W-DESTINY_第04話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:53:29

レイはルナマリアの部屋の前まで来ていた。彼女に伝えなければならない事がある。だが、それを伝えるのは酷く気まずかった。
しかし、このまま黙っておく方が、よほど彼女を傷つける事になるだろう。決意を固め彼女の部屋をノックした。

「シン♪……って、レイ?…どうしたの?」
「………………」

ルナの格好を見て、決意が鈍る。普段の軍服と違い、年相応のお洒落をし、薄っすらと化粧もしていた。
そして、何よりもドアを開けたときの嬉しそうな表情。きっとシンと一緒に出掛けたかったのだろう。
だが、言わねばならなかった。問題の先送りはレイの本分でな無かった。

「……落ち着いて聞いて欲しい」
「ん?」
「先程、アスラン・ザラがシンに面会を申し込んできて……」
「え?」
「……そのまま二人で外出した」
「へ?…………え~~~~~~~!!!」
「それでは失礼する」

絶叫した後、石の様に固まったルナを残し、その場を立ち去った。
悪いのは自分では無い。だが約束してないのだからシンが悪いのでも無いだろう。無論アスランもルナも悪くない、ただ、友人に何も出来ない自分の不器用さが悲しかった。

「ギル……人付き合いというのは難しいです」

この世で、最も尊敬する人物に今の悩みを聞いて欲しかった。

シンは行きたいところがあると言うアスランに従い彼の車の助手席に乗り込んだ。
黙って外の景色を眺める。そこには懐かしい風景が続く、友人と遊んだ場所、家族と買い物に来た店もある。そして……

「ここは………」

アスランが車を停め、シンを誘った場所とは美しい花畑……否、慰霊碑の前だった。

「悪いが君のことを調べさせてもらった」
「…………………………」
「ここなんだろ?」
「…………はい、ここで俺の家族は……」
「ご両親の遺体は見つかってる。そして妹さんは行方不明ということになってたが…」
「……最初に見たのは片腕だけでした……」
「え?」
「小さい手なんですよ。いつも俺に手を握ってくれって……その先には血塗れになって動かない……」
「……見たのか?」
「……足が竦んで動けなかった……だって…父さんも、母さんも、マユも……」
「………………」
「血塗れなんですよ!ピクリとも動かないんですよ!何とか声を絞り出して呼んでみたけど!全然反応が無くて!」
「もういい!」
「俺、怖くて!頭が真っ白になって!そのうちオーブの軍人が来て、俺を避難所まで連れて…」
「もういいんだ!」

何とか呼吸を落ち着ける。あの日見た悪夢。大切な物を一瞬で吹き飛ばした出来事。
何故、そんなものを思い出させるのか? だが、思考が落ち着く前に、目の前の男はさらに嫌な事を言う。

「行方不明扱いになっていた妹さんだが、1年が経過して死亡扱いと認知された。君にはご両親と妹さんの分の保険が降りるように…」

目の前の男の顔を思いっきり殴り付けていた。

「アンタ、いったい何が言いたいんだ!」

目の前で尻餅をついている男に少しだけ親しみを感じていた。だから、誘われても黙って付いてきたのだ。だというのに、この男は自分の神経を逆撫ですることばかり言い続けた。

「そうだな……そろそろ本題に入ろうか」
「何だよ!」
「君はオーブが憎いんだったな」
「ああ!そうさ!俺はオーブが憎い!奇麗事ばかり並べて、何も出来やしない!こんな国、俺がぶっ潰してやりたいぐらいさ!」
「……そうか、良かったな…君の望みが叶うかもしれないぞ」
「は?」
「オーブは連合と同盟することが決まった。つまり君が所属するザフトと戦争をすることになるな」
「な!……何言ってんだよ?」
「聞こえなかったのか?では、もう一度言うぞ。オーブは連合と同盟することが決ま…」
「待てよ!ちょっ!…変だろ!そんなの!……だって…オーブは…」
「中立を掲げてきた。だが、それが出来ないところまで追い詰められている」
「……ウソだろ……」
「本当だ。嬉しくないのか?オーブと戦えるんだぞ?」
「……ア、アンタはどうするんだよ!?」
「俺か?」
「そ、そうだよ!アンタは良いのかよ?オーブがザフトと戦争しても?」
「困るな。だが、俺に何が出来るというんだ?」
「そんないい加減な!」
「まあ、決まっている事と言えば、これからプラントへ向かう」
「え?何しに?」
「人質だよ、オーブは仕方なく連合に参加したって、議長に訴えるためのね」
「そんな……」

