞がりにしか見えないが…。

「指令官、“例の物”…準備は出来てますか?」
「はい、既にミネルバに運ばせました。恐らく…アレであれば、ローエングリンを貫く事が出来るでしょう。」

 アレってなんだ?ルナと顔を見合わせ、疑問符を浮かべた。

#2

 ミネルバに戻ってすぐ、ハイネにMSドッグに連れて行かれた。すると、ヨウランとヴィーノ慌ただしくコアスプレンダーに何かを取り付けている。主任までも出張っている。

「コアスプレンダーに、何を取り付けているんですか?……ん?ミサイルポッド?」

 そう、どう見てもミサイルポッドだな。

「あぁ、ありゃ新兵器でな?なんでも、貫通して炸裂するタイプのミサイルみてぇだ。ポッドには各四発…計八発のミサイルが搭載されてる。あれでうっとうしい大砲をぶっ飛ばすんだ。
 あれならコアスプレンダーでも、十分な火力が持てる。……ま、要はお前次第って事さ。」

 成る程…。打つ手はちゃんとあったんだな…まぁ、無いなら言う訳ないしな。
 …………って、ちょっと待て!俺次第!?

「あの…お、俺次第っていうのはどういう意味でしょうか?」

 俺が冗談でも言ったとでも思ったのか、ハイネが笑いながら俺の背中を叩く。正直、結構痛いんだけど!

「ハッハッハ♪面白い事言うなーシンは。この作戦の生命線はお前だって事だよ。」

 俺に出来るかな…?俺に…出来るのか?…いや、やんなきゃいけないのは分かってる。とはいえ、モヤモヤしてくる。
 多分、これは不安だ。俺は…そこまで器用じゃないし、こんなに重要な作戦を任された事なんて……。
 ハイネがまた俺の背中を叩く。かなり力が入っていて、思わず咳が出た。

「…不安か?だろうな。本当なら、俺がコアスプレンダーに乗れりゃ良いんだけどな…。でも、今乗れるのはお前だけだ。
 だから…俺にしてやれるのは…。」

 ハイネがあきらかにシミュレータを見ている。確かに…お復習はしといた方が良いな。何より、ハイネはアスラン並に強い。それで学べる事もある筈だ。

「いっちょやるか?」
「そうですね…。やれる事はやっておきたいから…やりましょう。」

#3

 モニタに仮想空間が広がる。今回の俺の機体は、当然ながらコアスプレンダーだ。そして、ハイネがグフ。
 この状態でマトモにやり合うのは馬鹿のする事だ。訓練だろうがなんだろうが、出来ない事は出来ないし、それを無理にやっても意味は無い。
 俺がハイネに勝つ条件は、ハイネの背後にあるターゲットの撃破だ。ハイネの撃破なんて無理難題じゃなくて良かった…。

『さて、これでお前との訓練は何回目かな?一回くらい、俺を出し抜いてみろよ。やられっぱなしなんて情けないだろ?』

 そう、かれこれ何戦か交えたのだが、今の一度も勝った事なんて無い。我ながら…進歩が無いと嘆きたくなる。でも、嫌な顔一つせずに付き合ってくれるハイネの前で、そんな顔なんか出来る訳もない。
 ……っと、そろそろ始まるな…。次こそはハイネに一矢報いてやる!

「あれ?ラクス様。あいつ等二人して何やってるんですか?」
「今回の作戦の為に、今までのお復習をする様ですわ。」

 ミーアとルナが、俺達の様子を見ている。ルナは早く替われと言わんばかりに俺を見ている。でもな…今回ばかりはそうもいかないんだよ。
 そして、戦闘が始まった。

『シン、避けろよ!“しょっぱなから墜ちました。”じゃ、話にならねぇからな!!』

 言葉とは裏腹に、的確に俺を狙って弾幕を張って来る。当たってやる訳にはいかない。縫って行く様に進み、ターゲットに狙いを着け……違う!?今ターゲットを狙っても、ミサイルがハイネに撃ち墜とされる!ハイネをターゲットから遠ざけないと!!

「くっ…そう簡単にはやらせてくれないか!」

 引き離す…でも、どうやったら離れる?バルカンではグフのシールドを撃ち抜く事は不可能。ミサイルは八発しか無い。
 ターゲットをバルカンで狙うが、シールドによって一発たりともかすりはしない。
 なんて“やりにくい”…。

#4

 このままじゃ埓があかない。少し、“賭けて”みるか…。
 突っ込んで、ターゲットをそのまま爆撃する。叩き墜とされればそれまで。相手はハイネただ一人…それ程分が悪い賭けでもないけど…。ハイネの腕を考えれば、ハッキリ言って無謀過ぎる話だ。

「だけど…だけどぉっっ!これで討てないってんなら…俺は…この作戦に乗っかる資格なんて無い!!」

 フルブースト、全速力でハイネを引っ掻き回し、バルカンで牽制する。狙いはターゲットじゃない。グフの関節部。

『なんだって!?血迷いやがったか!シン!!』

 右腕の機関砲で俺を狙い、撃って来た。二、三発程かすったが、少し装甲がハゲただけだ。よし!これなら行ける!!
 グフの左腕の関節に、一撃が入る。コアスプレンダーのバルカン砲でも、関節くらいなら撃ち抜く事は可能だ。これでハイネはシールドを使えない!

「行っけえぇぇぇ――――――――――!!!!」
『なっ…しまった!?』

 ミサイルがターゲットを撃ち抜いた。そして、ターゲットは爆散し、俺の方のモニタに、『You Win』と表示された。

「…へへ、“してやった”ぜ。……俺の…勝ちだ。」

 シミュレータを出ると、ハイネが本当に嬉しそうに笑いながら俺の背中を叩いてきた。
 ルナは豆鉄砲を喰らったハトみたいな顔をして、俺の顔を見つめている。ミーアは…多分、状況が分かっていないんだと思う。

「ハッハッハ、本当…やられちまったぜ!やれば出来るじゃねぇかよ♪シン。」
「い、痛いっての!背中叩かないで下さいよ!!それに、今回のはまぐれですよ。本番がこんな風にうまくいく訳なんて……」

 そう言うと、俺の肩に腕を回してじっと俺の顔を覗き込む。何だか不満そうな表情で。
 俺を半眼で睨みながら、

「なんだよなんだよ。うまくいったなら、それがまぐれだろーが奇跡だろーが、それこそ神様の気まぐれだって良いんだよ。」

 唇を尖らせて、ハイネが言い聞かせる様にそう言った。

#5

 何はともあれ…ハイネから一本取った。俺が…?正直、信じられない。でも、かなり嬉しかった…だけど、うかれてちゃいけないな。
 今回は運が良かっただけ。次は…次こそは俺の実力で一本取ってやる。
 握り締めた拳の痛みでさえ、今は気にならない。

「よし!次はルナマリアだ!」
「了解♪」

 待ってましたと言わんばかりに、ルナがシミュレータに入って行った。ルナは狙撃に関しての訓練みたいだ。
 今の腕でも、十分赤服パイロットに恥じない腕前だと思うんだけどな…。まぁ、向上心があるのは良い事か…そういや、教官も言ってたっけ?

「“才能がいくらあっても…磨かなければ無きに等しい。”だったかな?」

 落ちこぼれだった俺を、見事赤服パイロットにまで仕立てたあの人の言葉だ。

「誰の言葉?」

 ミーアが笑いながら、俺に聞いてきた。なんか…改めて聞かれると恥ずかしいな…。

「俺が世話になった教官だよ。あの人が居たから、今の俺は此処に居る…。」

 ミーアが聞きながら、少し意外だと言いたげに俺を見ている。
 まぁ、言いたい事は分かるさ…アカデミーの頃は…ていうか、今もそんな大差無いかもしれないけど、反発ばっかしてて孤立してたもんな。

「ルナに何を聞いたかは知らないけど、ミーアが思ってる程酷かった訳じゃないからな?」
「わ…私はまだ何も言ってないけど…。」

 あのな…顔で分かるっつーの顔で。本当、顔に出やすいな…ポーカーフェイスでも心掛ける様にしたらどうだ。
 ふとドッグの奥を見やると、一台の車が停まっていた。そこから、まだあどけなさが残る小さな女の子が降り立った。

「何だ?あの子…。」
「レジスタンスの子だってよ?あの炭鉱のデータを持って来てくれたのは、あの子だよ。」

 シミュレータから出てきたハイネが答える。ちょっと待てよ………あの子、まだ子供じゃないか!