オーブと戦争をする。シンにとって、考えてもみなかった事が起きようとしていた。

「……何で…こんなことに……」

それから2日後、アスランはミネルバの出港を見送るとプラント行きへのシャトルに向かうヘリに乗っていた。

(良かった。シンは本気でオーブを憎んではいなかった……)

殴られてまで確認したこと、シンが何故オーブに憎しみを持っているかまでは判らなかったが、彼の反応から、その憎しみがオーブという国、そのものに対するものでは無いと直感した。
上手く話せなかったし、まだ話したりないが今は無理だ。しかし何時の日か、もう一度話そうと思う。

(俺も随分と前向きになったな)

理由は分かっていた。自分に勇気をくれた少年。ブレイク・ザ・ワールド事件で家を失っていながら、コーディネーターである自分に助言を与えてくれた。

「ヒイロ、君も大変だろうが頑張ってくれ、俺も俺に出来ることをするから…」

ヒイロと自分にエールを送り、これからに思いを馳せた。

一路カーペンタリアへ向かう航海上、シンは離れていく故郷に目を向けていた。

「心配?」
「何がだよ?」

隣に立ったルナが話しかけてくる。だが、ゆっくりと相手する気分にはなれなかった。
アスランの言った言葉が大きく胸を締め付けていた。

  ――君の望みが叶うかもしれないぞ――
  ――ザフトと戦争をすることになるな――

(………何でだよ……何でオーブと……)

自分の気持ちが分からなかった。あれほどオーブを憎んでいたのに戦いたくないと思っている。
そうして悩んでいると、艦内放送のスピーカーからメイリンの声が聞こえてきた。

『緊急通達、現時刻より30分後に大西洋連邦大統領から全世界へ向けての声明が発表されるとの連絡が入りました。繰り返します……』

嫌な予感がした……否、それは確信だった。

『…が、未だ納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を行った犯人グループを匿い続ける現プラント政権は、我々にとっては明かな脅威であります。よって先の警告通り、地球連合各国は本日午前0時を以て、武力による此の排除を行うことをプラント現政権に対し通告しました』

ついに宣戦布告がなされた。艦内に緊張が奔る。

「コンディションイエロー発令!これよりカーペンタリア基地に到着するまで、警戒を緩めるな!」
「はい!コンディションイエロー発令!コンディションイエロー発令!……」

タリアは素早く指示を出すと顔をしかめた。

(追い出すように出港させたのは、こういうことだったのね……)

最初は、充分な修理を手伝うと言っておきながら、結局は応急処置だけで出港させられていた。
もっとも、下手に時間を掛けられていたら、今頃は連合の艦隊に囲まれていたかと思うと感謝しなければならないのだろうが……

「どうなるんでしょうか?」
「今は私たちより本国の方が大変でしょうよ」

心配そうな副官に対し、勤めて冷静に答えた。

タリアの言ったとおり、プラント本国ではすでに先端が開かれていた。
次々とMSが出撃する中、逆に戻ってきたMSが一機あり、バッテリーの充電を行っていた。
コクピットハッチを開けると担当の整備士のメーザーが栄養ドリンクをパイロットに渡す。

「お疲れ様です。どうぞ」
「ありがとう……読みが外れてしまったようだ」

ドリンクを受け取りながらゼクスは苦笑した。
ゼクスの読みでは目の前の艦隊は囮で、宣戦布告と同時に別の方向から首都アプリリウスを攻撃すると思い、周辺を警戒していたのだが…

「外れて良かったですよ」
「それは、そうなんだが…敵の数が少なすぎるのが気になってな……戦況はどうなっている?」
「こちらが優勢です。一機たりともプラントには近づけさせません」
「だろうな……だが、攻めて来たのは向うだぞ……」

ゼクスは不審に思った。古来より戦争では最初に攻めた方が優勢になることが多い。何故なら勝てると踏んだから攻めるのであり、勝てないなら守るのが普通だった。
また、国力が劣る国が形勢を有利にするため、一見無謀とも取れる攻撃をする事もあるが、その場合でも入念に準備をするため最初は有利に運ぶ展開になる。
だが、これはどう判断する?2年前、互角だった相手に何の策も無しに攻撃をしかけるだろうか?
ゼクスの常識では考えられないことだった。

「戦況は見られるか?」
「はい、こちらのモニターに映します」
「うむ……」

敵味方が色分けされた矢印で表示されており、それが入り乱れている。たしかにコチラが優勢で敵を押し込んでいる様に見えるが……

「勝ちに乗じて、隙が出来ているな……防衛線に綻びが見える」
「え?」
「セイバーの充電はまだ終わらんか?急げ!すぐに出るぞ!」
「は、はい!」

極軌道を警戒する哨戒用ジンのパイロットが極軌道から接近するMS群を発見していた。

「極軌道哨戒機より入電。敵別働隊にマーク5型、核ミサイルを確認!?」
「なんだと!?」
「数は!?」
「不明ですがかなりの数のミサイルケースを確認したとのことです」
「議長!」
「ニュートロンスタンピーダーを急がせろ!それと各部隊に通達!」

「全軍、極軌道からの敵軍を迎撃せよ!奴等は核を持っている。一機たりともプラントを討たせるな!」
「核攻撃隊?極軌道からだと!? 」
「じゃぁこいつらは、全て囮かよ!」

その通達はジュール隊にも伝えられ、イザーク等の顔に焦りが見える。彼らの奮戦で敵を押しているといっても結果プラントを落とされたら負け戦になる。

「ディアッカ!後ろは任せる!俺は核を狙う!」
「わかった!」

連合が核を使ってくる事は想定の範囲内だった。そのための準備もしていたが、やはり敵の残虐さに腹が立つ、それでも怒りに囚われないように、デュランダルは冷静に指示を出し続けた。ニュートロンスタンピーダーは一基しか無いのだ失敗は出来ない。

(ゼクスは何をしている?)

奇襲を警戒し、先に出ると進言してきた男を思い出す。確かに彼の予測どおり、宣戦布告と同時に撃たれるのが一番不味かったが、だからといって、これでは…

「急速に接近するMSあり!……セイバーです!」

デュランダルの顔に喜色が浮かぶ。そして、自分が彼に多大な期待を持っている事を実感していた。

イザークはスラスターを全開にする。だが間に合うのか?

(こんなことなら、ブレイズウィザードにしておけば……)

己の迂闊さに歯噛みをする。敵を倒すのに専念して防御が疎かになるなど……
イザークは優秀で強いパイロットだが、逆にそれゆえ攻撃に気が行く癖があった。血の気が多いのだ。
だが、それはイザークに限った事では無い。多くのザフト兵が連合のパイロットより優れるゆえに敵を見下し、足元が疎かになる。

「目標、射程まで距離90」

やがて核搭載ウィンダムが視界に入ったが遠すぎる。一方敵はまるで獲物を前に涎をたらしている様な不気味さがあった。

「くっそおおぉぉ!!」

ウィンダムパイロットは射程に入ると嬉しそうにスイッチを入れる。実際に嬉しいのだ。自分の勇敢な行動の結果、宇宙から多くの化け物が消えるのだから。

「そぉら行け!今度こそ蒼き清浄なる世界の為に!!」

ミサイルケースの蓋が開き、中からミサイルが飛び出してくる。それはイザークにとって地獄の蓋が開き中から悪魔が出てくるかの様に見えた。

「くっそおぉぉ!間に合わん!あぁ?…」

しかし、光の束がミサイルをなぎ払う、続いて、小さな光が連続で通り抜けるとミサイルは全て消えていた。
そして、光が現れた方向に目をやると高速でMAが近づいてきて、核搭載ウィンダムの目の前まで来るとMSに変形していた。

「あれはイージス!?……いや……新型か!」

「不意打ちをするなら、もっと上手くやれ!危うく見落とすところだったではないか!」

ゼクスは、ぎりぎりで間に合ったのを見て、わざわざ敵に通信を入れながら愚痴る。
自分でも理不尽な事を言ってると思う。だが、ゼクスの常識に哨戒機にあっさりと発見される不意打ち部隊など有り得なかった。
もっともザフトの方でも折角哨戒機が発見しても間に合う場所に部隊を展開していないのだから、同罪なのだが……
ゼクスの言葉を挑発と思ったのかウィンダムのパイロットが怒りを滲ませ攻撃を仕掛けてきた。

『化け物がぁぁぁ!!!死ねぇぇぇぇ!!!』
「残念だが、期待には応えられそうには無い!色々な意味でな!」

サーベルで斬りかかってきたウィンダムをMA-BAR70高エネルギービームライフルで撃ち落す。

「次!」

素早く動きながら、MA-BAR70高エネルギービームライフルとMA-7Bスーパーフォルティスビーム砲を撃ち、ウィンダムを落とす。連合の最新型だが核攻撃用のミサイルパックを背負っているので動きが鈍く呆気なく落とされていく、そしてMSの全滅を確認すると敵艦に襲い掛かった。

「感謝する!」
『何!』

ゼクスは心の奥から敵に対して感謝した。ヒイロと再会するためにも軍に身を投じたが、やはり異世界から来た自分が人を殺すのは躊躇いが大きかった。
しかし、問答無用で核を使う相手が敵ならば、その躊躇いさえ消えていった。多くの民間人ごと滅ぼすなど、人として許せることでは無い。あのレディもコロニーの攻撃は脅迫として使い、核の使用もガンダムだけを狙ったものだ。
それでさえ許せないと思った自分が牽制なしに民間人のいるコロニーに核を撃ち込もうとする敵に容赦する必要は何処にも無いではないか!