#6

 そして、いよいよ作戦開始間近。ブリーフィングルームでハイネが作戦について説明している。その傍らに、さっきの女の子…コニールが立っていた。

「………。」

 作戦の流れは、大まかに言えばハイネ達がローエングリンの周りのMS達を引き付けて、その隙に俺がローエングリンを爆撃するというシンプルなものだ。
 シンプルというだけで、成功率が極端に低いのはご愛敬ってやつだ。餌であるハイネ達に釣られるかどうかは分からないし、俺が墜とされる可能性だって高いからだ。
 やれる事はやり尽くしたが、それでもやっぱり不安は残る。

「おい?聞いてるのか?」
「は、はい!囮の舞台が交戦してから、自分は炭鉱のルートを通ってローエングリンを速やかに爆撃…です。」

 よろしい。と、ハイネが頷き説明を再開した。コニールには痛い程刺さる視線で睨まれている。いや、俺は聞いてなかった訳じゃないんだからな?
 まぁ…ブリーフィング中に考え事してる俺に非があるのには変わりない訳だが。
 隣に座っているルナは多分、頭の中でシミュレーションしているんだと思う。何か考える時、目が自然に上を向く癖が出てるから。

「よし、それじゃ…シン、このデータをコアスプレンダーに入力しておけ。炭鉱の中は、灯りなんて全く無いからな?シミュレータとは勝手が違う。」

 ハイネが俺にディスクを渡して、そう言った。すると、それを見ていたコニールがハイネを批難する様に声を上げる。

「ちょっと…こんな奴に渡して大丈夫なの?」

 あからさまに俺を信用していない様で…まぁ、納得出来るのが悲しいところだ。
 俺にキツイ一睨みをくれて、ハイネと話し始めた。ハイネは宥める様に、コニールは食ってかかる様に言っていた。

#7

 何か俺の印象は悪いらしい。
 本当…話は聞いてたんだぞ?嘘じゃないからな?
 しかし、まぁ…目に見えたものが真実だよな。重要なブリーフィングの最中だったし。

「…印象悪いわねーシン。ま、いつもの事だけど。」
「うるさいな…。いや、非がある事は分かってるけどさ。」

 ルナがニヤニヤ笑いながら茶化してくる。本当、お前のアンテナ引き抜くぞ?ルナに当たっても仕方ないが…。
 この怒りは全てローエングリンに向けてやる…。悪く思うなよ?いつまでもザフト軍を足止めしてるお前等だって悪いんだ。

「なぁ、アンタ。」

 コニールが俺の前まで来ていた。てっきり厭味でも言われるのだと思っていたが、どうやら様子が違う。かなり思い詰めた様な表情で、俺を見上げている。

「何だよ?」

 短く返す。今は悠長に話なんかしてる場合でもないからな。よく見ると、コニールの目尻には少し涙が溜まっている。

「アイツ等…必ずやっつけてよ?もう、みんなが酷い目に遭わされるのなんて見たくないから…だから、必ず………!」

 ……話を聞くと、連合に捕まったレジスタンス達は、いずれも“酷い目”に遭わされているらしい。そして、コニールの両親もその中被害者。
 …そうか、この子も…俺と同じなんだな…。
 決意は決まった。奴等は必ず…それも、徹底的に叩き潰してやる…。絶対に許すもんか。
 すれ違い様に、コニールの頭を軽く叩いてやる。

「俺があんなものも、そんな奴等も吹き飛ばしてやるさ。絶対に…だ。約束する…。」

 コアスプレンダーに乗り込んで、俺は炭鉱を目指す事にした。炭鉱までは近いな…多分、五分もあれば余裕で着ける。
 そうだ…あんなもの…俺がブッ飛ばしてやる!!

 

PHASE14―END

 

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