「こうも躊躇い無く引き金を引ける敵、つまり貴様等のような相手が敵である事に感謝するぞ!」

そう叫びながら敵艦の艦橋に向け、M106アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を放った。

デュランダルは想像を上回るゼクスの戦いぶりに興奮を隠すのに苦労を強いられていた。
ゼクスは核攻撃隊を全滅させると、敵の多いところに突っ込んでいき、次々と戦果を上げていった。
議会ではゼクスのことは、レイ・ザ・バレル同様デュランダル議長の秘蔵っ子と思われているため、興奮を隠せない議員たちから賛辞を述べられていた。
その賛辞を流しながら、同時にあの動きでは機体がもたないのも無理はないと思った。特に体当たりで機動を制御するゼクスのやり方は、見ている分には楽しかったが、このままではセイバーまで壊してしまって、整備士を嘆かせるだろう。戦局は決まったし、ゼクスを引かせても問題ないと判断したデュランダルが指示を出そうとした時、オペレーターの声が耳に入った。

「連合艦隊、退却していきます」
「議長!追撃の許可を!」
「不要だ。それより周辺の警戒を行わせろ!また核が飛んでくるかもしれんぞ!」
「はい!」
「今回は使わずに済んだから良いものを次があるやもしれん、ニュートロンスタンピーダーを増産させておこう」
「はい、その方向で進めます」
「頼む、今回のアレは虎の子の一発だったからね……そんな不安定なものに頼るのは心臓に悪い」
「同感です。もし撃ち漏らしたり、機動自体に失敗したとしたら……」
「想像したく無いな……ゼクスに繋いでくれるか」

オペレーターに指示を出すとゼクスの顔がモニターに映る。今のデュランダルには、その力強い眼差しが頼もしく感じた。

「ご苦労だったね」
『ありがとうございます。当初の読みは外れましたが…』
「構わんよ。ところでセイバーはどうだね?」
『良い機体です。まだやれますよ』
「勘弁してやってくれ、こちらでも見ていたがアレでは整備士が怒るのも無理はあるまい」
『は、申し訳ありません…ただ、戦場でゆっくり動くのは…』
「別に責めているのでは無いよ。分かってるつもりだ。君は下がって休みたまえ」
『警戒はよろしいので?』
「君は充分に働いてくれたさ、良くやってくれた」
『了解です。これより帰還します』

デュランダルとの通信が終わると、ゆっくりと息を吐く。

(終わったな……異世界での最初の戦いが……)

戦った。敵を倒した。改めて見せ付けられた自分の本性……自分は根っからの戦士なのだ。自分の内面に葛藤しかけた時、水色のザクファントムが近づいてきて接触回線で話しかけてきた。

『見事な戦いぶりだったな。俺の名はイザーク。ジュール隊の隊長を勤めている』
「ああ、私はゼクス・マーキスだ。議長の直属扱いになっている」
『そうか、今回は助けられた。貴官の働きが無ければプラントに甚大な被害が出ただろう。それに戦果もそちらが上だろう…だが次は負けん!』
『こら馬鹿!イザーク!何言ってるんだ?お前礼を言いに来たんだろ?』
『礼も言っただろうがぁ!そのついでに…』
『どこがだよ!すいませんねぇコイツ負けず嫌いで…失礼しました!…ほら行くぞ!俺たちは警戒任務が残ってるだろうが!』
『待てディアッカ!話はまだ…』

一般兵のカラーリングがなされたザクウォーリアに隊長が無理矢理連れて行かれるという奇妙な光景を見ながら笑みを浮かべていた。イザークという男の操縦するザクは見事な動きをしていたので、ゼクスの印象に残っていた。無理な挙動を強いる自分では、ああも上手く扱えないだろう。そんな男にライバル視されるのは嬉しかった。そして実感する。敵を倒し味方に認められる喜び、自分は軍人なのだと。
……そんな自分を少女が悲しげに見つめる。

「すまないリリーナ……」

……そんな自分を呆れたように見つめる友

「分かっいてるさトレーズ……私という男はつくづく救いの無い人間だと!」

戦えた事への喜び、敵を討った事への誇り、そして戦争に興奮する自分への嘆き、ゼクスは自分の内側を渦巻く感情を吹き飛ばすかのように叫んだ。